第176回国会 2010年10月21日 農林水産委員会


◎TPP農水相 ”加入反対せず”紙議員が批判「集中審議を」

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 所信に対しての質疑を行わせていただきます。
 少し記憶をよみがえらせていただきたいんですけれども、鹿野大臣は、現在は民主党なんですけれども、一九八八年、二十二年前、当時は自民党の農林水産大臣を務めておられました。当時、牛肉、オレンジの自由化が決められて、次はいよいよガット・ウルグアイ・ラウンドだと、その交渉で米の輸入自由化が正念場だという時期でした。
 当時の予算委員会でも米の輸入問題が取り上げられて、自民党の当時幹部であった渡辺美智雄氏が米の五%輸入構想を打ち出して、それで問題になって追及されていたというときなんですが、そのときに大臣は、少量といえども米を輸入するということは到底考えていませんというふうにお答えになっていたわけですが、しかし、実際にはそうならず、現実的に、現在、年間でいうと七十七万トンに及ぶミニマムアクセス米輸入が導入されたと。米は関税化されたわけです。
 これについて大臣が今どのように受け止めておられるのか、まずお聞きしたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私としての当時の、二十一年前のときでございますので、私としての率直なる気持ちを申し上げたというようなことでございまして、その後に、政権交代がなされる中で今日の状況になったというようなことでありますので、そういう判断に立ったというようなことの中で、今後対応というふうなものについて考えていくというようなことになるのではないかなと、こう思っております。

○紙智子君 当時、食料自給率問題についても随分議論になっていました。それで、様々な角度から質問があって、当時の会議録をちょっと読ませていただいたんですけれども、今、民主党内閣は食料自給率を十年間で五〇%に上げるというふうに言っているわけです。で、鹿野大臣の当時の発言を見てみますと、ちょっと違和感を感じるわけですね。
 大臣は、一九八九年の十月二十五日の参議院の予算委員会でこのように述べているんです。我が国農業の生産構造なりあるいは生産性などから見まして、輸入飼料穀物に比べて相当割高にならざるを得ない。我が国の畜産の発展やあるいは良質で安い畜産物の供給のためには飼料穀物の輸入に依存せざるを得ないということから見まして、自給率を大幅に高めていくということはなかなか困難な面があるわけです。これを参議院本会議でも述べられているわけですけれども。
 当時、我が党の不破委員長が質問しているんですけれども、一九八九年十月の予算委員会です。諸外国、イギリスとかフランスとかヨーロッパの国ですね、当時、自給率の引上げに一生懸命努力して上がっている、片や日本は下がってきているということで、その事例を示して食料自給率の引上げを求めたわけですけれども、これに対して鹿野大臣は、昭和三十年代は自給率八二%だったと。そのときはお米を一人当たり百二十キロ食べていたと。今六十八キロだと。すなわち米の消費が減ってきた。その分畜産物を国民は食べるようになったと。国土条件に制約のある我が国でありますから、畜産物の、いわゆる飼料穀物というようなものはどうしても輸入に依存せざるを得ない、こういう事情からなんですと。我が国は計画経済ではございません。食生活を規制するわけにはいきませんと。
 こういう当時の大臣の見解というのは、この間、大臣の中でどのように整理をされて食料自給率引上げに取り組もうとしているのか、これについてもお聞きしたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今お話がございましたが、私の記憶では、こういう考え方を申し上げているということも確かであります。食料自給率の引上げにつきましては、今後努力はしていきたいと思っておるところでございますが、実態から見てなかなかその実現というのは難しい面もあるのではないかと。こういうふうに発言をいたしておりますが、平成二年でございますけれども、たしか一月の段階でございますけれども、今後の長期見通しというふうなことの中で、私の思いというふうなものも含めて、農林水産省の長期見通しの試算として、平成十二年度、当時は平成二年でありますから、十年後におきましては五〇%になるというような見通しも出させていただいているところでございます。

○紙智子君 それは今ですか、その当時ですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) その当時です。

○紙智子君 その当時、はい。
 もう一つ同じようなことなんですけれども、飼料米の問題も述べておられていて、一九八九年の十月二十四日の参議院の予算委員会で、当時、議員の中から減反をしないで飼料米をつくるべきじゃないのかという質問があったわけですけれども、これに対して、現実的にはなかなか困難なことでないかと思っていますと。同様に、一九八九年ですね、これ十月六日の参議院本会議ですけれども、飼料用米については、トン当たり二万円、主食用に比べまして大きな価格差があり、収益性が極めて低い、このようなことからその作付けはごく限られた面積にとどまっておりまして、現状では大きな期待を掛けるということは困難ですと。後ろ向きなそういう意味では答弁だったわけですけれども、しかし、今、飼料米については民主党政権の言わば中心的取組でもあるわけですよね。
 新たに農水大臣になられて、この当時の認識と今とのギャップといいますか、これはどんなふうにお考えでしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) よく先生、二十何年前の資料を引き出していただいて、私も何か思い起こしながら今答えているところでございますけれども。
 確かに、今言われたとおりに申し上げたことは確かだと思います。しかし、当時は飼料米を畜産農家が好んで使うというような状況ではなかったというようなことも思い起こすところなんであります。そして、その後の状況を見ましても、世界の穀物需給が非常に逼迫してくるんじゃないかという懸念の中で、輸入トウモロコシも高くなってまいりまして、それに代わる何か国産飼料の増産の重要性が必要ではないかと、このようなことからいたしましても、当時の状況と今日の状況が変わってきた。
 そしてまた、主食用としてお米の需要が減少している中で、水田の有効活用というようなことからして、これを言わばいろんなところにもっと利用できないだろうかと、こういうようなことの中で飼料米というようなことの取組というふうなものが大きく変わってきたというようなところでございますので、言わば状況の変化という中で、私は二十年前にお答えをしたということでありますけれども、今日は、そういう意味ではこの飼料米というふうなものの取組というふうなものが相当大幅に拡大もしておるわけでございますので、これからも畜産農家との結び付きというものを支援をするというような意味におきましても、生産拡大を推進していくというふうな考え方に立っているところでございます。

○紙智子君 古い話を持ち出してなぜ聞いたかというと、やっぱりあちこち現場を歩きますと、今の農業、農政には理念がないということを現場の皆さんから上がるわけですよね。ですから、どういう理念に基づいて一貫性を持って農業政策進めるのかということが非常に問われているということで、今言ったことが、じゃまた状況変わったらすぐ変わるのかということになっちゃいけないと思うんですね。そういうところを是非一つは考えていただきたいということがあります。
 その上に立ってなんですけれども、午前中の質疑でも随分問題になりましたけれども、焦点になっているTPP、環太平洋パートナーシップ協定についてです。
 それで、大臣は所信表明で国内対策を考えてまいるというふうに述べました。これは、私は聞いてびっくりしたんです、驚いたんです。国内対策ということは、これは協定に参加することを前提として言っていることじゃないのかと。これを日本農業を守るべき農林水産大臣がそもそも決断するということがあってはならないと思うわけですよ。ですから、国内対策というふうに聞いた瞬間に、じゃ農水大臣はこのTPPについては参加を認めたのかなというふうに思ったんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) EPAを進める上におきまして、今日までも十一か国と締結をしておるわけでありますから、これからもこのEPAというものを推進をしていかなきゃならない。その際に国内対策というふうなものもセットでありますね、こういうような発言をいたしております。
 TPPに関しましては検討する、こういうようなことでありますということで、TPPに参加するとかしないとかというものを既にもう決めているんだなんというふうなことは、これは私の頭の中にはありません。明確に申させていただきたいと思います。

○紙智子君 決めているわけじゃないとおっしゃるんですけれども、大臣自身の、大臣自身の考えでTPPに参加するべきだと思っているのか、そうするべきではないと思っているのか、そこがはっきりしないとその先進まないんです。それについてどうですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) あくまでもTPPについては、総理大臣の所信にうたわれているとおりに、TPPに参加するかどうかというふうなことも含めて検討すると、こういうようなことでありますから、これは、TPPというのはどういう協定なのか、そしてどういうそういう中で交渉の中身になるのか、そのことによってどれだけ我が国に影響をしていくのか、そしてまた得るものがどれだけあるのかというようなこと等々、総合的にこれは検討しなきゃならないわけでありますので、今の時点で私がその参加をすることを決めるなんてことは、とても私のこの頭の中ではできないですよということだけは申し上げておきたいと思います。

○紙智子君 決めるかどうかは言えないと言うんですけど、御自身はすべきだと思っているのか、そこがすごく大事なんですよ。農業から考えればこれは大変な打撃を受けると、だからもうたとえだれが反対しても自分だけは絶対に駄目だと言って頑張らなきゃいけない立場だと思うんですよ。その点で、大臣自身、御自身がどうなのかということについては先ほどから語ってないですよね。検討するとかなんとか言っていますけれども、御自身が賛成なのかどうか、反対なのかどうか、これについてお聞かせください。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今簡単に先生はTPPに参加するのがいいのか悪いのかなんていうふうなことで、そんな簡単に結論の出る話じゃないわけですよ。TPPというふうなものがまずどういう、もう重ねて申し上げますけれども、協定なのかというところから私自身としても検討しなきゃならないわけでありますので、これは軽々にそれはすぐどっちが何だ、結論出せと言われても、重ねて申し上げますけれども、今の段階で私のこの頭の中では、とても今の時点で参加をしますとか、あるいは参加をしませんとかというようなことを申し上げる状況にはありません。少なくともどういうふうな協定か、そしてどれだけの影響があるのか、どれだけの国民にとってのプラスになる面があるのか、しかしただ単に数字だけでそれを判断するというふうなこともできない面もあるということも含めて検討すると、こういうことであります。

○紙智子君 国内対策を考えるということは、もう受け入れない場合は、これはもう始めから国内対策なんて言わないんですよ。国内対策を考えるということは、もう一歩進めるという話になっていますし、先ほど私、山田委員の質問に対しても、踏み込む必要があるという話をされたわけで、はっと思ったわけですよね。
 だから、なぜこう言うかといいますと、結局閣僚の間でも物すごくいろんな意見が違いがあるわけじゃないですか。前原大臣の発言でいえば、参加すべきというふうに言っていると。一次産業の割合が一・五%しかないのを守るために九八・五%が犠牲になっているという発言をされた。
 それから、今日午前中の記者会見で仙谷官房長官がこのTPPへの参加に関して、グローバリゼーションの下で日本はそこからずり落ちて鎖国して生きるわけにはいかないと、検討する考えを示しているわけです。その上で、政府としてはスピードを上げた議論をしないといけないと。さらにこう言っているんですよ。農業団体などが参加に反対していることに関しては、このままでいいという業種は確かに痛みが発生する可能性がある、それを和らげるか別途の対応を取ることができるのか併せて検討しなきゃいけないと言っているわけですよ。ですから、進むということに立って、言わばそのためにしわ寄せを受けるところについての対策をやるという話ですから、これは私、重大問題だと思いますよ。
 次にお聞きしますけれども、TPPはあくまでも協定参加国の関税撤廃を前提にしているわけですよね。仮に日本がこれに参加すれば、米を含めて農産物の関税がゼロになると。農水省、関税自由化した場合の試算を、先ほど影響についてはまだ試算をしてないというふうに言うんですけれども、FTAについてはですね、EPA、関税をなくした場合の計算は過去に農水省やっていますから、それについてやった場合の試算、どういう影響かということをちょっと明らかにしていただきたいと思います。

○副大臣(篠原孝君) 二〇〇七年二月に経済財政諮問会議に提出する資料で我が省が計算しております。我が国農産物等の国境措置をすべて撤廃したと仮定した場合で、それから何ら対策も講じないことを前提にした試算でございますけれども、農業生産額が三兆六千億円減少。それから国内総生産、ほかの産業ですね、農業生産資材とか飼料、農業機械とかみんな含めますと約九兆円減少すると。それから農業者も含めますけれども、当然含めますけど、今申し上げました関連産業含めまして三百七十五万人分の就業機会が減少すると。それから問題の自給率が四〇%から一二%に低下するというのが三年前の計算でございます。
 現在もどのような影響があるのかという計算はすぐできないこともないわけですけれども、影響が大きいんで慎重に取り扱っております。
 今、午前中も申し上げましたけれども、我々、農業者戸別所得補償の本格実施に向けていろいろ政策を構築しているところでございまして、その大事な柱が二〇二〇年に自給率を一〇ポイント上げて五〇%にするということでございます。こういったこととの整合性をきちんと考えていかなければいけないんじゃないかと思っております。

○紙智子君 今、篠原副大臣から影響について、まだこれTPPではないですけれども、関税を外した場合の話がありました。ですから、実際に国内対策で防げるのかという話になるとこれ無理だというふうに思うわけですよ。それにやっぱり参加していくということについては農水大臣としてはやっぱり閣僚の皆さんを説得する側に立ってもらわなきゃいけない話だと思うんですね。
 その点で、今お話あったように、食料自給率五〇%に上げるということからいっても逆行する話で、これでやっぱり参加してはいけないというふうに決められないのかどうかということなんですけれども、いかがですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私としては先ほど御答弁を申し上げたとおりでありまして、あらゆる角度からいろいろなる検討というふうなことをして、こうですというような判断をお示しをしていくというようなことがより国民の理解を得るものと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 自給率の話ありましたけれども、この間、民主党政権として、新しい食料・農業・農村ですか、計画を作って、その方向で進めようということに対していえば、今やろうとしている方向というのは、TPPの方向というのはまさに逆行する方向であって、我が党としてやっぱりこれは絶対に反対だということを申し上げておきたいと思います。
 そして、委員長にお願いしたいんですけれども、当委員会としてこのTPPの加入問題の集中審議を行っていただきたいということを申し入れたいと思います。それと、このTPPに関する委員会決議を上げていただきたいということを申し入れておきたいと思います。
 最後になりますけれども、二十二年度の高温障害によって品質が劣化しているお米の問題について、先ほどもこれありましたけれども、確認の意味でもう一度私の方からも質問させていただきたいと思います。
 それで、今日の新聞でも報道されていますけれども、一等米の比率が非常に低くて全国平均で六四・四%と。新潟の話もありましたように一九・七%。その他非常に低くて、香川県なんかはもう一けた台ですよね、三・二%。それから高知、福岡、一六%、一五%、岐阜一五%というふうになっています。
 この非常に劣化した状況に対して戸別所得補償では、その変動部分について補償については一等米の相対取引価格で決めるというふうになっているわけです。ですから、二等米若しくはそれ以外のものは補償の対象にならないということで、そうなると農家の損失は非常に大変な事態になるということで、現場からも何とかしてほしいという声が上がっているわけです。それで、それに対する対策ということで大臣の方から御説明いただきたいと思います。

○委員長(主濱了君) 今、紙委員から申入れのありましたことにつきましては後日理事会で協議をしていただきたいと、こういうふうに思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今の質疑につきましては、平成二十二年度産米の品質は、九月末の段階では一等比率が六四%、前年度の八三%に比べて一九ポイント低いというような結果が出ておるわけでありますが、この平成二十二年度産米の検査数量というものは全体の約四割でありまして、今後の検査の推移について引き続き注視をしていかなきゃならないと思っております。
 なお、品質低下への対策といたしましては、このモデル事業というものは作柄の影響によりまして収量が減少したり、あるいは二等米、三等米というような発生率が高くなったといたしましても、この変動部分に関しましては、数量払いではなしに面積払いであるということからいたしまして、この戸別所得補償制度に参加をしていただいている農家に対しましては、平年作ベースでの所得というものが補償されるんでありますということを申し上げさせていただきたいと思います。

○紙智子君 農家の皆さんは、今の状態ではもう借金なんかできない状況になっているわけですよね。それで、共済もあるんですけれども、現在の共済制度の範囲では対応できないということもあるものですから、そこのところは実際の損害が解消されるように何とか方策を講じていただきたいということを改めて重ねて要望いたしまして、質問とさせていただきます。
 ありがとうございました。