<第183回国会 2013年3月21日 農林水産委員会>


TPP問題で林農林水産大臣を追及

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私もこのTPP問題で質問をしたいと思います。この問題を抜きにはやっぱりこれからの日本農業を語れないというふうに思っております。
 それで、最初に、安倍総理のこのTPP参加表明に対して一斉に抗議と怒りの声が上がって、日々広がっているというふうに思います。一部に、経団連などでは歓迎の声も出されておりますけれども、多くは非常に怒りの声が広がっています。JAの萬歳会長は、強い怒りをもって抗議すると抗議の声明を出しましたし、日本医師会からも、公的医療保険の縮小が懸念されるという声明が出ています。それから、全国町村会、九百三十町村ですね、ここからも、TPP参加は農林漁業だけでなく地域経済社会の崩壊を招くとして繰り返し主張してきた我々の主張を無視したもので、極めて遺憾と、本当に怒りのこもった声明が上がっています。
 これらの声を大臣はまずどのように受け止められるのかということをお聞きします。
○国務大臣(林芳正君) TPPにつきましては、関税撤廃により農林漁業等の継続が困難となり地域社会が崩壊するというような懸念がある中で、今委員からもお話がありましたように、交渉参加表明を受けて、交渉への不安や心配があるということは私も聞いておるところでございます。他方で、総理は、あらゆる努力により日本の農、食を守ると、こういうふうに約束をされておられますし、また私自身は、一昨日の所信表明で述べたとおり、TPP交渉に当たっては、国益を守り抜き、農林水産分野の重要五品目等の聖域を確保するように全力を尽くす考えでございます。
 こういう点につきまして、農林水産関係者や国民の理解と協力を得ながら進めていくということが何よりも重要であると、こういうふうに思っておりますので、丁寧に説明をする、それから情報を提供していくと、こういうことに努めてまいりたいと思っております。
○紙智子君 国民の目から見ますと、やはり公約を破ったということでの意識というのは、いろいろ説明されてもそれは動かないというふうに思います。そして、自民党が去年の選挙で公約した中身、今も議論がありましたけれども、六項目公約をして、それがクリアされていないのに、言ってみれば最終的には安倍総理に一任したと。一任すべきでないという声も上がっていましたけれども、一任したと。そのことによって、結局は条件闘争に入らざるを得ないような状況をつくってしまったということは非常に私は問題だというふうに思っております。
 それで、もう一つ聞きたいのは、二月、予算委員会で私、林農水大臣にも質問いたしました。その中で、今のちょっと質問とも重なるんですけれども、六項目がワンパッケージでクリアされなければ交渉に参加するということは難しいと、そのときの答弁でも答えておられました。それが実際には総理の参加をするということを容認するに至った、そこの整理をどのようにしたのかということと、それからもう一つ質問しております。
 それは、関税撤廃の例外措置について大臣の認識を述べられていました。つまり、ゼロにするということが即時ゼロなのか、何年か掛けてゼロにするしかないと。いずれは全部ゼロにすると。しかも、今のお話の中でも、九〇本当に五%を超えて、ほとんどのものは即時これはゼロにすると、残った僅かなところだけを何年か掛けて最終的にはゼロにすると、そういう認識を林農水大臣自身が野党時代から持っていて、当時の野田総理に質問していたわけですよね。だとすると、これは重要品目を認めさせるということ自体難しいということなんじゃないのかと。だから、今回、この参加容認を認めたということと矛盾するんじゃないかと、このことについてどう思われるのか、お聞きします。
○国務大臣(林芳正君) 私が野党時代に野田総理、当時のですね、に御質問をしたところのくだりについては、たしかこの委員会ではなくて衆議院でも同じ御質問をいただきました。
 先ほどちょっと触れさせていただきましたように、当時出てきた、政府が今まで分かっていることということで出されたものの中にそういう記述がありましたので、そういう前提ではないのですかと、そういう趣旨で私は当時質問しておりました。当然、野党議員でございますから、実際にどういう交渉、前交渉といいますか、協議が成っているかというのは当然存じ上げないわけですので、政府が出されたものをベースに質問したということで、当時私は本当に協議がどういうふうになっているのかというのは知り得る立場にないわけでございますから、その政府が出されたことについて、そうではないですかという質問を総理にしたと、こういうふうに記憶をしております。
 それから、残りの五項目については、先ほど平山委員ですか、答弁、いろいろやり取りさせていただいたとおりでございまして、この残りの五項目、必ずしも今私の立場での所掌に関することでないものがたくさんございますが、公約の整理として、これに反することが明らかな場合は交渉に入ることが難しいだろうと申し上げて、その後、平山先生が総理に聞かれて、難しいというところはもう少し、入らないというような言い方だったでしょうか、そうなったので、それは同じような趣旨ですから、私もそのとおりだと申し上げたというような整理でございます。
○紙智子君 予算委員会でのやり取りの中では、今も認識は変わっておりませんというふうにお答えになっているんですよ。
 以前、野党のときはそういうことだったかもしれないけど、今は変わっていますかと聞いたら、変わっていないと思いますというふうにお答えになっていたわけで、そこは非常に矛盾する今答弁だなというふうに思っております。
 それで、今日も議論の中で紹介されていた日本農業新聞の記事によりますと、米国の上院の公聴会で、日本政府が米を始め五品目などについて関税撤廃の例外扱いを目指していることに厳しい批判の声が上がっていると。
 幾ら安倍総理がオバマ大統領と話をして、そこで説明をしていると。オバマ大統領からオーケーともらったかどうかについては定かじゃありませんでしたけれども、オバマ大統領と話をしたとしても、これ、オバマ大統領には決定する権利ないんですよね。議会なんですよ。アメリカ議会なんですよ、最終的には。ですから、議会がこうやって厳しい指摘をしているということ自体、幾ら重要品目は認められるように努力すると言っても、これはもう本当に厳しい話だというふうに思いますよ。そこをしっかり受けていただきたいと。どう考えるのかということです。
 それから、次に聞きたいのが、関税撤廃をした場合、経済効果についての政府の統一試算が出されました。これ、試算の目的というのは、先ほどから各省統一したものが大事だということで統一見解をまとめたと言っているんですけど、それだけじゃないですよね。本来、この試算を出すというのは、TPP交渉に参加してどういうメリットがあるのか、デメリットがあるのか国民に示して是非の判断ができるようにする、これが目的のはずですよね。いかがですか。
○国務大臣(林芳正君) 統一試算につきましては、先ほど来何度も御議論があるところでございますが、まずばらばらになっていたものを一つにまとめて、先ほど米のことについて山田先生からお話がありましたけれども、そこの前提を明らかにして、前提についても、両側と言うと恐縮ですが、いろんな方からいろんな方向での御議論があったところでございますので、それは一定の前提を置いてつくっていくと、こういうことをやって、最終的には内閣府のモデルに入れてやるということで、その最後の詰めのところに時間が掛かったということでこの時点での公表ということになったというふうに承知をしております。
○紙智子君 だから、統一した経過でなくて、目的としていることというのは、メリット、デメリットを国民の前に明らかにして是非を判断するということですよね、その試算を出すというのは。
○国務大臣(林芳正君) もちろん、TPP自体の是非について国民的に議論をしていただこうということで、民主党時代にもばらばらではありましたけど出されたと、こういうふうに思いますし、我々もそれを一つにしていこうということでございましたので、交渉参加に限って是非の判断ということではなくて、TPPそのものについてやはり議論が必要だということではないかというふうに思います。
 したがって、今でもこういうものを出していって、先ほど申し上げましたように、今後新しいフェーズになって更に情報が入ってくれば、これを更に精緻なものにしていくということをやっていかなければならないと、こういうことだと思います。
○紙智子君 だとすると、TPP加入による経済効果で、農林水産物の生産額では三兆円減少というふうにあるんですけれども、多面的機能ですね、これについては含まれていないと。
 ずっと資料を読みますと、後ろの方に参考というふうに、多面的機能の喪失で一兆六千億円喪失額が示されているんですね。前回、二十二年の試算のときには、食料自給率と、それから関連産業の雇用と、それから多面的機能の喪失というのを並べて記述していたわけですよ。今回は並べていなくて、出していないと。
 大臣の地元の山口県も中山間地域が多いわけで、多面的機能が喪失するということは、これは美しい農村風景も維持できないことを意味するわけですよね。そのことも国民にやっぱり明らかにすることが大事だと思いますけれども、そうじゃありませんか。
○国務大臣(林芳正君) おっしゃるとおりでございますので、どこに記述するかというのはございますけれども、同時に公表して議論に供することにしたと、こういうことではないかと思います。
○紙智子君 だから、参考ということではなくて、ちゃんと前面に出してきちっと示すべきだというふうに思うんですよ。
 そのほかにもいろいろあるんですね。例えば注意事項というのがあるんですけど、ここには、米はベトナムなどの新しい輸出国になる国の輸出余力は考慮していないと書いてあるんですよ。だけど、ベトナムは非常に大きな影響はあると思いますよ。もう日本の大手が出ていって、現地で単価を安く生産したものを逆輸入するということなんかも含めて考えると多大な影響のあることなわけで、こういうものを出さなきゃいけないと思いますし、それから、非関税障壁の問題は、これ、更に大きな影響が出てくるわけですよね。これも今回試算されていないと。今日はこの非関税の問題は聞きませんけれども、本来はきちんと国民に示すべきものだというふうに思います。
 それで、その上に立ってなんですけれども、各試算の品目についてなんですが、ちょっと一覧表、資料を、これ政府の出したものですけれども、この資料を見ていただきたいんですが、米も三二%と大きく減少する、これ自体重大なことですけれども、小麦では九九%、砂糖は一〇〇%、でん粉の原料作物で一〇〇%減少となれば、沖縄のサトウキビも北海道の畑作の輪作体系も壊れてしまうと。沖縄にとってサトウキビは生命産業ですから、本当にこれ、どうするのかと思うわけです。
 それから、北海道も、先ほど徳永さんの質問の中でも示されましたけれども、影響試算を早速発表していますけれども、もう長年掛けて大変な苦労をして築いてきた持続可能な仕組みが壊されてしまうと。輪作体系ですよね、これが壊されてしまったら、関連する加工や製造や輸送全体にも影響が及ぶと。だから、本当にこの後の対策を取ると言うんだけれども、一旦壊されたら、これ元に戻すのは本当に大変なことですよ。そういうことまでちゃんと分かってやったのかというふうに私は本当に怒りを感じながら見ているわけです。
 この点についてはいかがですか。
○国務大臣(林芳正君) これも先ほど来御議論があったところでございまして、非常に単純な前提、関税を全部即時撤廃するという前提を置いておりますので、極端なものでありますよと。しかし、それ以外の前提を、じゃ、こういうふうに置きます、半分ですとか何年ですとかやれば、必ず何でそうなったんだというふうに多分御質問されると思うんですね。
 したがって、やっぱり今の段階で、まだ参加表明をする前の段階からずっとこれ積み上げてきた作業でございますので、そういう意味で、まさに怒りが込み上げるというふうにおっしゃられました。このとおりになるというような試算を出したというつもりはございませんで、そういう前提を置いたらこれだけのものが出る、で、それに基づいて今から議論をしていただく。
 したがって、今委員からもベトナムのお話がありましたけれども、それは前提を、ベトナム置いていないというのをきちっと明示しているから、ベトナムはどうなるんだと。じゃ、ベトナム、数字をこうやればどうなるんだと、こういう議論になるわけでございますので、あくまで試算でありまして、私がどなたかの御質問に答えて言いましたように、本当にこういうような状況になってしまうようなTPPというものは入るべきではないということになるのではないかと私も思いますし、前提をそういうふうに置いて試算すればこういうことになるということをはっきり明示して、ポイントは、やはり各省が統一してそれぞれの主張を整合性を持って一つのものに政府としてしたということが一つあるのではないかというふうに思っております。
○紙智子君 前提をこう置いていると言うけれども、大きな目で見ると、それが、じゃ、何かほかの対策取ればまた救われるようなことになるのかというと、決してそんな甘い話ではないと思いますよ。
 併せて言うならば、牛乳、乳製品も生産減少額ということでいうと四五%、鮮度が重視される生クリーム等を除いて全て輸入に置き換わると。飲用乳では、都府県の飲用乳の大部分が北海道に置き換わると書いてあるんですけど、私、これも大問題だなと思って見たわけですよ。
 何か、そうすると、北海道の酪農は生き残るかのようなイメージが出てくるんですけれども、そうじゃないと。北海道の酪農というのは、生まれた子牛、乳を出すためには子供産まなきゃいけませんけど、生まれた子牛というのは都府県が買い上げてくれるわけですよ。だから、循環してきているんですね。都府県の畜産とか酪農が潰れてしまったら、北海道独自でやるのはこれまた大変なことなんですよね。そういう循環の仕組み自身でも成り立っているわけで、そういうこともちゃんと分かっているのかなというふうに思うわけです。
 もう一つ言えば、水産物です。これ一覧表にありますけれども、これ重要品目にも入っていませんよね。ということは、関税は即時撤廃ということですよ。もう既に関税は外されてはきているんだけれども、まだ残っているものがあるわけで、そうするとサケ・マスも五七%減少する、ホタテガイ、タラも五二%減少。三陸の主要品目は、これ即時関税撤廃ということになれば、被災地で今何とか震災前に戻そうということで必死に努力しているわけですけれども、そのときに関税撤廃というのは地域住民の必死の努力を押し潰すことになるんじゃないかと思うんですよ。一体どうやって守るつもりなのか、そこのところについてもお答えいただきたいと思います。
○国務大臣(林芳正君) それは何度もお答えしておりますように、こういうふうにならないように、与党の決議を踏まえてしっかりと交渉に入った場合にはやってまいると、ここに尽きるわけでございますが、したがって、是非誤解のないようにしていただきたいのは、こういうふうにしようとしているというようなことでは全くなくて、単純な前提を置くとここまでの要するに影響があり得るというような試算であるということを繰り返し申し上げておるわけでございまして、したがって、そういう性格のものであるという前提で、こういう前提を置けばこういう数字が出るということはくれぐれも御理解をいただければと思います。
○紙智子君 単純な前提を置けばと言うんですけれども、この水産に当たっては重要品目にも入っていませんからね、即時ゼロですから、これは認めているというわけですからね。
 これ、いろんな前提によってはどうこうなるかという問題ではないわけですよ。本当にこれ重大な問題だと思っています。
 それから、もう一つですけれども、食料自給率についてです。試算結果では、カロリーベースで四〇%から二七%に下がると。生産額ベースでも七〇%から五五%程度に下がると。これ、農林水産省のこれまでの大方針としてきた、五〇%を達成するということで来たと思うんですけれども、これに逆行すると思うんですよね。
 これ、五〇%を達成しようというのは今も堅持しているのかということをまず聞きたいのと、それから、前政権のときには、この五〇%を達成するために小麦を戦略作物と位置付けていたわけです。だから、今八十何万トンですかね、あるわけだけれども、輸入で百万トンを国産に置き換えて全部で百八十万トンに増やす計画だったわけですよ、自給率を上げるのに。ところが、この計算で見ると、九九%輸入に置き換わることになれば、もう到底、食料自給率を上げようなんて言ったってますます遠のくばかりということになるんじゃないかと思うんです。この辺のところはどうですか。
○副大臣(加治屋義人君) もう繰り返しになりますけれども、食料自給率の低下については、数字については申し上げません。これは全ての品目で即時に関税撤廃されるという極端な前提であることも御承知のとおりであります。総理は、あらゆる努力で日本の食と農を守ることを約束する、こう述べております。農林水産業への悪影響を最小限にとどめるよう、全力を尽くしたいと思っております。一方では、林大臣を本部長とする攻めの農林水産業推進本部、これを具体的に強力に進めてまいりたいと思っております。
 ちょっと余計なことかもしれませんが、先ほどから国益という話が、どうして国益守るのかねという話が出ているんですけれども、昔の教えに、うそは泥棒の始まりという言葉があって、決してうそを言っちゃいけないよと。これを考えますと、安倍総理が日米共同声明を絶対に泥棒されないことと、私はいつもそういうイメージを持って総理にハッパを掛けているんですけれども、そのことが国益だと思っております。
 以上でございます。
○紙智子君 じゃ、もう時間になりましたけれども、やっぱりどこから見てもこれTPPに参加することは農業を崩壊させるということが明らかだと思うんですよ。攻めの農業と言うけれども、TPPに参加しないで攻めの農業と言っているんだったらまだ何とかなるかなと思いますけれども、もうこれTPP参加というのはそもそも壊していくことになると。
 私は、やっぱり農林水産大臣であれば、日本の農林水産業を守る立場で、政府のこの前のめりの姿勢に対してきちっと押しとどめる役割が本来の姿だと。ですから、今からでもTPP参加については撤回すべきだということを是非総理にただしていただきたい。それがやっぱり、ほかのいろんな閣僚がいる中で農林水産大臣ならではの固有の役割だと思いますので、そのことを最後に一言答弁いただきたいと思います。
○国務大臣(林芳正君) この間の予算委員会で申し上げましたが、それは別の質問に答えてでございましたけれども、私は安倍内閣の農林水産大臣でございます。先ほど野村先生とのやり取りで申し上げましたように、総理がこれだけ重大な決断をされたわけですから、閣僚としてはその総理の決断を支えながら、今委員も触れていただきましたように、この聖域の確保をして農林水産業をきちっと発展させていくと、これが私の職務だというふうに考えております。