<第179回国会 2011年11月30日 国際・地球環境・食糧問題に関する調査会>


タイ洪水被害対策−内部留保・体力のある日系企業は自力対処を

○アジアの水問題(タイにおける洪水被害とその対応)について

○紙智子君 まず初めに、この度のタイの洪水被害を受けた方々に心からお見舞いを申し上げたいと思います。
 それで、同時に、復旧復興に向けての生活を支える物資の支援やあるいは医療面での援助など、国際機関やNGOなどとも協力しながら進めていくことや日本の技術を生かすことも重要だというふうに思っています。
 それで、その上でなんですけれども、今日、アジアの水ということがテーマでありまして、これまで調査会でもいろいろ議論してきたわけですけれども、それとも関連しながらお聞きしたいんですけれども、特に経済産業省とJICAにお聞きしたいと思います。
 それで、海外で水道事業なんかも展開して果たして利益は生まれるのかという議論や、あるいは海外に進出したときのリスク管理をどうするかと。トラブルや事故や災害が起こった場合どうするのかということですね。誰がそのリスクの負担をするのかということなんかも含めて聞いてきたわけです。
 それで、経済産業省にお聞きしたいんですが、日本の特に大手の企業なんかの場合は、日本で人件費などのコストが高い、税金が高いということで、低コストで集中生産体制を求めて海外に進出をしてきているわけです。その一方で、日本の国内では産業の空洞化という事態が進んでいると。技術の継承が困難になったり、下請の単価の買いたたきやワーキングプアの問題などが社会問題化しているわけですよね。ですから、改めて企業の社会的責任が問われる状況があると。特に自動車、電機メーカーは、海外の安い労働力に依存して、企業内で国際分業するグローバル戦略ということで、部品や在庫を持たないようなかんばん方式ということが進められてきたわけです。
 この最初お配りしてあった資料を読んで、中にありましたけれども、河田関西大学の教授は、今度のタイの洪水被害を受けて、日本企業はこれまでリスクマネジメントにきちんと取り組んでこなかったと、海外の進出に当たっても、コストを幾ら軽減できるのかという点だけに注目して決断してきたということを述べられているわけです。
 今回の洪水被害からこれは教訓にしなきゃいけないというふうに思うんですが、グローバル戦略として海外に出ていった企業のリスクは、やっぱり自らの力で対処するのが基本じゃないのかと、税金から簡単に投入するんじゃなくて。大企業には十分なやっぱり内部留保もあるし体力もあるわけで、そういう立場で対策を進めているのかどうかということがまず一点。
 それからもう一つ、JICAにお聞きしたいのは、この間の洪水で食料の問題というのは相当大変な事態になっているんじゃないかと。それで、米でいえば、収穫量は前年で一三・七%下回るとか、カンボジアも洪水が水田で三十三万ヘクタールとなっていますし、ラオスもそうですよね。
 だから、こういったことに対して、JICAのこの対策の中に、その他の支援の可能性の中に農業の問題ちょっと触れているんですけど、これらについてどういう支援が考えられているのかということを御紹介いただきたいと思います。
○会長(藤原正司君) 経済産業省とJICAの方、よろしく。
 まず、経済産業省、よろしく。
○政府参考人(川上景一君) 昨今の国際経済情勢の下で、企業が海外での市場を開拓をする、あるいは獲得をするというようなことで、現地生産を含めてグローバル化が進んでいる、あるいは昨今の円高のような状況でどのようにその収益を確保していくかというところを苦心をしているというのは、これは大企業、中小企業問わず企業が置かれている環境であるというふうに認識をしております。
 そのような中で、先ほど御紹介いたしましたように、千八百社を超える企業がタイに、製造業がタイに進出をしているというような状況があったわけでございますけれども、いずれにしましても、そのような事業をする上でどのようにリスク管理をしていくのか、事業継続を何かの不測の事態が起こったときに可能にしていくにはどうしたらいいかというところは、基本的には企業の側でお考えになっておられるというふうに考えております。
 以上でございます。
○参考人(新井泉君) 洪水の関係で農業生産等もかなり打撃を受けているんじゃないかということで今実は調べているところなんですが、既に公表されているいろいろな資料を見ますと、例えばFAOの推計ですと、米の生産、当初の予測より、これは七%という、若干前に出ている数字なんで楽観的なんだろうと思います。先生の御指摘になった数字というのは、現時点での恐らく最新の数字であったり、あるいは次の作付けがまたダメージを受けるとそういうことになるんじゃないかという数字だと思いますが、今のところ確定しているような数字というのは七%とか百六十万トン、あるいはタイの米輸出業協会というのは二百万トンの被害と言っています。
 それで、JICAの協力でございますが、今FAOの方とも話をしているんですが、一つは、被害を受けて洪水、水でつかっているところについては家畜の問題が非常に大きいんですね。それで、飼料を、これはまあ大した金額じゃないと言っては申し訳ないんですけれども、適時に提供してあげるということが非常に重要だという話になっていまして、今FAOの方とまさにそれをどういうふうにやっていくのか一緒にやっているところでございます。まだ具体的にバッグを担いで持っていくというところまでいっていないんですけれども、状況を把握してやっていこうと。
 それから、もう一つは、やはり高床式の住居で、基本的にはタイの農村地帯、普通の水が出るだけだったら次の作付けの種もみみたいなものはカバーされるんですけれども、今回、それを大きく上回るような形で水が出てしまって流されちゃったというような話も聞いております。ですから、そこについても状況をまず確認するということで、そのしかる後にタイの農業省等と話をいたしまして対応を考えていきたいと考えております。

(略)

○会長(藤原正司君) メッセージをね。では、紙さん。
○紙智子君 時間がまだありそうなので。
 これを読んでいて疑問に思ってちょっとお聞きしたいんですけれども、六十七ページにあります日経新聞の記事なんですけれども、タイは頻繁に洪水災害に見舞われていて、治水対策の必要性が長年にわたって指摘されていたと。一九九〇年には日本のJICAがチャオプラヤ川の流域で治水調査をやって、ダムの管理強化や堤防のかさ上げや放水路や排水ポンプの整備などを含む包括的な計画を策定してタイ政府に提案した、ただ、計画の大半は実行されなかったとなっているんですけれども、これはどうしてだったんですか。JICAさんに。
○参考人(新井泉君) まず、これ、九〇年というよりも九九年なんですね。一九九九年に、この配付いたしました資料に付いている十二ページのマスタープランというのを提案しております。
 それで、御存じのとおり、九七年というのがアジア通貨危機があって、そこからの回復の途上にあったという時期であったり、あるいはまた政治的な問題があったりというようなこともありまして、やはり時間が掛かってしまったということだろうと思っております。
 ただ、この中で指摘されている具体的なもので、例えばバンコクの中での排水をするとか、あるいは、そうですね、いろいろな遊水地のところの整備をしていくとかという、そういったことは部分的には実施をされておるんですけれども、この中の目玉というのが、アユタヤから、この地図で見ますと赤い線でダイバージョンと書いてございます。これ、言ってみれば、水路を引いて、とてもチャオプラヤ川だけでは水がはき切れないときにそれを転流させるという構想なんですけれども、これはタイの中では随分検討されたんですけれども、その後まだ実現に至っていないということで、こういったことも含めて今度見直しをしたいというのが先方の考えているところでございます。