<第169回国会 2008年6月10日 農林水産委員会 第14号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 世界的な食料の逼迫問題は昨日、決算委員会で総理に質問いたしましたので、今日、これも本当に逼迫している問題ですけれども、畜産、酪農の追加対策について大臣にお伺いしたいと思います。五月の二十三日に大臣あてに申入れを行いました。その中身に沿って大臣に質問をしたいと思います。
 まず、乳価の問題です。今年の二月に加工原料乳生産者補給金が一円、そして飲用乳価は三円引き上げられたんですけれども、その後も配合飼料の価格は引き続いて高騰いたしまして、さらに燃料価格の急騰とそれから生産資材の値上げということで、酪農、畜産の経営が困難な局面をずっと続けてきている。とてもではないけれども、この一円とか三円ぐらいの値上げでは経営が継続できないという事態になっているわけです。生産コストの上昇に見合うように、補給金それから飲用乳価、抜本的に再度引き上げなければ酪農の経営は困難になっていると思うんです。
 そこで、大臣に生産コストの上昇に見合う乳価の再引上げをすべきではないかということについてお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(若林正俊君) 委員も今お話ございましたけれども、二十年度の加工原料乳の生産者補給金単価につきましては、配合飼料価格安定制度による補てんというものを踏まえまして、配合飼料価格について二十一年三月までの実負担額を織り込んで算定をしたわけであります。他方、配合飼料価格安定制度は、配合飼料価格の高騰が続く中で、財源などの問題から一部補てんの停止を検討せざるを得ない、言わば危機的なピンチの状態になっているのが現実でございます。
 このような状況を踏まえまして、加工原料乳の生産者補給金の単価につきまして、私どもはこれを見直しを前提に、六月十二日の食料・農業・農村政策審議会の畜産部会を開くことにいたしておりまして、そこでの御議論をいただきながら適切に判断をしてまいりたいと、こう思っているところでございます。
 なお、飲用乳につきましては生産者団体と乳業メーカーとの言わば民民交渉によって決定されるものでありまして、農林水産省が直接これに干渉はできないのでありますけれども、今委員が御指摘になりましたように、大変酪農経営が厳しい状況にあるという中で、加工原料乳の方も、我々、期中の改定をしなければならないのではないかというようなことから審議会で意見を聴取するつもりでいるわけでございますが、そういうような酪農経営の窮状ということにつきましても、乳業メーカーも言わば運命共同体でございますので、その辺の事情をよく承知をいただいて前向きな交渉がまた行われるということを期待しているところでございます。

○紙智子君 私どもも、安全安心な国産牛乳を生産する会というのがありまして、この会の方々から生産現場の実情をお聞きしました。
 千葉県で百五十頭搾乳している方は、昨年の生乳の一キロ当たりの経費というのが百八円だったんですね。それが手取り乳価で九十円程度だと。だから、生乳を搾るたびに赤字になるということで訴えられておりました。それに、ふん尿処理の施設ですね、これも借入金の償還や設備費を差し引きますと労賃が出てこないと。こういう声というのは、一部だけではなくて全国に共通する声であるというのは言うまでもないと思うんです。現に、昨年の四月から今年の四月までの一年間に酪農家が約千二百戸離農しているわけです。離農率は四十六都府県が六・六%ということですから、全国の平均の離農率五・二%よりも更に上回っていて、都府県というのが非常にそういう意味ではきつい状況になって、わけてもやっぱりきつくなっていると。
 このまま、乳価も引上げもせずに酪農家の経営困難を放置していれば、それこそ国民の需要に見合う乳価の供給も困難になりかねない事態だというふうに思うんですよ。ですから、大臣、やっぱりこういう事態に対してどのように大臣御覧になっておられるか、お願いいたします。

○国務大臣(若林正俊君) 大変厳しい環境の中にあるものと事態を認識をいたしているつもりでございます。

○紙智子君 それで、飲用乳価ですけれども、乳業メーカーと生産者団体との交渉で、民民ということはいつも言われることなんですけれども、政府としても飼料価格の続騰や燃料価格の高騰などを考慮した単価になるように再度の価格交渉を乳業メーカーに指導すべきではないかと思うんです。先ほどもちょっと触れられましたけれども、改めてその点、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) このような厳しい環境条件の中にありまして、生産者の側からは飲用乳向けの乳価の再引上げを求める声が強まってきているということは承知いたしております。
 各生産者団体におきましては、既に乳業メーカーに対して二十年度乳価の期中改定に向けた再交渉の申入れを行ったということも聞いております。乳業メーカー側も、酪農家が飼料価格の高騰などによりまして極めて厳しい状況にあるということについては理解しているものと思われます。そこで、農林水産省としては、生産者団体と乳業メーカーが認識を共有をして、我が国の酪農の安定的な発展のために前向きな交渉が行われることを期待しているところでございます。
 なお、農林水産省としては、この民民の交渉に直接干渉することはできないのでありますけれども、生産者団体と乳業メーカーが認識を共有できるように、また両方の願いが実現されていくためには製品価格への反映について量販店や消費者の理解が得られる必要があるわけでございまして、これらについての環境づくりというものを引き続き行っていきたいと考えております。

○紙智子君 ドイツも、生産者組合が引上げを求めてずっと一週間にわたる行動をやっているんですね。それで、政府の支持を取り付けて、それこそ、十六州の農業担当者ですね、ここの担当者に対してもずっと理解を求めて、乳価の引上げの要求を政府としても容認しているという記事が載っています。是非、そこのところは力を入れてやっていただきたいと思うんですが。
 次なんですけれども、配合飼料価格安定制度の問題です。
 この制度が飼料価格の長期の高騰を想定していない制度であるために今のままでは制度が破綻しかねないと、その見直しが求められているということですね。ところが、この間の新聞報道などによりますと、前向きの見直しということではなくて、今まで行ってきた生産者の実質的な負担の増加を前期の四%までに抑える追加補てんという補てんを廃止しようということになっているわけですね。これでは畜産・酪農経営を守るどころか経営を直撃するものになってしまうと思うんです。そういう検討はやっぱり中止すべきじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(内藤邦男君) そもそも配合飼料価格の今後の見込みを正確に予測することは、御案内のとおり大変難しいわけでございます。原料価格、それからフレートの動向等いろんな要素が絡んでくるわけでございますが、主な原料でありますトウモロコシのシカゴ相場の動向を見てみますと、やっぱりこの次の七―九月期も配合飼料価格は上昇する可能性は高いのではないかというふうに見込まれるわけでございます。
 このような中で、現状のまま今の通常補てんを継続しますとどういうことになるかと申し上げますと、補てん財源の不足額が更に拡大します。これはいわゆる借金でございますが、生産者サイドの借金が二千億円以上となるということが見込まれる状況にあるわけでございます。こうした中でこの特例的な四%の追加補てんを継続いたしますと多額の補てん財源の借入れを必要としまして、生産者等のこれは後年度負担ということになりますので、この後年度負担が極めて多額になります。また、価格への反映ということが進んでいる畜種にもこれは一律に補てんされるというふうな問題もございます。
 こうした状況を踏まえまして、農林水産省としましては、加工原料乳生産者補給金単価等の期中改定、それから経営安定対策の充実強化を図るということを前提にこの四%の追加補てんを停止することを検討せざるを得ないのではないかと考えている次第でございます。
 以上でございます。

○紙智子君 例えば、都府県の酪農をやっていらっしゃる方は配合飼料に相当頼ってやってきているわけですよね。ですから、その四%を抑える補てん金を廃止するということによって非常に大きな打撃を受けるというふうに思うんですよ。
 今言われたように、基金そのものは生産者、それから飼料メーカーですか、出し合って積んでいるわけで、その枠組みそのものを、結局国としても要するに出さないというわけですよね。だから、その枠をもっと広げればこれは続けられるんじゃないのかというふうに思うわけですよ。これ出さないから、今度どんどん借金が増えるという形になるんですけれども、国がもっとそこのところに出したらどうなのかなと思うんですよ。
 それで今、畜産・酪農関係からは、今のような長期にわたる飼料価格の高騰の下では現在の農林水産省の畜産・酪農対策では畜産・酪農経営は困難だと、やっぱり新たな経営対策を求める声が広がっているわけです。その要求のポイントは不足払い制度を畜種別に導入できないかという声です。
 酪農について言いますと、二〇〇一年の四月まで加工原料乳について不足払い制度が実施されていたわけですけれども、これが二〇〇〇年の法改正で現在の補給金制度になったわけです。二〇〇〇年に三万三千六百戸あった酪農家が二〇〇七年には二万五千四百戸ということで、二五%減少したんですね。つまり離農が急速に進行したということがあるわけです。それから、乳用牛の飼養頭数も二〇〇〇年の百七十六万四千頭から二〇〇七年になりますと百五十九万二千頭ということで、一割減っていることになっているんですね。この乳牛の減少が言わば現在バター不足の原因の一つにもなっている、基盤そのものが減ってしまっているということなわけです。
 結局、実需者のニーズを生産者に伝達をして需要の動向に応じた加工原料乳の生産を促進するというこの法改正の目的、ねらいそのものがこれ失敗したんじゃないのか、現実から見ると逆に酪農基盤を壊したんじゃないかというふうに思うんですけど、このことについての反省が求められるんじゃないのかと思うんですけど、いかがでしょうか。

○政府参考人(内藤邦男君) 今御指摘のとおり、加工原料乳の補給金制度は平成の十三年度から変わっておりまして、以前の不足払いから現行の方式になったわけでございます。
 その際にも様々な議論、いろんな議論が行われまして、以前の不足払いの算定方法というのは市場実勢が生産者サイドに的確に伝達されない、常に固定的な支払になってしまう、他方、そういう意味からしますと生産者の努力が報われないということが指摘されていたわけでございます。そういったこれまでの不足払いの問題点を踏まえて現行の加工原料乳の生産者補給金制度に変わりまして、そして生産者の努力が報われる、すなわち一定の補給金をあらかじめ算定をし、それを超える部分については生産者団体と乳業メーカーが交渉して自分たちの原料乳についての適正な評価を受けながらその所得を確保していくという方式に変わったものでございます。
 以上でございます。

○紙智子君 現実に、だけど実際に法改正してこんなふうに酪農家が減ってしまっているわけですね、頭数も減っているんですよ。これについてはどういうふうに見ておられるんですか。

○政府参考人(内藤邦男君) 酪農農家の廃業につきましては私どもも調査をいたしましたけれども、高齢化ですとか、そういったいろんな様々な個々の事情がございます。他方、そういった廃業する方がおられる一方で、規模を拡大し生産性を向上されて経営を伸ばしておられる酪農家もおられるわけでございます。
 そういった意味では、私ども、こういった生産者の努力が報われる制度を十分に活用していただいて、酪農経営を発展、伸ばしていただけたらというふうに思っているわけでございます。

○紙智子君 現実の姿にきちっとやっぱり目を向けて、それでそこに真摯にどうやってじゃ対策を取って、本当に続けられるようにするかということで考えていただかないと本当に困ると思うんですね。幾らやっぱりいろいろ言い訳をされても、現場の農業者というのは一番よく分かっていると思うんですよ。
 だから、全国農業協同組合中央会も、二十一年度以降の更なる飼料価格の高騰や飼料価格の高止まり等に対応するために、売上げ収入金額と生産コストに着目して所得を確保するように畜種ごとに抜本的な新たな経営安定対策を確立することと、こういう要望を上げているわけです。このような農業者の要望を真剣に検討すべきだと思いますけれども、大臣、これいかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 今の飼料価格の高騰の追い打ちを受けて畜産経営が大変苦しい状況になっているということについては認識を共有しているつもりでございますが、この場合の経営への影響というのはまさに畜種ごとに違うんですね。酪農、あるいは肉用牛、養豚、採卵鶏、ブロイラー、それぞれの飼料価格の高騰によって受けている経営上の状況がみんなそれぞれ違っております。
 そういう意味で、この飼料価格の財政補てんというのが非常に困難な状況を考えますと、やはりこれを、畜産を支えている経営の畜種ごとの経営の状況というものを実情をしっかりと把握した上で、それらについて有効な経営対策を講じていくということが今一番求められているというふうに認識をいたしておりまして、委員がおっしゃられるような形の不足払い制度といったようなもの、あるいはその差を補てんするといったようなことで対応をするよりも、やはり経営のそれぞれの状況に着目した経営対策を講じた方が有効だと私は考えております。

○紙智子君 その前提となる議論として、非常に国際的にも様々な今変化が起こってきていて、供給そのものも非常に求められてきている中で、延長線で、これだけやっぱり飼料が高くなるということは想定していなかったわけですから、そういう中で、実際に逼迫する事態になっている中で、やっぱり今までの枠ではなくて、延長線ではなくて、本当にここは私は政治決断というものが必要になっているというふうに思うんですよ。やっぱりそうしなかったら続かないです。もう今の時期を見てやめるかどうかということを決定しようとしていますから、そこをやっぱりしっかり見ていただいて対策を打っていただきたいということを最後に申し上げまして、質問を終わります。