質問第七号

夕張市の「財政再建計画」等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年二月十六日


紙   智  子   
大 門 実 紀 史   
吉 川 春 子   


       参議院議長 扇   千  景 殿


   夕張市の「財政再建計画」等に関する質問主意書

 夕張市は、総務省、北海道との協議の下「財政再建計画素案」(以下「素案」という。)を示した。「素案」は、市税や各種料金など大幅な住民負担増、福祉・医療、教育など住民サービスの徹底した切捨てであり、住民にとって極めて過酷なものである。夕張市再生のための計画は、住民が安心して住み続けられるものでなければならない。そのために抜本的な見直しを要求するとともに、政府の対策について、以下質問する。

一 債務の情報公開等について

1 「素案」は解消すべき赤字額を三百五十三億円としているが、それぞれの会計の債務がどのような経過と原因で累積したのか、詳細は不明のままであり、一方的に過酷な負担が市民に押しつけられようとしている。徹底的な情報公開が行われなければ、とうてい夕張市民の納得を得られるものではない。住民自治の立場からいっても債務の経過、原因について、その詳細を明らかにすることは当然のことである。総務大臣は「再建計画」作成に当たって、協議・同意することになっている。その際、政府・総務省の責任で、少なくとも次の内容について明らかにすべきである。
(一) 過去十年度分の各会計の債務の累積の経緯、原因を明らかにされたい。特に、観光事業会計については、過去十年度分の施設ごとの赤字累積額、経緯、原因を明らかにされたい。
(二) 住民に対して債務に関する情報公開を徹底すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 「全国最高の負担と最低のサービス」という基調で、「再建計画」が作成されていると言われているが、それは政府の考え方か明らかにされたい。また、「再建計画」作成に当たって、類似団体との比較だけでなく、自然環境、地形的・歴史的な条件など夕張市の特殊性を考慮すべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 赤字額三百五十三億円の内訳について、昨年十一月時点の内訳では第三セクターの損失補償分(見込み)の約五十二億円が入っていたが、今回の「素案」には含まれていない。この理由を明らかにされたい。また、次年度以降、その損失補償分についても返済が迫られると考えられるが、その見通しと予測される金額を明らかにされたい。

二 住民が住み続けられるための緊急課題について

1 夕張市は市立総合病院を公設民営の診療所に縮小させようとしているが、住民はせめて人工透析と救急医療体制の存続を願っている。夕張市は南北に三十四キロメートルと長く、隣町までは何十キロメートルという距離がある。近隣への通院治療は一日がかりとなり、週三日も通院しなければならない人工透析患者の負担は体力的にも計り知れない。また、相当数の救急患者受診がある下で、これが時間のかかる近隣病院頼みになれば、市民の命と健康を脅かすものである。
(一) 人工透析体制の再開を目指して、医師の確保など北海道と連携し、国として具体的支援をすべきではないか。政府の見解を示されたい。
(二) 救急医療体制の存続を図るために、国も北海道と連携して努力をするつもりがあるのか。政府の見解を示されたい。
2 夕張市の消防職員十一人の退職、取り分け救急救命士が四人退職し、現行の救急車二台運行に支障を来す懸念がある。また国の消防力基準にも満たない近隣自治体からの支援は厳しい現状にある。夕張市の救急患者に対する消防本部の出動回数は七百三十三件(二〇〇六年)であり、救急車二台運行体制の確保は不可欠であるが、そのための具体的な支援を明らかにされたい。
3 夕張市の「再建計画」は今後住民が夕張で働き、暮らしが守られてこそ成り立つ。しかし、市職員の大量退職、第三セクター従業員など、多くの労働者が雇用不安にさらされ、大量の市外流出が危惧されている。
(一) 雇用の確保・拡大の緊急対策が求められるが、政府は緊急就労事業を行うべきではないか。政府の見解を示されたい。
(二) 厚生労働省の「地域雇用創造推進事業」、季節労働者関係の「通年雇用促進支援事業」を夕張市において具体化を図るべきと考えるが、財政支援や適用基準緩和も含めて政府の見解を示されたい。
4 夕張市に対して、北海道は資金貸付、行政執行の確保、市民生活・地域経済への影響緩和など、一定の支援策を発表している。住民の暮らしを支える事業が自治体としてできなくなった場合、広域自治体である北海道がその事業を補完していかなければならない。北海道が補完する事業の財政的負担に対して、国は交付税措置など財政支援を行うべきではないか。政府の見解を示されたい。

三 炭鉱閉山と財政悪化の関係について

1 北海道空知管内の旧産炭地域の自治体は、炭鉱閉山の跡処理のために膨大な財政投入と地方債の発行をせざるを得ず、撤退する炭鉱会社所有の住宅や広大な土地、道路・上下水道・病院などの施設を取得、継承し、多額の債務を余儀なくされ、これが自治体財政を圧迫し続けてきた。夕張市の「閉山跡処理対策(昭和五十四年度から平成六年度までの社会基盤整備等の状況)」によれば、住宅・浴場・水道整備等を始め、総額約五百八十三億円の事業が行われたが、うち約三百三十二億円を地方債で賄っている。
 一九八二年の北炭夕張新炭鉱閉山に伴う財政負担に関し、炭鉱離職者就職などの雇用対策、水道や病院などの公的サービスの継承・整備事業、転業・運転資金などの商工業者対策、老朽炭住除去・支援住宅の建設や跡地対策、集落の消滅や人口変動による小中学校などの地域対策等、夕張市、北海道、国ごとの負担額を明らかにされたい。
2 政府のエネルギー政策の転換によって、炭鉱は次々と閉山に追い込まれた。政府は、閉山跡処理対策の債務が夕張市の財政悪化に影響を与えたものと認識しているのか。あわせて、他の空知の旧産炭地の自治体の炭鉱閉山による財政悪化についても政府の認識を示されたい。
3 政府は二〇〇一年「産炭地域振興臨時措置法」を廃止し、臨時交付金を中止し、交付税の産炭地補正も二〇〇六年度で打ち切った。その上「三位一体改革」による地方交付税の大幅削減は旧産炭地域の自治体財政を一層困難なものにしている。
 北海道は全国に比しても厳しい経済環境に置かれているが、その中でも夕張市を始め、旧産炭地域の疲弊は極めて深刻である。人口の減少率、高齢化率、生活保護率は全道水準より極めて高く、一人当たりの製造品出荷額、財政力指数、それに有効求人倍率でも全道水準を大きく下回っている。旧産炭地の実態を見るにつけ、「産炭地臨時措置法」を廃止した影響及び産炭地の振興策について、政府は調査、検討を行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
4 産炭地域活性化基金からの借入金一括返済に関して、基金の取崩しが認められたが、関係自治体は新たな借金を抱え込み、更なる歳出削減が迫られている。政府は、基金は取崩し措置の後五年間で終了し、今後一切の産炭地対策は行わないとしている。これでは、旧産炭地の困難を一層深刻にするだけではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。


   夕張市の「財政再建計画」等に関する質問主意書

答弁書

答弁書第七号

内閣参質一六六第七号
  平成十九年二月二十七日

内閣総理大臣 安 倍 晋 三   


       参議院議長 扇   千  景 殿

参議院議員紙智子君外二名提出夕張市の「財政再建計画」等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


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   参議院議員紙智子君外二名提出夕張市の「財政再建計画」等に関する質問に対する答弁書

一の1の(一)について

 総務省としては、北海道企画振興部が平成十八年六月二十九日及び九月十一日に公表した「夕張市の財政運営に関する調査」に示されたとおり、同市が多額の赤字を抱えるに至った要因は、総括的には、同市財政の許容範囲を超えた財政支出、収入の大幅な減少への対応の遅れもあるが、不適正な財務処理手法により赤字の実態を表面化させずに拡大させたことにあると考えている。お尋ねの「債務」の意味が明らかではないが、一時借入金等で対応することとなる実質赤字の額、地方債現在高の額及び債務負担行為を設定しているもののうち負担する債務の額が確定しているもの(以下「債務負担行為」という。)の額の合計額を指すとすれば、同調査で明らかにされている主な会計における過去五年間の各年度末の実質赤字の額、長期借入金(地方債等)残高(以下「地方債等残高」という。)の額及び債務負担行為の額とその要因については、次のとおりである。
 一般会計について、本来同会計に計上されるべきと整理された実質赤字の額は、平成十三年度約十五億千万円、平成十四年度約二十一億円、平成十五年度約三十二億円、平成十六年度約三十八億千万円及び平成十七年度約四十億六千万円であり、その要因としては、閉山後の社会基盤整備の実施により公債費が多額となっていること及び人口に比して職員数が多いことにより人件費が多額となっていることから、財政が硬直化していることにあると考えている。地方債等残高の額は平成十七年度末において、約百九億六千万円である。債務負担行為の額は平成十七年度末において、約十五億八千万円である。
 観光事業会計について、本来同会計に計上されるべきと整理された実質赤字の額は、平成十三年度約七十九億六千万円、平成十四年度約八十四億五千万円、平成十五年度約百億八千万円、平成十六年度約百二十三億千万円及び平成十七年度約百四十四億七千万円であり、その要因としては、観光事業の不振と改革の遅れ、使用料等により賄うべき経常経費及び施設の元利償還金に対して収入が大幅に不足していること、管理委託する第三セクターに多額な赤字補てん的支出を行っていること、不適正な債務負担行為による支出が増大していることなどにより、大幅な収支不足が生じていることにあると考えている。地方債等残高の額は平成十七年度末において、約六億二千万円である。債務負担行為の額は平成十七年度末において、約四十六億四千万円である。
 住宅管理会計について、実質赤字の額は、平成十三年度から平成十七年度において計上されていない。地方債等残高の額は平成十七年度末において、約三十七億七千万円である。債務負担行為の額は平成十七年度末において、約十五億七千万円である。
 お尋ねのうち、同調査で明らかにされていない情報等についてはこれを把握しておらず、また新たに調査を行おうとする場合、関係する資料が存在するかどうかを含め調査の実施及び結果の取りまとめに要する作業が膨大なものとなるため、お答えすることは困難である。
 観光事業会計における施設ごとの赤字については、施設ごとの支出を正確に把握できる決算書等の資料が存在しないため、お答えすることは困難である。

一の1の(二)について

 総務省としては、一の1の(一)において御指摘の債務に関する情報公開については、住民自治の観点から、地方財政再建促進特別措置法(昭和三十年法律第百九十五号)による財政再建の申出を行い、財政再建計画を策定しようとしている夕張市当局において、できる限りの取組を行うべきと考えているが、債務に関する情報を新たに調査し、これを公開することは困難であると考えている。

一の2について

 夕張市が抱える多額の赤字を解消するためには、標準税率を超える税率への引上げ、使用料及び手数料の金額の引上げなどその他必要な歳入の確保を図り、また、人口や産業構造が類似する団体における効率的な行財政運営等を参考にして歳出の削減を図りながら財政再建計画を策定すべきものと考えており、その旨助言をしているところである。同計画については、財政の再建を行おうとする団体の赤字の額、行財政規模のみならず、個別の団体ごとに御指摘のような事項を考慮しながら定められるべきものと考えている。また、総務省として、同計画を「全国最高の負担と最低のサービス」という基調で作成するように助言したことはないが、同市の赤字が多額に上ることから、同市が作成した同計画が住民にとって一定の負担の増加を伴うものとなることはやむを得ないと考えている。

一の3について

 総務省としては、夕張市において第三セクターに関する損失補償契約の取扱いについて関係者と協議していると承知しており、平成十八年度末における解消すべき赤字額にリース契約に係る損失補償契約等に基づく金額を除いては損失補償金の額は含まれておらず、また、平成十九年度以降についての金融機関等に対する支払額について、現段階ではお答えすることはできない。

二の1の(一)について

 夕張市の財政再建計画の策定に向けた検討において、夕張市立総合病院については、規模を縮小し有床の診療所として存続する方針であり、同病院において実施していた人工透析については、採算の確保が難しく廃止する方針であるが、人工透析が必要な入院患者については既に転院を終え、通院患者については近隣の病院での受入れについて関係者が調整を行っていると承知しており、その調整状況等を踏まえ、国としても必要に応じて北海道に助言するなど適切に対応してまいりたい。

二の1の(二)について

 北海道において、夕張市周辺地域における救急医療体制の確保を図るための検討を行っていると承知しており、国としても必要に応じて助言するなど適切に対応してまいりたい。

二の2について

 お尋ねの点に関して、御指摘の素案の中では具体的な記述はないが、夕張市において、救急自動車の二台体制が確保できるよう消防職員として二名の採用等を検討しており、北海道においては、同市の要請を踏まえ、消防職員のあっせん等の支援策を行う意向であると承知している。

二の3の(一)について

 失業対策事業等失業者を吸収するために国が実施する特別の事業は、就労者の滞留等の問題が生ずるおそれがあることから、国の雇用対策として、これを実施することは適当でないと考えている。
 なお、雇用保険法施行規則(昭和五十年労働省令第三号)第百二条の三第一項第一号ハの規定に基づき、昨年十二月二十一日から本年十二月二十日までの一年間、夕張市等の夕張地域を雇用維持等地域に指定し、雇用調整助成金の支給に係る要件を緩和するなど、失業の予防、離職者の再就職の促進等に資する措置を講じているところである。

二の3の(二)について

 御指摘の事業はいずれも、地域から提案される雇用対策事業のうち、効果が高いと考えられるものを選定し、実施することを予定しているものであることから、夕張市を対象とした適用基準緩和等を行うつもりはない。なお、北海道又は同市から当該事業の活用について具体的な相談があれば、当該事業の趣旨に則して適切に対応することとしている。

二の4について

 夕張市において一定の行政サービスの維持、財政再建の早期かつ確実な推進が図られるようにするため、北海道が補完する事業の実施を検討しているところである。北海道が行うこれらの事業に対して、国としても必要に応じ、交付税措置など支援を検討してまいりたい。

三の1について

 昭和五十七年の北炭夕張新炭鉱の閉山に際しては、北炭夕張炭鉱株式会社(以下「北炭」という。)の職員への退職金等の支払のため、国及び新エネルギー総合開発機構(現在の独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が北炭に対し「石炭鉱山整理促進交付金」等(総額約三十六億七千万円)を交付したところである。一方、御指摘の各事業については、夕張市において同炭鉱の閉山対策のみではなく、一般的な地域振興策として実施されたものであり、同炭鉱の閉山に伴う事業として各事業の内容を区分しているものではない。お尋ねのすべての事項について調査を行うことは、膨大な作業を要することから、お答えすることは困難である。

三の2について

 平成十一年八月の産炭地域振興審議会の答申「産炭地域振興の円滑な完了に向けての進め方について」(以下「答申」という。)において、夕張市及び他の空知の自治体を含む旧産炭市町については、「炭鉱の閉山対策やその後処理等に必要な資金に充てるため、多額の地方債を発行等した結果、財政面において厳しい状況にある。」との認識が示され、この課題への対応として、国としては、答申を踏まえ、平成十七年度までを激変緩和措置の期間と設定して、所要の支援措置を講じた。

三の3及び4について

 産炭地域の振興については、答申において、石炭鉱業の構造調整という特殊な要因による影響の是正という産炭地域振興対策の目標をおおむね達成しつつあるものと認められたため、産炭地域振興臨時措置法(昭和三十六年法律第二百十九号)が時限を迎えるに際し、一般的な地域振興対策に移行させることとしたところである。また、政府として、産炭地域の現状把握及び情報提供を図るとともに、一般的な地域振興対策への移行を確実にする観点から、平成十八年十一月に、「産炭地域活性化基金」の取崩しを認める措置を講じたところである。