質問主意書

質問第一〇〇号

サンルダムに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月二十日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<サンルダムに関する質問主意書>


 北海道開発局(以下「開発局」という。)は、今年十月にサンル川(天塩川の支流名寄川の更に支流)にサンルダムを建設することを中心とする天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)を策定した。多くの地域住民、漁業関係者、学識経験者らが天塩川流域委員会(以下「流域委員会」という。)での議論の過程や整備計画の策定過程で、ダム建設への疑問や意見を提示し、開発局に納得のいく資料提示と説明責任を求めてきたが、開発局は「寄せられた疑問への回答は開発局ホームページに掲載している」と言って十分な対応を避ける態度に終始した。
 このため今なお天塩川、名寄川の洪水対策、堤防整備の現況、サクラマスの繁殖への否定的影響、ダム建設費などといったダム建設の前提となる基本的事項さえ明らかにされておらず、現地や北海道ではダム建設そのものの必要性に疑問を投げ掛ける声、漁業資源、自然環境への重大な影響を懸念する声が続いている。
 サンル川の流域面積は天塩川のわずか三パーセントにすぎない。「予定されるサンルダムは天塩川本流の洪水対策にはほとんど寄与しない」という根本的な疑問の声に行政が真正面からこたえることなく、ダム建設を推し進めるようなことはあってはならない。河川行政に求められるのは徹底した情報開示と関係者・住民への説明である。
 よって、以下質問する。

一 治水について

 整備計画では、昭和四十八年八月、昭和五十年八月、同年九月及び昭和五十六年八月に発生したような洪水を再び引き起こさないことを目標とし、流域委員会の議論ではサンルダムは実質的に名寄市の水害対策として提案されていた。
1 名寄市周辺の浸水について
 開発局は流域委員会で、目標流量が流れた場合の浸水域として名寄川の上名寄より下流域と名寄川左岸と天塩川右岸によって囲まれる名寄市街の大部分を推定して図示した。この浸水予測は「流下能力の不足箇所では、破堤等がどこでも起こりうるため、各箇所で破壊等を想定して、浸水の恐れのある区域を明示」というものである。
 しかしながら国土交通省によると、昭和四十八年八月の戦後最大の洪水時には、名寄市内の国が管理する河川区間において破堤(決壊)は起こっていない。当時より堤防整備が格段に進んでいる現在、開発局が「破堤等がどこでも起こりうる」とする根拠を明らかにされたい。
2 名寄川の目標流量について
 整備計画では「戦後最大規模の洪水流量により想定される被害の軽減を図ることを目標とし、河川整備計画の目標流量を」決めるとしており、目標流量は誉平四千四百立方メートル/秒、名寄大橋二千立方メートル/秒、名寄川の真勲別千五百立方メートル/秒となっている。戦後最大規模の洪水流量は、誉平で氾濫量を勘案して四千四百立方メートル/秒、名寄大橋で千八百八十九立方メートル/秒、真勲別で千百十五立方メートル/秒であるから、誉平の目標流量が実績流量なのに対し、真勲別の目標流量は実績流量の約一・三五倍、約四百立方メートル/秒も高くなっている。名寄川の目標流量に過去の最大実績の数値を用いなかったのはなぜか明らかにされたい。
3 整備計画は住民を守ることを優先することについて
 平成十八年十月の大型台風により下川町上流では外水被害があり、また音威子府村のおさしまでは内水氾濫があったが、整備計画ではいずれについても何らの手当ても盛り込まれていない。サンルダムを建設してもこれらの内水・外水氾濫を解決できないものであり、ダム建設ではなく堤防整備、排水機場整備が地元住民の要望にそうものではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 利水について

 開発局は、正常流量を考える最も大きな根拠はサケマスの遡上や降下に支障を来さないことであるとし、整備計画では十年に一度の渇水年にも利水や動植物の保護のために一定の流量を確保するとして正常流量を決めている。
1 正常流量について
 整備計画では、名寄川真勲別の1/10渇水流量は二・五八立方メートル/秒に対し、正常流量は灌漑期に六・〇立方メートル/秒、非灌漑期に五・五立方メートル/秒としている。一方、天塩川本流では美深橋で1/10渇水流量十八・二六立方メートル/秒に対して、正常流量はおおむね二十立方メートル/秒としている。両者を比較すると、天塩川本流の正常流量は1/10渇水流量と同程度であるにもかかわらず、名寄川では二倍以上になっている。非灌漑期にはサケマスは遡上しないにもかかわらず、名寄川で非灌漑期に正常流量を現在より増やす根拠は何か。また、非灌漑期に名寄川の正常流量を五・五立方メートル/秒にした根拠をそれぞれ示されたい。
2 サンルダムからの水道水の取水について
 整備計画では、サンルダムによって名寄市の真勲別地点で新たに最大千五百十立方メートル/日、下川町北町地点で百三十立方メートル/日の水道用水として取水を可能とするとされている。この水量は、それぞれ〇・〇一七五立方メートル/秒(十七・五リットル/秒)及び〇・〇〇一五立方メートル/秒(一・五リットル/秒)に相当し、両者を合わせても、1/10渇水流量のわずか〇・七パーセントである。なぜ名寄川やサンル川からの微量の取水を行わせず、サンルダムから水道水を取水するのか明らかにされたい。
3 発電について
 整備計画では、サンルダム発電所において最大出力千キロワットの発電を行うとしている。しかし、サンル川の流量は少なく(年平均流量は八・四立方メートル/秒程度)、融雪期や大雨のとき以外は、サンルダムから正常流量を流し、サクラマス遡上期には魚道に水を流すと、ダムに貯水される量は少なくなる。それでも発電を行おうとすると、岩尾内ダムで行っているハイドロピーキング操作(発電のための急激な人為的水位変動)を行わなければならない可能性が高い。その場合、岩尾内ダム下流でしばしば生じている無水期間が生じるのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。また、発電と正常流量を流すこととは両立すると考えるならば、その根拠を示されたい。

三 サクラマス資源の保全について

 サケ(シロザケ)は放流事業によって資源が増加しているが、サクラマスは重要で高価な魚種でありながら放流事業を行っても資源は減少傾向にある。サクラマスは三年間の寿命のうち二年間は河川で生活をするので、河川環境に大きく影響を受けることが放流効果が少ない原因と考えられている。現在のところ、ダム建設によってサクラマス資源を保全したという報告はない。
1 流域委員会の意見と開発局の対応について
 流域委員会は平成十八年十二月、開発局長への意見として「サンルダムを建設する場合は溯上のための魚道を整備し、降下対策を図る必要がある。対策の実施にあたっては、その効果を懸念する意見があることから専門家の意見を聴くとともに、現状の溯上、降下など河川環境に負荷を与えずに事前の段階から必要に応じて試験を行い、サクラマスの生息環境の推移を継続的にモニタリングし、その結果に基づきさらに必要な対策を講ずることができる体制を整備して取り組むべきである」と明記した。「事前の段階から必要に応じて」とされたのは流域委員会での激しい議論の末に盛り込まれたものであり、重要な意味を持っている。
 しかし、開発局は本年十一月の「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議準備会」で「サンル川流域においてサクラマスが遡上し、産卵床が広い範囲で確認されているため、サンルダム建設にあたっては魚道を設置し、ダム地点において遡上・降下の機能を確保することにより、サクラマスの生息環境への影響を最小限とするよう取り組む」と説明し、配布資料では、スモルト(幼魚)降下対策として暫定水位運用方法、具体的には恒久的対策の効果を把握・検証する間の措置として、スモルト降下期の貯水位を低下させる運用(暫定水位運用)を行うと記述されている。この運用方法は、ダムを建設した上での検討である。流域委員会が開発局長に提出した意見では、ダム建設前にも検討することを述べているのであり、暫定水位運用方法だけを計画することは、流域委員会意見を無視した方法ではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 暫定水位運用法について
 前記の運用が行われれば、ダムの利水目的を放棄して治水だけのダムとすることになるが、暫定水位運用法についてより具体的に説明されたい。またサクラマス資源保全のためには治水目的だけのダムでもやむを得ないと考えているのか、政府の見解を示されたい。

四 ダム経費について

 これまで各地のダム建設費は当初予算を大幅に上回る例が多く、建設費が増大すれば地方負担もその分増大し地方財政を圧迫することから、住民説明会などではサンルダム建設費について何度も質問が出されてきた。これに対し開発局は、建設費五百三十億円の根拠、内訳については繰り返し「予算の範囲にとどめる」と言明したものの、その根拠はいまだに示していない。
 今後必要とされる費用を、例えばダム本体工事費、取付け道路建設費、魚道整備費、環境調査費など費目ごとに明らかにし、予算の範囲にとどめるとする根拠を示されたい。

五 関係者・住民への説明について

 サクラマスへの影響について、漁協や住民団体との十分な議論を求めた私の質問に対し、国土交通省は「関係者の方々と話し合いをすすめながら事業をすすめる」と昨年、答弁した。政府は、漁協、住民団体、自然保護団体と十分な話し合いをしたと認識しているか明らかにされたい。またそれぞれの関係団体からダム建設に納得を得られていると評価しているか、政府の認識を示されたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第一○○号

内閣参質一六八第一○○号
  平成十九年十二月二十八日


内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 町 村 信 孝   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出サンルダムに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出サンルダムに関する質問に対する答弁書>


一の1について

 名寄市内を流れる天塩川及び名寄川では、現時点においても、天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)の目標流量を流下させるために必要な河道が確保されていない区間があるなど、十分な治水対策が行われていないため、整備計画の目標流量の洪水が発生した場合、流量が河川の流下能力を超える箇所においては、破堤のおそれがある。

一の2について

 整備計画における名寄川等の目標流量は、効果的な河川整備を実施するために、河川法施行令(昭和四十年政令第十四号)第十条の規定に基づき、実績流量のみならず、地域の気象、開発の状況等を総合的に考慮して設定したものである。

一の3について

 整備計画においては、サンルダムの建設、堤防の整備等により目標流量を流下させるための措置を講ずるとともに、内水対策等に取り組むこととしている。このうち、下川町三の橋地先については、流下能力が不足している箇所の河道掘削等を実施することとしている。また、音威子府村筬島地先等については、河川管理者等が保有する排水ポンプ車等を活用し内水排除を行うこととしている。

二の1について

 名寄川の真勲別地点における九月から四月までの非かんがい期の正常流量(漁業、流水の清潔の保持、動植物の生息・生育地の状況等を総合的に考慮して定められた維持流量及び流水の占用のために必要な水利流量の双方を満足する流量をいう。以下同じ。)は、サケ、マスの産卵等に必要な水深及び流速を考慮した流量である毎秒四・八立方メートル並びに工業用水と上水の取水のために必要な流量である毎秒〇・七立方メートルの合計である毎秒五・五立方メートルに設定している。
 九月から十一月までの時期においてはサケの産卵のために、十二月から四月までの時期においてはサケの卵・稚仔魚の保全のために、必要な水深を確保すること等としているものである。

二の2について

 流水の占用の許可を行うに当たっては、「行政手続法の施行に伴う河川法等における処分の運用等について」(平成六年九月三十日付け建設省河政発第五十三号・河治発第七十三号・河開発第百十八号・河砂発第五十号建設省河川局水政課長、治水課長、開発課長及び砂防部砂防課長連名通知)一1(3)@に基づき、取水予定水量が基準渇水流量(十年に一回程度の渇水年における取水予定地点の渇水流量をいう。以下同じ。)から正常流量を控除した水量の範囲内のものであることに留意し、審査を行うこととしている。
 名寄川においては、真勲別地点における基準渇水流量(毎秒二・五八立方メートル)が、整備計画において定めている正常流量(かんがい期は最大おおむね毎秒六・〇立方メートル、非かんがい期はおおむね毎秒五・五立方メートル)を下回っているため、現状では新たに流水の占用の許可を行うことはできない。

二の3について

 岩尾内ダムは、正常流量を確保することが目的ではなく、発電を実施しないときは放流しないため、ダムの下流で無水となる期間が生じることとなる。一方、サンルダムは、整備計画において、ダムの下流に対し常に正常流量を確保することとしており、また、サンルダムにおける発電事業は、下流の正常流量を確保するための放流を利用して、ダムの直下に位置する発電所において行うこととしている。したがって、岩尾内ダムのような無水となる期間が生じることはなく、発電と正常流量を確保することとは両立すると考えている。

三の1について

 御指摘の天塩川流域委員会の意見や関係住民、北海道知事等からの意見を踏まえ策定した整備計画においては、「サンル川流域においてサクラマスが遡上し、産卵床が広い範囲で確認されているため、サンルダム建設にあたっては魚道を設置し、ダム地点において遡上・降下の機能を確保することにより、サクラマスの生息環境への影響を最小限とするよう取組む。サクラマスの遡上、降下対策にあたっては専門家の意見を聴くとともに、現状の機能を保全しながら事前の段階から必要に応じて試験を行い、その生息環境の推移を継続的にモニタリングするなどその効果を確認したうえで必要な対策を講ずることができる体制を整備する」こととしている。この趣旨を踏まえ、北海道開発局は、魚類等の生息環境の保全に向けた川づくり等について、学識経験や知見を有する専門家の意見を聴取するため、「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」を設置したところである。
 また、現在、事前の段階からの試験の実施も含め種々の対策を検討しているところであり、本専門家会議の議論も踏まえ、必要な対策を実施してまいりたい。

三の2について

 サンルダムにおける暫定水位運用とは、サクラマス幼魚(以下「スモルト」という。)を確実に降下させるために、利水者の協力を得ながら、スモルトの降下時期に可能な限りダム貯水池の水位を下げることとする暫定的な対策である。また、スモルトを確実に降下させるための恒久的対策として、湖岸沿いに設置する管路等を利用するバイパス方式等を現在検討しているところであり、暫定水位運用は、恒久的対策の効果を十分把握・検証するまでの間の暫定的な運用であることから、恒久的対策の効果が把握されれば、サンルダムは所定の目的のための通常の運用を行うこととなる。

四について

 サンルダム建設事業の事業費約五百三十億円のうち、平成十八年度までに、約二百二十二億円を執行している。今後の事業費は、コスト縮減も見込み、魚道整備費を含むダム本体等の工事費で約二百六億円、付け替え道路等の用地費及び補償費で約四十四億円、環境調査等の測量及び試験費で約二十九億円、船舶及び機械器具費で約三億円、営繕費等で約三億円並びに事務費等で約二十一億円と算定している。今後の事業の執行に当たっては厳格に事業費管理を行い、予算の範囲にとどめてまいりたい。

五について

 平成十八年以降、北海道開発局は、天塩川水系河川整備計画原案等について、広く関係住民に対する説明会等を開催しているところである。現時点において、御指摘のサクラマスへの影響については、必ずしもすべての関係団体の理解を得ているものとは認識していないが、引き続き理解が得られるよう努力してまいりたい。