<第189回国会 2015年5月19日 農林水産委員会>


TPPをめぐる日米首脳会談、西村副大臣の発言、TPA法案を示し、早期妥結姿勢を批判

○農林水産に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、日米首脳会談についてお聞きします。
 安倍首相とオバマ大統領は、四月二十八日にワシントンで日米首脳会談を行いました。その共同声明は、TPPについて、日米両国は、二国間の交渉において大きな進展があったことを歓迎するとして、概要においては、日米が交渉をリードし、早期妥結に導くことで一致したと述べています。
 我が党は早期の妥結は許さないという立場でありますけれども、今日はこの公表されている内容についてお聞きをいたします。
 TPPについて両首脳は、TPPは地域の経済的繁栄のみならず、安全保障にも資するなど戦略的意義を持つことを改めて確認したとあります。昨年四月二十四日に公表した概要では、TPPは成長センターであるアジア太平洋地域に一つの経済圏をつくり、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有する国々と新たなルールを作り上げるものであり、戦略的に重要であるとの認識で完全に一致したというふうにあります。つまり、昨年は、安全保障に資するという言い方はしていなかったわけです。
 なぜ安全保障という文言を入れたのか、安全保障の意味も含めて説明をいただきたいと思います。

○大臣政務官(外務大臣政務官 中根一幸君) 政府としては、TPPによって、普遍的価値を共有する国々とともに、アジア太平洋地域における新たなルールを作り上げ、さらに共通の経済秩序の下、こうした国々と経済的相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にとっても、またアジア太平洋地域の安定にも大きく寄与することと考えてきたところであり、このことは、平成二十五年三月のTPP交渉参加に関する安倍総理の記者会見においても述べられておることでございます。

○紙智子君 記者会見の中でという話をされたんですけれども、日米首脳会談でこの安全保障という言い方をするのは初めてだと思うんですね。
 安倍総理はアメリカ議会の演説で、TPPについて、日本と米国がリードをし、生い立ちの異なるアジア太平洋諸国に、いかなる国の恣意的な思惑にも左右されないフェアでダイナミックで持続可能な市場をつくり上げなければならないと述べた上で、TPPには単なる経済的利益を超えた長期的な安全保障上の大きな意義があると述べました。TPPは経済連携協定ですけれども、経済的利益を超えた意義があるとまで言っているわけです。ちょっとこれ、余りにも飛躍があり過ぎるんじゃないでしょうか。いかがですか。

○大臣政務官(外務大臣政務官 中根一幸君) 我が国の同盟国である米国、また自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々とともに新たなルールを作り上げ、こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にも、またこの地域の安定にも資する戦略的意義を有していると思っております。
 日米首脳会談や、先ほどのお話にありました総理の米国議会における演説では、TPPには成長著しいアジア太平洋地域の市場を取り込むといった経済的利益のみならず、このような戦略的意義があることを述べたものだと考えております。

○紙智子君 今の説明では余りよく分かりません。
 安倍総理はこうも言っているわけですよ、私たちが奉じる共通の価値を世界に広め根付かせていくと。甘利大臣は、TPPについて、アジア太平洋に新しい価値観の下に新しい枠組みをつくるものだと言っているわけです。TPPは新しい価値観でつくられた経済的利益を超えた安全保障の枠組みになるということですよね。
 一方、オバマ大統領は、TPP交渉での合意は、アメリカ経済の活性化につながる、一方、中国がアジアにおける支配力を一層強化することを防ぐことになるというふうに言っているわけです。
 TPPという新しい枠組みに異を唱えるようなアジア太平洋諸国に対して、安全保障という枠組みで牽制することになるんじゃないのかと思いますけれども、今日は安倍総理、甘利大臣はいらっしゃらないので、TPPの関係閣僚である林大臣にお聞きします。いかが御認識されていますか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) ただいま外務省からも答弁がありましたが、このTPPには単なる経済的利益を超えた長期的な安全保障上の大きな意義があると、総理が米国議会でも述べられたとおりでございます。
 今、外務省の方からもありましたように、三月十五日にもTPP交渉参加を表明された際にも御発言があったと承知しておりまして、私も内閣の一員としてそのような認識をしているところでございます。
 自由、民主主義、法の支配、こういう共通の価値観を持った国々が一つのフェアでダイナミックな持続可能な市場をつくり上げるということにそういう意味を見出されておられるものと、こういうふうに考えておるところでございます。

○紙智子君 何度聞いても、なぜそれで安全保障を入れたのかなというのはよく分かりません。
 TPP交渉において、これまででいえば、重要品目を守るといった農林水産委員会の決議や自民党が選挙で掲げた公約というのがあったわけで、もうそれが抜けてしまっているというか、どこにあるのかというふうに思うわけです。
 それで、私は、やっぱり経済交渉の在り方として、特定の経済システムの押し付けではなくて、各国の社会体制の違いや経済発展の違いや、あるいは経済社会の実情の違いというのがあるわけで、相互に尊重して各国の経済主権を尊重した国際経済秩序というのが大事だというふうに思っています。ちょっとこのやり取りはここまでにしておきます。
 次の質問に移ります。情報公開をめぐってですけれども、西村副大臣にお聞きします。訪米された際の記者会見についてです。
 西村副大臣は、これ先ほども質問あったわけですけれども、五月四日にワシントンで記者会見を行って、TPPの情報公開について、USTRは対外的に情報を出さないという条件で議員にテキストへのアクセスを認めていることを確認したと。日本でも、戻ってから相談するが、来週以降、テキストへのアクセスを国会議員に認める方向で少し調整したいと。もちろん日本の場合は守秘義務がないので、どういうルールでどういうやり方をするかは少し詰めないといけないが、検討したいと言われたと。その後、七日の日に、既に調整が行われている、方針を固めたということではないと言って撤回をされた。また、政府の中で何かを検討、調整した事実はないというふうにも言われているわけです。
 一方、農林水産委員会で私、情報公開を求めたのに対して、内閣府の澁谷審議官が、十二か国で情報交換をしている、我が国としては透明性の向上に努力したいというふうに言われたわけです。西村副大臣は政府内で検討している事実はないと言いました。澁谷審議官は政府内で透明性の向上に努力しているというふうに言われていると。
 先ほど、徳永議員の質問の中で、今後テキストの開示をするために何か検討しているのかという質問に対しては、これはちょっと西村副大臣に確認したいんですけれども、米国とのルールの違いがあるということを理由に、これはできないというふうに答えられたと思うんですけれども、そういうことで受け取ってよろしいですか。長くは答弁要らないんですけれども、それでよろしいかということです。

○副大臣(内閣府副大臣 西村康稔君) お答えを申し上げます。
 最後に委員が言われた点につきましては、アメリカと日本と制度の違いがありますので、アメリカがやっているような情報開示、テキストへのアクセスは難しいというふうに考えております。

○紙智子君 確認をしました。
 じゃ、澁谷審議官にお聞きしますけれども、透明性の向上を図るために何をされたんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 各国の取組をいろいろとウオッチしているところでありますが、例えばチリとかマレーシア、ホームページにTPP交渉の概要というものを載せております。そうしたものを参考にしながら、我が国では、実は記者に対するブリーフィングでかなり詳しめの内容をお話ししてきて、それをホームページにアップしていたわけですけれども、なかなかそれが一個一個クリックしないと分からないという、そういう御指摘もありましたので、TPPの現在の概要という形でこれは五月一日に公表させていただいたところでございます。
 テキスト本体ではもちろんないわけですけれども、従来はこういう議論がされているというそういう説明の仕方だったのに対して、テキストのこのチャプターではこういう規定があるという、そういう書きぶりにいたしまして、なるべく現行のテキストでどんなことが書いてあるかということを、概要ではありますけれども、記して、それをホームページにアップしたところでございます。
 また、マレーシア政府が四月の上旬に一般国民に対する説明会をやったと。これは四枚紙ぐらいの紙だったようでありますけれども、そうしたことも踏まえまして、先週金曜日でありますけれども、先日公表したテキストの概要を基に初めて一般国民の方を対象に、当方主催で初めてでございますけれども、東京で説明会を一時間半開催をさせていただいたところでございます。各種の動画でも生中継をされたようであります。

○紙智子君 もう一度、西村副大臣にお聞きします。
 USTRは対外的に情報を出さないという条件で議員にテキストへのアクセスを認めていることを確認したと述べられました。この行為というのは、これ秘密保持契約に違反しているんじゃないでしょうか。いかがですか。

○副大臣(内閣府副大臣 西村康稔君) 秘密保持契約は、外部に情報を漏らさないということの約束でございますので、各国それぞれの制度の下で苦慮しながら情報開示を行ってきているんですけれども、アメリカはアメリカの制度の下で、外部に漏らさないというところは守られているというふうに考えております。

○紙智子君 つまり、守られていると。でも、秘密保持契約そのものがどういうものかということを我々も知らないし、全然知らされていない中で、守られているかいないかということはこれ分からないわけですよ。
 だから、本当にこれ、政府は、アメリカの連邦議員が外に漏らせば刑事罰の対象になるというふうに、あたかもきつい縛りがあるかのように言っているわけだけれども、しかし、アメリカの通商代表部、USTRのホームページには、連邦議員だけに閲覧を認めているわけじゃないわけですよね。アクセス権限を持つ議員スタッフとともに閲覧することを含めと、全交渉テキストへのアクセスを提供するとしているわけです。
 日本政府はUSTRに対して詳細な調査を行ったと言っているんですけれども、この議員スタッフがなぜ閲覧できるんでしょうか。

○副大臣(内閣府副大臣 西村康稔君) いわゆるセキュリティークリアランスと呼んでおりますけれども、これは身元調査等行っているんだろうと思いますが、そのセキュリティークリアランスの詳細は詳しくは承知をしておりませんけれども、それを行ったスタッフについて、議員と同行して、そしてその場でアクセスできると。もちろん、メモを取らないとか、カメラ、電子機器を持ち込まないとか、そういったルールはありますけれども、そういったやり方をしているというふうに承知をしております。

○紙智子君 スタッフの場合は、守秘義務というか漏らした場合、例えば刑事罰とかということはあるんですか、澁谷審議官。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) アメリカにおきましては、大統領令によって機密文書の取扱いが明示されております。その中で、政府以外の者に対して機密文書にアクセスさせるのは、次の三つの条件全て満たす場合ということでございます。一つが、セキュリティークリアランスを受けているなど適正な資格があること、二つ目に、保秘契約にサインをすること、三つ目に、ニード・ツー・ノウと言っておりますが、真に知る必要があること、この三つの条件を満たす場合ということでございます。
 アメリカは議員以外に見せているというのは、スタッフの中でも特にセキュリティークリアランスを経て、かつ、真に必要があるということのテストにパスしたスタッフというふうに聞いております。また、この保秘契約、ノンディスクロージャーアグリーメントの中では、保秘を守りますというだけではなくて、これを破ったら刑罰、刑法の規定の適用があることを正しく認識しますということに本人がサインするという仕掛けになっております。

○紙智子君 いずれにしても、TPA法案の中でも、今アメリカのこの中でも、もっと情報公開を広げようというふうに言っているわけですよ。日本の対応はそれから見ても余りにも閉鎖的だというふうに思うんですね。TPP交渉は、農林水産分野だけでなくて、日本の在り方を大きく変える中身ですから、これはもっとやっぱり公開するということでやるべきだというふうに申し上げたいと思います。
 最後に、TPA法案についてお聞きします。
 TPA法案について西村副大臣は記者会見で、TPA法案が先にあった方が日米協議は最後に加速する、現実的にはTPAがないと日米の合意は難しい、米国の事情で再交渉に応じることはないということを言われました。
 TPA法案は、アメリカが通商交渉をする際に一定の条件の下で議会が大統領に貿易交渉を一任するものだと。今回の法案は、上院と下院のどちらかが交渉内容がTPAの要件を満たさないということで判断した場合、このTPAの円滑な手続を取らないと、議会がTPPを修正できるという仕組みが入ったわけですね、これは新しく入ったということです。
 西村副大臣にお聞きしますけれども、議会が修正できるのに再交渉に応じないなんてことを断言できるんでしょうか。

○副大臣(内閣府副大臣 西村康稔君) 私ども、ここまで日米でも議論を積み上げてきておりますし、それから十二か国で議論を積み重ねて、終盤に交渉が来ているという中で、各国とも、最後、政治判断をするにはアメリカのこのTPA法案が必要だという認識でおります。
 これは、今委員お話があったように、一括して承認か承認でないかという手続をやってもらわないと途中でまた修正が入ってしまうというようなことを恐れて、みんななかなかカードを切れない、政治的な判断ができないということだと思いますので、そういう意味で、TPA法案が交渉の妥結には必要だ、日米交渉を進めていく上でも必要だと、早期成立を期待するということを申し上げたわけでございますけれども、手続については、そのTPA法案の中で幾つか定められております。
 これは審議中でありますので、その手続一つ一つについて今コメントする立場にないわけですけれども、しかし、どのような手続が行われようとも、私どもここまで積み上げてきておりますので、これを議会の何らかの判断で再交渉せよということになっても私どもとしては応じられない、ここまで積み上げたものをしっかりと最後妥結に向けて引き続き交渉していくという、そういう決意を私述べたところでございます。

○紙智子君 決意でという話をされたんですけれども、根拠が分からないですよね。米国の議会では、今までは、例えば大統領権限になったらそれをひっくり返すことはできないということがあったので、恐らく政府としては、そういうふうに動かなくしてからやらないといけないということだったと思うけれども、今度修正加わって、また議会が言ってみればそれを修正する可能性が出てくるという中で、今度また議会が、日本とアメリカとで決まったとしても、それを再交渉、協議をするということが出てくるわけですよ。
 それで、TPA法案の内容については、日本の国の中ではほとんどこれ出されていないわけですよね、どんな中身が入っているかということは。内容が非常に問題だというふうに思っているわけです。
 それで、農産物の貿易については次のような要件を定めているわけですよ。一定の期日までに合衆国の輸出のための市場機会を減じている関税その他の諸負担を削減ないし撤廃するために、主要な生産諸国において相当高い関税、あるいは補助金体制の下に置かれている農産物の市場開放に優先順位を置く、高いところから優先順位を置くと。相当高い関税ですから、日本の米なんかはその対象になっていくということにもなると思うんですね。また、交渉相手の国の関税を合衆国の当該産品と同じかそれより低い水準まで削減する、これは牛肉とか豚肉なんかがこれの対象になっていくと思うんですけれども。
 日本政府は、これ、農林水産委員会決議が守られたという評価をいただけるように全力を尽くすと、林大臣も何度もこれまでも言われていますけれども、TPA法案というのは、米国政府が交渉するに当たって、何を獲得するか、目標をはっきりと定めて交渉するように求めている、しかも再交渉まで求めているんですよ。
 TPA法案が可決されるとこれは日本にとってどうなのか、大きな脅威になると思うんですね。それなのに、西村副大臣は、TPA法案が先にあった方が日米協議は最後に加速するというふうに言われているわけで、TPA法案が成立するということを期待する発言をしているわけで、いや、これで本当に、この間、決議守ると、農産五品目は守ると言ってきたけれども、できるのかということになってくるわけです。
 結局、アメリカの圧力でこの協議、交渉が加速していけば、アメリカの基準に合わせていかなきゃならなくなる、そういうことになるんじゃないのかということなんですけれども、これ、いかがでしょうか。西村副大臣と、その後に林大臣にもお聞きします。

○副大臣(内閣府副大臣 西村康稔君) TPA法案の基本は、議会は修正を付さずに協定に賛成か反対かの採決を行うというのが基本のルールであります。このことを我々重視をしているわけでありまして、これで各国は様々な最後政治判断をして、妥結に向けて交渉が加速をするということでありますけれども。
 もちろん、TPA法案の中に否認の手続も盛り込まれておりますけれども、これについては、今委員お話があったように、米国の政府が、あるいは議会がそれについてどう判断するかということでありますので、その目標、書かれている内容等についての判断はアメリカ側にありますので、私がそれについてどうこうコメントする立場にはありませんけれども、いずれにしても、私どもはアメリカの議会がどういう判断を最終的にしようとも、再交渉には応じないという立場で交渉に臨んでおりますので、私どもとしては、一括の最後、採決がされることを期待しての、そういう意味を込めてのTPA法案の成立を期待をしているというところでございます。

○紙智子君 林大臣にも聞こうと思ったんですけど、時間なくなったので、もし一言あればお聞きしますけれども。
 やっぱり、アメリカ議会が、このアメリカ政府に求めている交渉上の目標を、答える立場にありませんというんじゃなくて、ちゃんと目標をしっかり分析をして、国会にも日本の国民の皆さんにも知らせるべきだと思うんですよ。
 いつも私、繰り返してきましたけれども、やっぱりこういう本当に日本の在り方を根本的に変えるような交渉からは直ちに撤退するべきだということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。