<第180回国会 2012年4月12日 農林水産委員会>


「国有林事業は地域の雇用をつくるべき」と指摘

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 国有林野事業は、三大使命ということで、一つは国土の保全等公益的機能の維持増進を図るということ、それから二つ目は木材等林産物を持続的、計画的に供給する、三つ目は地域における産業の振興、住民の福祉に寄与するということを掲げているわけですけれども、これはますます重要で、そして本格的な実行が求められているというふうに思います。
 それで、法案では、国有林野事業を一般会計化し、約一兆二千八百億円の債務は帳簿を債務管理特別会計に移行し、国民負担でなく林産物収入で二〇四八年までの返済を目指すとしています。林野庁は、この利子補給を存置することで元本返済は可能だというふうにしているんですけれども、材価の変動という不確定要素というのもあるわけです。
 借金の返済のために、これまで以上に過剰な伐採ですとか林野、土地の切り売りが行われるんじゃないかという懸念があるわけですけれども、歯止め策を講じておく必要があるんじゃないでしょうか。いかがでしょうか、大臣。

○国務大臣(鹿野道彦君) 国有林の伐採、利用等は、法律に基づく地域管理経営計画等で明確に定めておりまして、債務の返済のために計画に基づかない伐採を行うということはございません。また、国有林野につきましては、原則といたしまして森林経営のための財産としての行政財産に位置付けられておりまして、売払いの対象とはできないものでございます。
 なお、債務の返済につきましては、計画的かつ効率的な事業の実施に努めることによりまして、平成十年の抜本的改革の際の見込みどおりに、先ほど来からの、私どもも申させていただいておりますけれども、平成六十年度までの債務返済というものは可能であると、こういうふうな見通しを持っておるところでございます。

○紙智子君 計画があるんだということなんですけれども、計画内だったら大丈夫ということではなくて、例えば自然災害が起こったりすることもありますし、計画どおりにいかない場面というのは多々出てくる可能性もあるわけで、やっぱり現場の状況を見て、決して過伐にならないように柔軟な対応をしていただきたいというふうに思います。
 かつて一私人に売却した事例というのがあって、例えば日光の中禅寺湖の近くの国有林の温泉付きの一等地を売却するという事態もあったということがありますから、そういう事態は繰り返してはならないというふうに思います。
 次に、基本的に人工林を売却して返済に充てるというふうにしているんですけれども、人工林についても長期的な視野に立った資源の造成が必要だと思います。戦後、造林が集中したということもあり、現在の資源構成に偏りがあると。五十年先、百年先を見通して循環的に資源利用が進められるようにすることが大事だと思います。人工林もやっぱり皆伐は行わず、資源の平準化を図るために長伐期化を進めるべきじゃないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。

○大臣政務官(森本哲生君) もう紙委員のおっしゃるとおりなんです。ですから、この人工林は間伐収入でもって、中心に充てていくことになると思いますが、この抜き切り、ここのところ、主伐の中での抜き切りという考え方もあるんですけれども、そこの、いずれにしても皆伐というものは余り進まないだろう。
 ただ、先ほどおっしゃいましたように、資源構成ということを考えると、皆伐もしながらそこへ造林していくという、そうした考え方も必要でございますので、ここのところはバランスが大事だと思っておりますので、委員御指摘のとおりだというふうに認識しています。

○紙智子君 表層崩壊の原因になりやすい皆伐、新植というか、新しくまた植えるわけですけれども、できるだけ控えるべきだというふうに専門家も指摘をしているわけです。それで、是非、長伐期化を進めていただきたいということ。
 それから、皆伐の状況を林野庁の資料で見ますと、例えば福島県内の国有林の二〇一〇年度の伐採量が四十一万九千立方メートルで皆伐率がこれ三六%なんですね。それから、茨城県内でいうと、十七万八千立方メートルで皆伐率としては三一%で、これの全国平均で見ますと、二〇〇八年で一六%、二〇一〇年は一七%ですから、これと比較しても非常に高いものになっているわけです。
 しかも、その中には天然林も一部含まれているわけです。材価が高くて、それで少量の伐採でも高い収入を得られるということで、この天然林の伐採をやめようとしないというのは問題だというふうに思っておりまして、やっぱり原生的な天然林について、これは伐採せずに残すべきだし、既にこれまでの天然林は過伐をしてきたということがありますから、当面は天然林についての伐採は控える必要があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

○大臣政務官(森本哲生君) 紙委員の御指摘の、やはり企業的経営の中で少し切ったということは私どもも認めるところでございます。ですから、今回こうした法案ができることによって、ここのところは公益的機能をより重視していくということの考え方の下で、紙委員のおっしゃるようなとおりの方向に進んでいくというふうに思っています。特に大事な天然林については、ここにつきましては保護林、これは保護をいたしていきます。
 ただ、民有林で供給できないものの杉、木曽ヒノキとか青森ヒバのところについては、ここの要望されるところにつきましては、ここのところにはどうしてもやっぱり希望に沿ってあげなければならないという現実もありますので、ここのところは御理解をいただきたいと思います。
 そして、もう一つ、大径木化してきますと少し体力が弱ると申しますか、虫の害に侵されやすいという現実も雑木の場合は現実にございますので、そこのところは虫に侵されない前に伐採をするという、こうしたところはあるということも御理解をいただきたいと思いますので、全体的には委員のおっしゃるとおり天然林をしっかり守っていく、そして人工林を間伐主体に行っていくということでございますので、御理解いただきたいと存じます。

○紙智子君 言われるように、保護区域ということで指定もあることはあるんですけれども、それでも貴重な天然林伐採が止まらないということ自体がやっぱり問題じゃないのかと。ですから、生物多様性の保全ということも今まで言ってきているわけですから、是非そこは重ねて止めを、控えるべきということを要望しておきたいと思います。
 次に、国有林事業が地域振興に果たす役割の重要性という点で質問したいと思うんですけれども、今、国有林の造林・生産事業というのは一般競争入札が進んで遠隔地の事業体が受注する中で、問題点が現場からも指摘されているんです。
 一つには、ほとんどが事業地以外の地域からの雇用や下請で、外国人も入っているということなんですけれども、地域経済への還元性が低いと。それから二つ目には、現場代理人は複数の事業地を兼務していて作業員の指導がおろそかであると。三つ目は、受注してから雇用の確保で作業員が不足ぎみでいつも工期に追われていると。四つ目に、寄せ集めの作業員で熟練者が少ないと。五つ目に、これらの結果、出来形、まあ品質ですね、品質が悪くて労災の災害も多発すると。六つ目に、現場に精通していないということで作業区域の錯誤が多いなどなど、森林官を始めとする国有林職員の負担も多くなると。
 こういう実態を現場の森林管理署長が指摘しているんですけれども、これについてはどのように、これ、長官にお聞きします、認識されていますか。

○政府参考人(皆川芳嗣君) 国有林野におきます造林、間伐等の事業発注でございますが、会計法等に基づきまして、まずは競争性を確保するということがございますので、平成十九年以降、一般競争入札により実施してございます。
 ただ、一方で、事業の計画的な発注、委員も御指摘されましたように、やはり現場への精通度といったようなものも大事だと、さらには地域産業の振興、さらには就労の場の確保といったことの地域振興の観点ということも大事でございますので、平成二十一年九月からは、価格だけではなくて事業体の技術力ですとか創意工夫、また、地域への貢献ということを評価できる、その価格だけではなくて、価格と地域貢献等の技術力といいますか、といったものを併せまして決定する総合評価落札方式というものを導入しているところでございます。
 そういった意味で、今の、二十三年度の事業発注の状況でございまして、二十四年の二月時点でございますけれども、契約金額の比率でいいますと、同一の森林管理局内の事業体が落札、受注している率が九九%ということで、おおむねその同一森林管理局内の管内ということになっているのが今の実態でございます。

○紙智子君 遠隔地の業者は地域を大事にする地域振興を担う主体になりにくいというのが実態なんですね。
 それで、地元の事業体についてはどうかというと、この管理署長が指摘しているんですけれども、全て地元雇用で地域経済への還元性が高く、現地に精通していて案内なども必要ないと。地域の裏山などになるということでは、愛着を持って作業に当たるし、地域の目もあるので下手な仕事はできないということもあると。
 ですから、今、入札だとか技術の問題だとかもいろいろ評価してということがあるんですけれども、実態は、やっぱり端的に言って、外来の事業者、事業体というのはやりっ放しで、食い逃げというか、こういう側面もあって、品質にこだわらない低入札が続発するという事態があると。労働依存性の高いやっぱり造林事業における低入札ということは、これ、即、賃金が切下げになるということもあり、ますます山村の就労条件を悪化させると、こういう問題があるということを指摘をされているわけです。
 それで、管理経営基本計画にも、森林の整備を通じて地域産業の振興に寄与するということが掲げてありますので、こういう実態に歯止めを掛けるべきだということで、引き続きのこの署長さんの話になるんですけれども、地域限定を掛けた一般競争入札を行うべきじゃないかとしているわけです。
 せめて森林管理局内の事業所に限定するなど、この入札を検討すべきじゃないかという声が、要求が上がっているんですけれども、是非やるべきじゃないかと思うんですけれども。

○政府参考人(皆川芳嗣君) 今、先ほども申し上げましたとおり、総合評価落札方式ということになってございますけれども、その意図でございますけれども、私どもとして、やはり公共的な工事を極力効率的にという観点で、やはり競争性の確保ということも非常に大事な観点でございます。
 ただ、一方で、紙委員の御指摘のように、やはり地元の精通度があるのか、さらにはそれ以外の様々な地域貢献ということも大事だということでございまして、この方式自体が、競争性の確保という入札制度の基本原則に加えまして、事業体の所在地ですとか地域防災活動への取組ということも地域貢献として評価する仕組みにしてございますので、今後とも、こういう両方の目的がございますので、そういった、それを兼ね備えた本方式を活用いたしまして、なるべく適切に、また、地域貢献の在り方等につきましては更によく、的確な設定ができるように努めてまいりたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 やっぱり山村地域を本当に振興していくという国有林の役割というところを考えるならば、やっぱり本当にそこに雇用を生み、そこを担っていく人をいかに育てるかという観点から、やり方としてもしっかり検討する必要があるというふうに思うんですよ。そういう意味では、私はやっぱりきちっと地域を限定してやることが非常に大事だというふうに思っているので、是非やっていただきたいということを、検討していただきたいということを言いたいと思うんです。
 それで、法案では国有林と民有林の一体的整備が言われているんですけれども、今後、これまで民有林で森林組合や地元業者が担ってきた現場の業務が、どんどんこれ一般競争入札が広がって、遠隔地の業者ばかりが受注して地域に雇用が生まれないというような状況が生まれてはいけないというふうに思うんですよ。是非、ちょっと今度は大臣なんですけれども、この地域で限定する入札制度ということを是非考えていただきたいと思うんですけれども、大臣、いかがですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 林野庁長官から答弁をいたしたところでございますけれども、やっぱり基本的に総合評価落札の方式というものを二十一年から導入しました。これは、安けりゃいい、安いところに落とすというようなことではなしに、やっぱりいろんな技術力なり、あるいは創意工夫なり地域に対する貢献度というふうなものも総合的に判断してというふうなことでございまして、このことがまさしく地域の雇用にもつながっていっている面もあるものと思っているわけであります。
 そういう意味で、競争の制度の確保というふうなところ、そして地域におけるところの貢献度等々、その他のいろんなことも総合的に判断をしながらこの方式を活用していくということになりますけれども、今、紙先生の言われたやはり地域の雇用というようなことも大変重要なことでございますので、この点はいつも頭の中に入れておかなければならない点だなと、こんなふうに思うところでございます。

○紙智子君 大日本山林会の会長さんがこういうふうに言っているんですね。地域の森林はその地域に何らかの恩恵を与えるものでなければならない、このことは森林所有者全ての責務であり、国有林であってもしかりであるというふうに指摘しているわけですよね。国有林経営はとりわけ山村地域の人々のより良い暮らしに極めて重要な役割を担っているということを改めて自覚しなきゃいけないというふうに思うんです。
 国民の共有財産である国有林の資源の状況や施業方針などを記した情報について、林野庁や各地の局ですね、管理署が保有しているわけですけれども、これどういう資料があって、それで国民には情報開示をしているのかどうか、これについてお答え願いたいと思います。

○政府参考人(皆川芳嗣君) 国有林の持っております森林情報でございますけれども、国有林の管理経営を定めました地域管理経営計画というものがございます。また、個々の森林の状況について記載をしております森林調査簿、また諸計画、いろんな計画がございますが、計画に関する図面等を森林管理局それから署に備え置いているということでございまして、お求めがありましたらば、それに対して公開をさせていただいているということでございます。
 なお、今回、一般会計化ということでございまして、より国民に開かれた、一層国民の期待にこたえられるような管理経営ということが大事でございますので、当然、地域管理経営計画の作成過程を通じまして、様々な取組、実績、また現状を評価した結果といったようなことにつきまして、なるべく幅広くその情報の積極的な提示ということに努めていきたいというふうに思っております。それによって、幅広く国民の声を聞きながら管理経営をしていくということにさせていただきたいと思っているところでございます。

○紙智子君 希少生物の情報以外は当然これ国民に全面的に開示すべきだというふうに思うんですけれども、なかなか現場の管理署では開示したがらないというのが出ているんですよ。道有林を所有する北海道なんかはすぐに基本的な基礎データを提出して自信を持って対応するんですけれども、最近の国有林は、研究者が要求しても出したくない姿勢だということが指摘されています。三十年前だったら営林署に一冊しかないような施業説明書なんかもすぐ出してくれた、説明してくれたということなんですけれども、それらと比べても、今おっしゃったこととちょっとここは差があるというのか、なかなか出したがらないという状況があると。
 ですから、そこは現場でやっぱり技術職員が実際減らされて、森林簿と実態が乖離しているから見せたがらないんじゃないかというような憶測も生むような事態があるわけで、情報公開はやっぱり現場の末端まで徹底するように指導していただきたいというふうに思います。これは答弁は要りません。
 最後になりますけれども、基幹作業職員の技術の継承という問題です。
 この間の合理化、機構改革で現場を一番よく知る定員外職員、基幹作業職員ですけれども、激減をさせられて、山守ですね、としての林業の技術の継承が危ぶまれているわけです。こういう林業技術の継承や山守の機能の職員を増やす必要性について、これは最後に大臣の答弁をお聞きしたいと。大臣というふうに。

○副大臣(岩本司君) 済みません、よろしくお願いします。
 基幹作業職員制度は、造林や木材生産の実施行為を行う職員制度として、国会での議論を踏まえまして、関係省庁で昭和五十二年に発足をいたしました。現在、民間委託化の徹底によりまして造林や木材生産の実施行為の業務そのものは減少しておりますけれども、基幹作業職員は、これらの技術を用いた長年の現場での作業経験を通じて地域ごとの国有林の詳細な森林情報、施業履歴などに精通をいたしております。こうした情報を森林官等に提供することを通じまして、国有林の現場管理に大きな役割を果たしているところであります。
 一般会計化後の基幹作業職員制度の取扱いにつきましては、この制度が造林や木材生産を直営、直接雇用で実施し、事業収入を考慮して職員規模を設定するなど、企業特別会計を前提としていることから、本制度をそのまま一般会計に移行することは困難であります。
 一方、現在の基幹作業職員の有する知見そのものは一般会計化後の国有林の現場管理に極めて重要であることから、雇用を維持いたしまして、これらの知見を最大限生かすことを前提として、基幹作業職員制度の在り方について関係府省とも調整しつつ検討していく考えであります。

○紙智子君 大臣にって最後言っておいたので、一言、ちょっと山守、大事な技術継承ですから、それに一言お願いします。

○国務大臣(鹿野道彦君) 基幹作業職員の人たちが大きなこれまでに役割を果たしてきていただきました。そういう意味で、職員の雇用を維持するということを前提といたしまして、本制度の在り方につきまして、今後、関係府省とも連携を取りながら検討してまいりたいと思っております。