<第168回国会 2007年10月17日 予算委員会 第3号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。私は、生産者米価の暴落問題についてお聞きいたします。
 二〇〇七年産のお米の十月十日の価格センターの落札価格は、平均で昨年の同月に比べますと七・九%下落と。これ、六十キロ当たりで一万四千四百三十四円で、昨年の同月と比べますと千二百三十一円下がっているわけです。お配りしております資料のように、毎年下がり続けていると。
 政府の調査でも、昨年の米価による全国平均の家族労働報酬、これは一時間で二百五十六円と、そういう水準ですね。米生産者の九五%がこれ採算割れですよ。経営が成り立たないということで、先日、NHKのテレビでも「ライスショック」ということで報道番組がありました。このままでいけば担い手も集落営農も育たないと。来年はもう米作りをやめなきゃならない、こういう農民の怒りが沸騰していると。
 この事態に対して、まず福田総理の受け止めをお聞きしたいと思います。

○国務大臣(若林正俊君) お答えいたします。委員長の御指名でございますので。

○紙智子君 さっき農水大臣のは聞きましたから、総理の感想を。

○国務大臣(若林正俊君) いいえ、それは違う委員に対してお話をしたわけでございます。
 事実関係について、今数字を挙げられて米価の動向のお話がございます。委員が挙げられた数字はそのとおりでございます。十九年産米の価格水準は、前年同期比と比較しますと、全銘柄平均で平均八%安という水準になっております。
 これは、十九年産米の作況は御承知のように九九であるものの、作付面積が目標を上回ったために生産量が生産目標を超えるというふうに今見込まれていることがまず第一の理由であります。第二の理由は、主たる売手であります全農の概算金の取扱いの見直しがございまして、出荷段階では七千円程度の内金を支払うという方式が、生産者へのショックと同時に先行き相当下がるんじゃないかという思惑を呼んだことが二つ目にあると思います。三番目としては、どうしても体質的に流通業界は過当競争に陥りやすい業界の構造になっているということ。そして最後は、やはり消費者の米の購入動向として低米価への志向が強まってきているといったことを背景にしたものと思います。
 主食である米について、その需給、価格の安定を図るということは大変重要でございまして、そのために、生産調整の円滑な推進を図るための地域の実情に応じた産地づくりの交付金の交付、また、米価の下落による販売収入の減少の影響を緩和する対策などを講じているところでございます。
 今後とも、水田農業を営む農業者の方々の経営の安定に支障を来さないことが重要であると考えておりまして、米に関するこれらの政策を適切に運営してまいりたいと、このように考えております。

○紙智子君 総理。

○内閣総理大臣(福田康夫君) ただいま農水大臣から説明申し上げたように、米の価格が下がる理由というのは幾つかあるわけでございます。その中でもやはり需給バランスが悪いということ、要するに生産過剰ということですね。その一方、国民の嗜好の問題もあるというようなことでございまして、両々相まってこういうような状況になってしまったということでございます。
 ですから、そういう状況を踏まえた上で適切な政策を実施していくということが必要なんでございまして、農業経営者の安定というのは、これは生活の安定というのは、これとても大変大事だというふうに思いますので、そういう政策を適切にしていかなければいけないと思っております。

○紙智子君 生産者の安定ということを言われたわけです。
 それで、対策なわけですけれども、生産者の皆さんの声を代表して、先日、農民連の皆さんが政府に対しての要請をいたしました。備蓄制度の活用による政府の買入れやってほしいということを言いました。若林農水大臣は十月二日の記者会見の場で、価格を支えるという意味でこの備蓄制度を活用するということはいたしませんとお答えになりました。
 これでは、対策取りませんよと言っていることと同じなんですね。何もしないおつもりでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) お答えいたします。
 私が申し上げておりますのは、食糧法という法律によりますと、この法律上、国が買入れ、売渡しという過程を通じて運用をしていきます米の需給につきましては、備蓄の制度しかないわけでございまして、この備蓄の制度というのは、法律で決められておりますように、過剰米が発生した場合のこの安定を図るための運用でございまして、価格を維持するためにこの備蓄の制度を運用するということは法律上できないようになっているということを申し上げているわけでございます。
 しかしながら、この適正の在庫量、備蓄量というのは基本計画において百万トン程度というふうに決められておりまして、さらに、運用としては四十万程度の買入れ、そして買入れをした以上はやはり四十万程度の安定的な売渡しというのが決められているわけでございますが、今の在庫水準を見ますと、まだ若干、二十数万トンの余裕がございます。そういうような余裕を備蓄制度の趣旨の範囲内において適切な運用を図っていくということは余地としてあるだろうというふうに考えているわけでございます。
 基本的には、米の消費の拡大と、さらに米の需要に応じた生産体制をしっかりとつくっていくということが基本になると考えておるわけでございます。

○紙智子君 最初のところで産地づくり云々かんぬんという話もありました。
 それで、備蓄の問題は後ほどまたお聞きしますけれども、品目横断で対応、一つはしていくという話ですよね。
 そこでお聞きしますけれども、品目横断対策に入っている米の生産農家、これ米生産農家の何%ありますか。

○国務大臣(若林正俊君) 今回の品目横断的経営安定対策に加入している米の作付け農家の数は推計で約二十一万戸でございます。米の販売農家数に対する割合は約一五%でございます。一方、本対策でカバーする米の作付面積は四十四万ヘクタールとなっておりまして、十八年産水稲の作付面積、百六十八万ヘクタールでございますが、その四分の一。さらに、市場に流通をしています米、つまり売られている米で見ますと約四割をカバーをしているということでございまして、この数字は、昨年度まで担い手を対象として実施しておりました経営安定対策の加入面積に比べると約二倍を超える加入になっております。

○紙智子君 担い手以外の対策で稲作構造改革促進交付金というのがあります。実際には産地づくり交付金の方に回してしまっていて、米価下落の対策に回す資金はないという話も聞いているわけですけれども、実際にはどれだけの地域がこれ活用できるんでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) お答え申し上げます。
 稲作構造改革促進交付金というものがございます。委員の御指摘のとおりでございまして、これは、各地域協議会が地域の実情に応じた生産調整のために需要に応じた作物の生産の推進が効果的であると判断した場合に産地づくり交付金への融通が可能となるという制度になっております。こうした中で、稲作構造改革促進交付金の対象となります全国で千三百六十一地域のうち五百九十九地域において、協議会の判断に基づきまして、稲作構造改革促進交付金を米価下落対策として措置しているものと承知いたしております。
 なお、この各地域の協議会でございますけれども、これは、構成しておりますのはその地域、これ市町村単位が原則でありますが、市町村と農協、農業委員会、共済組合、土地改良区、そして生産農家、さらにお米の実需者、消費者団体、こういう皆さん方で構成をしているわけでございまして、こういう皆さん方が地域の水田農業ビジョンというものを策定をいたしております。そして、この産地づくりの計画の中で具体的な交付金の使い方、助成の水準といったようなものを決めることになっておりまして、そういうビジョンの実現に向けた取組として、その地域の今申し上げたような人たちが協議、判断をした上で、今申し上げましたような対応を取ったということであります。
 この場合に、すべてをその下落対策に充てないように、すべてを産地づくり交付金に充てるか、半分充てるか、あるいは一割充てるか、それらも含めて全部この地域の協議会の自主的な判断にお任せをしていると、その結果として選択されたものということでございます。

○紙智子君 ですから、全体の中で実際にもう使ってしまって使えないというところがあって、使えるところはどれだけなのかということを聞いたんです。推定で結構です。

○国務大臣(若林正俊君) 今御答弁申し上げましたけど、千三百六十一地域のうち五百九十九地域でございます。

○紙智子君 もう一つ聞きます。
 品目横断対策の対象になっているところでこの値下げ幅が一〇%を超えて下がった場合に、その分については補てんできますか、できませんか。

○国務大臣(若林正俊君) この品目横断対策の収入減でございますが、米価、米の収入だけで判断するということになっておりませんで、大豆とか麦とかその他の作物も含めましてその当該農業者が生産をいたしております生産所得全体を対象として、その一〇%減ということで対応しているわけでございます。
 実は、この加入者でございますけれども、ファンドを積んでおりまして、国と加入者との間は一対三で、農業者が一、国が三の割合で拠出をすることになっておりますから、制度を安定的に運営していくためには、対策の加入者の積立金が、負担がどういうふうになるかということも考慮した上でこの設計をしていくことが重要だと考えております。
 そういう意味で、本対策の補てんにつきましてはこのような加入者の積立金の負担とのバランスも配慮しながら、米の十アール当たりの収入額の減少幅は、最近の傾向から全国平均で一〇%の範囲内でずっと収まってきているということ、米のみを対象とした、十八年産までの実施してきた実は担い手経営安定対策とは異なりまして、先ほど申し上げましたように、この対策は対象品目も含め全体としての収入増減を合算、相殺する仕組みになっているということでありますから、一〇%の収入減少に対応し得るように制度設計を行っておりまして、今申し上げました本年産につきますと、米は、米だけで取ると八%の下落でございますが、全体としてこの一〇%の設計に入っていくものというふうに予想をしております。
 そういう意味で、更にこれを超えて下がったときにどうするかということを今ここで申し上げるということは、更に米価が先行き下落するおそれが非常にあるということを見通すような結果になり、市場に誤解を与えるおそれがありますので、今私の方は米価水準の更なる低下を助長するようなことになるおそれがあるのではないかと考えておりまして、今のこの制度設計一〇%を今の段階で変えるという考えは持っておりません。

○紙智子君 たくさんのことを説明いただいたんですけど、結論は、米農家の八五%は対象外と。それから、稲作構造改革促進交付金も使えない地域が半数あるわけですよ。それから、品目横断にのっているところも、下落幅が大きければその分の補てんはされないと。これでは農家は救われないわけです。しかも、米価の今後の見通しで、さっきもちょっと話になりましたけれども、生産量が消費量よりも二十三万トン多くなると言われていると。そうなると更に下落を続けるんじゃないかと言われているわけです。
 当面の価格下落を防ぐためには、この二十三万トン、これをやっぱり政府が買い上げて需給バランスを是正するというのが先決じゃないかと。これ、いかがですか。

○国務大臣(若林正俊君) 先ほど来お答えを申し上げておりますように、政府が米を買入れ、売渡しをするというのは食糧法に基づいて行っているわけでございまして、食糧法上、法律上明確に、需給に介入をして価格を維持するというような趣旨でこの食糧法の運用をすることができない仕組みになっているわけでございまして、その意味で政府が、おっしゃられる二十三万トンの余剰が予想されるということでございますけれども、そういう価格安定を、価格を維持することを目的として政府が買入れをするというのは法律上許されないことだというふうに思います。
 なお、しかし、運用として百万トン程度の備蓄は適当だという基本計画がございますので、現在の在庫量から見まして、なお若干のそういう在庫の積み増しということは考えられないわけではございませんが、しかし、そうして買い上げたものは、やはりその全体として言えば売渡しをしていくと、買入れしたものは売っていくんだという、そういう回転備蓄の考え方に立っているということを申し添えておきたいと思います。

○紙智子君 法律の上ではできないけれども、しかし運用上、備蓄制度の運用の中でそれについてはやるということだと受け止めておりますけれども。

○国務大臣(若林正俊君) 法律で許されるような趣旨で運用しなければなりませんので、委員がおっしゃられるような形で価格を安定させるという趣旨で余剰分を買うということはできません。

○紙智子君 四角四面なんですよね。
 ですから、実際の運用でやれるわけですから、実際に、総理にお聞きしたいんですけれども、自民党の対策本部でも、やっぱり政府による買上げは必要だと言っているわけじゃないですか。そして、この備蓄制度は制度設計上は百万トンだと、これ政府の方針ですよね、百万トンだと。今七十七万トンだと。間が空いているわけですよね。だから、そこのところをやっぱり防ぐためにも、緊急対策として最も有効な手だてであって、やるべきだと思います。
 それともう一つは、価格下落のその原因の一つというふうに指摘されているわけですけれども、備蓄米ですね、これの放出、政府の放出。これ余りぎみのところに放出すれば当然下がるわけですから、今こういう現状のときにはこれやめるべきだというふうに思うんですけれども、総理、いかがでしょうか。総理に聞いています。

○国務大臣(若林正俊君) 今備蓄をしておりますものは、不作などによって供給側が不足をし、価格が高騰するようなことに備えて備蓄をしているわけでございます。そして、その備蓄は置いておくと古米になり、古々米になり、非常に価格の、それを販売しようとしますと価格低落をもたらして財政的にも大変な負担になるわけでございますから、基本的には回転備蓄の考え方に立っているわけでございまして、備蓄したものは計画的に安定的に、一方で売り渡しながら全体の備蓄量が確保されていくという、そういう仕組みになっているわけでございます。委員がおっしゃるように、今の需給がいろいろ緩んでいるというようなことから、売らないということを決めて買っていくわけにはまいらないわけでございます。
 しかし、市場に悪影響がないような形で買入れあるいは売渡しをしていくというような運用の範囲内で適正に対処していきたいと思っております。

○紙智子君 市場に悪影響を与えないようにということの趣旨でやる分にはいいと思いますけれども、もうちょっと、やっぱり四角四面じゃなくて、今の実情をとらえて、今本当にこの瀬戸際に立たされている生産者の立場に立って柔軟な対応を取られるべきだと思いますよ。
 そもそも、この米の生産がこんな惨たんたる状況になったということの背景には、小泉構造改革路線とその下での米政策改革路線というのがあると思いますよ。政府自身が米生産にもう一切手を出さないと、そして、すべてこれは市場原理でやってもらいますというやり方を取ったというのが今の事態をつくっていると思うんですよ。品目横断的経営安定対策にしても、全国から今不満の声が上がっていますよ。もう本当に不評ですね、この対策というのは。
 私、先日、福田総理の地元であります群馬県、麦の産地のところに調査に行きました。おいしいうどんの原料であります、きぬの波というんですか、そういう品種のものを作って、本当に頑張っておられるわけですけれども、この方たちが明らかに収入減になると言っているんですね。品目横断的経営安定対策では麦生産を継続することはできないということで、そういう声が出されているわけですよ。こういうやはり政策は直ちに是正すべきだと思います。
 そして、我が党はこれまで、お米でいいますと米の不足払制度それから直接支払制度を組み合わせて、六十キロ当たりの価格で一万八千円程度にするべきだということを主張してきました。今こそそういう政策に切り替えるべきだというふうに思いますが、総理、いかがでしょうか。

○内閣総理大臣(福田康夫君) 水田農業経営者の方々の生活の安定といったようなことに支障を来さないように、これからの農政、今農水大臣いろいろと苦労しておりますけれども、そういう方向で努力してもらいたいと思っております。

○紙智子君 やはりこの品目横断経営安定対策というのは、WTOの下で、言わばグローバルの流れを前提として、そういう中で縮小再編というふうに言ってもいいものだというふうに思うんです。ですから、本当に小手先の対応では日本の農業は崩壊してしまうというふうに思うんですよ。
 食料自給率が今三九%でしょう。そういう中で、先進国の中でも最低限ということでありますから、この食料自給率を引き上げるということを本当に中心に据えながら、各国のやっぱり食料というのは主権にかかわる問題として、むしろWTOの協定を改定させていくという方向で、是非強いイニシアチブを発揮してほしいということを最後に申し上げまして、質問を終わります。

○委員長(鴻池祥肇君) 以上で紙智子君の質疑は終了をいたしました。(拍手)