<第174回国会 2010年2月10 日 少子高齢化・共生社会に関する調査会>


○ (「コミュニティの再生」のうち少子高齢化と コミュニティの役割(少子化が経済・社会、地域コミュニティに与える影響))
 参考人 白梅学園大学学長、白梅学園短期大学学長 汐見 稔幸君
       株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員   土堤内昭雄君
       株式会社ベネッセコーポレーション執行役員  成島 由美君
  
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、三人の皆さん、ありがとうございます。
 それで、私は、この会自身が少子高齢化と、非常にこれが、これからの行く先としては、統計上とか数字の上では確かにそういう見通しになるよということなんですけど、やっぱり大変な事態であり、これをどうやって打開するかというところを本当に考えてやらなきゃいけない、そのための調査会だというふうに思っているわけですよね。
 それで、最初に汐見先生からお聞きしたいんですけれども、子育てということで、例えば安心して子育てできる社会といった場合に総合的な対策が必要だと。だから、仕事と子育ての両立という問題ですとか、それから働くルールもちゃんと確立していくということや、それから待機児をゼロにするために保育所をちゃんと整備するということや、親の経済的な負担を軽減するということ、それから子供の貧困解決という問題など、総合的な対策が必要なんだというふうに思うわけです。
 それで、汐見先生のお話や、それからここにあらかじめ資料で読ませていただいたんですけれども、これを読みますと、特に子供の保育の問題あるいは福祉の問題の質というところで、汐見先生の中では欧米の子育ての支援政策について三つに分類されておられるんですよね。
 高負担高福祉型、それから社会政策型、民間主導型というふうに分類していて、日本のこれまでやってきた小泉改革というのは社会政策型から民間主導型に移すものだったというふうに指摘されているんですけれども、この民間主導型の政策、規制緩和ということも入ると思うんですけれども、このことで保育の質とか、あるいは福祉や介護の質なんかがどうなったのかというところの御認識を一つはお聞きしたいということ。
 それからもう一つは、日本では、国が定めている保育所の最低面積の基準というのは終戦直後の時期から全く変わってない。厚生労働省の調査でも、諸外国と比べても、子供一人当たりの面積基準というのは一番下の方にランク付けされているということでありまして、待機児童で保育所が足りないというときに面積基準を緩和しようという議論があるわけですけど、このことが質との関係でどんなふうにかかわるのかということなどを、御認識をお聞かせいただきたいと思います。
   〔会長退席、理事下田敦子君着席〕

○参考人(汐見稔幸君) 御質問は二つあったと思いますが、このデータを見ていただいても分かるんですが、民間主導型というのは、モデルというか、典型はアメリカでありますが、実は公費負担がこのように非常に少なくなっています。アメリカはしかし共働き率は日本より高いのでして、ですから、赤ちゃんのときから保育所に預けるという方がたくさんいらっしゃいます。
 それで、最近はゼロ歳から保育所に預けるというケースが増えているんですが、その保育制度は日本のように整備されたものではございませんので、場合によってはチェーン店がやっているとかというのが多いですね。それはもう値段は様々ですが、私の知人が今シアトルで二人子供を預けていますが、やはり心配だということで、質のいいところをといったら大体月々三十万です、日本円で。一人十五万円ぐらいは払わなければいけないということで、アメリカは典型的にお金次第ということになっています。
 それで、御存じかもしれませんが、アメリカではそうやって増えてきて、保育園にゼロ歳から預ける人が増えてきたんだけれども、その質によって子供がちゃんと育たなくなるんじゃないかということで、一九九一年からアメリカの連邦政府の音頭取りで調査が始まりました。NICHDという厚労省の、日本でいうと厚労省の附属機関で調査が始まりました。
 アメリカの千三百人ぐらいの子供をピックアップして、その子たちの育ちを毎年、一九九一年ですからもう二十年ぐらい継続的に追っております。一人一人の家庭に入っていって、その家庭での対応の仕方、その子が幼稚園に行った、保育園に行った、その保育園がどういうレベルの保育をしているのかということを全部調査することで、膨大なお金を掛けてやっています。
 その結果、面白いことが分かってきまして、四年目までのデータについては今パンフレットが出ていまして、アメリカではただでまいていますが、それを日本で翻訳を最近いたしました。お茶大の菅原ますみさんが中心になって、私の仲間と手伝って翻訳しました。その結果、面白いことが分かったのは、ゼロ歳から保育園で育っている子供と家庭で育って三、四歳から幼稚園へ行った子供が、四歳段階で社会性、言語能力等についての発達の違いは平均すると全くないということで、保育所で育った子供も全然心配はないということでした。
 しかし、つぶさに見ると、安かろうまずかろう的な保育ですね、先生がしょっちゅう替わるとか、子供が訴えているのに対応をなかなかしてくれないというようなところと、丁寧にやっている保育所、例えば日本の保育所は大体ここのレベルでいうと丁寧にやっているところに入るんですが、それから家庭で育って幼稚園へ行った子供と三つに分けて比べますと、一番よく育っていたのは実は家庭ではなくて、ゼロ歳からレベルの高い保育所で育った子供たちが一番よく育っていたということが分かりました。二番目が家庭、三番目がレベルの低い保育所でした。
 点差は少ないのですけれども、明確に差があるということは、保育の質が子供の育ちに影響を与えることが非常にはっきり出てきているということで、今後保育を、数を増やすだけではなくて、その質をきちっと担保しなきゃいけないということで、ヨーロッパは実は初めからそのことについてかなりうるさくやってきたわけです。
 先ほどちょっと申しましたEUなんかで一人で十五人までだとかなんとかというのは、実はヨーロッパは日本と今反対のことをやりまして、日本はこれから分権化しようとしていますが、ヨーロッパは一個一個の国が数百万だと、その規模ですので、一つにくっついて、ある意味でヨーロッパという国をつくってやっている。
 そのときに各国で共通のものを作るということは、実は最低基準を作る、分権化した場合にこのレベル以下ではやってはいけないという共通の基準を作っているわけです。つまり、最低基準をはっきり作ろうとしているのがヨーロッパであります。
 ところが、日本は今、自治体が分権化するというのは結構なんですけれども、最低基準まで分権化してしまって、自治体任せにするというような動きが出てきていますので、私どもはそれは大変心配しています。それは自治体の財政事情も全く違いますから、最低基準がばらばらになるということは、子供たちの平等ということを考えてもやっぱりちょっとまずいのではないかと思っております。
 以上です。

○紙智子君 もう一点、三人の方にお聞きしたいんですけれども、短くということになりますけれども、先ほどの汐見先生のお話の中で家族政策という角度が出てきて、それで、フランスでは女性のいろんな能力を高く評価をして社会に出ていくということが必要だと、そういうふうになったときに従来のように女性が家庭を支えるのは難しいということで、社会が家族をサポートするということで家族政策を充実させたということが紹介され、今の話にもあったんですけれども、EUの他の国もそこを目指しているということなんですけれども、日本の中で家族政策という観点というか、個々別々にはもちろんあるんですけれども、家族を支援する、支えるという視点というのは余り今まで言われてこなかったんじゃないかなということを実は思っていて、なぜなのかなと。
 そういうことについてどのようにお考えかなということを、汐見先生は今お話しされたので、お二方からちょっとお聞きしたいと思います。

○参考人(土堤内昭雄君) 確かにおっしゃるように、私自身も少子化対策という言葉に非常に長く違和感を持ってきました。今度、子ども・子育てビジョンが出て、明確に施策の対象が子供であるということが提示されたということは、大変私は喜ばしいことだと考えております。
 やはり、何か今までの少子化対策というのが基本的に数の議論であったり、あるいは子供を育てる親への支援であって、本当の意味での子供の育ちへの支援ではなかったというような気がいたします。
 そういう意味で、これから、今御指摘にもありましたように、総合的な施策という意味では、そういったものを全部包含した形での家族政策というふうに転換していくことが私はやっぱり必要ではないかなというふうに考えております。
 以上です。

○参考人(成島由美君) 私は、日本はやっぱり伝統的な価値観があって、女性の役割とか家族の在り方、女がおうちを守るんだみたいなやっぱり伝統的な価値観というのがあったのかなと。それはやっぱり、先ほどフランスの話もありましたけど、フランスはその辺思い切って進められたけど、同じ西欧でもドイツなんかはこの価値観にまだ縛られていて、二者択一、女性は働くか家を守るかみたいな、そういうところがやっぱり根っこにあるとなかなか難しいのかなと思います。
 ただ、そうはいってもこれだけ風が吹いてきて、女性の進出も今甚だしくなってきている中で、トータルなサポート、例えばクリーニング屋さんとかタクシーもあるし、それからそういう子育てのサポートセンターも充実してきているので、その辺を全部パッケージでつなげるようなトータルなサポートがあったらいいなと思っています。
 今はまだ私たち外注ワーク、冷凍食品を食べさせることとか外食をすることというのは何となくお母さんとしては悪っぽいんですけれども、その辺が、仕事も子育てもあるときにはいったん外の人の力を結構思い切って借りていいんだよというようなことがもっと広まってくると、その辺の、明るく家族も運営、会社も運営みたいなことができるかなと考えています。

○紙智子君 ありがとうございました。

○紙智子君 最後に一つだけあとお聞きしたかったんですけれども、汐見先生にお聞きしたいんですけれども、オランダですよね、一九七〇年代の施策を支えたオランダということで、いわゆる一・五政策というのを紹介されているんですけれども、これ自体は働く環境ですとか、それから労働政策をかなり大胆に変えていくものだったと思うんですけれども、その際にすんなりいったのかなと。
 やっぱり企業側も相当いろいろ抵抗もあったと思いますし、その辺での政府と国会というのはどんなふうにされていたのかなというのをちょっと最後に、済みません、それだけお願いします。

○参考人(汐見稔幸君) この辺は私は専門ではないので詳しいことは申し上げられませんが、たしか九十何年でしたか、オランダが相当不景気で失業率が一〇%を超えていたときにその政策に切り替えたんです。猛烈な反発が企業からありました。
 端的に言いますと、正規雇用とそれからパートタイム雇用の基本的単価を同じにする、それから男女の賃金を基本的には同じにしていくという、そういう政策ですよね。
 ですから、長時間働くんじゃなくて、男性が〇・八、女性が〇・七働いて、合わせて一・五にすればだれもが夕方に帰れて、そして家庭が充実するという、そのためにはその政策を変えなきゃいけなかった。そのときに担当した大臣が猛勇を振るったはずです。財界と物すごくけんかし、交渉し、これでやらなきゃ駄目なんだということで、財界の方がその趣旨をのんで、じゃ思い切ってやってみようというまでに相当すったもんだやったはずです。
 ですから、日本でもしこういうことをやるとしたら、相当な決意と周到な準備がなければなかなか難しいと思います。日本のような大きな社会になるとちょっと簡単にはいかないと個人的には思っています。

○紙智子君 ありがとうございました。