<第180回国会 2012年4月3日 厚生労働委員会>


国民健康保険法の一部を改正する法律案

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 国保は国保料が非常に高くて、それゆえに保険料を払うことができず、保険証を取り上げられたり無保険になったりする人が後を絶たないと、深刻な事態も生まれています。
 全日本民医連がその実態について調査を行っています。
 例えば、北海道、六十四歳の自営業の男性ですけれども、二〇一〇年夏ごろから胃の痛みがあって、でも、お金がないために我慢をして、市販薬で一年しのいできたわけです。いよいよ我慢できなくなって六月に受診した結果、肝臓がん、胃がんの疑いで入院検査を勧めたわけですけれども、仕事と経済的な理由からなかなか承諾しなかったと。医師、看護師そろって再三説得をして、ようやく入院したんですけれども、もう既にがんが全身に転移していて、結局、手を尽くしたけれども手遅れで、もう八月には亡くなってしまうという事態でした。
 こういう事例が昨年一年間で全国で六十七人、うち無保険の方が四十二名、正規の保険証のお持ちだった方が二十五名。これはもう氷山の一角ということで、数十倍の程度の方が経済的な理由によって亡くなっているんじゃないかと民医連は推測をしているわけです。
 大臣、この皆保険の日本で、こういう無保険や保険証取上げ、窓口負担の高さで受診が遅れて死亡すると、こういう事態が現に起こっていることについてどう思われるのか、お聞きしたいと思います。

○国務大臣(小宮山洋子君) 今委員御指摘の、被保険者資格証明書を出している、このことについては、一年以上保険料を滞納している人に対しまして、事業の休廃止ですとか病気など、保険料を納付することができない特別の事情がないことを確認した上で被保険者証の返還を求めて交付をしています。また、平成二十二年度からは、法改正を行って、高校生世代以下の子供については、その健やかな育ちの観点から資格証明書を交付しない取扱にしています。
 この資格証明書の仕組みというのは、市町村が滞納者との接触の機会を確保して、保険料の減免ですとか分割納付も含めた納付相談によって個々の事情に応じたきめ細かな対応を行うために必要なものでありますけれども、御心配になっていることなども含めて、その運用に当たって、引き続き、市町村の窓口で、決して機械的な運用を行うことはしないように、そして個々の世帯について保険料を納付できない特別の事情、これを適切に把握をしてしっかりと対応するようにということが必要だと考えています。

○紙智子君 このような深刻な事態を解決するためには、やっぱり保険料の引下げということが必要なわけです。
 例えば、所得二百万円の夫婦、子供二人の世帯でどうなるかということを試算しました。札幌市では約三十五万円、介護保険料含めると約四十一万円もの保険料で、所得に占める割合が二割近くにもなるわけです。旧ただし書方式の政令市で幾つか計算しましたけれども、さいたま市は約三十万三千円、大阪市は三十二万三千円、福岡は三十四万四千円となります。
 今度の法案でこの高過ぎる保険料の引下げにつながるのかどうか、これ簡潔にお答えください。

○政府参考人(外口崇君) 今回の改正は、財政基盤強化策の恒久化と、平成二十七年度からの市町村国保の都道府県単位の共同事業の事業対象を全ての医療費に拡大することでございます。これらによって、毎年約二千億円の公費が将来にわたり安定的に確保されるとともに、医療費水準が高い市町村の負担が平準化されるなど、市町村国保財政の安定化、強化に資するものと考えております。

○紙智子君 この間やっぱり地方が求めていたのは定率負担の引上げなどの新たな国費の投入であって、地方が国の負担の肩代わりをすることではないというように思うんですね。
 国保の場合、自営業者などの中堅層の負担が重いのが特徴で、二百万の所得で三十万から三十五万、介護保険料含めると四十万前後の負担になるわけです。全体として被用者保険と比べても高い負担感を引き下げることが求められているというように思うんですね。
 ちょっとお配りした資料を見ていただき、線グラフのところを見てほしいんですけれども、この上の線が一般会計の繰入れです。保険者の地方自治体は、高齢化や低所得化が進む中で保険料を引き上げることができずに赤字補填分を含む多額の一般会計の繰入れを行っていて、増加をしているわけです。直近の二〇一〇年では、一般会計繰入れは約四千億円、赤字補填分に限っても三千六百億円になるんです。しかも、近年は地域経済の冷え込みによって財政悪化で赤字が増えて、もう一般会計の繰入れが難しい自治体も増えていて、前年度の赤字を翌年度の収入で補填する繰上げ充用、これも年々増えていまして、下の線、緑の線ですけれども、十年間で二・五倍の千八百億円にもなっているわけです。
 これから団塊の世代が引退をして今後数十年間は医療費がどんどん増えるんじゃないかと予想されているときに、政府としては、消費税増税も伴って新たに国保に投入するというのは僅か二千二百億円というふうになっているわけです。政権交代のときには約束していた九千億円どころか、これ地方の負担が負担している額にも及ばないわけです。
 大臣、これで高い保険料の引下げや国保の構造的な問題を抜本的に解決することができるんでしょうか。

○国務大臣(小宮山洋子君) 今回の社会保障・税一体改革では、税制抜本改革によって安定財源を確保した上で、二千二百億円の公費を市町村国保に追加投入をして低所得者の保険料への財政支援を行い市町村国保の財政基盤の強化を図ることにしています。これによりまして、所得水準や世帯構成によっても異なりますが、機械的に試算をすれば、およそ三千五百万人の国保加入者全体で一人当たり保険料を年額〇・六万円、ですから六千円程度抑制する効果があると見込んでいます。
 また、今回の法案で、税制抜本改革による公費の追加投入までの間に暫定措置として実施している財政基盤強化策を恒久化すること、共同事業の拡大によって財政運営の都道府県単位化を推進すること、こうしたことによりまして市町村国保財政の安定化、強化を図ることにしています。
 またさらに、国民健康保険制度の安定的な運営のためには、こうした措置と併せて医療費の適正化ですとか収納対策の強化などの取組が必要で、今後とも、国と地方の協議を継続をして、地方団体の意見も伺いながら、市町村国保の構造問題に対応していきたいと考えています。

○紙智子君 消費税を上げれば、ただでさえ苦しい家計がより圧迫されて景気全体を冷え込ませることになると思うんです。そうすると、やっぱり収入も抑えられる、悪化することになるんじゃないか、これもちゃんと考えなきゃいけないことだというように思います。
 次に、TPPについて質問いたします。
 TPP交渉で、医薬品について物品の章のところに規定が設けられていることは政府も認めていると思います。政府は、後発品の利用促進などの薬剤費の抑制を政策目標に掲げています。中医協の診療側の委員であった邉見先生が昨年のフォーラムでも、やり残したことの一つとして薬価高止まりの是正ということを挙げたわけですけれども、日本の薬価というのは国際的にも高いと。
 次の資料を見ていただきたいと思います。薬価について、昨年、全国保団連が調査結果を発表しています。御覧のように、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの薬価と比較したものですけれども、この結果によりますと、日本は米国よりは安いものの、イギリスやフランスの約二倍ですね、ドイツの約一・四倍になっています。同じく下の表で、PTCAのカテーテル、冠動脈ステント、ペースメーカーの内外価格差も問題となってきました。昨年の中医協の医療材料専門部会の資料を見ますと、内外価格差は十五年間で縮小したものの、一・三倍から一・九倍の格差が生じているわけです。これらのメーカーの希望価格で、実勢価格で比較しますともっと価格差は開く可能性が高いわけです。
 医薬品や医療材料の内外価格差をやっぱり縮小させて薬剤費の膨脹を抑えるべきじゃないかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(小宮山洋子君) 御指摘の医薬品や医療機器の適切な価格設定、これは大変重要な問題だと認識をしています。
 このため、新薬ですとか新医療機器を保険収載する際には、外国での価格と日本での価格が大きく乖離することがないよう外国価格との調整を行うことにしています。新薬の外国平均価格との調整方法についてはこれまでも改善に努めてきているところです。近年保険収載された新薬につきましては、おおむね外国平均価格より安く、平均すると外国平均価格に比べ八割以下の価格となっています。ただ、これまでのものを合わせると御指摘のような状況になるのだと思います。また、医療機器につきましても、機能区分制度の見直しですとか価格の再算定の実施などによって内外価格差の是正に取り組んできました。
 医薬品とか医療機器の価格、より適切に設定されるよう、まだ私も取組が十分だとは思っていませんので、今後とも中央社会保険医療協議会などで議論をして、少しでも価格差をなくしていきたいというふうに考えています。

○紙智子君 予算委員会で大臣は、医療材料について海外の病院が調達している平均的な価格で調達できるようにすべきという質問に、御指摘のとおりだというふうにお答えになっています。
 現在の薬価や医療材料の価格決めのルールに、不十分ながらもこの内外価格差を是正するルールが設けられています。外国平均価格調整制度と、不十分ながらも内外価格差の調整が行われている。TPP参加でこの薬価の問題が解決するかどうかというのは大変疑問に思っているわけです。
 外務省にちょっとお聞きしたいんですけれども、二〇一一年のUSTRの外国貿易障壁報告書で、医療機器や医薬品の価格算定のルールについてどういう指摘をしているでしょうか。

○政府参考人(片上慶一君) お答え申し上げます。
 御指摘の報告書では、我が国の医療機器の価格算定制度に関し、市場に革新的な医療技術が導入されることを阻害し続けているとして、内在的な予測不可能性と不安定性を解消するため、医療機器の外国平均価格調整ルールを廃止するか、少なくとも次の隔年の償還価格改定に適用されるルールは、前回適用されたルールよりも負担を大きくしないことを保証するよう求めると指摘していると承知しております。
 また、我が国の医薬品の価格算定制度に関しては、試行的に導入されたいわゆる薬価維持加算についてはその恒久化を求めるとしているほか、市場拡大再算定制度など革新的な医薬品の開発と導入を妨げる他の償還政策を導入することを控えるよう求めると指摘していると承知しております。

○紙智子君 外国平均価格調整制度というのは、内外価格差を調整するルールであります。市場拡大再算定制度というのは、市場拡大に伴うコスト減を薬価に反映するルールです。一方で、薬価維持加算、実際には新薬創出加算制度のことですけれども、高い薬価を一定期間保証するルールなわけです。
 それで、今彼らが言っていることは、高い薬価を維持するルールは残せと、内外価格差やコストの削減を薬価に反映するルールは廃止か緩和しろという全く身勝手な要求なわけです。こんなことを許せば、日本の薬価はますます高止まりをしますし、医療保険財政を圧迫する、国民の健康に重大な影響を及ぼしかねないと。
 大臣、TPP交渉やこの参加に向けての交渉で、薬価や医療材料に関する要求を受け入れることにはなりませんよね。

○国務大臣(小宮山洋子君) 現在、薬価制度ですとか特定保険医療材料制度、これについては、製薬企業など関係者の御意見も聞きながら、公開の審議会であります中央社会保険医療協議会の議論に即して定めています。ですから、仮に御指摘の今後のTPP協定交渉参加に向けた関係国との協議の中で薬価制度等について議論されることになった場合でも、日本の安心、安全な医療が損なわれないようにしっかりと薬価制度等を維持していきたいと、そのように考えています。

○紙智子君 オーストラリアでは、PBSと呼ばれる薬価償還ルールがTPP交渉の俎上に上って大きな問題になっています。それから、お隣の韓国では、FTA、これでジェネリック導入を遅らせることによって結局医薬品の価格が高くなると、HIVなど難治性疾患の患者の強い反対運動が引き起こされました。
 国民の健康の根幹にかかわるルールさえ米国の産業の利益の保証のために制度変更を求められかねないTPP交渉参加というのは絶対参加すべきじゃないということを強く申し上げまして、質問を終わります。

○反対討論

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、今議題となりました国民健康保険法の一部を改正する法律案への反対の討論を行います。
 国民健康保険財源の危機的状況は、保険料の高騰をもたらし、それを支払うことができないため、無保険者を生み出し、保険証の取上げも相次いでいます。無保険者や保険証の取上げは受診抑制を招き、そのために病状が悪化し、受診が遅れるなどして死亡に至る例も少なくありません。高過ぎる保険料の引下げや国保財政の改善のため国庫負担の引上げが求められていたのであって、本法案のように、定率国庫負担の割合を引き下げ地方に肩代わりさせるやり方はそれに逆行するものです。地方は、高過ぎる国保料の抑制や危機的な国保財政を支えるために一般会計から四千億円弱の法定外繰入れや一千八百億円を超える繰上げ充用を行っており、これ以上の負担を押し付けることには道理がありません。
 国保財政を広域化して都道府県化は、医療費が増えないのに費用が増加し、保険料を引き上げざるを得ない自治体が生じることになります。国は、都道府県調整交付金の引上げ分を財政調整を充てるといいますが、新たな財政投入抜きに行われる措置であり、結果的に国保の財政状況が良い自治体が悪い自治体を救済する措置にほかなりません。高額医療費共同事業、保険者支援制度の恒久化は評価できますが、定率国庫負担引下げによる国民健康保険への国の財政責任の後退は容認できません。
 以上申し上げ、反対討論を終わります。