<第180回国会 2012年2月29日 国際・地球環境・食糧問題に関する調査会>


水ビジネス「下水道事業は利益がでない」と参考人

○アジアの水問題(中国の水問題と我が国の取組)について

参考人
 横浜市立大学特任教授            井村 秀文君
 株式会社エンビズテック代表         服部 聡之君
 中国研究者慶應義塾大学東アジア研究所研究員 青山  周君


○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。
 最初に、服部参考人にお聞きします。
 ヴェオリア・ウォーター・ジャパンの役員をされておられるということで水戦略は詳しいと思うんですけれども、それで、この資料の中で、ヴェオリア・ウォーターが中国に進出をして、三千万人の中国市民にサービスを提供し、従業員数は九千人を超えると三十六ページに書いてあります。それで、ヴェオリア・ウォーターが海外展開するメリットというのはどういうことなのかということが一つと、それからもう一つは、中国で合弁形態という制約があると書かれているんですけれども、この規制についてどのようにお考えなのかということを教えていただきたいと思います。
 それから、井村参考人には、中国の環境問題、今何が起こっているかというのが書かれてありますけれども、いわゆる水ビジネス、特に下水道の整備について、建設に必要な膨大な資金を調達するために、民間企業が建設をして、一定期間営業して利益を得た後に政府に移管するというビルド・オペレート・アンド・トランスファーという方式も今後現実化しそうだというふうにあります。それで、一定期間営業して利益を得た後というふうに書いているんですけれども、この利益を得るのにどのぐらいというか、何年掛かるのかとか、そういう、どういうイメージなのかということを教えていただきたいと。
 それから最後は、青山参考人には、「中国の環境政策と環境ビジネス」というところがありますけれども、新成長戦略を踏まえてこれから十年間に日中両国合わせて百兆円を超える新しい市場が創出される、四十一ページに書いてありますよね。この水ビジネスなどのパッケージ型インフラ海外展開ということで、アジア新興国で急成長する需要を日本が取り込むことで日本が成長することができると言われているんですけれども、そうすると、百兆円を超える市場が生まれたとして、日本の成長がどの程度期待できるのか、日本の内需というのはどの程度増えるというふうに予想されているのか、お考えを聞きたいと思います。
○参考人(服部聡之君) 一点誤解があるといけませんので補足させていただきたいと思うんですけれども、まず御質問は、ヴェオリア・ウォーターがグローバル戦略展開をするメリットは何かということと、資料の中にあった、著書の中にあった合併、外資としての制約は中国において何かということだと思うんですけれども、御質問の冒頭にあったヴェオリア・ウォーターの役員は現在しておりませんので、ヴェオリア・ウォーターとは一切業務的な関係はございませんので、その点は御留意をいただきたいと思います。今はむしろ日本の企業がいかにして海外に進出できるかという立場で活動させていただいておりますので、誤解がないようにお願いしたいと思います。
 その上で、ヴェオリア・ウォーターがグローバル戦略展開をするメリットについてですけれども、私はヴェオリア離れておりますのでヴェオリアの極秘事項というのはお話し当然できないわけですけれども、一般的に、企業活動ですので、特に水ビジネスの場合には、水事業の場合には、水を安定して供給する、それから衛生上きれいな水をつくっていくというのが社会的な使命なんですね。これを自国内でも行いますし、フランスでも行いますし、その技術やノウハウが使えるところがあるならば、ニーズがあれば、そこに応じて自らのサービスを提供していくというのが、これが企業活動のあるべき姿であろうというふうに思います。
 ですから、グローバル展開をするメリットというよりかは使命感でやっていると、企業活動の一環として当然あるべき姿で活動しているというふうに思います。これはフランスの企業であっても日本のトヨタ、ホンダであっても同じだというふうに思います。
 それから、中国で事業をしていく上での外資に対する規制というのはかなり緩くなってきていると思いますけれども、これは青山先生が更に詳しく御説明いただけるんじゃないかと思いますけれども、水道事業でいきますと、その管網の部分に関しては外資単独というのが、浄水場、水をつくるという部分と、配る、配水をする管網、二つありますけれども、この管網の部分に関しては外国資本が単独で運営管理をするということはできないというふうに思います。
 ですから、あくまでも浄水場、水をつくるところは外国資本、あるいは水をきれいにするという下水道、この本体は外国資本でも単独でできると思いますけれども、一般の市民の方に対しての給水をする場合には地元の企業と合弁企業をつくる、合資をつくるという形でしか事業はできないというふうに理解しております。
 私の方は以上です。
○参考人(井村秀文君) 御質問にお答えします。
 まず、議論のときに、まず上水道と下水道と、同じ水道なんですが、かなり違うということをまず御理解いただく必要があると思います。水道は飲み水で絶対必要ですから、これはお金を出してもとにかく欲しいということになります。下水道は下手すると垂れ流しでもう済んじゃうので、かなり政府が厳しく、あるいは人々が水をきれいに、川をきれいにしようと、環境をきれいにしようという意欲とか、それから規制とかをきちっとやらないと、なかなか下水道の整備には行かないということです。
 いずれにしても、上水道にしても下水道にしても建設にはお金が掛かります。それから、そこから収入の方法としては利用料金を取るわけですが、上水道の利用料金は取りやすいんですけれども、下水道となるとなかなかその料金で回収することが非常に難しいです。
 したがって、例えば建設してトランスファーするという、BOTという方式で、民間が造って、ある程度民間で運営して、民間が利益が回収できたら政府にまた譲り渡すというような方式もあるんですが、そのための、それが成り立つための利益回収の年数ということについてはいろいろなところで検討されていますが、水道であれば短ければ十年とか長くても二十年、三十年で大体回収されます。これはいろんなケーススタディーがあって、大体そういうことで十分ビジネスになると。ところが、下水道となるとなかなかそううまくはいきません。したがって、本来ならば日本でも自治体で上水道、下水道は全然違うところでやっているんですが、本当ならば上水道と下水道を一体にしてやった方がいいわけです。
 それから、もっと言うと電力とかガスのような公共サービスを全部一体にして、そういうユーティリティを一つにして、その料金をうまく合わせて全体の中で回収するというような方式が実はもっと効率的でございまして、日本などは都市の発展に応じてまず水道を造り、電気、ガス、そして最後に下水道と。できないところは合併浄化槽と、こんなような格好できたのでばらばらなんですね。中国なんかのは新しいモデルとしてでは、逆に新規に造る都市においては一気に上水も下水も電力もガスもインフラも一遍にやりますので、そういうところにはむしろ斬新なモデルが提案されております。非常に注目に値するかと実は思っております。
 それから、中国においては、下水道においてなぜ民間活力が必要かというのは、造ったけれども、とにかく中国の技術で結構造ったんですね。だけど、運営管理の方がどうもうまくいかないと。それはいろんな理由があるんですが、技術そのものが未熟ということもあるけれども、運転管理の技術が未熟であると。そんなところで、そういう技術の豊富な例えば日本の、あるいは外国の企業が入ってきてその運営管理の方をしっかりやってくれないかと、こういう期待もあるわけです。ですから、それは運営の方だけを委託すると、こういうビジネスの形態もあると。これは非常に多様でございます、そういう意味で。全部やるのもあれば、一部だけ委託、民間の技術のあるところに頼ろうと。
 いずれにしても、中国自身が力を付ければ自分の国内の多分技術でカバーできるし、そこにはやっぱり膨大な、装置だけでも膨大な需要があるし、そういう運営、維持管理の業務も、もし民間であればすばらしい、すごいマーケットがあることは確かだと思います。ただ、これを伝統的な政府がやるというやり方とどうバランスさせるか、これはこれから検討していろんなやり方が、アイデアが出てくるんじゃないかなと思っております。
○参考人(青山周君) 紙先生、どうもありがとうございます。
 百兆円の数字なんですが、済みません、ちょっとデータここに持っていなくて、うろ覚えで恐縮でございますが、さきの財政諮問会議で環境ビジネスの将来予測をされた数字がかつてございまして、その数字が私の記憶では四十数兆円、二〇二〇年に成長が期待されるという数字を算出していたと思います。
 私の見るところ、第十一次五か年計画における環境ビジネス、環境産業ですね、環境保護産業、それに省エネルギー、新エネルギーを加えるとその成長スピードが非常に大きくて、日本の成長している姿とほとんど肩を並べるのが恐らく、専門家同士で議論していたところでは二〇二〇年ぐらいに市場規模として位置するのではないかというふうに見ました。ということで、両国合わせると、ちょっと乱暴な数字だったんですが百兆円規模ぐらいに、例えば風力発電なども含めた形で広い意味での環境ビジネスということで算出してみた数字でございます。
 それからちょっと補足でございますが、先ほど服部先生からお話があった中国のジョイベン規制なんですけれども、中国は、WTOに二〇〇二年に参加したとはいえ、いろんな規制を掛けております。外資の中国市場参入については外資利用のガイドラインがございまして、どの産業も自由に参入できるというわけではございませんで、奨励と制限とそれから禁止分野があって、恐らく三分野だったと思いますが、分けております。
 そのほか、産業政策というものをつくっておりまして、例えば自動車産業などは、企業は合弁で五〇%以下の出資比率で二社しかつくっちゃいけませんよというような規定を設けております。まあ言いにくいんですが、WTOのルールからすれば、あれだけ大きくなった市場においていまだに参入規制をしているのは、まあ自動車企業の方々御自身でなかなか言いにくいんですが、そろそろそうしたものはどんどん撤廃していただいていいのかなということで、産業政策をきつくしている。
 かつ、外資規制は民間企業規制、私有企業の規制、私有企業の中に外資企業が入るという範疇になりますので、今大きく問題になって、先ほどちょっと申し述べましたが、国が進んで民が退くと、国進民退と言っておりますけれども、これが中国のエコノミストのこの一、二年のはやり言葉でございます。
 国、国有企業が進出して民間が退く、市場化の中でこうした現象が起こっている分野が幾つかある、これは問題じゃないかというのが中国人のエコノミストの人たちの考えであり、我々海外にいる者にとっても海外の外資企業が国有企業の民業圧迫というとやはり同じように影響を受ける可能性がありますので、この政策の動きはちょっと新しい政権交代の中でもっともっと見極めていかなくちゃならない問題。ジョイベン規制は依然として中国には各産業、主要産業分野でも根強く残っているということを補足として説明させていただきます。