<第186回国会 2014年5月22日 農林水産委員会>


農政改革2法案参考人質疑/遅れてきた新自由主義だと批判/地域のコミュニティーが薄れてしまうと指摘

○農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○参考人
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 安藤 光義君
株式会社勝部農産代表取締役          勝部 喜政君
北海道農民連盟書記長               山居 忠彰君
愛媛大学客員教授                  村田  武君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、四人の参考人の皆さんのそれぞれのお立場からの非常に深い、大変参考になる御意見を聞かせていただいておりまして、本当にありがとうございます。
 それで、かなり皆さん質問されているので重なるところもあったんですけれども、まず最初は勝部参考人からお聞きしたいと思うんです。
 斐川町で家族経営からスタートをされて、それで経営体質強化、それから従業員の待遇改善を目指して法人化をして、現在五十五ヘクタール、三十ヘクタールを作業受託されているということですよね。ここに来るまでというか、そうせざるを得なかったということもよく理解できましたし、それから本当に大変な試行錯誤、御努力があって今があるということを改めてお聞きして思ったわけです。
 その上でなんですけれども、私、実は出されている資料の中で一番注目したのが最後のところで、今後の課題と取組方針というところがあります。その中で、一つ目の農業集積の拡大に伴う農家数の減少、土地持ち非農家の増加、平成十六年から二十五年でいうと七百戸もこれ個人農家が離農していって、農業に支えられた集落、地域社会のつながりの希薄化という問題が提示されていて、この点というのは実はすごく私も気になっていることなんですね。
 それで、やっぱり、何というのかな、地域全体で、もちろん後を継ぐ人もいなくなって任せたいと、やってほしいと、なくすわけにいかないのでということで、それを受けてやってこられたという関係だと思うんですけれども、やっぱりこれから先でいうと、そうやって離農された方も含めて地域全体でといったときに、今回出されている政策でいうと、やっぱり今まででいうと生産活動を伴っていたからこそ、あぜ草刈りだとか水路の管理だとか、こういう農業、農村の持つ多面的機能という問題が成り立っていたんじゃないかと思うんです。生産活動と切り離して、じゃ集中したところを支えましょうという形でやっていくということが、果たして本当に意欲を持ってずっと位置付けられるかどうかというのはやっぱりちょっと気になるわけですよね。
 それで、この中で書かれているんですけれども、やっぱり地権者と担い手農家の協力体制などをどう構築するかというのが一つ課題ということなんですけれども、この辺のところでどうしていったらいいかというところをどうお考えかなということを一つ聞きたいということ。
 それからもう一つは、勝部さんは以前から、町全体で、一体でやっぱり農業にやる気を持っていきたいと夢を抱いていたと。しかし、TPPに参加すると、農産物の価格が暴落した場合に、国から所得補償されて生活が成り立ったとしても農業に意欲を持たなくなるんじゃないかとか、地産地消や安全、安心な食料を求める傾向が広がっていることなんだけれども、このTPP参加でもって例えば外国産米がなだれ込んできて、根付いてきたことが、風習が消えてしまうんじゃないかとか、そういう不安も言っておられるわけですよね。
 ですから、まだTPP決着しているわけじゃないですし、私たち何としてもこれ止めたいと思っているんですけれども、そういうことで関税が外されるということになったときに、せっかく築いてきたこれまでのこの設計が崩れてしまうんじゃないかという心配も持っておられるんじゃないかということをめぐっては率直な御意見を伺いたい、この二点、まず伺いたいと思います。

○参考人(勝部喜政君) 私の資料のところで、今後の課題というところの取上げと、それとTPPに関わる問題でございます。
 今後の課題というところで、土地持ち非農家が増えているということ、これはもうどうしても避けて通れない状態になっています。うちの町は平均一町百姓というふうによく言われてきたそうです。当然、五反、五十アールの農家又は一町五反持っている農家がいます。うちは、元々一町二反持っていた農家でございます。
 ただ、そういう農家が十軒やめれば十町出てくるかというと、平場に関し余計出てくるようなところがありまして、十軒やめるともう二十町近く出てくるという状態もあります。それだけ、例えば、私も平野と山手のちょうど間頃に家がございます。奥の方は、五反でも十枚、頑張ってやっているところはやっぱり頑張ってやっておられます。平場に関しては、やっぱり全部機械がないとできないよというところは一気にやめられます。隣の者がやめたらもう俺もやめるわという感じで、どんどんやめられたというのがここ十年でよくあったんじゃないかなと思います。
 その上、やっぱり先ほど言いましたように、若い層が家から出ていってしまったというのがあります。アパートが建ってどんどん増えていますというのは、出雲市と松江市というのが県庁所在地、その中間がちょうど斐川町でございまして、結婚された両市へ勤めている方がたまたま斐川町の間で、交通の便がいいということで結構住みよい町ということで移り住んでおられるのが多いというのはあります。あとは、若い世代がすぐに一緒に同居しないで、別居したままそのままずっとというのがよくあるパターン。
 ですので、先ほど来言われるように、地域コミュニティー、もうどんどん薄れてしまって、今のこの課題を取り上げているのは、これ行政が書いたものですけれども、本当、書いてあるとおり、反対の農地集積による問題がどんどんこういった形で浮き彫りに出てきたというのがここ近年でございます。ですので、集積を本当進めるというのは私は経営的には賛成ですが、反対にこういったこともマイナス要因としてあるよというところがうちの、集積をかねがねやってきたところの今の問題ですよというところで受け止めていただけたら幸いではないかなというふうに思います。
 ただ、持ち主が相続がまだしていないとか、いろんな農地があります。その上、土地への執着心が、皆さんの出身のところではどうか分かりませんが、異常なほどうちら辺はありました。でも、農地を出されて、預かって、次は買ってくれです。金にしたいとかじゃなくて、もう疫病神のような感じで、土地を持っているのがですね、とにかく売ってほしいという農家がやっぱりおられます。毎年のように購入はさせていただくようになっています。
 というのは、利用権をやっているところが売りたいというと、やっぱり第一購入者はうちになってしまうというのがありまして、うちも蹴れないという面もあります。価格をなるべく余り下げないように、農業委員会と相談しながら価格を決めた適正価格で購入をしているところですが、そういったところにも、どう言っていいのか分かりませんが、私は本当にこれでいいのかという、農地を、国土をこういう感覚で今の世代は考えているんだなというふうに少し受け止めておるところです。
 できるだけ買わないという意味じゃありません。私も、うちに、勝部家にとって資産が増えることは、長い間のちょっとした私が期間の世代を請け負っているだけなので、後に渡せられるものが増えるということはこれは歓迎したいと思っていますけれども、ただ、そういった土地への執着心の変化というのもあるというところでございます。
 TPPにつきましては、約三年半たつと思います。ずっと反対してまいりました。ここの部屋に入る道路の反対側でよく座込みもさせていただいたのは、もう何遍となく座って、応援していただいた先生方もよく声を掛けていただいたと思います。それだけ反対しております。どうなるかは、もうこれ、説明のところは皆さん御存じのとおりだと思います。対抗はできません。相手が余りにもでか過ぎます。
 これが、国と国のけんかとか、できるだけ日本の農業に構わないでほしいです。日本の中で一生懸命食べようと思って作っています。見ているだけでは何もできません、手間を掛けたほどいいものができるんで。いろんな政策とかは先生方にお任せします。作るのは任せてくださいと断言できるような、安定した政策、安定した、もう任せろと、海外のことはもう俺らが全部止めると、そうしてもらわないと、本当の五年後とか十年後を話せと言われても話せません。
 自分の近所にも、倉庫とか農機具を新規とか増設しようと思っているんだけど、三年ぐらい前から止まっています。入れたって価格が下がったらどうしようもない。返済ができない。でも僕は、座込みをしながら、絶対に止められると、だから更新するんだ、規模拡大するんだということで、誰かやらないと全員が止まってしまいます。一歩をやっぱり出さぬと、日本の百姓、これほどかいと思われたくないんで、頑張りますんで、どうか引き続きよろしくお願いしたいというふうに思います。

○紙智子君 本当にしっかり受け止めて、頑張らなくちゃというふうに改めて思いました。
 それから、山居参考人にお聞きしたい。
 先ほどちょっと小川議員からもお話があってかなり答えていただいているので、北海道にとって、私は輪作体系というのは本当に大事な崩してはならないもので、これがやっぱりTPPとの、EPAも関わるんですけれども、との関わりでやっぱりどう影響があるのかということ。
 それから、私、ずっといろんな秋田だとか山形、東北回ったりしますと、いつも、いや北海道はいいよねと、規模が大きいから北海道はもうすごく楽じゃないかというふうに皆さんに言われていて、そうじゃないんだよと、私は、大規模なところほど今回のやっぱり政策で大きな痛手を受けるんだということを話をするんですけど、その辺のところ、ちょっと分かりやすくお話しいただけたらと。

○参考人(山居忠彰君) 紙先生のおっしゃるとおりであります。規模が大きいところほど大変ということで、規模が大きいところで単一のものを作れるというのは水稲だけなんですね。これ、水稲は連作が利きます。これは毎年水で洗うから。しかし、これは畑作物というのは、同じ作物を作っていくと収量が減るんですね。そしてまた、病気に弱くなります。そして、様々なほかのまたいろんな弊害も出てきます。それと価格も、同じものだけ作っていると変動したときに対応できません。ですから、リスク分散のためにも幾つかの種類を作ることがやっぱりこれ大事です、経営としては。
 そんな中で、北海道の場合は、先ほどもお話ししましたけれども、春、雪解けが遅い、秋は雪が早いというふうに、北海道はいいよねという逆のことがあります。先ほど、勝部さんのところでは二年で三作できると言いました。一年で二作できるところもあります。でも、我々のところは一年一作しかできないんです。その一年の一作、しかもその限られた期間の中でどうやっていいものを作っていくかとなると、この輪作体系というのは極めて重要になります。
 特に、豆類と麦類と、それから先ほど言いましたてん菜ですね、ビートと、それからでん原バレイショ、バレイショと、この大体四つぐらいを回していく、輪作体系をつくっていくと、大体上手に収量が落ちないで進めていくことができます。これは今、十勝地方、北海道の道東の中でも十勝地方でかなり実施されています。これがオホーツクの方になると、北見の方になると、実は豆の生産が余りできないものですから、これを三年輪作でやっています。
 だけど、この輪作というのは極めて大事だということは、先ほど言われましたように、これ輸入の自由化になってどれかが入ってくると、この輪作体系崩れますよね。崩れるということは同じものしか作ることができなくなる。それはイコール、病気にもなる、収量も落ちる、価格も所得も上がらない。もう農家離農が目に見えてくるわけです。だから、これは何としてもこのTPPは、我々も反対するというのはもうそういうことにもあります。
 この北海道、特に従来でいう政府管掌作物ですけれども、やっぱり主要作物、北海道には余りにも多過ぎます。そして、この多いものがTPP等、一番影響を受ける。この受けるということは、北海道に農業は要らないと言っているのに等しいことになりますので、何としてもこのTPPは止めていただくように先生方にお願いしたいと思うんです。
 以上です。

○紙智子君 ありがとうございました。
 それじゃ、村田先生に伺います。
 先生の最初の冒頭のところで、これは構造改革に逆行する施策の一掃というような位置付けというお話があって、今回の安倍政権の下でのこの政策というのは、日本再興戦略で、十年間に全農地面積の八割を担い手に集積して、担い手の米の生産コスト現状を四割削減をして、法人経営体数を五万法人とするということで二法案出されているわけですけれども、この企業参入の加速化ということと構造改革に踏み込むということを強調しているわけです。
 その中で、戸別所得補償は構造改革に逆行するものではないというふうに先ほど村田先生言われて、それと交付金の対象を絞り込むということでは差別を持ち込むという話も指摘をされていたわけですけれども、ずっと述べられた中で、我が国の農業と農村のあるべき方向の中で、我が国の水田農業政策に期待されている内容ということで三つ話されていますよね、資料の中にもあるんですけれども。このことがやっぱり何で大事なのかということを一つお話しいただきたいということ。
 それからもう一つ、国際家族農業年の話をされて、やっぱり大きな、何か大局からというか大きな視野で、今どういう方向に向かうべきなのかということを示唆されるような話だったというふうに思うんです。特に、ドイツなども行かれたということでもありまして、そこで、先生自身が実感された、それを日本の中でどう生かすのかというところの話を御説明いただきたいというふうに思います。

○参考人(村田武君) いろいろありましたが、簡潔に、途中落ちるかもしれませんが。
 一つ、やはりこの構造改革、今、日本の農業改革という中で、まさにアベノミクスの第三の矢という焦点で、農業改革ならんかったらアベノミクス潰れるのかというふうなところまで、うわっと重点化されていっていますけれども、これは国際的に見れば、遅れてやってきた新自由主義なんですね。もう、いわゆる新自由主義的構造改革は、アメリカでいえばレーガノミクスに始まってイギリスのサッチャリズムから大きく、農業政策も価格支持から、従来のまあ言ってみればケインズ経済政策の一環としてのような、そういう政策から新自由主義的、したがって直接支払と。何のことはない、直接支払というのは、あれは価格支持を下げた、そこで所得が落ちる部分の補償ですからね、だから、どんどんどんどん下げていっているんですよ。
 その中で、農家が苦しむということで、今ドイツを始めヨーロッパでは家族農業経営、とりわけ酪農経営の減少のスピードすごいですよ。乳価がもう日本の半分以下なんですよ。内地、今、都府県、飲用乳百円のところで何とか維持できている。もうドイツは五十円切っているんですね。こういう中で、家族経営を維持できない中で、必死になってやっている中で、エネルギー、バイオガス発電から太陽光から風力から、必死に、地域のエネルギー資源を地域の所得へということで、これを取り込むことによって経営を支えるというような動きになっているんですね。
 今頃になって、本格的な担い手経営が成立していない、まだ、そういう日本において何でこんな新自由主義的な政策をやるような余裕があるのかと、そんな余裕は全くありませんと。自給率は基本的に一定、回復させることが農政の最大の目標課題ではないですか。担い手を育てるというのは二番目、三番目であって、自給率を上げるという政策をやっぱり邁進すべきなのが今の日本の農政に置かれた課題だと思うんですよね。
 そこのところが揺らぐと、もう大変なことであって、私は、国際社会への貢献、国際家族農業年といったときに、これは忘れてはならないのは、二〇一二年の国際協同組合年に続いて、農村を、多様な農家と、基本的には家族農業経営とそれを支える生産者組織、農協を始めとして、これを一体で何とか農村を活性化しようではないかと。そうしないと、このリーマン・ショック以来の不況から地域経済の破綻は克服できませんというのが、あの国連から発せられた提言だと思うんですよね。
 これをやっぱり我が国の農政、もうちょっとしっかり考えてほしいというのが、私の言いたかったことであります。

○委員長(野村哲郎君) もう時間が参りました。

○紙智子君 最後一つだけ、安藤先生にお聞きしたいのが、やっぱり中山間地域の問題で、実は今まで面積支払七割、品質、生産量に応じて交付三割という交付の仕方だったのが、数量払いを基本としてやっていくというふうになってきたときに、私は今回、中山間地域のような条件不利地では結局面積ということにならないわけですよね。そうすると、生産が厳しい条件のところでは生産量ということで支払ということになると、結局今までよりずっと減っちゃうんじゃないかと。そうすると、本当に維持できなくなるじゃないかという不安を持っているんですけれども、その辺についてどうかということを一言だけ、じゃ、伺います。お願いします。

○委員長(野村哲郎君) 安藤参考人、もう時間が参っておりますので、短めにお願いします。

○参考人(安藤光義君) はい、分かりました。
 都府県の水田地帯については、面積そのものがそれほど大きいというわけでもございませんし、それほど、麦、大豆等を作るに際してもそれほど影響は出ないかなとは思っております。ただ、北海道についてはどういう影響が出るかについては、ちょっと私の方では答えられない、可能性があるかもしれないということでお返ししたいと思います。
 ありがとうございました。