<第169回国会 2008年5月20日 農林水産委員会 第11号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 バイオ燃料の法案について質問いたします。
 食料、飼料と競合しない地域の未利用資源を使い、そして地域循環型のバイオエネルギー生産を目指す取組は重要であって、それを支援することは必要だと思います。また、第二世代と言われるセルロース系の原料に関する技術開発を進めるということも必要だということでは賛成の立場なんですけれども、しかし、世界的には輸送用バイオ燃料の利用拡大が、市場原理に任せて拡大した結果、食料との競合や自然や生態系破壊の問題が生じていて、やっぱり慎重さが求められているということだと思うんです。
 これまでの法案の審議の中で大臣は、バイオ燃料への農産物の利用促進を進める際は食料、飼料と競合しないようにするという答弁がされているわけですけれども、法案の対象となる農産物に米、麦といった食用、飼料用の穀物も含まれるわけですよね。我が国の農政の最大課題は食料自給率の引上げであることは議論の余地がないわけですけれども、そこから考えますと、米や麦などの穀物は燃料に回すよりは食料や飼料にいかにするのかということを政策課題にすべきだと。というときに、なぜ米や麦などを対象に含めることにしたのか、これについてまずお答え願いたいと思います。

○政府参考人(吉田岳志君) バイオ燃料の生産拡大についての意義、あるいは食料と競合しない取組ということについては先ほど来議論の出ておるところでございます。
 今お尋ねの、食料と競合しないことが必要と考える中でどうして米や麦などの穀物を法案の対象としておるのかというお尋ねでございます。
 これは先ほどにもちょっと議論出ましたけれども、我が国ではこれまでバイオ燃料の本格的な取組実績がございません。こういった我が国におきまして、国産バイオ燃料の生産・流通体制を早急に整えるためには、現時点でエタノール製造技術が実用段階に来ています糖質やでん粉質の原料を利用いたしまして大規模実証を行うこと、これを通じまして、原料供給から燃料生産、そして供給までを含めた一貫したバイオ燃料の生産・供給体制を整備するということが急務となっております。このことは、それ自体の目的もございますけれども、将来のセルロース系の原料を活用した国産バイオ燃料生産の実用化を図る上で避けて通れない道筋であるというふうに認識をしてございます。
 なお、当然のことながら、その際には食用に向けられない非食用米ですとか規格外小麦などを用いることといたしまして、食料の安定供給には悪影響を与えないよう配慮をしておるということでございます。

○紙智子君 農産物を利用してバイオ燃料の生産を行う場合に、食料、飼料との競合を避けるためにはどういう基本方針を示すのかというのはかぎになるわけです。基本方針で、食料、飼料と競合を避けるためにどのような条件を付けるのかということをまず具体的に示してほしいということが一つです。
 もう一つ、現在既にモデル実証事業ということで、先ほど来議論もあるわけですけれども、飼料米やMA米を利用したバイオ燃料製造が農水省などの補助金を受けながら進められているわけです。法案にあります連携事業計画、この連携事業計画で、米を原料とする計画が出された場合には認定するかどうかというような判断基準というのは一体どうなるのかということなんですけれども、この二点、お願いします。

○政府参考人(吉田岳志君) お答え申し上げます。
 まず最初の、食料と競合しないということを基本方針でどのように定めることとしておるのかというお尋ねでございます。
 法律案に基づき定めます基本方針の中で、当面はエタノール製造技術が実用段階にある糖質あるいはでん粉質の原料を利用しますが、この場合にあっても食料や飼料の用途には供されない糖みつなどの副産物や規格外の農産物を利用することとし、中長期的には食料や飼料の需給に影響のない稲わら、間伐材などのセルロース系原料や耕作放棄地などを活用して作付けられた資源作物を利用すること、これを基本として制度運用を行っていくということを基本方針の中で明記をするというふうに考えております。
 二つ目の、既に始まっております米を原材料とする事業、こういったものを生産製造連携事業計画の認定の際にどういった判断基準で認めていくのかということでございます。
 生産製造連携事業計画の認定に当たりましては、これは法律の中に書いてございますが、当該事業の目標、内容などが基本方針に照らし適切であるかどうか、二つ目といたしまして、当該事業の内容や資金計画などが事業を確実に遂行するため適切なものであるかどうか、こういった点を確認するというふうになってございます。これを米を原材料として利用する場合に当てはめてみますと、基本方針に明記する食料及び飼料の安定供給の確保のために配慮すべき重要事項、これが基本方針に書かれますが、その重要事項に照らして適切なものかどうか。それから、原料調達や燃料製造コスト面等から見まして事業内容が適切であるかどうか、実際にそれで事業が運営できるかどうかといった点ですね、こういったことを確認することになろうというふうに考えております。
 ただ、いずれにいたしましても具体的な判断基準はこれからでございまして、法律の施行までに関係者の意見を踏まえまして基本方針において定めてまいりたい、このように考えております。

○紙智子君 耕作放棄地や減反で作付けしていない農地を、どのようなものであってもこのバイオマス生産ができるように耕地に戻すということはこれは必要だと思うんですが、しかし、もし米作りが復活できるのであれば、これも先ほど来議論があるところですけれども、まず食料や飼料に利用できるように誘導、支援すべきではないかと思うんです。
 飼料用米と稲発酵粗飼料を水田四十万ヘクタール生産すると自給率が一一・五%アップするという推計がされているわけです。それから、小麦需要を米粉に代えるということで自給率を上げていくというような取組もされているわけです。日本の農地に、食料需要を賄った上で燃料需要にもこたえるような余裕があるのかと。米を安易にバイオ燃料の原料とすることは私は認めるべきではないというふうに思うんですけれども、これについて大臣、お答え願います。

○国務大臣(若林正俊君) 耕作放棄地は約四十万ヘクタールあるわけですけれども、様々な賦存状況になっております。いろいろ調査が行われているわけですけれども、今年からもう一筆ごとに全部悉皆的に調査をしようと、そして、どういう利用が可能かということを関係者相寄って相談して利用促進を図っていこうと。中にはもう林地に戻すしかないかなというようなものもかなりあるんではないかというふうに聞いておりますが、できるだけ林地に戻すというようなことを避けて、せっかく耕地として利用していたものについては、作物が作付けできるような、それに適するような作物を考えていくというようなことが必要なんではないかというふうに考えているわけでございます。
 水田については、今なら米は作れるといったような場合も、その米を主食に回していくというようなことであると、御飯というのはもう腹いっぱいという状況になっているわけですから、それは自給率を高めることにならないんですね。まあ輸出すれば別ですけどね。ところが、輸出はもうコストの面でなかなか通常の輸出は難しいと。こういう事情にありますから、他の作物あるいは御飯としての主食用の米以外の利用方法を考える、そういうことしか今置かれているところで道がないわけでございます。
 ですから、耕作放棄地を農用地に利用していくという場合はもちろん食料それから飼料、えさですね、この生産をしていけるところは生産をしていくことが合理的であるというふうに考えているわけですけれども、労働力がないなどの理由によりまして、食品として利用可能な高品質作物の生産が困難であるというような場合とか、あるいはえさについていえば近隣に畜産農家がなくて、飼料を生産しても長距離輸送などが必要となってとても価格競争力がないとか、そういうような事情のある耕作の放棄地というようなものは、一方でこういうバイオ燃料の原料作物を作付けすることが可能である限りそちらをまた作付けをしていくと、そういう考え方で仕分をして進めていくというふうに考えているわけでございます。

○紙智子君 大臣はセルロース系への移行を強調されているわけですけれども、危惧を覚えるのは農水省の広報誌で「あふ」、農業、林業、水産業の頭文字、AFF、「あふ」っていうこの雑誌、これ去年の二〇〇七年の一月号なんですけれども、この中に、未来のエネルギーは水田、畑から生まれるというところがあるんですね。御存じかなと。

○国務大臣(若林正俊君) 知りません。

○紙智子君 ああ、そうですか。
 それでこの中に、東大の小宮山宏総長がバイオ燃料の原料としてアジアの米生産のコストは安いからペイすると。で、アジアの水田に着目をして日本も協力してやっていくべきだというふうに述べていて、これに対して、アジアは水田が一番基盤ですからこれを生かしていく、そのとおりだというふうに当時の農水大臣が答えているわけです。
 それで、アジア地域での米のバイオ燃料化の促進ということは、これはちょっと今のこの議論からいいますと農水省の方針じゃないんじゃないかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。大臣、お願いします。

○国務大臣(若林正俊君) 今の時点で申し上げさせていただくと、農林省の方針、これが大臣の方針であるとすれば、そういう方針でありません。大臣だけではなくて、先般、アジアの諸国でバイオ燃料にどう取り組むかというセミナーを、会議を開きました。そのアジア諸国の皆さん方に、私どもが設営したわけですけれども、私どもが申し上げましたのは、やはりこのバイオ燃料は日本はこういう形で食料生産と競合しないセルロース系のものに進んでいくんだというお話をしまして、これはタイ・バンコクで行いました会議なんですけれども、そこでディスカッションをしたわけですが、パームオイル、パームとか、そのパームヤシのかす、かすっていうかオイルを取った後のものだとか、いろいろ利用の道はあるなと、アジアの中でもそういうようなセルロース系のものを利用する道はあるということについて理解も深まっておりまして、そういう課題に取り組む場合の政府間協力について話合いをしたところでございます。そこで、食料の安定供給に最大の注意を払いながらバイオ燃料政策を進める必要があるという、そのことについては共通の認識、共通の意識の醸成が図られたというふうに担当者から聞いております。
 我が国がやはり世界にアピールしていくにはそういう姿勢をアジア地域、足下のアジア地域の皆さん方にもそのことをアピールしていくという姿勢で臨むべきだと思っております。そういう公式の会議を開いて進めておりますから、その一月のは私承知しておりませんでしたけれども、お答え申し上げました。

○紙智子君 分かりました。
 あと、北海道で進められているモデル実証事業なんですけれども、これ私も行って話を聞いてきました。北海道ではこの間、てん菜の生産抑制が畑作の輪作体系の維持にとって大問題ということで、動機というか、そこら辺もあるということなんですけれども、そのために交付金の対象外のてん菜などを使ったバイオ燃料の生産に活路を見出そうということで取り組んできたわけです。
 その中で、道内の原料を使って道内で燃料として消費する地域循環型、地産地消を目指してやってきているんですけれども、現在建設中の工場の規模でできるバイオエタノール一・五万キロリットル、これをE3として道内で消費するというのは無理だということなんですね。それで、ETBE原料として売るしかないということで、さっきも山田議員がお話しになっていましたけれども、温暖化対策ということが一方で言われながら、結局、北海道から神奈川まで輸送するということになるとこれはどうなのかなというふうに思うわけです。それで、現在は輸送経費も助成があるんですけれども、これ五年まで、五年間の限りと。自立経営となったときに、果たして採算が取れるのかという問題もあるわけです。
 そういうことも考えますと、やっぱり計画を認める基準の中に地域循環とか地産地消とか、それが可能な適正規模という視点といいますか、それも入れるべきではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 資源循環というのはまさに循環型社会が基本であるべきだという理念、思想から見てもそうでありますし、まさに農林漁業というのは大きな自然循環の中に営まれる産業であってほしいと思うんです。
 ただ、でき上がった製品については、地産地消で賄わない、外に出ていくような、エタノールなんかもそうですけれども、実はこのバイオのできてきた中で、プラスチックのようなそういう原料もできるんですね。だから、できた製品は、そういう科学技術の進歩あるいは実需の変化というようなことの中で、もっともっと広い範囲のマーケットというのが期待される場合も出てくるということがありますから、法律制度として地域循環の中のものであることというふうに決め付けるんではなくて、やはり地域循環ができて地域でこれが利用されるということが望ましいというような考え方というのはあると思うんですけれども、それが更に広がって利用されたら駄目なんだというところまで縛ることはないんじゃないかと私は思っております。
 なお、E3とETBEの話、これは私環境大臣のときに大変に苦労したんですよ。それで、経済産業省・エネルギー庁は必ず説得すると私には言っておられたんですね。ところが、石油連盟の方は説得に応じないということがありまして、ガソリンを売らないよという話になってくるわけですね。だから、宮古でもそうですし大阪も苦労するんですが、ガソリンを売ってもらえなければエタノールだけで走らせるというわけにはいきませんからね、ガソリンと混合するという意味で、ETBEであれば幾らでも供給しますよというような話があるんですよ。
 私は、ここはやはり産業政策としてきちっと話を詰め、どっちもいいんですよ、いいんだけれども、どっちもいいというにはガソリンを売ってくれるということを待ってどっちもいいというふうにならなきゃいけない。ガソリンを売らないということになりますと、ETBEに行くしかないわけですね。その辺はやはりしっかりと調整をし指導をしていかなきゃいけないんじゃないかと環境大臣のときにしみじみ思っておりまして、それは鴨下大臣に引き継いでいるところでございます。
 しかし、なかなか力の強い企業のようでございまして、これでやると危険があるとかいろいろあります。ところが、この間決算委員会で経産大臣は、品確法ができたらそういう問題も調整できてうまくいくはずだと、こういうことを言ったでしょう。だから、そういうことに期待しております。

○紙智子君 経産省に、じゃ、お呼びしていますのでお聞きします。
 我が国のバイオ燃料政策について、食料、飼料とは競合しない、環境負荷も考慮すると言うんだけれども、その理念を輸入バイオ燃料にまで及ぼす必要があると。現状では二〇一〇年までに五十万キロリットルという目標なんですけれども、圧倒的な部分を輸入に依存しなければならないというのは否定できないと思うんですね。
 バイオ燃料の製造に、食料への影響だけじゃなくて、生態系やあるいは水資源や児童労働の問題や小農民からの農地の取上げの問題など様々な問題の指摘があります。五月二日の東京新聞でも、「バイオ燃料が生物絶滅招く」と、「多様性条約事務局が警鐘」という報道がされております。
 バイオ燃料の輸入に当たって、環境、生態系、社会影響を回避する措置が必要じゃないかと思うんですけれども、この点についてお願いします。

○政府参考人(北川慎介君) お答え申し上げます。
 京都議定書目標達成計画におきまして、ここで五十万キロリットルの目標が掲げられてございます。しかしながら、委員御指摘のとおり、当面は輸入に頼っていかなければならないと、こういう状況でございます。
 この原油換算五十万キロリットルという量、これにつきましては、世界的に見れば非常に微量でございますけれども、今後大規模になってくるとすれば、いかに輸入とはいえ、委員御指摘のような生態系あるいは社会、様々な環境について考慮しなければならない時期は必ず来るというふうに思ってございます。
 したがいまして、私どもといたしましては、世界のいろいろな議論を十分見極めながら、バイオ燃料の導入は状況を見極めて段階的に進めていきたいと考えてございますし、特に食料との競合という大変最近議論になっている点につきまして、これにつきましては、特にセルロース系バイオエタノールの開発、これを進めていくべきだと考えてございます。何度もこの委員会で先ほどから御説明がございますけれども、農水省さんと連携しまして、バイオマス燃料技術革新計画を取りまとめてございます。これに基づきましてセルロース系バイオ燃料の技術開発を進めていきたいと、かように考えてございます。
 いずれにいたしましても、関係各省と連携しながら、それぞれの課題をきちんと押さえて導入に取り組んでまいりたいと考えてございます。

○紙智子君 ブラジルでは日本の輸入に期待を寄せて生産拡大を図ろうとしているわけですけど、サトウキビの生産拡大に伴って大豆の生産地が移動して、それが熱帯雨林の破壊につながっているという懸念がされているわけです。五十万キロリットルだったらまだ影響はないという、そういう問題ではないわけですよね。
 EUは、自然環境や地域経済や社会への影響を考慮する必要から、厳格な遵守事項を定めるということが検討されているわけです。我が国もやはり食料の需給と競合しない植物資源に限定する、国内産・地域産の資源を優先的に活用する、生産、加工、流通、消費のすべての段階で環境を悪化させない持続的な方法を採用するとか、新たな環境破壊を引き起こさないためのガイドラインというのは必要だし、我が国もそれを検討するべきではないかということを最後にお聞きしたいと思います。これ、経産省と農水大臣にも一言ずつ言ってもらって、終わりたいと思います。

○政府参考人(北川慎介君) 今御指摘のとおり、バイオ燃料の導入に当たりまして、食料との競合、森林破壊あるいは生態系への悪影響と、こういったことが指摘されてきているところでございまして、特にEU当局におきましてもそのような方向で議論がなされているということを承知してございます。
 私どもといたしましても、いたずらにバイオ燃料の導入を急ぐということではございませんで、様々な関係に配慮しながら段階的に導入を図っていきたいと、かように考えてございます。

○国務大臣(若林正俊君) 私の信念的にお話を続けてきたわけでございますけれども、これは環境配慮型の事業としていかなければならないというベースは当然でございますが、それを何か今、基準に、基準のようなこと……

○紙智子君 ガイドライン。ガイドラインですね。

○国務大臣(若林正俊君) ガイドライン。やっぱり、まだインファントで、これから始まるところですから、やはりよく相談をしながら進めていかなきゃいけないと思うんですよ。国の方でこうだと、こうだと言ってやるほどまだ私は成熟度というものができていることじゃないんで、やっぱり研究開発から始まって実証実験と、そういうものを通じながら進めていくという意味で、すぐさまガイドラインを作るということは、今私は念頭にございません。

○紙智子君 終わります。