質問第三八号

悪質なリース訪問販売の被害者保護の拡充に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<悪質なリース訪問販売の被害者保護の拡充に関する質問主意書>


 悪質な訪問販売によるリース契約の被害が依然として多発している。
 訪問販売業者が個人事業者等を訪ね、例えば「従来の電話は回線のデジタル化で使えなくなる」「電話代が安くなる」など虚偽の勧誘をして高額な電話機器等のリース契約を結ばせるものである。被害者が途中で詐欺に気付きリース会社への支払いを拒絶しようとしても、特定商取引法によるクーリングオフはごく限られた場合にしか適用されないため、被害者はリース会社への支払いをやめることができない。リース契約は中途解約ができず月額リース料が少額であっても契約が数年に及ぶため、被害額は数百万円から数千万円にのぼるものもある。
 最近では新手の詐欺的手法も広がっており、営業用ホームページを作成・更新するなどの役務提供を付加したパソコンリース契約において個人事業主である被害者が大手リース会社への支払いを中止したところ、大手リース会社から、逆に契約不履行で提訴されるケースまで起きている。
 先の第百六十九回通常国会においては、「特定商取引に関する法律及び割賦販売法」が改正され、抜本的に悪質商法対策は強化されたが、被害者が事業主の場合は事業者間契約とされ消費者保護行政から除外される法体系はそのままである。
 経済産業省は「悪質な電話機等リース訪問販売への対応策について」(二〇〇五年十二月六日)(以下「〇五年対応策」という。)により、事業者であっても一定の枠内で特定商取引法による救済対象としたが、リース契約による被害の実情からみると〇五年対応策により救済できるのはごく一部にとどまっており、新たな法整備を含む対策が急務となっている。
 よって以下、質問する。

一 悪質なリース訪問販売の被害状況と政府の認識について

 〇五年対応策では、被害状況の実態把握の事例として、独立行政法人国民生活センターへの電話機類リース販売の苦情相談件数を公表している。
1 同センターへの電話機類リースに関する苦情相談件数は、二〇〇〇年度二千六百十八件、〇一年度三千五百十一件、〇二年度四千八百五十三件、〇三年度五千八百三十件、〇四年度七千百三十二件となっている。〇五年度以降の苦情相談件数を年度ごとに示されたい。
2 リースサービスに関する被害相談件数を二〇〇〇年度以降、年度ごとに示されたい。
3 コンピューターソフトもしくはホームページ作成・更新の役務提供を付加したリースサービスに関する苦情相談件数を二〇〇〇年度以降の年度ごとに示されたい。
4 これまでに経産省消費者相談室に寄せられたホームページリースに関する相談件数を示されたい。
5 こうした表面にあらわれる相談件数は、消費生活センターなどで苦情相談に携わっている現場の担当者からは被害全体の「氷山の一角」と指摘されるものだが、政府にその認識はあるか。

二 〇五年対応策とそれ以降の政府及び業界団体の対応について

 〇五年対応策では特定商取引法の通達改正とともに、三つの業界団体に対して、電話機等リースの審査強化、提携販売事業者・販売店の総点検及び取引停止を含めた管理強化、苦情相談体制の整備等の取組、被害の未然防止、取引の適正確保のための会員企業の指導などを行っている。
1 社団法人リース事業協会、情報通信ネットワーク産業協会、社団法人日本訪問販売協会が経産省の指導への対策を書面で提出した期日をそれぞれ述べられたい。
2 〇五年対応策を受けて、社団法人リース事業協会は二〇〇六年二月九日付けで「電話機等リース訪問販売等に係る総点検等について(ご報告)」とする文書を経産省に提出している。
 この内容は、@個人事業者等に対する電話機等リースの審査の強化、A提携販売事業者の総点検、B相談窓口の整備、Cその他の対応策を講じたというものである。
 同文書によると、リース事業協会会員会社のうち総点検を実施した会員会社は二十三社であり、そのうち十三社が延べ提携販売事業者数六十一社との取引停止を行い、十社が延べ提携販売事業者数百六十六社に対し改善指導を行っている。
 新たなリース契約被害者を生まないためにも、リース事業協会加盟二十九社とこれらの総点検実施企業名、取引停止を行った企業名及び提携販売事業者名、改善指導を行った企業名及び提携販売事業者名を明らかにされたい。明らかにしない場合は、その理由を述べられたい。
3 リース会社が提携販売事業者を総点検し、その結果、「問題事例が生じている提携先」として取引を停止したにもかかわらず、リース契約の一方の当事者である「問題事例が生じた被害者」は「支払わなければ信用情報のブラックリストにする」などと脅され、リース会社との契約金を長年にわたり支払い続けなければならない。この実態はあまりに不合理ではないか。政府の認識を示されたい。
 また、業界独自の対応後も苦情相談件数が数千件に及んでいる状況について、法的規制がないことの限界を示していると考えられるが、政府はどう認識しているか。
4 電話機等リース契約への対応について、経産省商務情報政策局消費経済部長は二〇〇六年六月の衆院決算行政監視委員会第一分科会において、「一部に改善の動きも見られますが、引き続き注視する必要があると認識をしております」と答弁している。この答弁から今日までの間、注視しながら認識した事実は何か。また悪質なリース契約被害に対してとった施策は何か。具体的に説明されたい。
5 経産省は二〇〇六年七月、〇五年対応策に係る初の行政処分として、特定商取引法違反の訪問販売業者(電話機等リース販売業者)潟<fィアサポートに対する業務停止命令を発表した。この後、これまでの間に行政処分を行った企業名、処分内容を年度ごとに示されたい。
6 経産省が販売業者の行政処分を行っても、リース会社と被害者との間のリース契約には何の影響も及ぼさず、被害者が支払いを続けなければならない現状はあまりに不合理ではないか。政府の認識を示されたい。
 また、一部の訪問販売業者の行政処分を行ったとしても、リース会社は他の訪問販売業者と提携してリース契約を続けるので被害は減らない。こうした実態を政府は認識しているか。
7 経産省が私の事務所に行った説明によると、〇五年対応策を業界に通知した後、リース事業協会等への再度の指導もしくは対応依頼は、リース契約被害者の実情をとりあげた北海道の月刊誌および私の事務所からの問い合わせがあった後、今年七月十一日に行われたということであったが、それまでの間、業界に対して繰り返し行政指導を行ってこなかったのは何故か。

三 今後の法整備の必要性について

 〇五年対応策の通達改正の内容は、特定商取引法第二条関係の「販売業者等」の解釈の明確化と第二十六条関係の「営業のために若しくは営業として」の解釈の明確化である。しかし、個人事業主である被害者の多くは、この通達改正の救済対象からも除外されている。例えばホームページ作成の役務提供が営業用であれば、すなわち事業者間契約と見なされるからである。特定商取引法の枠組みは相談業務にも重大な影響を与えている。
1 役務提供型リース契約の被害者が経産省相談窓口に電話相談をしたところ、担当窓口が「リース契約については新しい契約形態なので規制する機関はない。リース物件もなく役務提供もないなら詐欺として警察に行きなさい」と対応した事例がある。こうした対応は経産省として適切と考えるか。行政のこうした対応自体が被害者が泣き寝入りする要因の一つとなっているという認識はあるか。
2 役務提供型リース契約の被害者が消費生活センターに相談した際、「個人契約ではなく法人契約に関わるので取り扱いできない」といわれた上に、他の相談窓口を紹介されることもなかった事例がある。また店舗と個人用の電話機等が一体だったため相談を受け付けられた被害者がいる一方、店舗と住宅が別の事業者は相談さえ拒否される事例がある。こうした対応は内閣府として適切と考えるか。また特定商取引法が事業者を一律に消費者から除外していることが消費生活センター等にこうした対応をとらせているのであり、同法通達改正だけでは多くの被害者に対応できない実態を示すものではないか。
3 経産省の特定商取引法逐条解説(二〇〇四年版)によると、同法の目的は「訪問販売等において往々にして不公正な取引が行われ、あるいはまたこれらの販売方法が有する特殊性のために、取引の相手方である一般消費者等が不当な損害を被ることがある実態にかんがみ、これらの取引の公正化及び取引の相手方の損害防止を図る」ものとされている。そして、「購入者等が受けることのある損害の防止」のためとして、「連鎖販売取引に参加する個人及び業務提携誘引販売取引に参加する個人等」は「法律上の性格は『商人』であり、訪問販売等における通常の取引の相手方とはその性格を異にしている」が、「その実態は多くの場合いわゆる一般消費者であり、取引関係に不慣れであることに基本的差異はないので、保護されるべき立場として同一に扱っている」としている。
 訪問販売リース契約は、大手リース会社が悪質な販売業者と提携関係を結び、販売業者の社員を手足のように使ってリース契約をとっているのが実態である。また大手リース会社と小規模事業主との契約は事業者間契約とはいっても、法律的な情報量、契約に関する知識にはいずれも大きな格差があり、また訪問販売の特殊性ともいえる不意打ちの訪問により契約を迫る構図は一般消費者が置かれている状況と何ら変わらない。
 こうした実態に鑑み、訪問販売の場合にのみ、小規模事業者等を事業者一般から明確に区切ることにより、一般の消費者と同視すべき被害を受けたものとして特定商取引法の適用除外規定に該当しないとするなどの検討を行うべきではないか。

  右質問する。


答弁書第三八号

内閣参質一七〇第三八号
  平成二十年十月十日

内閣総理大臣 麻 生 太 郎   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出悪質なリース訪問販売の被害者保護の拡充に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出悪質なリース訪問販売の被害者保護の拡充に関する質問に対する答弁書>


一の1から4までについて

 独立行政法人国民生活センターにおける電話機類リースに関する苦情相談件数は、二〇〇五年度が八千六百九十六件、二〇〇六年度が五千四百九十七件、二〇〇七年度が三千八百四件である。また、経済産業省消費者相談室に寄せられた電話機類リースに関する苦情相談件数は、二〇〇五年度が千三百八十一件、二〇〇六年度が千二百九十三件、二〇〇七年度が五百六十八件である。
 リースサービスに関する被害相談件数に関しては、独立行政法人国民生活センターが把握しているリースサービスに関する苦情相談件数は、二〇〇〇年度が三千九百九十七件、二〇〇一年度が五千六十五件、二〇〇二年度が六千七百四十四件、二〇〇三年度が七千七百六十件、二〇〇四年度が九千二百三十八件、二〇〇五年度が一万七百五十二件、二〇〇六年度が七千八百三十三件、二〇〇七年度が六千三百七件である。また、二〇〇〇年度以降で経済産業省に設置した相談窓口に寄せられたリースサービスに関する苦情相談件数のうち、現時点で把握しているものは、二〇〇五年度が三千四百十二件、二〇〇六年度が三千三百七件、二〇〇七年度が千九百六十八件である。
 コンピューターソフト又はホームページ作成・更新の役務提供を付加したリースサービスに関する苦情相談件数に関しては、独立行政法人国民生活センターが把握しているコンピューターソフトの役務提供を付加したリースサービスに関する苦情相談件数は、二〇〇〇年度が二十一件、二〇〇一年度が二十七件、二〇〇二年度が四十六件、二〇〇三年度が五十三件、二〇〇四年度が七十六件、二〇〇五年度が百一件、二〇〇六年度が百六十二件、二〇〇七年度が百八十八件である。また、経済産業省消費者相談室に寄せられたホームページリースに関する苦情相談件数のうち、現時点で把握しているものは、二〇〇五年度が六件、二〇〇六年度が十件、二〇〇七年度が三十件である。

一の5について

 悪質な電話機等リース訪問販売については、平成十七年十二月六日に特定商取引に関する法律(昭和五十一年法律第五十七号)の通達改正や業界団体への指導を実施するとともに、経済産業本省、各経済産業局等において相談窓口体制の整備を行い、また、注意喚起及び相談窓口の周知のためのチラシ約百万部を全国各地で配布したところである。しかしながら、こうした取組にもかかわらず、相談窓口の存在を知らなかった等の理由から、相談窓口や消費生活センターに対して苦情を申し立てていない被害者が相当程度存在し得るものと認識している。

二の1について

 社団法人リース事業協会から経済産業省に対して「電話機等リース訪問販売等に係る総点検等について(ご報告)」と題する書面が提出された日は、平成十八年二月九日である。情報通信ネットワーク産業協会及び社団法人日本訪問販売協会からは、経済産業省に対する書面の提出は行われていないが、会員企業への周知、団体の相談窓口における対応及びセミナー等を通じた情報提供を実施した旨の報告を受けている。

二の2について

 御質問の企業名については、社団法人リース事業協会から公にしないとの条件で任意に提供されたものであり、これが公になることにより、当該リース会社による取引停止等の判断を制約するおそれ等があることから、お答えを差し控えたい。

二の3について

 リース会社と個人事業主との間の電話機類リースに係る契約については、一見事業者名で契約を行っている場合であっても、主として個人用・家庭用に使用するためのものである場合には特定商取引に関する法律の適用があり、クーリング・オフや不実告知に基づく取消しによる民事救済の対象になり得るものと解しているが、その他の場合についても、リース会社に詐欺や不法行為があった場合などは民法の一般原則に基づく救済も可能であるものと承知している。リース会社の総点検の結果当該会社が取引を停止した提携販売業者が勧誘したリース契約がすべからく無効となり、支払債務が消滅するとは限らないが、そのこと自体が不合理であるとまでは言えないと認識している。
 一の1から4までについてで述べたとおり、電話機類リースに関する苦情相談件数は平成十七年度から平成十九年度にかけて減少しており、平成十七年十二月六日付けの経済産業省からの指導文書に基づき社団法人リース事業協会の会員各社に対する指導により実施された総点検等の取組は、電話機類リースに係る被害の拡大防止に寄与したものと理解している。

二の4について

 一の1から4までについてで述べたとおり、電話機類リースに関する苦情相談件数は平成十七年度から平成十九年度にかけて減少しているものと認識している。他方、平成十九年度に経済産業省消費者相談室に寄せられた苦情相談を分析したところ、ホームページリース等の、電話機類以外のリースに関する苦情相談件数が増加傾向にあると認識したことから、本年七月十一日に社団法人リース事業協会に対して、平成十七年十二月六日付けの指導文書に基づく取組のフォローアップを要請した。これを受けて、社団法人リース事業協会は本年九月二十四日に電話機以外の商品のリースに関する被害の防止に向けた「小口提携リース取引に係る問題事例と対応について」と題する対応策をとりまとめ、同月二十六日に同協会ホームページ上で公開したものと承知している。

二の5について

 経済産業省が平成十八年七月に行った株式会社メディアサポートに対する業務停止命令以降、電話機以外の商品を含めて、リース販売業者に対して特定商取引に関する法律上の行政処分を行った事例はない。

二の6について

 リース会社と個人事業主との間の電話機類リースに係る契約については、一見事業者名で契約を行っている場合であっても、主として個人用・家庭用に使用するためのものである場合には特定商取引に関する法律の適用があり、クーリング・オフや不実告知に基づく取消しによる民事救済の対象になり得るものと解している。
 一の1から4までについてで述べたとおり、電話機類リースに関する苦情相談件数は平成十七年度から平成十九年度にかけて減少しており、特定商取引に関する法律に基づく行政処分や、平成十七年十二月六日付けの経済産業省からの指導文書に基づき社団法人リース事業協会の会員各社に対する指導により実施された総点検等の取組は、電話機類リースに係る被害の拡大防止に寄与したものと理解している。

二の7について

 一の1から4までについてで述べたとおり、電話機類リースに関する苦情相談件数は平成十七年度から平成十九年度にかけて減少しているものと認識している。他方、平成十九年度に経済産業省消費者相談室に寄せられた苦情相談を分析したところ、ホームページリース等の、電話機類以外のリースに関する苦情相談件数が増加傾向にあると認識したことから、本年七月十一日に社団法人リース事業協会に対して、平成十七年十二月六日付けの指導文書に基づく取組のフォローアップを要請した。これを受けて、社団法人リース事業協会は本年九月二十四日に電話機以外の商品のリースに関する被害の防止に向けた「小口提携リース取引に係る問題事例と対応について」と題する対応策をとりまとめ、同月二十六日に同協会ホームページ上で公開したものと承知している。

三の1について

 御指摘のような対応があったかどうかの事実関係については確認できていない。なお、経済産業省においては、電話機等リースの訪問販売に係る事業に関する相談を受けた場合には、契約者が個人事業者であったとしても契約内容が個人用又は家庭用に使用するためのものである場合には特定商取引に関する法律の適用を受けること、また、リース事業に対して事前規制を行っている法令は存在しないという旨の回答をしているものの、消費者救済の観点から、その他の法令の適用が可能であれば、当該法令の関係機関を紹介しているところである。

三の2について

 消費生活センターにおける苦情相談については、それぞれの事案の具体的事実に応じ、関係法令等に沿って、適切に対応されるべきものと考える。
 また、特定商取引に関する法律においては、平成十七年十二月六日に実施した通達改正においてその旨を明確化したとおり、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売の場合における契約者の属性が事業者である場合を一律に同法の適用除外としているわけではなく、契約者の属性が事業者である場合であっても、契約の目的・内容が営業のためのものである場合を除き同法の適用対象としている。

三の3について

 特定商取引に関する法律は、事業者と一般消費者との間の取引の公正を確保することにより、一般消費者の利益を保護することを目的としており、事業者間の営業目的の取引の公正を確保することを目的とするものではない。平成十七年十二月六日に実施した通達改正も、同旨の観点にのっとり行ったものであり、契約者が事業者名で契約を行っている場合であっても、契約の目的・内容が個人用・家庭用に使用するためのものとなっている場合には、実態としては当該事業者は一般消費者に該当するものと解釈し、本法の適用対象であることを明確化している。一方、小規模事業者とその他の事業者との間の取引において、事業者間の営業目的の取引の公正を確保する観点から小規模事業者に対して何らかの法的な保護を図るか否かについては、小規模事業者を取り巻く取引実態を把握した上で、それらの取引にどのような影響を及ぼすかも含め、慎重に検討していく必要があるものと考える。