質問主意書

質問第一一〇号

サンルダムに関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年四月十七日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<サンルダムに関する第三回質問主意書>


 私は、先国会、今国会あわせて、サンルダムに関して、三回の質問主意書を提出したが、治水及びサクラマスへの影響などダム建設の前提としての基本的かつ重大な問題について、なお十分な政府答弁は得られていない。
 そこで、これまでの答弁をふまえ、以下質問する。

一 治水について

 天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)では、「戦後最大の洪水流量により想定される被害の軽減を図ることを目標」としており、これまでの戦後最大規模の主要な洪水で名寄川においては破堤、決壊は起きていない。こうした事実がありながら答弁書では具体的根拠を示さないまま、「流量が河川の流下能力を超えることとなるため、破堤が起きていないとしても破堤のおそれがある」との答弁に終始している。
1 整備計画で「戦後最大の洪水流量により想定される被害の軽減を図ることを目標とする」ためには、これまで破堤、決壊、越水した箇所で未整備な地点を優先して整備すればよいのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 整備計画では、誉平の目標流量を実績流量と岩尾内ダムの洪水調節量と氾濫量を戻してもとめた毎秒四千四百立方メートルと記述している。答弁書では名寄大橋と真勲別の目標流量を実績流量ではなく、地域の気象を持ち出した根拠を明らかにしていない。誉平では実績流量を目標流量にしているものの、真勲別と名寄大橋で地域の気象を考慮しなければならない根拠を示すとともに、実績流量を用いない理由を示されたい。
 また、天塩川流域委員会に出された資料では、名寄川のサンル川合流点における目標流量は毎秒六百五十立方メートルであり、サンル川の目標流量は毎秒四百五十立方メートルとしている。したがって、真勲別の目標流量は毎秒千百立方メートルに真勲別地点までの名寄川の支川の目標流量を加えたものとなると考えるが、真勲別の目標流量が毎秒千五百立方メートルとなる根拠を説明されたい。
3 (一) 下川町三の橋地先名寄川頭首工付近の外水氾濫については、下流部河床掘削や左岸堤防の補強では全く解決できない事例である。
 名寄川では、この地点付近より上流部は右岸・左岸とも無堤であり二〇〇六年十月八日の水害では、増水で頭首工河川横断工作物が水没したため上流水位がせり上がり、より多くの外水が農地と民家に押し寄せた。民家は緊急出動による土嚢積みで、床下浸水に止めた。
 この時の現場水害写真は、北海道開発局(以下「開発局」という。)が広報資料の一部に使用し多くの流域住民に配布までしているものだが、この地点の被害状況とその原因をどう把握しているのか、説明されたい。またその原因に即した適切な治水対策について示されたい。
(二) 音威子府村筬島地区は、答弁書によると、内水氾濫対策として排水機場設置の予定はないが「今後の災害の発生状況等に応じて必要な対策を検討する」としている。こうした姿勢ではこれまでの被害を黙認し、原因究明も具体的対策もとらず、再び大規模な内水氾濫に住民をさらすことになる。筬島地区の被害は想定される被害ではなく、現実にある被害であり、具体的改善策もとられず今日に至っているという事実を政府はどう認識しているのか。これまでの被害状況、原因及び適切な治水対策を現地名寄河川事務所から直接、地域住民に説明すべきではないか。
 また、村保有の排水ポンプ数と機能では不十分であり、さらにこれまで名寄河川事務所からのポンプ車等の出動もなかった事実からみても、排水機場設置は不可欠と考えるが、政府の認識を示されたい。
4 水害統計によれば、昭和四十八年、昭和五十年及び昭和五十六年の天塩川における水害被害額は二十四億円から七十億円となっている。そこで、サンルダムの費用対効果はどう算出しているか、1/100確率のサンル川天塩川間の想定被害額を算出根拠とともに説明されたい。

二 非かんがい期の正常流量の設定値について

 答弁書では「河川における魚類生態検討会の報告書においては、魚類の遡上及び降下に必要な水深を体高の約二倍を目安とすること等が示されている」と述べており、水深が三十センチメートル必要であるとの答弁と合わせると、サケ類の体高は約十五センチメートルということになる。
1 確かに遡上する親魚の体高はその程度であると考えられるが、冬期に親魚は遡上しない。検討会報告には、冬期にサケの卵・稚仔魚に必要な水深が三十センチメートルと書いているが、冬期に存在するのは卵もしくは稚魚なので、水深が三十センチメートル必要という根拠はない。同検討会報告には冬期のサクラマス・ヤマメの卵・稚仔魚については必要水深を十五センチメートルとしており、体高の二倍という目安からすれば十五センチメートルもあれば十分ということになる。検討会報告が「サケの卵・稚仔魚に必要な水深が三十センチメートル」とした根拠を明らかにされたい。
2 前回、非かんがい期になぜ毎秒五・五立方メートルもの多い流量が必要なのか質したのに対し、「これ以上の流量が頻繁に観測される」との答弁は、質問の意味を理解していない。正常流量は、これ以上の流量が必要という意味である。非かんがい期に毎秒五・五立方メートル以下の場合も多くあると考えられ、そのことによってサケ類に影響を及ぼしたとの報告もないにもかかわらず、なぜ毎秒五・五立方メートル必要なのか、説明されたい。
3 答弁書にあるように「渇水によりヤマメの生息数が低くなった事例については把握していない」のならば、今までの渇水流量でもヤマメには影響しないので、特段に毎秒五・五立方メートルとする根拠はないのではないか。一九六八年から二〇〇二年までの一月から三月における月平均流量のうちもっとも少ない流量の経年変化を調べてみると、一九八〇年代半ばには毎秒二立方メートルから四立方メートルの流量であるが、近年は毎秒五立方メートルから六立方メートルとなっている。一九八〇年代半ばにサケが減少したという記載もなく、近年をみると整備計画で述べられている正常流量がほぼ達成されている。正常流量を維持するためにダムが必要という根拠はないとみられるが、政府の見解を示されたい。
4 答弁書では、正常流量を決めた根拠として、サケ・マスの生息のためではなく、「流水の正常な機能の維持を図るために必要」と述べている。それでは具体的にどのような根拠で非かんがい期に毎秒五・五立方メートルとしたのか、明らかにされたい。
5 答弁書では「正常流量の設定に当たっては、上名寄頭首工からの取水量については、現在の水利権による取水量を考慮している」としているが、現在の水利権が増加したのではないのに、なぜ現状の1/10渇水流量を約二倍とする正常流量としたのか、根拠を示されたい。

三 サクラマスへの影響について

 答弁書では、二風谷ダムの魚道について、「北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会」における評価に基づいて「サクラマスの遡上及び降下の機能を確認している」と述べている。フォローアップ委員会報告書では、結果について「一日平均〇・五尾遡上し、降下については確認されている」と述べ、その評価は「遡上について魚道は有効に機能し、魚類の資源維持に大きな役割を果たしている。降下について経年的に魚道により降下していることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」と述べている。
1 (一) サクラマス親魚が一日平均〇・五尾(年平均六・一尾)遡上することが魚類の資源維持に大きな役割を果たしていることの根拠が示されていない。〇・五尾という数の評価とその役割について説明されたい。また、サクラマスの資源維持に大きな役割を果たしているならば、サクラマスの子どもであるヤマメの生息密度がダム建設前後であまり変化しないことが期待されるが、その点については触れていない。なぜ言及していないのか、説明されたい。
(二) 北海道栽培漁業振興公社による報告書では、サクラマスの幼魚スモルトの降下について「八十二パーセントが発電水路を経由して降下して、魚道を降下するのは一パーセントにも満たなかった」と述べている。にもかかわらず、なぜフォローアップ委員会が「降下について経年的に魚道により降下していることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」として公社の報告書と異なる評価を行ったのか。
 また、フォローアップ委員会委員のうち魚類の専門家は北海道栽培漁業振興公社関係者だが、同公社は開発局の委託を受けて二風谷ダムの魚類への影響を調査している。公社に関係している委員が、公社による調査結果を評価すること自体、公正な評価とはいえないのではないか、政府の見解を示されたい。
(三) 答弁書では「沙流川水系に生息すると推定されているサクラマスの数の増減によって、二風谷ダムに設置した魚道の降下の有無を確認できるものではないと考えている」としているが、魚道の効果はサクラマスが魚道を遡上または降下している事実が把握できれば十分と考えているのか。一般には、ダム建設前と比べて遜色ない程度の資源が維持できれば魚道の効果があるとするのが妥当と考えるが、魚道の効果をどのように考えているのか、政府の見解を示されたい。
(四) 二風谷ダムでは、調査のため平成九年から毎年標識放流魚を一万匹前後も放流している事実を考慮すると、現在みられるサクラマスは主に放流魚及びその世代交代ではないか。遡上魚のうち天然魚と標識放流魚の割合及び標識放流魚の回帰率について説明されたい。
(五) 標識放流魚を多量に放流するこのような調査を今後も継続することは減少した原種サクラマスをさらに絶滅へと追いやることになることが懸念される。また、ダム下流で産卵するサクラマスへの交雑の影響も考えられる。したがって、二風谷ダムや美利河ダムなどダム養魚場飼育サクラマスの放流調査はただちに止めることが必要と考えるが、政府の見解を示されたい。
2 (一) 答弁書では、「サクラマスの遡上及び降下の機能を確保するための恒久的対策の効果については、専門家会議の意見も踏まえて、暫定水位運用の期間に十分把握・検証する」としている。開発局は専門家会議に「ダムを建設して暫定水位運用の期間に魚道の機能を十分把握・検証する」という考え方を示し、専門家会議の理解を得ているのか。
 また、前回、「恒久的対策の効果が把握されなかった場合の対応について、明確に答弁されたい」と質したのに対し、答弁書では「暫定水位運用の期間に十分把握・検証する」としか述べていないが、十分把握・検証した結果、サクラマス保全ができないと判断されたときには、ダムをとり壊すことになると理解してよいか明らかにされたい。
(二) 「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」は三回目を終了し、すでにサンルダムなど魚道の構造と機能について検討を始めているが、同会議の最大の問題点は天塩川をよく知る専門家がほとんどいないことである。そこで、会議の中に住民や環境団体に発言の機会を与え、委員と意見交換する場を設けるべきだと考えるがどうか。

四 開発局のサンル川におけるサクラマス産卵床調査について

 第八回天塩川水系流域委員会資料「天塩川の河川整備計画策定段階における環境への影響を含めた総合的な分析とりまとめ」第六章によると「平成十四年・十五年について分析すると、湛水やダム堤体によって影響を受ける産卵床の数は、サンル川流域全体の産卵床の数の一〜四パーセントであると推定されることから、影響は小さいと予測される」とある。しかし、開発局は平成十二年以降、毎年サンル川において産卵床調査を行っているが現在まで流域全体の調査は行っていない。
1 開発局の調査は、一ヶ月以上行われるサクラマスの産卵の間にわずか一回から二回しか行わず、地元住民が産卵を確認しているいくつかの場所についての記載もなく、十分な精度をもった調査に基づいた定量的な影響評価とはいいがたいものである。このような調査方法への批判をどう受け止めるか。
2 開発局は平成十二年から平成十七年の産卵床調査の結果、常時満水予定域年平均二十四箇所、常時満水予定域から五穀橋間は年平均三十一箇所とした。しかし、地元環境団体の熟練者、調査経験者、学者研究者などが調査対象区域を六区画に分け、平成十八年九月一日から十月一日の間、各区間を週一回、計五回調査した結果(以下「民間調査」という。)、ダム常時満水域で二百六箇所、常時満水域から五穀橋間で百五十六箇所となり、ダム管理区間の合計では三百六十二箇所になった。同年の開発局調査では、ダム常時満水域で四十五箇所であり、約五倍の差がある。なぜこのような大きな差が出る結果となったか、政府の所見を示されたい。
3 開発局調査と民間調査との産卵床分布の不一致場所は、サンル川支流からサンル川本流に流れ込む合流地点やその下流であり、支流からの砂利・礫の供給が多く産卵床出現の多い場所でもある。また、上流部河床が岩盤のため砂利・礫がとどまれず、その下流部で一定量の堆積があり産卵場所適地となっている場所もある。なぜこれらの場所で開発局調査の産卵床が少ないのか、原因を明らかにされたい。また、サンル川流域全体も含め再調査による評価が必要と考えるが政府の所見を示されたい。
4 民間調査では常時満水域で二百箇所以上の産卵床を確認している。仮にその数が開発局の述べるサンル川流域全体の一パーセントから四パーセントに相当すると考えた場合、サンル川には七千五百から三万尾余のサクラマスが遡上していることになる。開発局が平成十一年から十六年までの親魚の遡上量を四百十から二千九百二尾(平均千八百九十七尾、二〇〇六年)と推定していることから考えても十倍以上であり、この値は非現実的である。開発局のいうダム湛水域の出現によるサクラマス産卵床消失の影響は過小評価していると考えられるが、政府の所見を示されたい。
5 ダム建設がサクラマスに与える影響は、親魚(河川残留の成熟ヤマメ含む)の遡上阻害・産卵床の喪失・スモルト(幼魚)の降下阻害など累積的影響として現れる。二風谷ダムではすでに調査されている資料などから、累積的影響は九十パーセント以上であると推測される。スモルトが降下し、再び遡上して九十パーセントの累積的影響を受けるのでダム上流の原種サクラマスはすでに絶滅に瀕していることが容易に考えられる。現在の技術水準では美利河ダムや今後サンルダムについてもサクラマスの絶滅が考えられるが、政府の所見を示されたい。また、事前にダム建設のサクラマス資源への影響を評価する方法の重要な一つとして、累積的影響を正しい調査に基づき評価すべきと考えるが、政府の所見を示されたい。

五 建設費について

1 流域委員会で示されたバイパス方式は、「ダム湖上流でスモルトを集魚し、湖岸沿いに設置した開水路や管路により、ダム湖堤体下流まで誘導する方式」と記載されている。美利河ダムで採用されているのは、ダム下流からの魚道をチャウシュベツ川というダム湖上流の河川とつないだものであり、流域委員会で示されたバイパス方式と別のものである。前回の「すでにバイパス方式を採用しているダムがあればいつから実施しているか示されたい」との質問は、流域委員会で示されたバイパス方式について質したのであり、これについて改めて説明されたい。
2 答弁書では、堤体工に係わる費用は約五十二億円とあるが、その算出根拠、特に堤体工の体積と体積あたりの費用を示されたい。

六 住民、自然保護団体への説明責任について

 昨年はじめに行われた住民等への説明会は、時間が不足して開発局が十分な説明責任を果たしたとはいえない。「住民等への説明会の開催等により、今後とも引き続き理解が得られるよう努力する」との答弁なので、早急に住民等への説明や意見交換会を開催すべきである。具体的に住民等からの要望があれば説明や意見交換会を開催するのか、答弁されたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第一一〇号

内閣参質一六九第一一〇号
  平成二十年四月二十五日

内閣総理大臣 福 田 康 夫   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出サンルダムに関する第三回質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出サンルダムに関する第三回質問に対する答弁書>


一の1について

 河川整備に当たっては、治水上の安全性を確保するため、水害の形態及び氾濫域の状況のみならず、本支川及び上下流のバランス等を考慮し、水系全体として適切にバランスのとれたものとなるよう実施することが重要であると認識している。

一の2について

 第一回答弁書(平成十九年十二月二十八日内閣参質一六八第一○○号)一の2について、第二回答弁書(平成二十年二月五日内閣参質一六九第一一号)一の2の(二)について並びに第三回答弁書(平成二十年三月十一日内閣参質一六九第五九号)一の1について及び一の2についてで述べたとおり、天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)における目標流量は、流域全体の効果的な河川整備を実施するために、河川法施行令(昭和四十年政令第十四号)第十条の規定に基づき、実績流量のみならず、地域の気象、開発の状況等を総合的に考慮して設定したものである。
 また、御指摘の「天塩川流域委員会に出された資料」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、真勲別地点における目標流量は、サンル川合流前の名寄川の流量である毎秒約六百五十立方メートルに、サンル川及びその他支川の流量の合計である毎秒約八百五十立方メートルを加え、毎秒千五百立方メートルとしたものである。

一の3の(一)について

 御指摘の「二○○六年十月八日の水害」では、下川町三の橋上流で農地等の冠水が発生したが、これは名寄川の流量が流下能力を上回り、当該地付近で溢水したことが原因である。このため、必要な河道を確保することが有効であり、第三回答弁書一の3の(一)についてで述べたとおり、整備計画で定めたとおり、河道掘削等を行うことが適切であると考えている。

一の3の(二)について

 音威子府村筬島地区では、近年では平成十三年九月八日から十二日までの洪水及び平成十八年五月十日から十一日までの洪水で、内水の氾濫があったことを確認しており、当該氾濫は、筬島地区の降雨量が多かったこと等に加え、天塩川の水位が高く排水できなかったことが原因である。天塩川の内水対策としては洪水時の水位の上昇をできるだけ抑えることが有効であることから、整備計画においては、本支川及び上下流のバランス等を考慮しつつ、サンルダムの建設及び河道掘削等を行うこととしている。また、筬島地区については、内水の氾濫の状況に応じて、第一回答弁書一の3についてで述べたとおり、河川管理者等が保有する排水ポンプ車等を活用し内水排除を行うこととしている。さらに、第三回答弁書一の3の(二)についてで述べたとおり、現在、筬島地区に排水機場を設置する予定はないが、今後の災害の発生状況等に応じて必要な対策を検討することとなる。このような考え方については、必要に応じて地域住民に説明してまいりたい。

一の4について

 平成十九年度に実施したサンルダム建設事業の再々評価においては、サンルダムを建設することによるサンルダムの費用対効果の値は、治水に係る便益である九百六十二億円を治水に係る費用である五百九十九億円で除して約一・六と算出している。
 お尋ねの「1/100確率のサンル川天塩川間の想定被害額」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、洪水時に発生する被害を軽減する便益を算出した際には、三日雨量としての発生確率百分の一の雨量の場合におけるサンルダム建設事業の実施前の想定被害額については、昭和四十八年八月十七日から十九日までの降雨パターンの降雨により、再々評価時点における河道条件で洪水が発生することを想定し、サンル川天塩川間を複数の区間に分け、その区間ごとに発生すると想定される最大の被害額を合計し、約六千九百億円としている。

二の1について

 「河川における魚類生態検討会」(座長:水野信彦愛媛大学名誉教授)においては、専門知識を有する学識経験者等の委員が、小林哲夫著「サケとカラフトマスの産卵環境」などの既往文献等を参考にしつつ、サケの卵・稚仔魚の保全に必要な水深を三十センチメートルとすること等を内容とする報告書を取りまとめたものである。

二の2、4及び5について

 第一回答弁書二の1についてで述べたとおり、名寄川真勲別地点における九月から四月までの非かんがい期の正常流量(漁業、流水の清潔の保持、動植物の生息・生育地の状況等を総合的に考慮して定められた維持流量及び流水の占用のために必要な水利流量の双方を満足する流量をいう。以下同じ。)は、サケ、マスの産卵等に必要な水深及び流速を考慮した流量である毎秒四・八立方メートル並びに工業用水と上水の取水のために必要な流量である毎秒〇・七立方メートルの合計である毎秒五・五立方メートルに設定している。

二の3について

 御指摘の「近年をみると整備計画で述べられている正常流量がほぼ達成されている」の根拠が必ずしも明らかではないが、平成五年から平成十四年までの十年間では、名寄川真勲別地点における一日の平均流量が正常流量を下回る日数は、年間最大で百七日、最小で二十日発生しており、流水の正常な機能が維持されるよう、正常流量を確保するために、整備計画に基づきサンルダムを建設する必要があると考えている。

三の1の(一)について

 沙流川水系二風谷ダムの魚道については、北海道開発局が行ったサクラマスの遡上調査等の結果により経年的に遡上していることなどから、魚類の資源維持に大きな役割を果たしていると評価したものであり、当該評価については、学識経験者からなる「北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会」(以下「フォローアップ委員会」という。)において、一日平均約〇・五尾遡上していることを示した上で、了承されているものである。
 また、ヤマメの生息密度の変化については、様々な要因の影響が考えられることから、ヤマメの生育密度だけをもって魚道の役割を評価するべきものではないと考えている。

三の1の(二)について

 サクラマスの降下については、御指摘の「公社の報告書」も含む北海道開発局の調査結果より、二風谷ダムの魚道を利用して降下した魚種は五科十一種で、サクラマスは経年的に魚道を利用した降下が確認されていることから、「経年的に魚道により降下をしていることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」との北海道開発局の評価について、フォローアップ委員会が了承したものであり、フォローアップ委員会が御指摘の「公社の報告書」と異なる評価を行ったとは考えていない。
 また、適材適所の観点から幅広い人材を求めた結果として、フォローアップ委員会の八名の委員のうち、一名は北海道栽培漁業振興公社(以下「公社」という。)の関係者であるが、フォローアップ委員会は、公社による調査結果を評価するものではなく、公社による調査結果も含む様々な調査結果に基づき北海道開発局が行った評価に対して意見を述べるものであり、公正な意見をいただいているものと認識している。

三の1の(三)について

 魚道の効果については、御指摘のように「サクラマスが魚道を遡上または降下している事実が把握できれば十分」とは考えておらず、第二回答弁書三の1の(三)について及び第三回答弁書三の1の(二)についてで述べたとおり、個別の魚道や河川の特性に応じて、学識経験者の意見等を踏まえ、総合的に検討し判断するものと考えている。

三の1の(四)について

 北海道開発局が行っているサクラマスの遡上調査においては、お尋ねの「放流魚及びその世代交代」の把握は行っておらず、お尋ねの「遡上魚のうち天然魚と標識放流魚の割合及び標識放流魚の回帰率」については、お答えできない。

三の1の(五)について

 二風谷ダム及び後志利別川水系美利河ダムにおける標識放流魚の調査は、専門家の意見を踏まえ、適切に実施しているものであると考えており、また、サクラマスの動向を把握し、ダムに設置した魚道の効果も含むダムの影響を検証するために必要な調査であることから、今後も引き続き実施していく必要があると考えている。

三の2の(一)について

 サンルダムにおいて暫定水位運用の期間に恒久的対策の効果を把握・検証することについては、「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)の設置に先立ち開催された、専門家会議と同じ委員で構成される「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議準備会」において、説明している。
 また、第三回答弁書三の2の(一)についてで述べたとおり、サクラマスの遡上及び降下の機能を確保するための恒久的対策の効果については、専門家会議の意見も踏まえて、暫定水位運用の期間に十分把握・検証することとしており、その結果、必要な場合は追加対策等を行うこととしている。

三の2の(二)について

 専門家会議の委員には、天塩川に精通している専門家が含まれていると考えており、御指摘の「天塩川をよく知る専門家がほとんどいないこと」を理由として、意見交換会等を行う必要はないと考えている。
 なお、専門家会議の運営方針においては、座長は、会議の進行上必要があると認めるときは、他の専門家からの意見聴取その他必要な措置を講じることを事務局に要請することが可能となっている。

四の1について

 北海道開発局による産卵床の調査は、専門家の意見を踏まえ、適切に実施しているものであると考えている。

四の2から4までについて

 御指摘の「民間調査」の詳細が明らかでないため、お答えできないが、四の1についてで述べたとおり、北海道開発局による産卵床の調査は、専門家の意見も踏まえ、適切に実施しているものであると考えており、サンルダムの建設によるサクラマス産卵床への影響も適切に評価しているものと認識している。

四の5について

 お尋ねについては、御指摘にあるような考え方の根拠が明らかでないため、お答えできないが、第三回答弁書三の1の(三)についてで述べたとおり、サンルダムの建設によるサクラマスへの影響や魚道の機能については、事業主体である国土交通省が、専門家会議の議論も踏まえた所要の調査検討を行い、総合的に判断するものと考えている。

五の1について

 御指摘の「流域委員会で示されたバイパス方式と別のものである」の趣旨が必ずしも明らかではないが、美利河ダムで採用している魚道は、ダム上流からダム下流へ魚が降下できる方式であり、サンルダムにおいて、サクラマス幼魚(スモルト)を確実に降下させるための恒久的対策として検討しているバイパス方式と同じ方式であると考えている。

五の2について

 堤体工に係る費用については、本体に使用するコンクリートの体積を約四十九万五千立方メートルと見積もり、一立方メートル当たりの費用を約九千八百円として約四十八・五億円、減勢工に使用するコンクリートの体積を約一万五千立方メートルと見積もり、一立方メートル当たりの費用を約二万千円として約三・○億円、堤体への目地の造成及び止水工として約〇・五億円の合計約五十二億円を見込んでいる。

六について

 今後、事業を進めて行く上で、必要な時期を判断し、適宜、説明会を開催してまいりたい。