<第180回国会 2012年4月18日 国際・地球環境・食糧問題に関する調査会>


水ビジネス、食料自給率と水との関わりについて質問
○アジアの水問題への取組の課題について

参考人

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授 滝沢  智君
株式会社資源・食糧問題研究所代表取締役 柴田 明夫君
立命館大学政策科学部教授 仲上 健一君

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 三人の参考人の先生、どうも今日はありがとうございます。
 最初に、滝沢参考人からお聞きしたいんですけれども、水ビジネスの展開の成功に向けてということで事前にいただいている資料の中に書いてありましたが、後半部分のところで、水道経営の成功の鍵は、外部から持ち込んだ技術よりも、住民自らが主体的に関与をして効率的な経営システムをつくり上げることにあるように思われると。海外での事業として成功するためには、日本流の高度に完成されたシステムを一度忘れて、謙虚に現地住民の知恵や創意工夫から学ぶことが重要であるというふうに述べられているわけです。
 この住民自らが主体的に関与するということが重要であるということの意義というか、その辺のところを、もし実際それでうまくいっている例があるのであれば、それもちょっと紹介いただきたいということがまず一つ。
 柴田参考人には、穀物の国際的な需給関係と食料自給率についてなんですけれども、穀物の価格の高騰が、投機マネーの動きとか中国やインドやブラジルや、こういう国々、新興国での需要の拡大に原因があるということもさっきお話しされているんですけれども、やっぱり世界的なそういう動向を見ると、食料の自給率というものを高めていかないといけないというふうに思うわけです。
 その食料自給率を高めるためには増産ということが必要になるわけですけれども、その点で、国内政策的にはどういうことが大事なのかということと、外交交渉、それがどうあるべきかということの御認識を伺いたいということ。
 それから、仲上参考人には、水危機への戦略的な適応策と統合的水管理というのが書いてありますけれども、その中で、近年の気候変動、気候の変化は、メコン流域においては、自然界の生態系に影響を与え、農業と食料供給にも打撃を与えることになるだろうというふうにありまして、これから想定されるその中身というか、具体的などういうことが想定されるのかということについてお聞きしたいと思います。
 じゃ、よろしくお願いします。

○参考人(滝沢智君) 住民の関与についてですけれども、世界中どこでも水の値段、水道料金が上がるということに賛成する住民の方はいなくて、絶対反対だというところが多いんですね。しかし、その水の原価、供給するための原価と比べると、多くの国で原価割れといいますか、原価よりも非常に低い値段で設定されていまして、差額はどうしているかというと、税金で補填するとか、そういうような状況になっているわけですね。
 これは、やっぱり水の値段が、じゃ、携帯電話の料金に比べて高いか低いかというと、恐らく通信料の方が途上国でもたくさん払っているんですが、支払えないから高いというのじゃなくて、やはり水って本来ただじゃないか、特に雨の多い東南アジアなんかは、水なんてそこにあるんだからただじゃないかというベースからいいますから、ちょっとでも上がるとそれは高いということなんですが。それは、水を造るためにどんな努力が必要なのか、ダムを開発して、浄水、水をきれいにして皆さんの家庭に送るというサービスのためにどういうところでお金が掛かっているかということを十分御理解いただけないので、上がったら高い、高いという形になると思うんですね。
 住民の関与が必要だというのは、何も途上国なりアジアだけではなくて、日本でもやはりそういったいろんなプロセスがあって、そこでどれぐらいお金が掛かるかということをむしろ住民にディスクローズして、お示しして、こういうお金が掛かっていますと、そのサービスに比べて幾らぐらい払えるんですかということを御判断いただくということが必要なんだろうと思うんですね。
 そういったプロセスの中で、全て水道局側で全部秘密にしているんではなくて、そういう情報を提供しながら水道の料金なりを設定していくという中で、やはり住民のかかわりという、あるいはむしろ私自身は、住民の、ただであるべきだと、本来ただであるべきだという考え方を一度忘れていただいて、どのレベルのサービスに対してどれぐらい払えるかということを白紙の状態から考えていただく、そのためには住民ができるだけいろんな機会で、早い機会で関与していただくということが必要だろうと思います。なかなか大きな都市では難しいですけれども、小さな規模の水道ですと、こういうことをやって、非常に支払意思が高くて、自分も経営にまで関与してこようというような水道は東南アジアでもあります。

○参考人(柴田明夫君) 世界的な食料の需給の逼迫というのが予想されるわけですけれども、国内においては、まだ過剰が問題だという、こういうふうな見方で、米の生産調整が依然として行われているわけです。私は、生産調整を行っているがゆえに、水の利用も、水資源もフルに利用されていないんですね。生産者の意欲も失われ続けてきているわけであります。
 これは、やはりもう政策的には切り替えて、もう国内の例えば水田は水田としてフルに活用していく、農家の手かせ足かせを外して思いっ切り生産してもらう、そのときに初めて水が足りない、水源涵養林が荒れ放題になっているとか地域のコミュニティーが崩壊してしまっているとか、こういう問題がより鮮明になってくると思うんですね。
 その上で、言わば農業に対するストレステストみたいなものを一回やってみる必要があると思います、早急にですね。その上で生産力が発揮されれば、これは結果として自給率が上がってくるわけであります。自給率の引上げが目標、目的ではなくて、生産力を引き上げる。生産力は、単に農地があればいいという話ではなくて、水も人材も地域コミュニティーも森林も、全部この地域資源を丸ごと保護、保全していく、こういう方向が今必要であると思うんですね。
 じゃ、水田をフル活用して大増産になってしまうじゃないか、こういう心配もあるわけですけれども、まず、そのぐらいの復元力が日本の農業に残されていればまだ安心なんですけれども、多分にそういう大増産には至らないような気がするんですね。その能力というのはまさに失われている。仮に大増産になった場合には、私は輸出に活路を開くということで、これは生産者だけで解決する問題ではなくて、商社始め食品産業が海外にマーケティングを行っていく。国内はフルに生産をし競争力のあるものを輸出に向けると、こういうことですね。早急に切り替えていく必要があるなと思います。

○参考人(仲上健一君) どうもありがとうございます。
 「水危機への戦略的適応策と統合的水管理」という本を出しました。それは、従来は気候変動があるかどうか分からないというような時代、もう十年前はそんな時代ですけれども、そのときには緩和策というふうな形でなるべく起こらないようにしましょうと。それが、二十一世紀になりますと、もう起こるのはほぼ確実だというようなレベルから、今はかなり、特にIPCCの第四レポートぐらいからはもうかなり確実にどれくらいの数量で起こるというのがほぼ分かり始めて、そして、それをベースにメコン川流域の各国も二〇二〇年、二〇五〇年、二一〇〇年の数値も大体出しています。そういう面では、一般論じゃなくて、今先生言われたような、もう具体的な課題とどう対策をするのだというのが今近々の課題になっております。ということを背景に、昨年度もタイ、ラオス、カンボジアでも被害が起こったという面では、まず被害の形では、森林、それから田畑、そして河川、そして河口も、かなりどれくらいの影響度があるというのは数値的に出ております。
 これに対して、ああ、その程度かと見るのではなくて、特にこの地域に関しましては約七割から八割がやっぱり農林水産業で生活をしているという、生活の打撃というのはかなり、単なる自然的な問題ではなくて、そういう打撃も起こるし、特に森林の破壊などでその固有の民族、例えばベトナムでも約六十の民族が山村地域で生活しています。そういう民族自身の生活も非常に破壊されていくというような個別の問題。従来では、経済中心に考えて、そういう個別の民族の問題は小さな問題というふうに言われていましたけれども、文化的生活環境も大きな問題だというふうに考えております。
 そこで、統合的水管理、それに対して、例えばダムを造ったり、いろいろそういう問題が起こらないような対策をするというのが簡単にできるかどうかといいますと、先ほど御質問をいただきましたように、そう国際的な調整はうまくいかないという中で、やはり問題の領域をいろんな視点で、例えば持続可能性とか水の保全性とか、いろいろな視点で何が大事なのかという考え方をやっぱり整理をしていくと同時に、やはり対策をする場合に、説明責任、そして透明性、公平性、効率性というふうに言われていますけれども、国によって立場が違うので、国内での透明性、そして説明責任というのは一定の暗黙の了解があっても、こういう国際社会の領域では、今まで議論をしなくても通じた社会が新たにこういうふうな問題の中でやる場合には、統合的にそういうことが、ルールとしましょうというための議論が必要ではないかというふうに思っております。
 そういう中では、やっぱり被害が確実にこれだけ来て、これだけの影響が出て、それに対してみんなでまとめて、メコン地域だけではなくて、アジア地域、そして日本も含めて先進国もこの問題をどう解決するかというような合意をまずやって、そしてその次には、そのことをするための対策としてのメニューをたくさん、これは日本でもたくさんのメニューがあります。それを、この部分は適用できるかどうかという、一方の押し付けではなくて、やっぱり対話によってそのメニューを見て、そしてそれを持続的に観察していくという時代が始まったのではないかというふうに思っております。
 以上です。

○紙智子君 すごく参考になる御意見をいろいろ共感しながら聞いておりました。
 それで、これまで参考人の方が来られたときに度々聞いてきて、それで、水道事業についていろいろ維持管理含めるとどうかというふうに言ったら、リターンについては余りないということですとか、利益はなかなか出にくいということも含めて、そういう声も多く出されたように思うんですけれども、これは柴田先生か滝沢先生かどちらかだと思うんですけれども、水については、一つは公共財という見方と、それから商品というような見方というのはあると思うんですけれども。
 やっぱり、何というんだろう、商品ということで民営化でもって進んでいくといったときに、例えばボリビアみたいな国で、民営化をしようということで一旦したんだけれども、水道料金がそれこそ上がって、それでその水が手に入らない貧しい人たちがいて、それでこれに対する問題が上がってということがあったときに、国連というか、そういうところを、やっぱり世界の中で起こったときに調整するということでは、国連なんかでのその議論だとかそういうことをめぐって何かあるのか、行動なり議論されていることがあればちょっと紹介をいただきたいなと思ったんですけれども。

○参考人(滝沢智君) 私は、問題が起こってから調整するというのはほぼ解決不可能ではないかと思っていまして、もちろん既に問題があるところは何とかしていかなきゃいけないんですが、これからもし取り組むのであれば、問題が起こらないように最初からやっぱり住民の意見を何かの形で聞きながら進めていくと。トップダウンで決めてこういうふうに民営化しましたという形でやるんではなくて、何らかの形で住民の意見も聞きながら進めていく、その中で、やっぱり理解も深めて反対なり異論が出ないような形で少しずつ進めていく方が間違いなく賢いやり方で、もし異論が出たらどこかに仲裁してもらえばいいというのはほとんど仲裁不可能、水争いの仲裁というのは不可能じゃないかなというふうな気がします。
 水道事業は利益が出ない、上がりにくいということなんですけれども、これは国内でいえば、これは公共で自治体がやっておりますので、当然ながらそれほど大きな利益が出ないような形でその水道料金設定されておりますので、ほとんど出ていないということだと思いますけれども、海外の水道事業、特に民営化されているところで見ると、出ないと言いつつも、それは何と比べるかということですが、とても利益が出るような金融商品と比べれば当然出ないんですけれども、そうでないものと比べれば安定確実に十年、二十年決まった何%かの利益が確実に上がるというものに設定することも可能です、それはきちっとマネージすればですね。むしろ、そんなに大きなリターンがなくても、少しずつ確実に利益が上がっていった方が、年金資金のような形でですね、長期間お金が使えるものであればその方がいいと思っている投資家の方は、そういうところに投資する投資家も世界の中ではいるということだろうと思います。