<第183回国会 2013年5月23日 農林水産委員会>


「間伐特措法延長法案、大手の育種穂業参入について、山村振興への責任を果たさせるよう指導もとめる」

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今回の改正案は、間伐延長に加えて、特定増殖事業という事項が追加されています。間伐促進の延長については、林業、木材産業振興の一環として期待が強いと。諸団体から要望をいただいてきましたが、特定増殖事業は特に聞いておりませんでしたが、林野庁によりますと、戦後の造林地が主伐期を迎えていると。木材自給率が五〇%の目標があるので、今後、林業用種苗の需要の増加に対応できるよう供給体制を強化するということです。現場では、経営意欲の減退あるいは木材価格の低迷で種苗も需要拡大が見えないという状況の中で、需要増への対策が求められています。
 林野庁は、既にこの法案の基本指針案を公表し、パブリックコメントを募集しています。そこでは、今年度から二〇二〇年度までの八年間で、杉、ヒノキ、カラマツ、三樹種について成長が特に優れた特定母樹の増殖の実施を促進をし、全国的に特定母樹の種穂の採取源を整備することを目標とすると。その後十年間以内で、将来の人工造林の種苗は、特定母樹の種穂では生産できない地域特有のニーズ等に応じたものを除き、原則として全て特定母樹の種穂から生産される種苗とするというふうにあります。
 伐採後の造林は三種類のこの特定母樹に限定されていく方向なのかということ、それから杉、ヒノキ、カラマツの不適地や、国有林、水源林の広葉樹など、広葉樹林も伐採後は特定母樹に転換することになるのかということ、さらに、森林所有者の意思は尊重されるのかということについてお答えを願います。
○政府参考人(沼田正俊君) お答え申し上げます。
 造林の件でございますけれども、造林におきましては基本的にもう適地適木というものが原則でございまして、私どもとしては、特定母樹から生産される種苗につきまして、その造林に適さない土地への植栽でありますとか、森林所有者等の意向に反した植栽と、こういったものを求める意図はございません。
 ただいまお話がございました国有林や水源林造成でございますけれども、森林の公益的機能の発揮という観点から、針広混交林を始めとした多様な森林整備というものを進めていく中で、地域の実情も勘案しながら、特定母樹から生産された種苗、こういったものの植栽が適した場所についてはその利用に努めていくということになろうかというふうに考えているところでございます。
   〔委員長退席、理事郡司彰君着席〕
○紙智子君 北海道で、トドマツ、エゾマツなどの伐採後、またそれらを造林できるかということ。それからまた、トドマツ、エゾマツ、クロマツ、アカマツ、グイマツというのもあるんですけど、北海道の林種も今後特定母樹に指定されるでしょうか。
○政府参考人(沼田正俊君) 北海道の件でございますけれども、やはり北海道の気候条件等に適した樹種というものが大切だと思っておりまして、やはりトドマツでありますとかエゾマツ、そういったものを今後も北海道における主要な造林樹種というふうに考えているところでございます。
 現在のところ、特定母樹に指定する樹種というのは、成長に優れたものが既に開発されております杉とかヒノキ、カラマツといってもグイマツとカラマツの交配したものでございまして、クリーンラーチと呼んでいるものがございますけれども、そういったものが中心になろうかと思っておりまして、そういった意味で、北海道の場合はクリーンラーチというものはあるのかなというふうに思っておりますが、それ以外、なかなか杉、ヒノキは難しいと思っておりますので、トドマツやエゾマツの適地で森林所有者がそういったエゾマツ、トドマツを植栽するということにつきましては私どもとしても何ら問題はないというふうに思っているところでございます。
○紙智子君 母樹の多様性は非常に重要なわけですけれども、杉、ヒノキ、カラマツの特定母樹は何クローンあるのか、遺伝的多様性は保たれるのかということについてもお答え願います。
○政府参考人(沼田正俊君) 特定母樹につきましては、地域の環境条件への適合でありますとか、採種園造成に必要な遺伝形質の異なる母樹数の確保、いわゆる近親交配を防止するという意味でございますけれども、そういったものを考慮して、計画的に必要な種類の特定母樹を指定したいというふうに考えているところでございます。
 特定母樹の指定に当たりましては、気象条件等が比較的似通った地域内で樹種ごとにそれぞれ遺伝形質の異なる特定母樹というものを十五ないし三十種類程度は指定していくということが望ましいと考えておりまして、現時点では、杉、ヒノキ、クリーンラーチと、そういった合計で数年後には少なくとも二百以上の遺伝形質の異なる種類を指定していきたいというふうに考えているところでございます。
   〔理事郡司彰君退席、委員長着席〕
 こういったことにつきましては、私どもとしては森林総合研究所の研究者と打合せを重ねた上で検討してきているところでございまして、造林用の種苗、苗木でございますけれども、を生産する上での遺伝的な多様性というものは確保できるんではないかというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 林木育種は、高速、速くやる育種ですね、今回の、に対し集団選抜法もあって、これからも注目をしていきたいというふうに思います。
 それで、成長が早いエリートツリーが、これ五十年後どう育つのか、条件が悪い林地でも育つのかと。先のことってなかなか読めないわけですけれども、森林所有者は良い木を植えたいというふうに願っているわけです。それで、実証的な長期的なデータを求めているわけですね。所有者が優良な苗木を選択できるように、林野庁は県を応援をして様々な条件の土地でのデータを収集すべきではないかというふうに思うわけです。様々な研究データを今後も集積して情報提供していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(沼田正俊君) お答え申し上げます。
 こういった森林所有者なり苗木生産業者に対しても、そういった情報の開示というのは大事なことだというふうに思っているところでございます。
 現在行っている主な種苗でございますけれども、いわゆる第一世代の精英樹でございます。そういったスギ、ヒノキ、カラマツ等の特性に関するデータにつきましては、森林総合研究所の林木育種センターのホームページ等で既に公表したり、あるいはパンフレット等を配布させていただいているというような、現在でも既にそういうことは行っているということでございます。
 今後、特定母樹として指定される樹種に関するデータにつきましても、林野庁のホームページ等でその特性に関する情報を公開することによりまして、森林所有者、それから事業者等に適切な情報が提供されるように努めていきたいというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 多面的で長期的なデータを是非提供していただきたいと思います。
 今までの答弁の中で、森林所有者の意思の尊重や広葉樹林を増やすという話もあったと思います。しかし、出されている指針案では、原則として全て特定母樹とし、所有者等への種苗の普及に努めるというふうになっております。
 ここで、大臣になんですけれども、生物多様性の保全の立場、それから所有者の意思尊重の立場でこれ再構成する必要があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(林芳正君) 今、委員と林野庁長官やり取りしていただいたように、原則はあくまで適地適木ということでございまして、特定母樹の種穂では生産ができない地域、樹種等については、この特定母樹から生産された種苗の提供は要しないということでございます。
 また、先生のお地元でもあられますが、北海道なんかを見ますと、エゾマツやトドマツ、こういうものが気候等に適していくというふうに思いますし、一方で、日本全体ということでありましょうが、広葉樹の種苗の確保ということも重要だと、こういうふうに思っておりますので、そういうことを基本方針案には明記をさせていただいているということでございます。
 したがって、今、この基本方針案でございますが、六月五日までの意見受付期限ということにしまして、パブリックコメントを今やっておりますので、いろんな方々から意見が出てくると思いますので、それを踏まえて、現在の案について見直すべきところがないか検証してまいりたいと思っておるところでございます。
○紙智子君 単一の樹種の造林というのは病害虫の耐性も弱いということで、林野庁も単層林を減らす方向であれば、この特定増殖事業においても生物多様性の保全を位置付けていただきたいというふうに思います。
 さて、エリートツリーについてですけれども、大手企業が強い関心を示していて、特定増殖事業への参入もあり得るということで林野庁もおっしゃっています。広大な社有林と資本力を持った大手がエリートツリーの増殖から造林まで一貫して取り組むことになれば、採穂、種苗業はもちろんですけれども、山元への影響は様々予想されると思うんですね。
 この間、大手の木質バイオマスの発電への参入が報道されていますけれども、例えば北海道の紋別市に約一万五千ヘクタールの社有林を持っている住友林業は、これを活用して、国内最大級となる五万キロワットのバイオマスの発電を行う計画ということになっています。この規模というのは、実は北海道の森林組合連合会の年間の取扱量が八十万立方なんですけれども、はるかに上回る原料を必要とします。
 道内に社有林を持っている日本製紙のほか王子製紙、三井物産も続々と今取り組むということになってきていて、これら大手が乗り出してきますと間伐では足りないで、大量の主伐が必要になるんじゃないかと。これについては、環境への影響も抑えるために、大面積皆伐ではなくて、やっぱり小面積で適切な規模で行う必要があるんじゃないかというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(沼田正俊君) お答え申し上げます。
 森林の伐採でございますけれども、そういった際には、森林の多面的機能が適切に発揮されるように、その方法について、森林法に基づく保安林制度それから森林計画制度がございますけれども、そういったものによって規律しているところでございます。
 特に、公益的機能の発揮を特に重視すべき森林というものにつきましては、保安林に指定したり、あるいは市町村森林整備計画におきます公益的機能別施業森林と、こういったものに指定いたしまして、その森林に期待されている役割でありますとか、いろんな自然的、社会的条件と、こういったものに応じて主伐の方法を例えば択伐あるいは禁伐、そういったように定めて皆伐ができないように制限しているところでございます。
 また、皆伐が可能というふうになっている森林につきましても、市町村森林整備計画におきまして皆伐の方法について、例えば地域の実情に応じて上限面積を定めると、こういったことによって適切な伐採がなされるように措置しているところでございまして、こういった制度の的確な運用と、こういうものに努めていきたいというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 業界の関係者からも、一ヘクタールでモザイク状などが必要だというような指摘もあります。大面積皆伐は厳しく規制すべきだという声があります。
 それから、住友林業だけでも実はこれ北海道、四国、九州に総計で約四万二千ヘクタールの森林を所有しています。一方、公営の採種園、採穂園は合わせて全国で九百五十ヘクタールです。林業団体からは、公営の採種園の整備というのが要望されています。北海道の林業や木材産業の関連団体の要請書でも、優良林業用種子の安定確保のために必要だというふうになっています。
 しかし、都道府県の採種園、採穂園の国の補助実績ということで見ますと、二〇〇八年、九件で計一千万円という少なさなんですけれども、二〇一一年は更に半減して五件に対して僅か四百三十万円と、非常に減っているんですね。
 財政事情からこの公営採種園が縮小されているということは、これは林野庁も把握しているわけですから、これ公営の整備、機能強化、そして育種対象木の次世代化への助成を、強化のために抜本的に予算を増額すべきではないかと思いますが、これについては、大臣、お願いいたします。
○国務大臣(林芳正君) 現在の採種園、採穂園、これは都道府県の林業試験場が整備、管理をいたしまして、地域内の需給情勢に応じて種苗生産業者に苗木生産用の種穂を配布してきたわけでございます。
 今後、二酸化炭素の吸収作用、これを保全、強化していくということが大変重要でございますので、この法律改正を機に都道府県の採種園、採穂園と民間事業者の二本立てで成長に優れた種苗の増殖を推進していこうと、こういうことにしておるわけでございます。
 二十五年度予算においても、ミニチュア採種園等の整備に対して補助する事業、こういうものもございますので、こういうものを活用して都道府県や民間事業者の採種園、採穂園の造成等に対してしっかりと支援を行ってまいりたいと思っております。
○紙智子君 特定の母樹だけでなくて、やっぱり地方の育種の次世代化ということに対しての支援もお願いをしたいと思います。
 それで、この種苗生産についてなんですけれども、これは気候風土に密着した業であると。北海道で生産された種苗で見ても、例えば道東の厚岸というところがありますけれども、厚岸で育てられた種は道北の美深というところでは育ちにくいと。それから、道南の函館で育てられた種も道北では育たないと。近くにある種でやっぱり苗にするのがよいということが分かっているわけです。種苗生産はやっぱり土地土地に合ったものを地域で配布していくというのが自然に適合する方法じゃないかと。
 それで、種苗業者は今減少を続けていて、高齢化をしています。現在、約一千事業者のうちの八五%が一ヘクタール未満の小規模な事業者で、これは地域生産を今担って支えているわけです。もし大手が特定増殖事業者となった場合の地域の小規模事業者への配慮ですね、なった場合、その地域の小規模の事業者への配慮、それから山村振興に社会的な責任を果たさせていくということも大事だというふうに思いまして、この点での指導をきちっとしていただきたいということを最後に質問して、答弁を聞きたいと思います。
○大臣政務官(稲津久君) お答えいたします。
 今回の法改正によりまして、成長に優れた種苗の母樹の増殖事業に民間の苗木生産事業者が組織する団体それから組合の参入を促進しているところでございますが、従来から事業を実施してきた都道府県も引き続き種穂の提供を行うということを予定をしております。このために、苗木の生産事業者、小規模な業者も含めて、新たに参入した民間事業者だけではなくて、従来どおり都道府県から種穂の提供を受けることが可能であると、このようにされております。
 それから、新たに特定母樹の増殖を行う民間事業者に対して特定母樹から採取される種穂の配布に当たっては、地域の種苗生産事業者が広く利用できるように都道府県を通じて指導してまいりたいと考えております。
○紙智子君 じゃ、質問を終わります。ありがとうございました。