<第189回国会 2015年3月4日 国際経済・外交に関する調査会>


国際経済の現状と課題解決に向けた取組について

○政府参考人
 内閣官房内閣審議官 澁谷和久君
 内閣府政策統括官 田和宏君
 外務省経済局長 齋木尚子君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私、最初に通商交渉についてお聞きしたいんですけれども、一九九五年にWTOが発足をして、今年ちょうど二十年目ということです。この協定をめぐっては、当時はもう国論を二分する大議論がありました。政府は、世界から孤立する、乗らなきゃいけないということで大宣伝をして参加をしたわけですけれども、その後WTOはできたわけですけれども、新たなラウンドの立ち上げのとき、一九九九年のシアトルの閣僚会合では立ち上げに至らなかったと。同会合の決裂があって、その背景に、非公式協議を重ねる意思決定方式への批判の高まりも指摘されているわけです。再びドーハ・ラウンド交渉が開始されたわけですけれども、二〇〇三年のカンクンでもまとまらずということがありました。長期にわたって停滞をしているわけですけれども。
 そこで、二つちょっと伺いたい。内閣府になるかと思いますけれども、一つは、WTOで日本経済がどう発展したのか、特に一次産業は発展したのかということです。それからもう一つは、WTOが停滞している原因、これは端的に言うとどういうことなのかということをお答えいただきたい。
 それから、もう一つつなげて言いますけれども、外務省の方にお聞きしたいんですけれども、WTO協定の交渉がうまくいかなくなって、その背景は加盟国の構成や交渉力の変化や利害対立、途上国とそういう対立もあったということが指摘されているわけです。WTO交渉が進まなくなる下でFTAとかEPAとか二国間の連携が一気に増えていったというふうに思っているわけですね。
 そういう中で、今、TPPですけれども、TPPは従来の経済連携協定よりもより包括的で野心的というふうに言われているんですけれども、この交渉というのは秘密交渉なわけですね。我が国の経済や我が国の人々の生活にも重大な影響を及ぼすわけです。とりわけ農業や食料の分野というのはみんなが非常に不安が大きいわけですけれども、国民に重大な影響を及ぼす内容なのに国民に情報を出さず交渉するやり方にも強い批判が続いているわけです。
 政府は秘密保持契約にサインをして交渉に参加したわけですけれども、このような秘密保持契約にサインをした交渉というのは過去にあったのか、もし過去にあったとしたらどういう交渉なのか、これ経済に関わってです、ということでお答え、それぞれ内閣、外交ということでお願いします。

○政府参考人(内閣府政策統括官 田和宏君) 内閣府ですけれども、先生の御質問の、実はWTOでもって農業が発展したのかという御質問であったんですけれども、残念ながら私の知る範囲では、WTOでもって農業の発展度合いというのを分析したものがあるのかないのかというのを私自身ちょっと存じ上げないんで、大変、申し上げられないんで申し訳ないんですけれども。
 農業の場合、まさに対外関係という問題と同時に、非常に高齢化しているという国内問題も今抱えております。そういった大きな構造問題を抱えながらやっておりますので、その辺ちょっと現時点では私、直接は申し上げられないんで申し訳ないんですけれども、そういったものを多角的に今後しっかり見ていく必要性はあるかなというふうには思います。

○紙智子君 停滞している理由。端的にお願いします。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) WTOが、先生御指摘のとおり、発足以来、今ドーハ・ラウンド交渉をしておりますが、このドーハ・ラウンド交渉の停滞の原因は、やはりメンバー国が今増えて、百六十か国でございます。貿易円滑化協定という、今一つ成果が上がりつつありましたが、このために十年ぐらい掛かったと。この理由は、やはり途上国が優遇措置を途上国として求める。その中にはいわゆる新興国も入っております。そういう途上国、まあ新興国と言ってもいいわけですが、これと、途上国というよりは新興国なのだから応分の市場開放を求めたいという先進国もある。こういう先進国、新興国・途上国と、そういった対立も一つの原因として挙げることができるかと思います。

○紙智子君 もう一つ、秘密保持のサイン。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) 秘密保持でございますが、通常のWTOやあるいは経済連携交渉におきましては、秘密保持契約というふうなものがあると限ったわけではございませんけれども、他方において、交渉事でありますので、交渉中のやり取りの文書等々について対外的に公表をしないということで合意をした上で交渉を進めるというのは当然にございます。
 一般に外交交渉におきまして公開できることできないことはあるわけでありますが、公開できるものにつきましてはしっかりと御説明をしてまいりたいと思います。

○紙智子君 秘密保持契約にサインしているんですよね、しているというふうに報道されていましたけど。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) TPPはそうです。TPPに関しましては、二年前の七月二十三日に当時のマレーシアでのラウンドに正式に参加したときにそういうものにサインをして、それで正式参加が認められたということでございます。

○紙智子君 それは初めてですか。今までもあったんですか。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) 大変失礼しました。
 先ほどお答えの中で申し上げたように、一般に貿易交渉、経済交渉において、TPP交渉参加の際に交換したような秘密保護に関する書簡、契約を交わした例はないと承知しております。

○紙智子君 例はない。
 今、この秘密交渉という問題では、参加国の間でも非常に批判があるわけですね。アメリカ国内でも批判が高まっていて、通商担当の官僚を務めた経験を持っているゲリー・ホリックさんという人は、二〇一二年の一月に日本に来て、TPP交渉は私が知る中では最も透明性に欠ける貿易交渉だと苦言を呈したと言われているわけです。
 それで、不透明さはアメリカ国内で大きな問題になって、アメリカの研究機関と大学の図書館を代弁する二十三の組織がTPP交渉のドラフトの一般アクセスを要求したということも言われている。それから、TPP交渉のテキストを公開することを求めるアメリカ議会の法案も提出されている報道がされているわけです。
 一方、欧州委員会の方は、米国とのTTIP、環大西洋貿易投資パートナーシップ交渉では、二〇一五年の一月に、米国側に提案した協定文書案を公表したんですよ。EUが二国間の通商交渉の文書を公表するというのは初めてのようなのですけれども、これ御存じだったでしょうか。もし知っていたら、なぜ公表したと思われますか。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) アメリカとEUの第三国間の交渉事でございますので、私どもとしてその背景等々について臆測することは差し控えさせていただきます。

○紙智子君 ちょっとお粗末な答弁だなと思うんですけれども。やっぱり知るべきだと思いますし、これはやはりEUが、消費者団体などを含めて国内で非常に大きな世論が起こっていると。米国とのFTAに慎重な声も多くて、交渉を担当する欧州委員会としては、透明性を向上するということでやっぱりその区域内で幅広い理解を得たいというふうに考えているということなんですね。だから、秘密交渉ということではなくて、やっぱり真っ当な交渉相手としてやらなきゃ駄目だと、国民の理解を得なければ結局うまくいかないんだということが認識が広がっているということでもあるわけです。
 その点で、日本は秘密保持契約を理由にして全く情報を出さないわけですけれども、このやり方自身が私は時代遅れで非常に閉鎖的なスタイルだというふうに思うんですけれども、その点について一言最後にお聞きして、終わりたいと思います。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 交渉のある意味情報をなるべく外に出さずに交渉したいということと、一方で国民の理解を得ながら進めるその透明性をどう確保するかという、そのバランスに実は各国も非常に悩みながら進めているところでございます。どの国も、やはり国内では透明性を高める声があるというのは事実でございます。
 日本が参加をした後、何度か会合を重ねているわけでございますが、当初は閣僚会議以外の中間会合といいますか非公式な会合についてはやっていることすら公表しないということであったんですが、日本の首席交渉官が参加する会合は、日本としてもこれは、交渉の中身はともかくとして、その会合をやっているということぐらいはもう記者発表するぞと、かつ、どういう分野についてどの程度の議論がされているのかということは連日記者ブリーフィングをするということで、日本としてはだんだんそういう方向で、十二か国の中でも、中の議論を通じて少しでも状況を国民の皆さんに分かりやすくお伝えできるように努力をしているところでございます。
それでもまだまだ不十分だというお叱りを常にいただいているところでございますので、引き続き一層の工夫、努力をしていきたいというふうに思います。

……(略)……

○紙智子君 ちょっと先ほどお聞きできなくて、一個だけあとあるんですけれども、経済主権を尊重するという問題で、ISDの条項の問題について、澁谷さんがいいのか齋木さんがいいのかというのはちょっと分かりませんけれども、これは投資家対国家の紛争を解決する条項なわけですよね。
 それで、世界銀行の傘下にある国際投資紛争解決センターなどが仲裁機関に指定されているわけですけれども、審理は非公開であると、それで、不服があっても上級の仲裁機関に訴えることができない、訴えられるのは政府だけではなくて地方自治体が行う施策の規制も対象になるということで、国連本部で議論されてきた中の一つに、例えば米国の大手石油会社が南米のエクアドルの北東部で起こした環境汚染の問題が取り上げられていると。被害住民団体の訴訟に対して米国の地方裁判所が二〇一一年にこの会社に損害賠償の支払を命じたんだけれども、同社が国際調停機関に訴えて、支払必要なしというふうに結論付けられたと。エクアドルの外相は、企業の利益追求には、追求していくと切りがない、政府が国民生活を守る責任を果たそうとすると国際機関の調停で企業が勝つ仕組みになっているというふうに批判をしているわけです。
 ISD、ISDS条項というのは、場合によってはこういうふうに投資家の保護のために国家の活動を規制する可能性があるんじゃないか、国家の主権が脅かされる危険性があるんじゃないかというふうに思うんですけれども、これについての御認識をお聞きしたいと思います。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) お答えいたします。
 今、ISDあるいはISDS条項というものが当該国の主権を害する、必要な規制権限が侵されるということはないのかという御質問でございましたけれども、EPAあるいはそれぞれ投資の協定におきましては、我が国としては今までISDの条項を入れるということでやってきておりまして、確認的に申し上げますと、こういった条項が、日本なら日本として必要かつ合理的な規制を行うことを妨げているものではございません。
 また、そういった観点から、日本として国内法令を当然いろいろな趣旨、目的から持っているわけですけれども、ISD手続によりましてそういった日本の国内法令が協定違反とされたり、また、その結果、当該国内法令の変更を余儀なくされるといったようなことは全く想定をされていないわけです。

○紙智子君 ちょっと実態がなかなか国民には知られていないと思うんです。国際的にどういうふうな例があるとか、そういう調査なんかも含めてやっぱりちゃんと把握して知らせていくという必要があるんじゃないかなということを思いますので、そのことだけ申し上げて、終わりたいと思います。