<第166回国会 2007年3月19日 予算委員会 第12号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 北海道の夕張市が破綻いたしました。夕張市の破綻は一自治体の問題にとどまらないと思います。そして同時に、格差ということでいいますと、今一番困難に直面しているのがこの夕張市の市民だと思います。政府はこの財政再建計画を承認し、夕張市は、国の管理の下でこの後財政再建団体として歩むことになりました。私は昨年から二回現地に調査に入りました。大きな産業もなく、年金で暮らしておられるお年寄りが多い町です。今回の計画は余りにも厳しいものだと実感をしています。
 もちろん市民の皆さんは住み続けられる夕張にしたいということで頑張っていることは確かですけれども、しかし標準世帯で段階的に年に十六万円の負担増になっていくわけです。月に千円の負担増でも生活がやりくりできないという人が多いわけです。そういうところに容赦なく市民税や使用料の値上げが行われていくわけです。
 一方で、この住民生活の関係した事業が五十六廃止されるわけですね。そして、多くの公共施設が廃止になっていくわけです。夕張という町は端から端まで三十数キロですね。細長い町なわけですけれども、そういうところに小学校と中学校を一校ずつに統合しようということになるわけですね。夜間の診療や救急診療もこれはなくなると。ですから、何かあったらこれはもう本当に命にかかわる問題だということで市民の不安の声が広がっているわけです。人工透析の患者さんは、既にほかの病院に転院させられています。若い人たちも、もう現実問題としては夕張に住めなくなる、ここで子育てするというのはなかなか大変だというふうにも言っているわけです。
 政府が承認したこの過酷な再建計画の下では、夕張市民は、憲法の二十五条でうたわれている健康で文化的な最低限度の生活を営む権利、こういう生活さえ保障されないことになってしまうと思うわけです。
 そこで、総理にお聞きしたいんですけれども、先月、我が党は政府に質問主意書を出しました。この中で政府は、行政サービスの維持などを北海道が支援する場合、国も交付税措置などで支援を検討するというふうに回答しているわけです。
 市民の負担が過大にならないように支援をするということで、改めて総理の言葉で明言をしていただきたいと思います。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 夕張市の財政再建計画では、約三百五十三億円というこれ大変多額な赤字を十八年で解消していこうという計画でございますが、徹底した歳出歳入の見直しを図っていかなければならない、これはある意味では当然のことだろうと、このように思うわけでありますが、その中にあっても、高齢者と子供には特段の配慮をすべきであると、私もこのように指示をしておりましたし、また総務大臣からもそのような指示があったと思いますが、そういう中においてもそうした配慮がなされてきたと、このように思います。
 政府としては、この計画が着実に実行されまして財政再建が進んでいくことを期待をしたいと、こう思っています。それによって地域の皆さんが本当に安心して住んでいくことができる地域になっていくことを希望したいと思います。今後、北海道とも緊密に連携をして、地域の再生に向けて必要な支援を行ってまいりたいと考えております

○紙智子君 市民に過酷な負担を押し付けることになったのは、市や道の責任もありますけれども、私は国の責任も大きいと思うわけです。
 国のエネルギーの政策転換でこの炭鉱が閉鎖をされたと。当時、夕張市は、撤退する北炭から膨大な土地や住宅や病院、施設などを借金して買い上げたわけです。このことに対する政府の支援というのは極めて不十分だったと思います。さらに、この間の三位一体改革、これによる交付税の削減で五年前よりも二十一億円減収になっているわけですね。これが夕張市の自主再建を断念させる要因にもなったわけです。市民だけに責任を押し付けて、国や道も責任を押し付けずに、国や道も責任を取ってほしいというのが多くの市民の皆さんの声なわけです。
 しかも、三百五十三億円というこの膨大な財政赤字がそもそも何が原因でここまで膨らんできたのかと、いまだにこれ詳細が市民の前に明らかにされていないんです。我が党は、国や道、市の責任と同時に、夕張市の破綻に手をかしてきた金融機関、特に大銀行の責任も問われるべきではないかというふうに思うわけです。夕張市当局は、銀行との関係をひた隠しにして一切市民に明らかにしません。市民に対して説明責任を果たすべきだというふうに思います。
 それで、我が党が独自に入手した資料に基づいてこの後質問をいたします。
 ちょっとパネルを見ていただきたいんですが、(資料提示)夕張破綻の直接的な原因は、これ過大な観光投資にあったわけです。その中心が市の観光事業会計と土地開発公社による借金です。このパネルはその二つの会計にどこの銀行が幾ら貸しているかということを示す資料です。夕張市の過大な観光投資にいかに大銀行が手をかしてきたかということを示すものです。
 もう一つちょっと見ていただきたいと思います。これはその中でも大きな位置を占めるみずほ銀行と三菱UFJ信託銀行の資料です。この夕張市の借金が急速に増えた九八年から〇七年の二月までのこのみずほと三菱UFJ信託のそれぞれ年度末の残高の推移です。よろしいですか。
 なぜこの二つの銀行を取り上げたのかということですけれども、夕張市がホテルシューパロとマウントレースイ、スキー場ですね、これを民間企業から買おうとしたときに、地元の金融機関は、これ買っても採算が取れない、取れる見込みがないと、やめた方がいいと言ってお金を貸さなかったんです。北海道も同じ理由で地方債の発行をオーケーしなかった。そこに、貸してあげますよと出てきたのがこの二つの銀行だったわけです。
 UFJ信託は、当時、ホテルシューパロの購入に十五億円ですね、それからみずほはマウントレースイの購入のために二十億円をぽんと貸しているわけです。この二つの施設の借金返済が後々夕張市の財政を大きく狂わせるということになるわけです。北海道の破綻の原因の調査の中でも、このときの二つの借金を不適切な債務負担行為、すなわち借金してまで買ったのは間違いだったんだということで厳しく指摘をしています。
 その背景に何があったのかと。地方自治体に貸し出すお金は、その自治体がどんなに赤字でも、これリスクゼロ、すなわち優良債権として扱われるわけですよね。今回の夕張市のように、たとえ破綻しても貸したお金は必ず返ってくるわけです。取りっぱぐれがないということですよね。だから、みずほやこのUFJ信託は、市の赤字が膨らむのが分かっていながらこの貸出しを増やしたと、言わば確信犯と言っても過言ではないと思うわけです。
 特に、もう一度ちょっと見てほしいと思うんです。みずほは、九八年の六億六千万円から九九年の九十一億円と一気に貸し込んでいるわけですね。このお金が、赤字を隠すための一時借入金や、そのときの、その後の観光投資にも使われていくわけです。しかも、これらの銀行は、夕張が破綻したのに、北海道に一時借入金を肩代わりしてもらうと、土地開発公社などからも前倒しで返済してもらえることになっているわけです。
 そこで、菅総務大臣にお聞きします。
 大臣も銀行の貸手責任に言及されたことがあると思うんです。地元の金融機関が慎重姿勢でむしろ夕張市をいさめていたと、それなのに赤字が拡大するということを百も承知で貸し込んだ大銀行の責任について、一体どのようにお考えでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 委員からいろんな今御指摘がありましたけれども、まず夕張があのような状況になったというのは国の責任という言及されましたけれども、夕張と同じようにこの産炭政策の転換とかそうした市町村というのは、北海道にもあるいは福岡にもたくさんあるわけですね。そうしたところが、それぞれ頑張りながら今健全な市政運営をやっていることについては是非御理解をいただきたいというふうに思います。
 で、どこの金融機関からこのお金を借りるかということは、これはあくまでも夕張市の責任によって私は財政運営をすべきことであると思いますし、夕張市が不適切なこの財務処理、これによって赤字を隠して決算が実態と懸け離れたものを一時借入れによってやってきたというやはり責任というのは、私は免れることができないというふうに思っています。
 更に言いますと、今指摘のありました例えばこのマウントレースイですか、ホテル、スキー場、ここも起債について北海道にも相談があった、私どもの方にも相談があった、しかし国としてもこれは非常に難しいということを実は言っているわけでありますから、それはあくまでも夕張市と銀行の間の関係であるというふうに私は思っています。

○紙智子君 市の責任を否定しているわけではないのです。その責任は当然あるわけです。ただ、こういう不自然な融資を行った金融機関に対しての社会的、道義的責任がどうなんだということをお聞きしたわけですよね。やはり、大臣は衆議院の方の答弁の中でも触れられているし、記者会見でも貸手責任というのは言われているわけで、それを否定されるわけではないですよね。

○国務大臣(菅義偉君) 夕張市がそうした銀行からお金を借りる場合、市がその土地開発公社とかそういうものに聞いて、やはり私は市の責任でこれ、借用したというふうに実は思っています。
 ただ、これからの在り方については、それぞれ借り手と貸手でありますから、それはいろんなお互いの相談があって私はしかるべきだと思います。

○紙智子君 後退する発言をしてもらっては困るわけですけれども。
 それで、じゃ一体夕張市はこれらの大銀行に幾ら利息を払ったのかと。これも実は市当局が口を閉ざして答えないわけですけれども、仮に地方債で最も多い利息である二%で計算すると、これ、みずほとUFJ信託の二つの銀行だけでこの九年間で利息は二十六億円になるわけですよ。市民にはこの過酷な負担が押し付けられているのに、何食わぬ顔で大銀行が莫大な利息をもうけて、もう後はこの元金も先に返してもらって逃げ出してしまうと。こういうことで本当にいいのかということなんですね。
 総理にこういう事態を許しておいていいのかということをお聞きしたいと思います。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) ただいま総務大臣がお答えをいたしましたように、まずはやはり夕張市がしっかりこの市を経営をしていくという感覚を持っていなければならなかったわけでございますが、赤字を隠していたという不適切な対応もあったわけでございますが、その中において銀行がこうして貸していった。しかし、基本的には、総務大臣が答えたように、これはまずは夕張の責任であると、そしてその中で当然これは夕張市と銀行との間の問題ではないだろうかと、このように思います。

○紙智子君 大企業が破綻したら銀行は債権放棄をするわけですよね。大銀行とこの自治体との問題というのは夕張だけの問題にとどまらないことですよ。それで、この借金の拡大の真相が明らかにならない中で、負担だけが市民は負わなきゃいけないと。私、これやっぱりおかしいと思います。せめて借金拡大のその真相が明らかになるまでは、少なくとも金融機関への元利の返済は凍結すべきだということを強く申し上げて、質問を終わります。