<第171回国会 2009年6月19日 沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第05号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、ブレナー先生、御出席本当にありがとうございます。ずっと一人に続けてお聞きしているのでお疲れかと思いますけれども、もう少しよろしくお願いしたいと思います。
 それで、御承知かと思いますけれども、沖縄には我が国に駐留する在日米軍基地の七割が集中しております。そして、米兵の犯罪も多くて、沖縄は大きな基地の負担を負い、そして基地被害を受けています。沖縄振興は、こうした基地の現状をなかなか解決し得ないまま整備などにお金を投じているという点では根本的な問題があります。
 そういう中でも、沖縄は依然として失業率が全国一で、県民の所得は最低水準になっております。私たちは、この法案については賛成するわけですけれども、やはりそういう状況の中でこの大学院大学が本当に沖縄振興に役立つものかと、役立たせなきゃいけないというふうに思うわけですけれども、自立的発展ということをこれから進めていかなきゃいけないということでは、若干の懸念も持ちながら、やっぱり本当にやるんであれば成功させなきゃいけないという思いなわけです。
 それで、先生の御所見を伺いたいわけですが、まず研究員の確保の問題で、主任研究員の確保、これまで先生が大変御尽力をされてきたということを承知しているわけですけれども、大体五十人くらい目指して現在二十人と。この二十人の方々が沖縄の研究基盤整備機構のどの点が魅力になって来られているのかということと、逆に主任研究員が沖縄大学院大学で研究しようということで来るためには障害になっていることがないのか。あるとすればやっぱり取り除かなきゃいけないと思うわけですけれども、そういうことがないのかどうか。それから、これからの研究員の、研究者の確保の取組についてこれまでと違ったことなども考えておられるのかということについて、最初にお伺いします。

○参考人(シドニー・ブレナー君)(通訳) 私ども、よい機会を生かしながら採用してきております。一番最初の人たちを採用するのが最も難しいということでありました。人が入り始めれば、そこから人の輪がつながって、そしてほかの人が入ってくるという連鎖が生まれるからであります。既に十分な研究者が確保できたと考えております。ここに既にいる人たちがいるからといって、これから多くの人が来てくれると考えております。そういうわけで、新しい取組は特に必要ないと考えております。
 もちろん、様々な障壁はあります。外国に行って、文化とか言語も違うところに行くというのはそれなりに大変なことなわけです。しかしながら、既に来られた方、非常にうまく適応しているんですね。非常に熱心に溶け込もうとしている。我々は、その基本的な社会的なアメニティーを提供しようとしています。例えば、セブンイレブンのお店を設けて、長距離移動しなくても基本的な買物ができるようにするとか、そういったことが必要だと思います。
 そして、家族、子供たちのことを考えなければなりません。彼らが短期間に日本語が学べるように支援をしていかなければならない。実際、彼らはうまくそういったことをできていますが、そういった子弟のために日本語の教室などを提供しています。また、日本人の方々に英語の講習も行っています。といいますのも、そういった交流を、日本人と外国人の間の交流を進めていかなければならないと考えているからです。
 これまで最大の障壁、問題であったのがハウジング、住宅の問題であります。特に学生たちがキャンパス内に居住できるようにする、そして研究棟に簡単に行って、夜十一時まで研究して、長い距離運転しないでも宿舎に帰れるというのが非常に重要でありますが、この問題も解決に向かっております。ですので、完結した科学村が確立できると考えております。そして、そこから大きなコミュニティーが将来生まれてくると思っております。
 それから、これ、最後にもう一言だけ言わせていただければと思いますが、我々、新しい生活様式、雇用を受け入れていかなければならない。つまり、テクノロジーのリソースが集中していない沖縄の状況に対応していかなければならない。それは歓迎すべきことだと思うんですね。グリーンケミストリーとかエネルギーの生産などについて、世界の考え方がこれから変わってくると思うわけです。また、海洋資源の活用というのも今後重要性を増してくる。そういったところで新しい雇用が将来多く生まれてくるというふうに思います。
 というわけで、私は将来に関しては非常に楽観的にとらえております。私は、人間の合理性を信じております。問題は人間活動によって解決できると信じております。そういった一般的なコメントを今の御質問に関連する形で述べさせていただきました。

○委員長(市川一朗君) ちょっと速記止めてください。
   〔速記中止〕

○委員長(市川一朗君) 速記を起こしてください。

○紙智子君 それじゃ続けさせていただきます。
 この構想をまとめた当時の尾身大臣が、二〇〇二年ころですけれども、沖縄に優秀な先生が来るかどうかのかぎは、給料にもよりますが、情報格差をなくすことだと思います、沖縄で情報が収集できず、社会に取り残されてしまうのではないかと心配される教授、先生方が多いということを雑誌で語っておりましたけれども、こういう心配はなくなったと言えるのでしょうか。

○参考人(シドニー・ブレナー君)(通訳) 今の質問を明確に理解できたか分かりません。尾身大臣がおっしゃったことが明確でないのかもしれませんが、その情報ギャップというのはどういうことでしょうか、科学に付いていけないというのはどういうことでしょうか、そういうことなんでしょうか。
 科学というのは日々学習を続けなければならないというものです。少しでも手を抜けばすぐに遅れてしまうんです。特に、近年、科学というのが急速に、また技術というのが急速に発展をする時代になっています。ということは、常に継続的に自らの更新を図らなければならない、そして最新の情報を入手しなければならないと言えます。将来の科学にとって一つ問題となり得るのはその点です。つまり、そういった情報をいかにうまく把握して、そしてそれを社会の中で活用していくかということです。これは世界的な課題であります。
 私がこれまでに学んだことは、人々は情報を収集するということ、また、それを配布するということについては功績を認められるけれども、情報を整理するということについて十分に功績を認められていないと思います。我々の研究機関、その情報を整理するということにも力を入れていきたいと思っています。情報が利用可能な形に整理していきたい。そうでないと、そういった情報は埋もれてしまう、どこかのコンピューターの中に埋もれて活用されないということになると思います。

○紙智子君 先生は、二〇〇五年の整備機構発足式で、最も優秀な若者を引き付けることができる大学院大学にしたいと、日本は構造的な問題から本来の潜在力を発揮していない、全く新しく始めることで我々のやり方がスタンダードになるようにすると述べられております。
 日本の構造的問題とは具体的にどういうことを言っておられたのか、それは現在変わったのか変わってないのかということについてお聞きしたいと思います。

○参考人(シドニー・ブレナー君)(通訳) 私の知る限り、基本的なところはまだ変わっていないと思います。
 今でも若い研究者に十分な地位が与えられていない。例えば、アメリカのアシスタントプロフェッサーあるいは英国のレクチャーシップというような地位が十分に提供されていないというふうに感じます。彼らが自主的な独立した研究をする機会が少ない。様々な助手としての仕事はありますけれども、そうすると、教授の言うとおりに研究をしなければならないということなんですね。世界の多くの機関で、また特に日本の機関において、その学部間、部門間で非常に強固な壁があって縦割りの組織になってしまっていて、その学部の中だけで、その部門の中だけで研究をするというようになってしまっています。必要な相互作用が生まれないということになっています。人々が新しいアイデアを生み出すために協力するということが十分になされていないと感じます。

○紙智子君 ありがとうございます。
 では、沖縄の振興ということにかかわってですけれども、沖縄振興法の中でこの法案、位置付けられて進められているわけです。
 それで、沖縄の歴史の中で、自然科学の研究と沖縄の産業とをしっかり結び付けた成功例として沖縄県が歓迎しているものにウリミバエの根絶というのがあります。亜熱帯地域の農業ということで虫との闘いが本当に大事で、ニガウリとかスイカとかキュウリなどのウリだけでなくて、トマトやピーマン、パパイヤ、マンゴーなどに付くハエで、この被害が非常に大きくて、被害を受けた果実についてはもう売り物にならないし、人間の食用にならないというので大きな打撃を受けていたわけですけれども、沖縄の当時病害虫の技術センターが研究をし、実験をし、殺虫剤を散布するのではなくて不妊のウリミバエを放すことで根絶をしたということで、非常に、何というんでしょうか、沖縄の産業とのかかわりでいっても成果として評価されているものなわけです。
 それで、研究成果をすぐに実用できるということが必ずしもいつもそうではないわけですし、それにとらわれずに自由に行うということも大事だと思うんですけれども、大きな視野で見たときに役に立つということがやっぱり大事で、ブレナー博士は、こうしたことに対する、ウリミバエでいいますとどのように評価をされるのかなということと、それから、今後期待される大学院大学の可能性として沖縄の地域特性を生かした研究分野、先ほどもお話しになっていて、環境科学が加わったという話もありましたけれども、どういうことが期待できるのだろうかと思いますので、それについてお話しいただければと思います。

○参考人(シドニー・ブレナー君)(通訳) 数多くの質問が今の一つの質問に含まれていたと思います。すべてにお答えできるか分かりませんが。
 一つ根本的な考え方として、我々が見ているものは一つのスナップショットであるわけですね。つまり、施設を造ると、それに対して活動があると、そのある一瞬の状況をとらえて考えがちなんですが、すべてこういった活動というのは流動的に常に動いているものなんですね。
 例えば、大学院大学の学生が様々な変化をもたらすかもしれない。大学自体が何かをするというのではなくて、学生が変化を生み出すかもしれない。そういった変化を生み出すために必要な十分な活動のレベルを維持するということが重要だと思うわけですね。
 分子生物学の研究所、私がかかわったところですね、長年全く無駄だと批判されました。そこから何も生まれてこないと。分子生物学ではだれも治癒していないではないかと言われたわけですね。でも、だれも殺してもいないではないかと私は反論していたんですが。時間の経過とともに、五十年取り組んできた後、分子生物学というのは様々な領域の基礎になっているわけですね。製薬会社にも分子生物学の研究部門が置かれるようになったと。一つの研究所でそれをやったからというのではなくて、社会的な運動につながったからこそそういった分子生物学が世界的に活用されるようになったと言えるわけであります。
 そういうわけで、今非常に大胆なコンセプトの下に取組を行っているわけであります。日本がそういったものに取り組んでいるということは非常に称賛に値することだと思います。それは必ず時の経過とともに結果を生むものと確信しております。

○紙智子君 もう一つお聞きします。
 知的クラスターの形成ということを政府は言っているわけですけれども、今、日本の国内では余りこの知的クラスターということでは成功しているというふうに、そういう例がまだ余り生まれていないというふうに思うわけです。
 それで、沖縄で知的クラスターを形成していくというために必要な条件といいますか、あるとすればそれはどういうことでしょうか。

○参考人(シドニー・ブレナー君)(通訳) 一つの必要条件と申し上げるのであれば、やはり人々がリスクを取ることが必要になると思います。
 日本は、お国柄としてリスクを回避される傾向がある。日本の方々はリスクを余り取りたがらない。しかし、科学的な研究は継続的なリスクの連続です。うまくいくかどうかいつも分からないのです。うまくいくと分かっていたら研究など必要ありません。リスクがないということです。私たちはいつもリスクを取らなければいけない。これを試みてみよう、やってみよう、うまくいけばすばらしい、失敗したらまた違うことをやってみようという態度が必要です。そのような考え方、環境が必要です。
 先ほどの発表でも申し上げましたように、変えていく風土が必要です。みんながリスクを取る必要はないんですが、何人かがちゃんとリスクを取っていくことが必要です。クラスターとはそういうものです。人々がリスクを冒してアイデアを何かに関して進めていくこと、そうすることで世の中変わるかもしれないのです、うまくいけば。でも、その前にはいろんな失敗も想定しておかなければいけません。でも、失敗というのが日本では余り許容されないのではないでしょうか、ほかの国に比べると。ですから、私たちが学ぶべきは、失敗はしたけれども、その失敗から学んだ、ですからまた再びやってみようと、そういう態度が必要です。
 ですから、沖縄ではある意味余り開発が進んでいない、ですからそうしたことに余りとらわれない住民性があるかもしれませんので、ある分野ではリスクをもっと取れるかもしれません。

○紙智子君 ありがとうございました。