<第189回国会 2015年04月23日 農林水産委員会>


TPP交渉撤退を。コメで譲歩許さぬ、日本側の主食用米5万トンの特別枠提案を指摘。

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私は、TPPとアメリカのTPAについて今日質問いたします。
 林農水大臣、今日は国会前の議員会館前に座込みの農業者団体の方々がおります。そして、ここに来ていないまでも全国で、やはりどういう思いで今、日米首脳会談に向けてその動きに対して見守っているかと、生産者の皆さんの不安な思い、あるいは怒りですね、そういうものをしっかりと受け止めていただきたいというふうに思います。
 それで、日米首脳会談を前にして日米閣僚会議が半年ぶりに開かれました。昨年の日米首脳会談後に、昨年の話ですけれども、甘利大臣は、重要な案件について道筋を確認したと、方程式ができたというふうに言われました。方程式というのは、関税率、猶予期間、セーフガードの発動条件、それから無関税輸入枠で構成されていると言われているわけです。方程式に沿って関税率の水準を何%にするのか、関税を下げる期間を何年にするのか、セーフガードを発動する量を何トンにするのかについて事務レベルで、閣僚間で協議が行われて、マスコミも報道しました。
 甘利大臣は、今回の閣僚会議の後にマスコミから日米首脳会談の地ならしはできましたかと問われて、相当進展したことは事実だと、首脳会談で歓迎できるのではないかというふうに言われたわけです。一方、安倍総理は、日米首脳会談でアジア太平洋に新しい自由な貿易圏をつくっていこうという前向きなメッセージを出したいと言われているわけです。そうなりますと、何らかの政治決断をするのではないかというような重要な局面を迎えているというように思います。
 そこで、幾つかお聞きしますけれども、まず牛肉について、関税率三八・五%を十年掛けて一〇%前後にするというのはこれおおむね日米間で了解しているけれども、セーフガードを発動する量は未決着であると。方程式でいえば、関税水準と猶予期間は了解しているということになります。
 豚肉についても、一キログラム当たりの最大四百八十二円の関税を五十円の従量税に切り替えることは了承しているけれども、セーフガードを発動する量は未決着ということになると。
 日米首脳会談でセーフガードの量を了解するんじゃないかというふうに思いますけれども、まずちょっと澁谷審議官にお聞きします。いかがですか。

○政府参考人(澁谷和久君) 今週の月曜日、火曜日の未明まで日米の閣僚級会議が行われましたが、それまでの状況に比べれば進展と言えるかと思いますが、元々相当なお互いの乖離があったというのも事実でございますし、日米の事務レベルの交渉も、全体の進捗状況に合わせて進んだと思えば、また前のところにアメリカが立ち戻ったりということの、そういうことの繰り返しでございます。
 日米の首脳会議がタイムリミットだとか合意の期限ということは全く思っていないわけでございます。日米の首脳会議で、これは安倍総理も国会で個別の交渉をするわけではないというふうに申し上げているとおりでございます。
 引き続き、今御指摘のあった牛肉、豚肉等の問題も含めまして、全ては連立方程式でございますので、何かが一つだけ、あるいは単品で決まるということはない交渉をしているわけでございます。
 引き続き努力をしていきたいと思っております。

○紙智子君 今、連立方程式ができているという話、改めておっしゃいました。だから、パッケージなので、一つ一つパーツを当てはめていくということだと思うんですけれども。
 それで、日米首脳会談で重要農産物の中の牛肉、豚肉で政治決着をする可能性があるわけです。これは重要な国会決議違反になるというふうに思います。アメリカからの輸入牛肉は一キログラム当たり、農水省からいただいた資料で、財務かな、もらった資料で計算すると、七百五十七円で入っていると。それが一〇%下がると六百円になるということです。国内産の卸売価格でいうと三千円ぐらいということですから、今年発効した日豪EPA、ここで安い牛肉が入ってくると卸売価格が更に下がる懸念もあると。
 米国から安い牛肉が入りますと、市場価格がどんどん下がって国内の畜産産業や地域経済に影響が出るというように思うんですけれども、この点、影響試算、影響についてはどのように考えておられますか。

○政府参考人(澁谷和久君) TPP交渉に正式に参加する前、一昨年でございますが、経済効果分析を行ったところでございます。ただ、そのときの効果は、関税が全て撤廃をされ、かつ対策を一切講じないという極端な仮定に基づいた一般的なマクロ経済モデルであるGTAPというモデルを使ったものでございます。
 TPPが合意をした後、国会で御承認の手続をいただく前には、そのTPPの内容だけではなくて、効果あるいは我が国への影響等についてきちんと御説明をする必要があるというように認識しているところでございますが、TPPは関税の交渉だけではございません。関税以外にもサービスや投資の自由化、さらには、元々TPPのような多国間のFTA、多国間の経済連携協定の場合には、新たなグローバルバリューチェーンが創出されるという、そういうまさに成長戦略に資するという、そういう大きな効果を持つものでございます。
 関税以外の経済効果についてはまだ発展途上のところでございますが、各国の専門家の間でこれをどのような形で分かりやすく説明できるかということの今様々な相談を行っているところでございます。こういうことも含めて、国会で御承認手続に入る前には、分かりやすい形で効果をお示しするように努力していきたいと思っております。

○紙智子君 先ほど来議論ありましたけれども、やっぱり明らかにしていないところに非常に大きな不安の思いというのが広がっているというふうに思います。
 もう一つ聞きます。米についてです。
 甘利大臣は、課題として残ったのは農産品、自動車というふうに言っています。アメリカは、主食用米十七・五万トン、くず米や調製品などを含めて計二十一・五万トンを要求していると。日本は、ミニマムアクセス米の外枠で、無税枠でこの主食用米五万トン程度の特別枠を設けると提案したというふうに言われます。
 つまり、アメリカの米の輸入枠を増やすことで米の税率は維持するということですね。関税率は変えないで米の輸入量は増やすと、これで聖域を守ったというふうに言えるのか。これ、農水大臣にお聞きします。いかがですか。

○国務大臣(林芳正君) 米は国民の主食でございまして、最も重要な基幹的農作物であると、こういうふうに認識をしております。
 今、澁谷審議官からも御説明があったとおり、大変厳しい交渉が行われて、日米閣僚協議を終えてもなお米の問題も含めて依然として難しい課題が残っておりまして、まだ合意までには努力を要すると、こういうふうに聞いておりますので、これからもしっかりと決議は守られたと評価をいただけるように全力を尽くしていきたいと、同じ考えでやっていきたいと思っております。

○紙智子君 質問に答えていませんね。関税率は変えないで米の輸入量を増やすと、これで聖域を守ったというふうに言えるんですか。言えるのか言えないのか、その辺のところをはっきりしてください。

○国務大臣(林芳正君) これは、この場で何度もお答えをしておったことでございますが、仮定のことと内容に関わることでございます。また、農林水産委員会決議はまさに農林水産委員会で決議をされておりますので、この解釈については委員会でお決めになるものと承知をしております。

○紙智子君 なぜこのことを言うかといいますと、アメリカのUSAライス連合会、米連合会ですね、の主張は、米の関税率の撤廃じゃないんだと、質的、量的なアクセス量の改善を求めるということを言っていて、アメリカの要求はこれに沿った内容であることは明らかなんですね。ですから、やり方で、いや、関税は守っていますよということを言い訳にしてこういうことを認めるということは絶対許されないと思います。
 ミニマムアクセス米は、昨日、衆議院で我が党の斉藤和子議員が明らかにしましたように、保管料などを含めて多額の税負担が伴うわけです。制度としてこれは破綻していると。まさか安倍総理は、未解決になっている自動車分野と引換えにしてこの米譲歩をすることはないでしょうねというふうに思うわけですね。関税率は維持する代わりに米の輸入は増やすという約束は決してやってはならないというふうに思うんですけれども、林大臣は、関係大臣として、そういうことを、やっぱり安倍総理にそんなことを約束しないようにというふうに是非言っていただきたいんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) 委員会でいろんな御議論があったことは折を見てお伝えをしていきたいと思いますが、私としては、まさに先ほど申し上げたように、農林水産委員会決議、これが守られたとの評価をいただけるように、政府一体となって全力を尽くす考え、変わらずにやっていきたいと思っております。

○紙智子君 農水大臣の立場からそのことをしっかりと総理に迫っていただきたいわけですけれども、結局そういうことを一切言われないわけですよね。
 甘利大臣は、米は一粒も増やさないということは不可能だというふうに言ったわけですよ。一粒って、本当の一粒なんて思う人はいないですよね、何万トンの単位ですよ。そういうことは不可能だと、こういうふうに言っていること自体が既に聖域を崩している発言なんですね。国会決議違反だというふうに思うわけです。
 米価が下落しているのに、数万トンも輸入すれば値崩れを起こすのは明らかだと。しかも、オーストラリアにも輸入枠を設けるということも報道されているわけです。ベトナムなどほかのTPP参加国にも特別枠を要求されれば、日本の主食である米生産というのは、幾ら主食だから大事だから守るといっても、致命的な打撃を受ける可能性があるわけですよ。まさに日本の農業を壊して国の形を変えるような日米協議というのはやめるべきだと、TPP交渉からは直ちに撤退するべきだということを強く求めておきたいと思います。
 次に、アメリカの貿易促進権限法のTPA法案についてお聞きいたします。
 四月十四日の質疑のときに、澁谷審議官は、TPAはアメリカが交渉している通商協定の交渉をまとめやすくするためだと、そういう意味で、本来のTPAの趣旨を踏まえた議論を期待していると述べられました。今回、四月の十六日に上院、十七日に下院に提出されたこのTPA法案はファストトラックと言われているわけですけれども、本来のTPAというふうに言えるんでしょうか。
 澁谷さんの御意見を伺います。

○政府参考人(澁谷和久君) TPA法案が提出をされる前にアメリカの議会において、共和党、民主党、それぞれの党の中にも賛成、反対がいるようでありますけれども、かなり厳しい激しい議論がなされたというふうに承知をしております。
 TPAを賛成をされる議員、ハッチ委員長などは、先生今御指摘いただいたとおり、各交渉相手国が安心して妥結をしてくれるためにはTPAが必要なんだと、そのTPAの本来の効果を台なしにするような修正案は受け入れられないということで、そういう趣旨で交渉、協議を続けてきて提出に至ったというふうに承知をしているところでございます。
 今朝、上院の財政委員会、日本時間の今朝も審議が行われており、私も途中までインターネットで生中継を見ていましたが、様々な修正案を一つ一つ審議をしていたわけでございます。ハッチ委員長が、この修正案を受け入れればTPPなどの交渉が台なしになってしまうといったような意見を委員長自らがおっしゃっていたというのを耳にしたわけでございます。
 そういう趣旨で、まだ今後どうなるか予断を許さないわけでございますけれども、少なくとも、法案が提出をされ、かつ上院の委員会の方で採決をされたということはグッドニュースであるというふうに理解しております。

○紙智子君 二〇一五年、今年のですね、今回出されたTPA法案は、二〇一四年のときの法案と違って、新たに新設された項目があります。一つは、上院、下院どちらかが交渉結果に満足しなければ、このTPAの円滑な手続は取らない仕組みが入ったと。これちょっと中身も本当は聞きたいところなんですけれども、時間がないのでこれは飛ばします。この結果、交渉参加国は一度合意した内容が覆されるという懸念が残って、合意形成が困難になるんじゃないかと思いますけれども、いかがですか。簡潔にお願いします。

○政府参考人(澁谷和久君) いずれにいたしましても、一度政府間で合意した内容はアメリカの議会の都合で再協議を求められても一切応じないということをこれまでも明確にしてきたところでございまして、今後もそういう態度を貫きたいと思っております。

○紙智子君 それが通用するかどうかという問題もありますよね。いずれにしても、日米協議で進んでいる合意が覆される可能性がある中身が今入っているということです。
 それから、新たに、大統領は、実施法案等を議会に提出する三十日前までに最終協定テキストの写しなどを議会に提出するという規定と、大統領は、通商協定署名六十日前までに協定テキストをUSTRのウエブサイトで公開するという項目が入りました。これ、なぜこの項目が入ったのかということも聞きたいんですけれども、ちょっと時間がないので、次に行きます。
 それと加えて、アメリカでは情報の閉鎖性が問題になって、USTRがホームページで議員と議員スタッフに全テキストを提供することにして、議会にはウエブサイトで一般の人にテキストを公開する法案が出されているわけですね。
 日本政府は縛りがあると言ってきました。アメリカは、縛り、きつい結びは解くと、言ってみればそういうことですよ。秘密保持契約というのは実質的に、これ今アメリカの状況を見ていますと、無効にする状況が進んでいるんじゃありませんか、いかがですか。これ、農水大臣に聞こうかな。

○国務大臣(林芳正君) 情報保持については、せっかく澁谷審議官がいらっしゃいますので、政府全体として、内閣のこのTPP本部の下でしっかりと我々は対応していきたいと思っております。

○政府参考人(澁谷和久君) 十二か国でそれぞれ、この対外的な情報提供をどういう形で行うか、相当これは、定期的にと言っていいぐらい、お互いに情報交換をしております。アメリカも含めて、どういう形で対応しているか、あるいは、これからこういう対応をしようと思うんだけれどもどうだろうかという相談も含めて情報交換をしているところでございます。
 ただ、それはお互いにその内容を外に言わないという前提で情報共有をしておりますが、各国の取り組んでいる事例も参考にしながら、我が国として引き続き一層の透明性向上に努力していきたいと思っております。

○紙智子君 TPPのテキストの公開を求めても、これまで日本でいいますと、日本は秘密保持契約があるんだと、これを錦の御旗にしてテキストの公開を拒んできたわけです。他国の情報を収集するとか、この間は運用に悩んでいるんだということをおっしゃってきましたけれども、そういうことを言わないで、今回のこのTPA、ウエブサイトで公開すると、もう一般に公開するということになってきているわけですから、アメリカ並みに日本もテキストの公開を検討すべきではありませんか。いかがですか。

○政府参考人(澁谷和久君) 今アメリカで審議されている新TPA法案では、これは署名の六十日前にテキストをウエブサイトにと、パブリッシュということであります。
 様々な節目があります。まず大筋合意を仮にした場合に、その時点でどういう情報提供をするか、これも十二か国で相談しながらやろうということになっております。署名が近くなり、交渉テキストが確定した場合にどういう対応をするかということも、今後十二か国と相談しながらやっていきたいと思っております。

○紙智子君 相談ということを言うんですけれども、やっぱりこの場に及んで、まともに国民の暮らしや日本の経済に大きな関わりが出てくる問題について情報公開もしないで、農産物の聖域も守らないような、こういう日米協議については直ちにやめてTPPからの撤退をすべきだと、それしかないということを最後に申し上げまして、質問を終わります。