<第171回国会 2009年3月10日 予算委員会 第10号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今、食料と農業をめぐっては国際的にも国内的にも大変切実で、そして注目されている分野だと思います。そこで、今政府が進めようとしている農政改革とはどういうものなのか、最初にお答え願います。

○国務大臣(石破茂君) これは、人、金、物すべての面において持続可能性を確保しなければならない、長期低落傾向に歯止めを掛けねばならないということだと思っております。それは農林水産省だけでできることではございません。委員御指摘のように、全国民的課題になるはずでございます。
   〔理事岩永浩美君退席、委員長着席〕
 では、そのときに財源をどうする、予算をどうする、あるいは地方自治体にどのような役割を負っていただくか、農商工連携をいかに行い、どうやって手取りを高めるか、そういうようなことは政府全体で取り組んでいかねばなりません。急ぐのだということとコンセンサスを得て断行するのだということでありまして、政府挙げて農政改革に取り組むのはそういうことだと私は理解をいたしております。

○紙智子君 農政改革関係閣僚会議というのを設けて今議論を始めているわけですけれども、この趣旨はどういうことでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) 繰り返しになって恐縮でございますが、コンセンサスをつくる上において十分な議論が行われねばならないのだと思っております。つまり、農水省として取りまとめて、その後で、財務省さんお願いします、総務省さんお願いします、経産省さんお願いしますということではないのだと。議論の過程において各大臣の、あるいは各省の意向というものはきちんと反映をされる、省益とかそういうものを超越をして、本当に忌憚のない意見交換、議論を交わしながら、政府としてこう臨むんだという強い姿勢を出していくことが肝要だと思っております。

○紙智子君 財界のシンクタンク、日本国際フォーラムが発表しましたグローバル化の中での日本農業の総合戦略、この政策提言というのを大臣は御存じでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) 存じております。

○紙智子君 この中では、中長期的に、食料基地は百五十万ヘクタールを想定、百ヘクタール規模の農業経営体一万程度を核とする。また、農地の所有、利用共に自由な権利移動を可能とする。中省略しますけれども、米などの生産調整への参加、不参加も自由とする。緊急に取るべき施策として、撤退する農業者の早期離農を助成し農地集積を図れなどの内容で、そのほかにたくさん書いていますけれども、私は非常に危惧をしております。
 これについて、この政策提言を石破大臣はどのように思われますか。

○国務大臣(石破茂君) いろんな立場からいろんな提言があるというのは大事なことだと私は思っております。しかしながら、常に日本の農業の零細性というものを考えたときに、セーフティーネットをどうやって張るんだという議論が欠落をした改革論議というのは極めて危険であると考えております。どのようにセーフティーネットを張っていくかということをきちんと踏まえた上でいろいろな改革はなされなければいけません。
 この中でそこについて十分議論が尽くされているかどうか、私の読み方が足りないのかもしれませんが、セーフティーネットの張り方というものを考えることが改革の実現には必要不可欠であると考えております。

○紙智子君 国民が願っていることというのは、まず食料自給率を上げると、そして安全、安心な食料を国民に提供してもらいたいという願いです。そのためには、やはり農業の多面的機能を有している日本農業を発展させることだと。そのためには、小さな家族経営も含めて多様な農業の総力を集中して発展させることが本来の眼目であるべきだと思うわけです。
 ところが、この総合戦略は、一握りの大規模化ということで食料基地化を進めると。これでは総力の結集にならないと思うんですね。大臣もインタビューに答えている中で、米国のような大規模化にはなり得ないというふうにおっしゃっているわけですけれども、そもそもこれ、ここに書かれていることというのは無理な中身なんじゃないのかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) この提言が米国型あるいはオーストラリア型、それをそのまま日本に入れろというような提言だと私は認識をいたしておりません。それはそもそも無理な話なんです、米国のようになれとかオーストラリアのようになれとか、それ、そもそも無理な話なのですよね。そういうことを目指してもそれは不可能なのだということはよく認識をしております。
 総力を結集ということでございますが、とにかく所得はどんどん落ちると、経営体はどんどん減ると、農地面積はどんどん下がるということは、事実は事実として認めなければなりません。結果が起こったからには原因があるのであって、その原因をきちんと分析をしながら、どうやったら所得が上がるか、どうやれば農地が確保をされるか、あるいはどうすれば、多様な担い手という言い方は気を付けて使わなければいけませんが、私は高齢化そのものが悪いとは言っていないのです。そうではなくて、次の世代というものが育っていないことが問題なのであって、どうすれば若い人たちがもっともっと参入してくれるか、この三つについてそれぞれ合った処方せんを書かなければならないと思っております。

○紙智子君 大臣のお考えを更に聞きたいと思うんですけれども、今、販売農家戸数で百八十一万戸と言われていますね。農業経営体がこの提言の中で言いますと一万程度ということは、それを主体にするということはほとんどが外れていくということになるわけです。それでいいかということが一つ。
 それからもう一つは、撤退する農業者の早期離農を促して農地集積を図れというのがあるんですけれども、これは暗に離農を促進して大規模経営体のみに農地を集めるというふうに私には聞こえるんですね。この考え方に大臣はくみしませんよね。
 そこのところを二つ、大臣のお考え、聞きたいと思います。

○国務大臣(石破茂君) 本当に議論をしたいのですけれど、例えばフランスにおいてどうであったかということを考えたときに、フランスにおいて経営体は三分の一になりました、経営面積、経営規模は三倍になりましたと。見事にそこは相関関係があるわけでございます。そこにおいて、例えば農業を離れて経営規模を拡大する方に対していかなる策が取られたか。もうあなた方はどんどんやめちゃいなさいというようなことは政策ではございませんので、そこに対していかなるインセンティブが取られたかということも併せて議論をしないと均衡を失するのだろうと私は思っております。
 そしてまた、農地というものが、非常に粗っぽく申しますと、日本の農地の価格というのはフランス、ドイツの約十倍ぐらいすると考えております。オーストラリアやアメリカの百倍いたします。農地を資産として考えるか、それとも生産の装置として考えるかという問題、ここも議論をしていかねばならないのだと思っております。
 私はそのまま全面的にくみするとは申しません。それがどんどんどんどんいなくなって、あとは大規模さえいりゃいいんだと、そういうふうには考えておりません。しかしながら、規模拡大の場合に、土地政策と併せて何らかのインセンティブというものは考える、少なくとも議論をする価値があるのではないかと私は思っております。

○紙智子君 全部はくみするものじゃないというふうなことを言われました。そして、いかにセーフティーネットが必要かという話されたんですけど、私、違うと思うんですよね。大事なことは、今現に頑張っておられる方々が続けられるようにいかに支援するのかというのが政治の果たす役割だというふうに思うわけです。
 それで、総合戦略の、このグローバル化の中で、この提言を作った実は提案者が政府のアドバイザリーに入っているわけですよ。これも私、疑問なんですけれども、アドバイザリーというのは大臣の権限で任命されたんですか。

○国務大臣(石破茂君) アドバイザリーについてでございますが、農政改革の検討を進めていくに当たりましては、現場の実態を踏まえた議論を行うことが重要であると考えております。
 特命チームの会合におきましては、アドバイザリーメンバー三名のほか、これまで生産者、生産者団体、食品企業、消費者団体、地方自治体等の幅広い関係者の方々からヒアリングを行っておるところでございます。
 私は、本当に広い議論をしなければいけない、そしてまた地方へ幹部が全部出るようにというお話をいたしております。そこはつくられた会合ではなくて、実際に生産現場に行って、ひざを突き合わせて夜を徹してでも議論をしようということを申しております。やっぱり現場と政策が乖離をするということが一番あってはならないことだと考えております。
 なお、委員の今の質問の中の冒頭のお話でございますが、私は一生懸命頑張っている人が続けられるようにという認識は持っております。ただ、これは特に中山間地、条件不利地域でそうなのですが、そこにおいて営農が継続をしているというのは、併せて兼業収入がきちんと確保されるということがあったのだと思っております。兼業機会が多く創出をいたしておりまして、自分たちが元気な間はやると、しかしもう自分たちの代でおしまいだという方々に対してどのような答えを用意するのか。あなた方が元気な間は頑張ってくださいみたいなお話では駄目なんでありまして、そこにおいて次の世代という方々が入ってくださるために兼業機会の創出というものを農商工連携と併せて考えながら、地域、集落が維持できるような政策が必要であると考えております。

○紙智子君 アドバイザリーの位置付けというのはどういう位置付けなんでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) それはまさしくアドバイザリーです。アドバイスをするという位置付けでやっております。

○紙智子君 その人たちの主張を十分勘案して選任されたんでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) それはいろんな意見がある。つまり、こういうコンセンサスを得ていくためには、いろんな立場の方々の意見を闘わせることが、闘わせるという言い方は良くないかもしれませんが、行うことが必要だと思っております。その方々がどういうお立場であるかということは、当然アドバイザーとして起用するときに考えているものでございます。

○紙智子君 ただとにかく議論すればいいということじゃないと思うんですよね。
 私は、その中のお一人、あえて名前は言いませんが、Oさんといいますが、この方の論文読みますと、これまで農水省も譲れないとしてきた幾つかのテーマに対して真っ向から否定をしているわけですよ。国境措置をなくした場合に食料自給率が幾らになるか、以前、松岡大臣のときに計算をされて、四〇%から一二%になるというのを出しました。警告を発したわけですよね。これに対しても批判をしている。農業の規制緩和、市場原理の導入を強力に訴えているわけですよ。そして、農地所有の大胆な見直し、農業への自由な参入、農業者の総入替えも射程に入れた大胆な農政改革が必要だということを言っているわけですよ。
 こういう考え方について分かった上で入れておられるということでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) それはいろんな考えがある。その方の、委員は名前を特定なさいませんでしたが、どの方がどのような御主張をしておられるかということは当然承知の上でやっております。
 議論というのは、いろんな議論があって、何というんでしょうか、総花的にどこにもいいような議論というのは、結局どこにも余り良くないんだと思っております。それは、いろんな先鋭的ととらえる考え方もあるかもしれません。あるいは、その今委員が御指摘のような考え方と対極の考え方もあるのだと思っております。そこにおいて議論が闘わされることによって本当にあるべき姿とは何であるかということが出てくるのだと私は思っておりまして、やはり議論というのは、ある意味先鋭的な議論が幾つかあってやがて収れんをしていくんですが、最初から中庸を目指していくと議論の本質が失われる可能性があるだろうと、私は一般論として思っております。

○紙智子君 最終的には判断をしていくということなんですけれども、しかし、ここで議論されているこの主張を受け入れるということになりますと、今実際に現にWTOで非常に日本は大変厳しい立場に立たされているわけですけど、この交渉をやる上でも、これまでやってきた交渉の論拠そのものがそれと矛盾することになるわけですよ。例えば、一定の関税措置を維持するとか農業の多面的機能を大事にしていくということとの関係でも、これ矛盾を来すことになるんですね。
 それで、私は、こういうことを分かりながら取り入れているということは、いずれそういう考え方を取り入れる方向にしていこうとしているのかなというふうに不安を持たざるを得ないんですけど、いかがですか、大丈夫ですか。

○国務大臣(石破茂君) そのように極端なことにはならないと思っております。ですから複数人いるわけであって、委員が御指摘のようなそういう考え方の人ばっかり集めたとするならばそういうような御懸念もやむを得ないのかなと思いますが、いろんな議論があるのだと。しかしながら、そのような議論というものを支持される国民というのもおられるわけですね。それがそうではないということであるならば、それはきちんとした議論が行われて、そういう立場、そういう説を唱えておられる方々にもなぜそうではないのかということをお示しすることも行政としては大事なことだと思っております。

○紙智子君 私は、やはりいろんな議論があったとしても、主体の側がどういうところに落ち着くかということではきちっとした主体を持っていなくちゃいけないと思うわけですよ。
 それで私は、この農水省が二月に出した新たな食料情勢に応じた中間取りまとめ、これ、ちょっと読ませていただきましたけど、ここで述べていることとも全然懸け離れた議論をしている方なんですよね。
 ですから、そういうことからもしっかりと判断をしてもらわなかったらとても安心できないということと、時間になりましたけれども、いろいろ大臣のお話をお聞きしてきたわけですけれども、肝心なところでやっぱり明確じゃないという部分が幾つかあります。そういう意味では、改革という名の下に、やはり国民が願う本当の改革の方向と逆行したものにしてはいけないというふうに思います。国民の願う方向というのはやっぱり人のつながりを大事にして、地域で地域社会を支える、そういう農村を再生させることだと思いますし、そうでなければ自給率の向上にもつながらないということを申し上げまして、私の質問を終わります。