<第186回国会 2014年3月27日 農林水産委員会>


日豪EPAについて

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 初めに、特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正するこの法律案について、輸入農産加工品の量、シェアの増加が継続をしている中で、国産農産物を活用しながら経営努力を続ける中小零細農産加工業への支援というのは、これは継続する必要があるというふうに思いますので、五年間延長するということを決める法案について賛成であります。
 その上に立って、今日は、主に日豪のEPA問題を中心にちょっと議論をしたいと思います。
 日豪のEPAは、二〇〇七年の第一次安倍政権下で交渉が開始をされました。このEPAで仮に牛肉と乳製品が関税自由化とされたならば日本の酪農、畜産に深刻な打撃を受けるということで、当委員会でも委員会決議を採択をしたわけです。
 当然御存じのことだと思いますけれども。
 決議では、一つは、米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖などの農林水産物の重要品目が除外又は再協議の対象となるよう、政府一体となって全力を挙げて交渉すると。二つ目は、現在進行中の、当時でいいますとWTO交渉や米国、カナダ等との間の農林水産物貿易に与える影響について十分留意すること。三つ目は、交渉に当たっては、交渉期限を定めず粘り強く交渉すること。万一我が国の重要品目の柔軟性について十分な配慮が得られないときは、政府は交渉の継続について中断も含め厳しい判断をもって臨むことというふうになっています。
 まず、この決議に対する林大臣の認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(林芳正君) 御指摘のとおり、日豪EPAについては、平成十八年十二月に衆参両院の農林水産委員会での決議をいただいておりまして、農林水産省としては、この衆参両院での決議を踏まえて真摯に交渉に取り組んでいるところでございます。

○紙智子君 今回、TPP交渉の米国政府の譲歩を引き出すために日豪EPAを利用しようとしているんじゃないかという指摘がされています。牛肉関税を一定程度引き下げて合意できれば、TPPで関税撤廃を要求している米国政府の譲歩を引き出せるんじゃないかというような大変危険な動きが指摘をされています。そのために、日豪EPAに前のめりになって、西川自民党TPP対策委員長がわざわざオーストラリアを訪問して、オーストラリアのジョイス農相やアボット首相との交渉を進めているということも言われている。
 日本が譲歩するのではないかと、こういう情報ももうオーストラリアの中では広がっていて、オーストラリア国内では牛肉関税の撤廃や大幅な引下げを求める世論が形成されつつあるということも言われている。報道によりますと、日豪EPA特別委員会のハート委員長が、政府はオーストラリア産牛肉の関税を撤廃する枠組みを確保しなければならないという声明を発表したとされています。
 林大臣は、昨日、ロブ貿易相との一対一のバイ会談をしたとされていますけれども、ロブ貿易相からはどのような要求がされたのか、それに対してあなたがどのような対応をしたのか、明らかにしてください。

○国務大臣(林芳正君) 先ほど馬場委員、徳永委員からも御質問いただいてお答えしたとおりでございますが、昨日十一時過ぎから豪州のロブ貿易・投資大臣と会談を行いまして、会談では日豪EPAを含む二国間経済関係について議論を行わせていただいたところであります。
 日豪EPA交渉における農産品市場アクセスについても意見交換を行いましたが、引き続き協議を継続しようということになりました。具体的な協議内容については、交渉は継続中でございますから、ここで申し上げることは控えさせていただきたいと思っております。
 繰り返しになりますが、衆参農林水産委員会の国会決議を踏まえて真摯に交渉に取り組んでまいりたいと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 ロブ貿易相と、どういうふうに要求されたのか。新聞報道では一部出されているわけですけれども、EPAは、これはTPPと違うから秘密交渉じゃないと思うんですよね。なぜ中身を言えないのか、これはおかしいと思うんですけれども。明らかにすべきじゃないですか。

○国務大臣(林芳正君) これは外交の一般的な常識だというふうに思っておりますが、具体的な協議内容、相手があるところでございます。それからもう一つは、交渉が継続中ということでございますから、そういう意味で、ここの場で申し上げることは控えたいというふうに思っております。

○紙智子君 それでは納得できないわけですね。
 TPPは秘密交渉だということを理由にして、実際には国内に大変影響があることも出さずにやっているわけですよ。EPAは別に秘密交渉でも何でもないわけで、これまでだってやられたことが新聞報道もされているということもあるわけで、やっぱりこのことによってどういうふうなことが影響があるのかということを考えれば、今の段階での交渉していることは明らかにすべきだと思いますけれども。

○国務大臣(林芳正君) 繰り返しになりますが、これ外交の場合は、従来のFTA交渉も同様だったと思いますけれども、またFTAにとどまらず、外交上の交渉というのはそういうものだと思いますけれども、相手方との間で信頼関係で交渉をやるということでございますので、そういう意味では中身を一方的に申し上げるということは控えたいと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 非常に重大だというように思うんですね。やっぱり、交渉している途中だから明らかにしないということで、決まったときには大変な大きな影響を受けることになり得るということになったら、本当に国民の利益を守ることができるのかと、できないんじゃないかということになるわけで、この問題は引き続き取り組んでいきたいと思いますけれども。
 結局、確認しますけれども、ロブ貿易相とのバイ会議では、これは牛肉の関税の半減提案に同意はしていないということですよね、それはちょっと確認したいと思います。

○国務大臣(林芳正君) これはまさに、相手がどうおっしゃった、私がどう申し上げたということはまさに協議の内容そのものでございますので具体的なコメントは差し控えたいと思いますが、先ほど申し上げたとおり、EPA交渉における農産品市場アクセスについても意見交換を行ったということは申し上げたとおりでございます。

○紙智子君 新聞報道で見ますと、仮に牛肉関税が現行の三八・五%から豪州が求めている一九・二五%、あるいは報道されているように二〇%台の半減になったとしたら一体どうなるのかと。オーストラリア産の牛肉と競合するのは日本や北海道などのホルスタインの雄の牛肉です。牛肉関税が半分に減ったら、この乳牛の雄ですね、乳雄の牛肉は市場でのオーストラリア産の牛肉との価格競争にこれは負けることになると、大変大きな打撃を受けることは必至なわけです。
 そうなると、酪農生産者から見ますと重要な副産物収入である乳雄、乳牛の雄が売れなくなると、酪農経営に深刻な打撃を与えることになるわけです。それから、乳雄を肥育している肥育農家は経営が成り立たなくなると。共に北海道にとってはこれは農業の柱になっているわけで、北海道農業に深刻な打撃を与えることになるわけです。そのことに対する大臣の御認識はあるでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) まさに今委員がお話しになられましたように、北海道は、バレイショ、それから生乳、てん菜、小麦、全国一位でございます。また、米、肉用牛も全国有数の生産地でありまして、我が国農業産出額の全体の一割、一二%ですが、を占める大食料供給基地でございます。
 日豪EPA交渉に当たっては、北海道を始めとして我が国の農林水産業に与える影響に留意しながら、衆参両院での決議を踏まえて真摯に交渉に取り組んでまいりたいと思っております。

○紙智子君 現に、北海道のホルスタインを肥育している農家は、関税が下がって枝肉価格が下がり続けるというのが一番不安だというふうに言っているわけですね。そして、乳雄のような低価格帯の牛肉価格が下がれば、高い方の肉もこれはだるま落としのように価格が下がっていくということを懸念しているわけです。
 これは現に、かつて九一年のときに、一九九一年ですね、関税率で七〇%で自由化されて、段階的に引き下げられていったわけだけれども、二〇〇〇年のときには現行の三八・五%まで下がったと。自由化される前と比較すると国産の牛肉の枝肉の価格は大幅に下落したという事実があるわけですよ。だから、やっぱり非常にみんな不安に思っているし、もしそうなったときには続かないなと。それなのにもかかわらず、やっぱり、今交渉中だからといって、それでこの落としどころを探っているなんというのは本当に黙っていられないですよ。
 もう一つ新聞報道がありますけれども、三八・五%から二〇%に半減するようにオーストラリアの側が求めてきたら、日本側は主に外食・加工用に使われる冷凍牛肉の関税を二〇%台に引き下げる一方で、主に家庭向けの冷蔵牛肉の関税は三〇%台に維持する姿勢にとどめたために主張は平行線に終わったと書いてあるわけですよ。
 今後、この牛肉の関税をめぐって最終調整が行われて、ロブ氏が四月上旬に再来日する案も浮上しているということが書いてあるんですけれども、これ、そうなんですか。

○国務大臣(林芳正君) いろんな報道は私も一応目を通しておりますが、報道について一々コメントすることは差し控えたいと思いますし、中身については、先ほどから繰り返しになって恐縮でございますが、この協議の内容については申し上げることは控えさせていただきたいと、こういうふうに思っております。
 なお、さらに、私とロブさんの間でお会いしてお話をするかということについては、まだ決まっておらない状況でございます。

○紙智子君 オーストラリアの方は、車の関係で、それで要するに日本としてはオーストラリアに車を売り出せるんだと。だけれども、そもそも切るカードが向こうの方はそんなに痛まないわけですよね、日本の側はあと残されたカードということでは非常に危険な状況に置かれているわけで。そういうことでやりながら、結局これがTPPにも影響を与えていくということは、本当にこれ重大だと思うんですよ。
 結局、日本の側は、いろいろそのオーストラリアとの関係で交渉して、そして一定程度譲歩させたと、それを見て、例えばアメリカが、じゃ、完全に撤廃させるわけにはいかないなとなって、そこそこ譲歩するというふうになったら、一応それで申し開きができるというような理屈を立てているのではないかという臆測もあるわけですけれども、そんなことになったらとんでもないことだと。
 日本のやっぱり利益を守ると、この間、国益を守るということを繰り返し言ってきたわけだけれども、オーストラリアと日本との関係でいえば、まずはその合意に至らないというか、結ぶこと自体もずっと懸念されてきたわけで、それが第一次安倍政権のときにそこに入ったと、しかし、なかなかその間については日本のやっぱり産業をめぐって多大な影響があるということでずっと来たわけで、それがここに来て、もうTPPとの関わりで、ここで、アメリカの譲歩なんて言っているけれども、実際上狙っているところは違うんじゃないかというふうに思わざるを得ないんですね。そんなことに絶対してはいけないわけですけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) 先ほどから申し上げているとおり、今委員がおっしゃったようなことが報道で書いてあって、そういう臆測があると、こういうことをおっしゃっておられましたが、まさに臆測ということであろうかなと、こういうふうにお聞かせいただきましたけれども。
 大変に大事なこの農業をどうやって守っていくのかという今の御意見について、その御意見も踏まえて決議が示されているものと、こういうふうに思っておりますので、先ほども申し上げましたように、この農林水産委員会での決議を踏まえてしっかりと真摯に交渉に取り組んでいきたいと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 北海道では、TPPよりもずっと以前から、日豪EPA、これについてその影響について試算も行っていて、日豪EPAに対してはもう本当に警戒をしてきたわけです。もろに北海道の酪農や畜産、畑作も含めて、これは大打撃を受けるということで警戒をしてきたと。
 そういう事態を招くようなオーストラリア政府との牛肉関税の引下げ要求を受け入れることはないですよね、もう一度確認をします。

○国務大臣(林芳正君) これはもう何度も同じ答えになって恐縮でございますが、今委員がおっしゃったような趣旨のことがしっかりとこの農林水産委員会の決議に書かれていると、こういうふうに私も理解をしておりますので、この国会決議を踏まえて真摯に交渉に取り組んでまいりたいと思っております。

○紙智子君 現在のオーストラリア政権は、前の労働党政権ではなくて、保守連合政権です。その支持基盤の一つが農業団体だと。その代表的な農業団体、オーストラリア全国農業者連盟の要求というのは、日豪EPAは全ての農業者に良い結果をもたらさなければならない、全分野の市場アクセスが改善されなければならないと、牛肉だけでなくて、米、穀物、砂糖、乳製品、豚肉の日本の市場開放を求めているわけです。
 そういう中で、昨日のロブ貿易相に続いて来月上旬にはアボット首相が来日をすると。日豪EPAの決着を付けようとしているわけです。まさに正念場というときだと思います。林大臣、決議を踏まえてということなんですけれども、遵守をして、交渉の中断を含めて厳しい判断をもって臨むべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) 今お話のありましたアボット豪首相ですが、四月に訪日をする方向で調整中であるというふうに承知をしております。
 冒頭申し上げましたように、日豪EPAについては、双方にとり利益となる協定を実現するように早期妥結を目指して交渉に取り組んでいるわけでございますが、具体的な交渉妥結の期限について決めているわけではないわけであります。これはあらゆる交渉はそうですが、こちらが一方的にそれは期限を切れば相手が足下を見てくると、こういうことになるわけでございますので、そういうことではなくて、しっかりと決議を踏まえて真摯に交渉に取り組んでまいりたいと思っております。

○紙智子君 農業関係者の間だけじゃないですけれども、特に農業関係者の間では、牛肉はいつの時代も市場開放の突破口にされてきたと、またかという憤りもあるけれども、厳しい要求に屈せずに、国民との約束、国会決議を守ってほしいと、こういう声がありますので、是非裏切らないように、そのことを強く求めて、私の質問を終わります。