<第183回国会 2013年5月24日 本会議>


復興予算の流用を批判し、被災者の生活と生業の再建へ国が責任を果たすよう要求

二〇一一年度決算の概要について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私は、二〇一一年度決算について質問いたします。
 二〇一一年は、三月十一日の東日本大震災と東京電力福島第一原発によって多大な犠牲者と被災者、そして避難者を生み、一刻も早い復興を成し遂げることが国民的課題でした。しかし、被災地では、生活や営業の再建のめどが立っていない地域が数多く残され、一方、復興予算が被災地復興とは無縁なところに使われていたことが明らかになり、国民の批判が広がりました。
 さきの参議院本会議では、二〇一〇年度決算に対する警告決議が全会一致でなされ、復旧・復興関係経費の一部が被災とは直接関係のない事務事業等に支出されていたことを指摘し、看過できないと内閣に対して警告、その是正措置を求めました。
 しかし、この流用を可能としたのが、二〇一一年六月、自民、民主、公明三党によって修正された復興基本法でした。復興の定義を拡大し、目的に日本の再生を加えるなど対象を広げ、直接関係なくても復興予算を使える余地を生み、各省庁が復興とは無縁な予算を滑り込ませました。このような修正を推進した自公民三党の責任は重大であり、この点での総理の答弁を求めます。
 復興予算の流用を厳しく正すことはもちろんですが、この基本理念の中心に、被災地の生活となりわいの再建が土台であることを改めて据え直すことが不可欠であると思います。総理の見解を明らかにしていただきたい。
 復興予算の流用がなされる一方、被災地では、今のような対策ではまともな復興ができないとの声があふれています。
 一つは、住まいの問題です。決算委員会で、私は福島県の帰還困難区域の住宅の賠償問題を取り上げ、総理は実態に沿った賠償を検討してまいりたいと答弁されました。
 どの被災地でも、住まいの問題は切実です。被災者は一日も早く仮設から出て自分の家に住みたいと願っており、生活再建支援法による支援額の増額は切実です。地方自治体が上乗せの対策を重ねている中で、せめて国は三百万円の枠を五百万円へと引き上げるとともに、対象を大幅に拡充すべきです。また、必要な災害公営住宅を建設することが急務となっています。この願いにこたえる総理の答弁を求めます。
 二つ目に、深刻な被災者の医療、介護問題です。
 医療、介護の窓口減免の国の十割負担が昨年九月をもって打ち切られました。仙台市の被災者を訪ねたとき、僅かな年金しかない中で、薬代などがかさみ、病院に行けないと不安が出されました。命にかかわる問題です。助かった命を大切に考えるならば、国の全額負担による減免制度を復活させるべきです。総理の答弁を求めます。
 三つ目に、事業再建の問題です。
 中小企業グループ補助金は被災地では歓迎されていますが、グループを組めない小零細事業者が置き去りにされています。小零細事業者、農漁業者などの新たな直接助成制度の創設を求めます。総理、明確な答弁を求めます。
 原発事故による放射能汚染、とりわけ影響を受けやすい子供の健康問題が心配です。
 福島では十八歳以下の医療費の無料化が始まっていますが、国の制度として無料にすることを求めています。この点では、超党派の議員立法である原発事故子ども・被災者支援法の国による一刻も早い基本方針の策定が必要です。総理、いつ基本方針を策定するのか、明らかにしていただきたい。
 最後に、総理、あなたのTPP交渉参加への表明がどれほど多くの人々に失望を与えているか、とりわけ懸命に立ち上がろうとしている被災者の人々に冷水を浴びせることになるのか、真剣に考えたことがあるのでしょうか。守るべきは守ると言いながら、国民の食料の安全を含め、大事なことを守れる何の保証もないことが明らかになりました。日本と国民にとって百害あって一利なしのTPPは即刻撤退すべきです。
 このことを強く申し上げ、総理の見解を求めて、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 紙智子議員にお答えをいたします。
 復興予算の流用と復興の基本理念の在り方についてお尋ねがありました。
 復興関連予算については、御指摘された批判やこれまでの国会等での御議論を真摯に受け止め、被災地域の復旧・復興に直接資する施策のみを復興特別会計に計上することを基本としています。現在、被災地向け予算は全て復興庁に一括計上することとし、執行段階でも復興庁において内容を確認した上で予算配分を行うこととしています。また、被災者の生活となりわいを再建することは復旧・復興の目的そのものであり、今後とも、常に施策の点検を怠らず、大震災からの復興、福島再生の促進に全力を挙げて取り組んでまいります。
 被災者生活再建支援制度の拡充と災害公営住宅の建設についてお尋ねがありました。
 住宅や生活の再建については、被災者生活再建支援金による支援を講じています。この制度の拡充については、他の制度とのバランス、国や都道府県の財政負担などを勘案して慎重に検討すべきものと考えます。災害公営住宅の建設については、自治体が被災者の要望を踏まえ進めているものと理解しており、政府としては、災害公営住宅の工程表を公表した上で、その実現及び加速化を全力で支援しているところです。
 医療、介護の減免措置についてお尋ねがありました。
 東京電力福島第一原発事故に伴う国による避難指示等が行われていない特定被災区域における国民健康保険、介護保険等の窓口負担及び保険料の減免措置については、昨年九月まで国による全額の財政支援措置を講じていました。これは、前年所得に基づく窓口負担等について被災による所得の減少を反映したものとなる時期まで講じていたものであります。ただし、平成二十四年十月以降も、制度上、保険者の判断による減免措置が可能であり、財政負担が著しい場合には減免額の十分の八以内を国が支援する措置を講じております。
 中小企業グループ補助金と農漁業者の再建についてお尋ねがありました。
 中小企業グループ補助金は、東日本大震災による被害が我が国の歴史上、類を見ないほど広範囲かつ甚大であり、グループを形成し、力を合わせて復興を図ることが必要であったこと等に鑑み、極めて特別なケースとして創設したものであります。このため、採択に当たっては、グループとして具体的な共同事業を行い、地域経済や雇用に貢献することを採択要件としております。新たにグループを組むのが難しい事業者については、既に採択されたグループに構成員として加わることも可能としております。
 また、被災地の農業者や漁業者の経営再建のため、東日本大震災生産対策交付金や水産業共同利用施設復旧整備事業等により必要な支援を行っているところです。五月二十一日に設置した農林水産業・地域の活力創造本部では、被災地のニーズ等を踏まえ、更に必要な政策についても検討を進めてまいります。
 引き続き、これらの制度を活用して、被災事業者の復旧を加速してまいりたいと考えています。
 子ども・被災者支援法の基本方針についてのお尋ねがありました。
 子ども・被災者支援法の基本方針については、専門的、科学的、技術的な検討が行われているところですが、できるだけ早く策定できるよう努めてまいります。
 なお、放射線による健康への影響に関する施策といった個々の施策についても、政府全体で検討し、具体化してまいります。
 TPPについてお尋ねがありました。
 TPPは、我が国経済に全体としてはプラスの効果をもたらすと見込んでおりますが、一方で、東日本大震災からの復興への配慮は欠けません。被災地において今を懸命に生きる人たちに、復興を加速することでこたえてまいります。解決すべき課題は地域ごとに異なりますが、現場主義を徹底し、課題を具体的に整理して、一つ一つ解決してまいります。
 食の安全、安心の基準を守るなど、J―ファイルで掲げた聖域なき関税撤廃以外の五項目については、交渉の中で必ず守らなければならないものとして念頭に入れておくべきものであり、交渉の中において実現をしなければなりません。
 TPP交渉においては、被災地で復興に取り組んでいる人たちの不安や懸念をしっかり心に刻んで、国益にかなう最善の結果を追求してまいります。(拍手)