<第164回国会 2006年5月31日 農林水産委員会 第10号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。今日は四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 お話を聞きながら、また、やり取りを聞きながら、私自身もこの間ずっと足で歩いてあちこち状況を聞いてきましたし、そういう意味では本当に、現場でいろいろ実際に農業をやりながら今回の出されている政策に対して感じられている懸念ということでは、やっぱりそうだなということを思いながら聞いていたわけです。
 先ほど西原参考人が、北海道の戸数も今五万一千戸になったというのを聞いて、元はピークのとき二十三万戸あったし、ついこの間まで私、七万戸を割って大変だと思っていたばっかりだったので、五万一千までなったという話を聞いて、物すごいスピードで減り続けているんだなということを痛感しました。
 それで、ちょっと四人の方それぞれにお聞きしたいのは、一つは、今度のこの品目横断の経営安定対策をやった場合に、自給率ですね、自給率が上がると思うのか、下がると思うのか、上がるとすればなぜ上がると思うのか、下がると思う方はなぜなのかというところをそれぞれの方からお聞きしたいと思います。

○参考人(生源寺眞一君) 自給率の上がるか下がるかにはいろんな要素がございますけれども、基本的には、生産面で今回の施策が貢献できるか、あるいは逆になるかということかと思います。
 私は、担い手の農家がある一定の厚みでもって形成されるということであれば、これはむしろ自給率の維持向上につながっていく、こういう理解をしております。
 生産面とはいいながらも、消費者、あるいは、今は飲食費支出の五割は加工食品でありますし、三割が外食ということでありますので、消費者プラス実需者のニーズにどれだけこたえられるかという、こういうことも自給率の引上げに非常に重要だというふうに考えておりまして、その点でいいますと、私の冒頭の発言でも申し上げましたけれども、しっかりした農業者は生産面でも優れているわけでございますけれども、その消費者あるいは実需者をつかむという点でも優れた取組をされている方が多いという、こういう面からも、私は自給率にとってはむしろプラスに働くだろうと、またそういう働くようにいろんな形でバックアップするということも大事だろうと、こう思っております。

○参考人(山田俊男君) 率直に申し上げまして、これは生源寺先生と同じなんですが、担い手が相当の厚みでつくられてくれれば、自給率を上げていくチャンスが大いにあり得るというふうに思っております。ともかく、米で自給率を稼ぐという事態は、需要減退の中でこれはなかなか望めないというふうに思います。そういたしますと、麦だったり大豆だったりするわけで、これは担い手がしっかりつくり得れれば、これは集落営農も含めて拡大可能であります。
 それからさらに、この制度でありますが、単に麦、大豆、米だけに対象を絞り込むのではありませんでして、先ほど来先生方から議論もありますが、菜種を対象にするとか、場合によりましたら牧草を対象にして、そして水田地帯に大家畜を導入していくということで循環型農業をつくり上げる、それに対して直接支払をしていくということで、この制度を、いったん導入したこの制度の内容充実が今後図られていくということが可能であれば、私はもっと自給率の拡大につながっていくというふうに期待していいというふうに思っています。

○参考人(西原淳一君) 正直言って、上がるか下がるかは実際のところは分からないと言った方が正直なところだというふうに思っています。
 なぜかというと、やっぱり今の人口減少といいますか少子高齢化の中で需要がどんどんどんどん落ちていくわけでありますから、それに伴って生産力が、現状のまま維持ができれば上がっていくかもしれませんけれども、今回の対策の中で、先ほど山田専務さんからもお話ありましたように、その該当にならない、政策に該当にならないその小規模農家のところの方々が、きちっと今そういうところでも麦、大豆つくっているわけでありますから、そういう人たちが例えばきちっとした集落営農なんかを組んで、そこで麦、大豆をきちっとやっぱり生産して作付けしていくということが可能であれば、自給率はやっぱり向上の方向に向かっていくんだと思いますけれども、そのことがきちっとやっぱりできなければ、担い手だけ、認定農業者だけということになると、やっぱり若干下がっていくのかなと。そういう懸念、両方抱えているような状況ではないかなと思っていますけれども。

○参考人(門脇功君) 新しいいろいろな制度が今出されているわけでありますから、これらによって構造が定着するまでは落ちると思います、下がると思います。それが定着すれば、麦、大豆に限って言っているということになりますと、上がってくるだろうと。いったん下がって上がると。
 あとは、やっぱり価格がどう出てくるかということで、やっぱり意欲が必ず、最終的にはすべてどんな机上で考えても結局は経済ですから、価格のところ、いわゆる所得のところに行ってしまうのだと思いますが、本当にそう思います。

○紙智子君 ありがとうございました。
 今回出されているこの品目横断的な経営安定対策によって、この品目別の価格、今までは品目別の価格の制度があったわけで、これを廃止すると。で、議論があったように、限定した施策を集中する対象を決めてやるということなんですけれども、この間の議論でいいますと、現在のところでいうと、個別の農家といいますか、それから個別経営体といいますか、それと集落営農ということで、どれくらいの今の時点では見通しなのかということでいうと、個別でいうと三割ですよね。それから、土地のカバー率でいうと五割という話がされてきていると。
 そういう状況の中で、じゃ、そこから外れたところというか、今の話にも関連するんですけれども、外れた人たちがこの麦とか大豆の対策を受けることができないということになった場合、心配されているのは、その人たちが、じゃ、実際には採算が合わないという、再生産できないという中においてずっと麦や大豆をじゃ作れるかというと、そうじゃなくて、やっぱり米の方に行くんじゃないのかと、こういう心配、懸念がなされているんですけれども。
 そうすると、米の方にこのシフトがずれていきますと、今、さっきもお話あって、北海道では相当の人たちが、過剰米が出たときの集荷安定の対策ですね、この対策に加わって、やっぱり価格を引き下げないために努力をしているわけだけれども、こういうこと自身がそういう今のこの流れによって壊れてしまうという心配があるんじゃないかというふうに思うんですけれども、この点、、四人の方それぞれにお答えいただきたいと思います。

○参考人(生源寺眞一君) 特に小規模の方の作付けの行動なりというのはなかなか経済的な論理だけで割り切れないところがあって、なかなか予測し難いところもあるわけでありますけれども、麦、大豆について、恐らくこれはかなり機械化体系があるなしでコスト水準なんかが違いますので、担い手なり現在の受託組織が更にカバレッジを広げていくということになるんではないかというふうに思っております。
 問題はお米ですけれども、実は生産調整へ参加されていない方のかなりの部分が言わば、飯米農家というような言い方もいたしますけれども、小規模の農家ということが現実に既にあるわけであります。今の生産調整は、ある意味ではそこも織り込んで行っているところもありますので、今回の施策によって劇的に何か供給の構造が変わるということはちょっと考えにくいんではないかというふうに思っております。
 生産費なりがどこまで農家の実感と合っているかということはあるわけでございますけれども、長年にわたって小規模の方というのは、経済的にも完全に赤字の中で作っておられるという、こういう状況がありますので、今回の施策で大きく変わるということは少し考えにくいんではないかなと、こんなふうに思っております。

○参考人(山田俊男君) 先生の懸念される予想は我々も大きな心配を持っているところであります。
 ただし、麦にしましても大豆にしましても、相当の産地は、現行でもそうでありますが、受託作業組織や集落営農による取組が進んでおりますので、それら作業組織や集落営農がきちっと対象に乗っかってくれれば、先生、その心配はないように思うんです。
 ところで、なかなか難しいのは、例えば麦は関東平野が大産地であります。その関東平野で個別経営による麦の対策も大変多くあります。それは関東の空っ風の暴風対策も含めて麦があるとか、こういう特色があるためでありますが、そういう地帯でもしも集落担い手対策にならないということになれば、もう麦を作らないという事態ないしは耕作放棄の事態が生じかねないという心配をしております。
 そういう面では、まだまだこの対策の内容を今後とも運用上工夫していく余地は一杯あると、こんなふうに思っております。

○参考人(西原淳一君) 紙先生からおっしゃられたように、北海道としても懸念材料はあります、間違いなく。今、空知、上川の米地帯の中でも、今後のこの制度に乗っかれないぐらいの経営規模の方々が麦、大豆を作っていらっしゃるわけでありますけれども、この対策に乗っかれないで品目横断的経営安定対策の対象にならなかったら米を作るというふうに言っておりますから、そうなりますと、逆に今度米の方が今先生からおっしゃられたように、集荷円滑化対策を含めて大変な制度そのものが崩壊してしまうわけでありますから、やっぱり今、山田専務さんおっしゃったように、やっぱり北海道といえども、この米地帯を中心にやっぱりそういうところについては積極的にやっぱり集落営農を進めていくということがやっぱり必要ではないかな。
 そのことによって、やっぱり米の方も守られるし、そういう制度に乗っかれない人たちも対象になって救われるわけでありますから、そのことによって集落営農やなんかの要件緩和やなんかもやっぱり必要ではないかなというふうに思っております。

○参考人(門脇功君) 私どもの方では、いわゆる市街化地域、いわゆる町場の方々の農家につきましては、もはや生産数量、おまえのところ幾らよとか、それから集落営農に参加してほしいとか、もう一切もう何にも言わないでくれと、おれが好きなようにやるんだよというふうに市街化地域はなってきております。
 理解を得るのに非常に苦労をいたしておりますが、その方々はそれなりのやり方をしますけれども、当然稲作というのは機械化体系がきちんとできておりますから、手っ取り早くやれるのは水稲ということに当然なります。ただ、そのことがまた制度等々に影響を及ぼすのではないかと、こういうことでありますが、これはちょっと違う意見になるかもしれませんけれども、私も冒頭に申し上げましたとおり、全国、日本人、津々浦々、市場原理、自由主義ですから、そういう中では当然競争の原理の中で行かざるを得ませんので、いろいろな問題が当然併発するのではないか、それは感じております。

○紙智子君 もう一つお聞きしたいんですけれども、先ほどもお話の中にあったんですけれども、過去実績ですね。過去実績ということで、これが三年間で固定されるということで、そうするとこれから新しく作付けしていってから作ったとしても、それが乗っかっていかないということになると土地がそもそも動かなくなるという、流動化しなくなるという話があったんですけど、その流動化しなくなるし、放棄地ということにもなりかねないと。そうすると、やっぱりその辺で土地の価格なんかも安くなったりということなんかも出てくるんじゃないのかというふうに思うわけですけれども、この点はどうですか。
 これは、じゃ生産者の方と山田参考人にお聞きします。

○参考人(西原淳一君) やっぱり私たちも、先ほど私の要請の中にも、意見陳述の中にもお話ししましたけれども、過去実績ということでありますから、今回の支援水準がですね。そうなりますと、やっぱりこれからの規模拡大、それから、特に、定年帰農じゃありませんけれども、今団塊の世代の定年を迎えた中でのやっぱり新規就農というのが相当これから起きてくるというふうに思っています。うちらの町も相当今打診が来ておりますから、そういう意味では、一つの農地流動化のためにもそういうのも必要だというふうには思っていますけれども、そういう人たちというのは非常に小さい面積の中でやっぱり入ってくるというのが実態であります。だから、そういう中でも、やっぱり、例えば施設園芸だけをやっていって、あとの農地については麦だとか大豆、土地利用型作物を作っていって維持管理をしていくということが起きてくるわけでありまして、その代わり、そういう人たちが、その面積が対象にならないということが起きてきます。
 だから、そういうことがこの三年間固定される中で、過去実績はそれはそれとして、新規就農だとか規模拡大をされて新たに土地を求めたところについて、過去実績のないところ、そういうところでも作付けをやっぱりしていくということが起きてくれば、それはやっぱり別途の支援策というのが必要ではないかなというふうにとらえております。

○参考人(山田俊男君) 私は元々、WTOの協定の直接支払のルール、すなわち貿易歪曲的でない緑の政策に何とかこれを合致させようという観点で、過去支払にこだわり過ぎるのは大変無理があるんじゃないかという思いは持っております。
 元々、WTOルールの中で輸出国の主張と輸入国の助成金の扱いについて違いがあって当然ではないかというのは日本提案の思いでもあるわけでありますので、やはり国内の自給率の低くてかつ輸入国でありますその中で、自給率向上のための助成金について、一律的に黄色でありますから削減しなきゃいかぬという観点だけでルールを受け止めてしまうのはやはり十分な仕組みではないというふうに思っておりますので、是非、今回のこの仕組みにつきましても今後の対応の中で十分可能であるわけであります。法律は法律、制度は制度としましても、内容の改善の中でやはり新しい作付け拡大等について措置されてしかるべき、こんなふうに思っています。

○参考人(門脇功君) 県全体のことを言えません。私どもの地帯を申し上げますが、新たに作付けをする土地というのはそんなにございません。現状であるということであります。

○紙智子君 それじゃ、ずっとお聞きさせていただいて、今の山田参考人のお話というのは私も全くそういうふうに思っていまして、やっぱりWTOとのかかわりで、そこにとにかく合わせないといけないというような形で今回こういうことをやられているんだけれども、おっしゃるように、その枠の中で考えてみてもいろいろクリアできることというのはあるわけで、そういう意味では、我が党としてはWTOそのものをもっと改定をしていくべきだというふうに思っていますけれども、そういうふうに思います。
 あと、やっぱりこういうふうにいろいろ懸念材料が出されて、このままではいけないということがはっきりされている中では、やっぱり今度の国会の中においてこれは決めるのではなくて、もう少しちゃんと出し直しをするべきじゃないのかなということなんかも、御意見をお伺いしてますますそういう気持ちを強く持っております。
 そのことをちょっと述べさせていただいて、終わりたいと思います。どうもありがとうございました。