第177回国会 2011年3月8 日 予算委員会


◎TPP加盟で自給率は下がると追及。玄葉・国家戦略相、否定できず

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP問題について質問いたします。
 地球温暖化の影響による異常気象は深刻な食料不足に拍車を掛け、飢餓人口を半減させるどころか、逆に十億人にまで拡大をしています。そして、再び原油価格や食料価格の上昇が起こって、この事態がますます悪化しているという中で、我が国が国内の食料自給率を高めていくということは真剣に追求されなければならないと思います。
 まず、この点について菅総理の御認識を伺います。

○内閣総理大臣(菅直人君) 現在、世界的にもちろん人口も増えておりますし、場合によっては穀物を他の用途に使うといったこともあったり、あるいは干ばつ等の影響もあって、食料の不足というものが心配されているということは認識を共通にいたしております。我が国においても、我が国はある意味、食料の輸入大国でありますので、そういう立場も含めてこの問題についてしっかりと対応していかなければならないと、こう考えております。

○紙智子君 衆議院の予算委員会で我が党の志位委員長は、食料自給率五〇%と関税ゼロをどうやって両立するのかという質問に対して、菅総理は、農業改革の方向性が出てくる中で五〇%の自給率というものも両立できる方向性を目指したいというふうに答えられました。
 これ、具体的に中身はどういうことなのか、どういう形で五〇%にしようということなのか、お聞かせ願います。

○委員長(前田武志君) 鹿野農林水産大臣。

○紙智子君 総理、総理の答弁をお願いします。

○委員長(前田武志君) まず鹿野大臣。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今、基本的にTPPに関しましては、何遍も申し上げますけれども、交渉参加するかしないかはまだ決めていないわけであります。
 そういう中で、今日のこの第一次産業の状況というものを踏まえた中で、やっぱり思い切って新たな展開をしていかなきゃならないと。こういうようなことから、これからのこの戸別所得補償の在り方、あるいは五年後のこの姿をどう展開、展望していくか。あるいはまた、六次産業化におけるところの思い切ったこの活用によって地域にどう定着させていくか。そしてまた、表示政策を中心とするところの国民の食生活に対する安心、安全をどう確立していくか等々。また、輸出の市場拡大と、こういうふうなことから輸出をどう展開していくか等々。
 そして同時に、このEPAを推進する中で、当然国内対策というふうなものも必要になってくるわけでありますから、その財源等々をどうするかということも含めて今検討しておるところでございます。

○内閣総理大臣(菅直人君) 御承知だと思いますが、平成三十二年度にこの食料・農業・農村計画では、カロリーベースで五〇%、生産額ベースで七〇%という食料自給率目標を掲げております。現在はカロリーベースでは四〇%でありますが、生産額ベースでは七〇%にほぼ達しております。
 そういう中で、もう一つの観点を申し上げますと、これもよく言うことですが、現在のこの議論は必ずしも、経済連携の問題と関連する部分と、それとは独自に、現在日本の農業自身が、例えば就業している人の平均年齢が六十六歳であるとか、あるいは農業生産の額がこの十年間どんどん下がってきているとか、こういう問題があるわけであります。ですから、私は、そういう農業の再生のための改革を進めることが結果として、カロリーベースはこれ穀物の量に極めて相関関係が高いわけですけれども、生産額というものでいえば既に目標に達しておりますが、しっかりと我が国が農業としても活力ある農業として成り立つ、両立する方向はあり得ると、こう考えております。

○紙智子君 なかなかどう両立するかの中身が伝わってこないんですが、次に農水大臣にお聞きします。
 昨年、閣議で決めた食料・農業・農村基本計画、この中身について、「食料自給率向上に向けた取組」というところがあります。そこのところを読み上げていただきたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 食料自給率の向上に関しましては生産面と消費面というふうなことがありますけれども、とりわけその中で生産面におきましては、小麦というものを八十八万を百八十万トンに、そして米粉用米を五十万トンに、あるいはまた飼料用米を七十万トンに、そしてまた大豆を六十万トンに等々、そういう農産物の国産の生産体制を拡大をしていくと、こういうこと等々を含めて自給率の向上に取り組んでいくと、こういうふうなことであります。

○紙智子君 今かいつまんでお話ししていただいたように、つまり、平成三十二年度までにカロリーベースでいうと四一%から五〇%にと。今、生産額の目標もありましたけれども、そのための言わば戦略作物として小麦の生産拡大を位置付けているわけですよね。
 現在、国内の小麦の生産量というのが八十八万トンということでありまして、これをどこまで拡大する計画でしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今八十八万トンでございますけれども、基本計画における小麦の目標というものは、生産数量の目標というものは百八十万トンというふうに考えております。

○紙智子君 それで、菅総理にお聞きしますけれども、このTPPで関税が撤廃ということになったらこの国産の麦というのは増やせなくなるんじゃないでしょうか。

○内閣総理大臣(菅直人君) 今、農業について戸別所得補償制度を今年度から取り入れております。そういったいろいろな政策を総合的に進めることを含めて、今農水大臣からもありましたように、カロリーベースあるいは金額ベースありますけれども、カロリーベースにおいても自給率五〇%を目指していくと、そういう考え方に立っております。

○紙智子君 答えになってないんですけれども、関税を撤廃した場合に、やっぱり戦略的に穀物で引き上げようということで麦を一つ中心に置いているわけで、関税が撤廃されたらそれを上げるということはできなくなるんじゃないでしょうか。もう一度お願いします。

○内閣総理大臣(菅直人君) 私はまさにそういう議論をお願いをしているわけですけれども、例えば戸別的所得補償、あるいはそういう形を取れば、米については今まではどちらかといえば価格維持政策でありましたけれども……(発言する者あり)ちょっと静かにしてもらえますか。価格維持政策でありましたが、いわゆる所得政策というものも加味しておりますし、欧米においてもそういう政策は取られていると理解しておりますので、そういうもののいろいろな組合せによってそうしたことが可能になるようにどうすればよいのか、そのことをまさに現在議論していただいているところです。

○委員長(前田武志君) 非常に声の大きい方がこの質疑者の後ろにおられますので、是非もう少しトーンを下げていただくようにお願いをいたします。

○紙智子君 もしTPPに参加した場合に、これは、小麦は今でさえも九割輸入していますよね。だから少ないんですけれども、これ自身も増やせないということになると、自給率は上がるどころか逆に下がるんですよ。だから、二十二日の衆議院の公聴会のときに全中の冨士専務が来て、小麦の国家貿易がなくなることについては、基本計画はまさに実現できない、絵にかいたもちになると述べたんですよ。やっぱり関税を撤廃して自給率を上げるということは、これできないということなんですね。
 それで、玄葉大臣にお聞きします。
 大臣は、輸出を増やせば自給率は上がるというふうに言いました。資料が配られていると思いますけれども、これはFAOが定めている食料自給率の計算式です。これで見ますと、輸入が増えれば一気に自給率は下がると。関税がゼロになって輸入が増えたら、それ以上の量の輸出をしなければ自給率は、これ下がるわけですよね、そうですよね。

○国務大臣(玄葉光一郎君) そこはおっしゃるとおりです。

食料自給率について
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○紙智子君 じゃ、輸出すれば自給率は上がると言ったのはどうしてですか。

○国務大臣(玄葉光一郎君) 今それこそ御指摘になられたとおり、基本的に輸入量は一定であるという前提で申し上げていると。つまりは……(発言する者あり)いや、これは当然そういうことだと思うんですね。
 例えば、例えばですよ、ドイツとかイギリスが食料自給率、穀物自給率がそれぞれ一〇一%と九九%ですけれども、輸出による自給率の押し上げ効果というのが三二%、二九%あると。それは、基本的にはそういうふうに御理解いただいていいと思います。

○紙智子君 関税撤廃になって、これ結局、政府が戦略作物と位置付けている小麦の輸出というのは望めないということになると。
 それから、米でいえば、米国では日本に輸出できる米を今四百万トンも作っているわけですよ。日本の価格の四分の一だということになると、勢い入ってくるわけですね。これ何百万トン単位で入ってくるわけですよ。それを上回る輸出をできるというふうにお考えでしょうか。

○国務大臣(玄葉光一郎君) まず、どのくらいそれぞれの品目が入ってくるのかということは、まず現時点でなかなか断言できないと思うんですね。
 つまりは、TPP交渉に仮に、じゃ、入りました、その交渉結果がどうなるかということが当然一つあると思います。除外や例外がどうなるのかということがあると思います。
 それともう一つは、そのときにどういった私たちが農業強化策を打ち出すのか。もっと申し上げれば、つまり、TPPによってもたらされるいわゆる経済的な効果、それらについて農業、農村の持続性を高めるために、あるいは維持するために、それらの言わば効果の分配メカニズムをどうつくるのか。
 先ほど総理は戸別所得補償という言い方をされましたけれども、確かに、例えば直接支払の割合などは、EUなどは農家所得に占める直接支払の割合は七八%ございます。日本は二〇%台です。そういったメカニズムをどうつくるかによって全く変わってくるというふうに思います。(発言する者あり)

○委員長(前田武志君) 質疑者は紙智子委員でございますから。

○紙智子君 総理も同じお考えでしょうか。

○内閣総理大臣(菅直人君) 表現の仕方は若干違ったかもしれませんが、所得補償あるいは直接支払、ヨーロッパやアメリカでも広く行われていて、日本では必ずしも従来はそういう形ではなかったわけですが、今年度から所得補償を導入して来年度拡大しようということであります。
 そういったことも加えて、いかにすればそうした自給率を更に拡大しながらきちんと農村地域、農業が再生できるか、まさに今大規模な研究会で議論をし、成案を出してまいりたいと考えております。

○紙智子君 玄葉大臣が輸出すれば自給率が上がりますと言ったんですが、それ違うんですね。それはお認めになりますか。

○国務大臣(玄葉光一郎君) いやいや、計算上はそれは上がるというふうに申し上げていいと思います。
 それで、輸出というものをどういうふうに私たちは考えるのかということだと思います。今もう既に中国とか台湾とか香港とかASEANとかに輸出をし始めて、市場が広がっているという状況があります。アジアは三十五億人いて、これから十年間で十億人増えると。個人消費も日本の四・五倍になると。中間層が実際に十倍になるので、そこはまあはっきりしていませんが、十億人増えるのではないかというふうにも言われている。
 そのときに、アジアの富裕層の胃袋を日本の食材で満たすという戦略を立てられないかという問題意識を私自身は持っています。もちろん、簡単ではありません。簡単ではありませんけれども、私は今よりも十二分に可能性は広がっているというふうに考えております。

○紙智子君 私は、いいものを作って輸出するということを否定するつもりはないんですよ。ただ、やっぱりもう限定されるものなんですね。そんなに今簡単じゃないと言いましたけれども、やっぱり希望的観測だけで物を言っていたら間違えると思います。農家の方たちは、米についても輸入量を上回るような大量の輸出は無理だと、そこまで行くまでにもう米作りする人いなくなるというふうに言っているんですよ。
 やっぱり、実際にどうかということで農水大臣にお聞きしたいんですけれども、これまでの米の輸出の実績についてお答えください。

○国務大臣(鹿野道彦君) 我が国の米の輸出につきましては、平成二十二年で輸出数量は千八百九十八トンでございます。
 国別に申し上げますと、香港が六百五十四トン、これが最大の輸出先になっておりますが、シンガポールが三百三十四トン、台湾が二百七十一トン、豪州が百二十五トン、中国が九十六トン、ロシアが五十二トン、ドイツは五十トン、このような状況でございます。

○紙智子君 ですから、今お話しいただいたように桁が違うんですよ。片や何百万トンというのが入ってくるかもしれないときに何百トンでしょう。全部合わせても今千八百九十八トンということで二千トンにも届いていないんですよ。
 だから、ずっと前から、松岡農水大臣の時代からこれはもう攻めの農業で一万トン目指そうと言っていたんですよ。それがいまだに二千トンに届いていないんですよ。ですから、やっぱりそういうことを見ますと、戦略的作物の麦も増産できる見通しもない、それから米についても今言われたようなことであって、玄葉大臣が言うように輸出すれば自給率が上がるというのはこれは本末転倒の話なんですね。やっぱりそもそも貿易の在り方として、自国で供給できる食料はできるだけ自国で賄うと、頑張っても生産できないものは外国から輸入するし余っているものは輸出してお互いの利益になるようにやっていくというのが、これが常道なんですよ。
 そういう意味でいうと、今どうやって自給率を一〇%上げようか、国内でどう増産しようかと言っているときに、そのことでなくて、まず輸出からというのはこれ邪道だと思うんですね。私はやっぱり、せっかく閣議決定で五〇%に向かっていこうというのであれば、それに逆行して走るようなTPPには参加すべきでないということを申し上げたいんですよ。
 是非そのことについて一言あれば、総理、伺いたいと思います。

○内閣総理大臣(菅直人君) 御承知で御質問だと思いますが、TPPについて六月をめどに交渉に参加するかしないかを決めたいと、そして農業の再生についても六月に方針を出し、十月に計画を出していきたいと、そういうことが両立できる道を今議論をしていただいていると、こういう状況です。

○紙智子君 食料自給率をやっぱり本当に上げていくというところを中心に据えて、それを本当に確保するためにも、今現役で頑張っている農家を支えるということ、そのことが本当にめどが立つようになってこそ若い担い手もそこに向かっていくわけですから、そのことを最後に強調いたしまして、質問を終わります。