<第162回国会 2005年3月10日 参議院農林水産委員会 第2号>


平成十七年三月十日(木曜日)
   午前十時開会

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本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席に関する件
○農林水産に関する調査(平成17年度の農林水産行政の基本施策に関する件)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
最初に、BSEの問題から質問いたします。
 二月八日に、アメリカが示した月齢判定方法について、牛の月齢判別に関する検討会が報告書を出しました。この検討会は、この月齢判定方法を採用するためには、留意点として追加的検証又は実施後のフォローアップを求めています。
 なぜこういう留意点が付けられたんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 二月八日に取りまとめられました牛の月齢判別に関する検討会の報告書におきましては、二十一か月齢以上の牛の枝肉を排除する基準として、アメリカで用いられております格付基準でありますAの40というものを採用する場合の留意点、今、先生もお話しになりましたけれども、その留意点の一つといたしまして、A40の有効性を確認するための追加的検証又は実施後のフォローアップが必要であるというふうに指摘をされてございます。
 これは、当該報告書におきます統計学的な分析の精度を検証するということ、あるいは報告書での検討結果が実際にも確保されていることを確認をする、そのためにこの追加的検証又は実施後のフォローアップ、そのいずれかはやる必要があるという、そういう委員の方々の御意見が反映されているものでございます。
○紙智子君 最後の報告書がまとめられた第三回検討委員会の会議録ですね、こちら私も読みましたけれども、この中で統計学の専門家から、アメリカが出したデータについて随所で統計上のサンプリングの偏りですとかデータの不十分さが指摘されているわけですね。例えば、その問題の十五か月齢の九十二例のうち九十例がすべて一人の格付員で格付されているという問題ですとか、いろいろな形でこういう意見が出されていると。
 ですから、検討会が追加的検証かフォローアップをあえて求めたというのは、やっぱりこのアメリカの出したデータが統計学的にも不十分ということだったんじゃないんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 検討会におきます議論の過程で、若干の制約がある、統計的分析をする上で制約があるというふうな御意見はありましたけれども、ただ、それを踏まえた上で統計学的な分析をした結果といたしまして九九%の信頼度で一・数%といったような、そういう数字が出されているわけでございます。
 しかも、この報告書におきましては、この統計的に分析した数字、一・九%であったと思いますが、そういった数字がそれ自体でもって高いとか低いとかということではなくて、このA40というものを用いて二十一か月齢以上の枝肉を排除する、そのことの、手法として使うかどうか、使えるかどうかという判断は、目的物でありますアメリカからの牛の枝肉のBSEリスクそのものの大小というものを踏まえて考えるべきであるというのが今回の検討会の結論でございます。
 ですから、その点については食品安全委員会の方で、これは肉のリスクでありますので、それを評価していただいた上で私どもとしては最終的に決めたいというふうに思っております。
○紙智子君 米政府関係者が、この検討会が出した追加的検証について日本は繰り返し要求を出してくる、いかがなものかと述べて、現時点で応じないという考えを明らかにしたという報道がされているんですね。
 アメリカに対していつこの追加的検証を要求したのか、またその回答は正式に出されたのかどうか、この点どうですか。
○政府参考人(中川坦君) 先ほど申し上げましたように、この報告書が取りまとめられましたのは二月の八日でございます。直ちにアメリカ側にその検討会の報告書の内容を伝えました。中身について説明もいたしましたし、今御指摘がありました留意点につきましても具体的にそのことをアメリカ側に要請をし、対応を要請したところであります。
 その後、随時アメリカとは事務的な協議を進めているところでありますけれども、具体的な回答は現在のところ得られていないということでございます。
○紙智子君 専門家が留意点として求めている以上、アメリカ側がこの追加的検証に応じないというふうに言った場合、月齢判定法の採用の前提が崩れるわけで、その場合、A40による線引きというのは採用不可能にすべきじゃないかと思いますけれども、どうでしょう。
○政府参考人(中川坦君) 実際に月齢判別方法としてこのA40を用いるかどうかというまでには、まだまだいろんな段階がございます。先ほども御答弁申し上げましたけれども、まずは食品安全委員会で国内のBSE措置についての答申をいただくことがその一つのステップでありますし、その後、今度は具体的にアメリカ側との条件を整えた上で、改めて米国からの輸入の条件について、その下での牛肉の、アメリカから入ってくる牛肉のBSEリスクについて食品安全委員会で審議をいただくということになります。
 その審議の過程でも様々な議論がされますでしょうし、私どもとしても、この間を利用してアメリカ側に引き続き、月齢判別に関する検討会の報告書で指摘をされている留意点について、その実施方を要求をしていきたいというふうに思っております。
○紙智子君 報告書は、A40の評価決定ポイントということで言われている、これは骨の部分の名前だと思うんで、ちょっと難しいんです。仙椎の明確な分離、それから腰椎棘突起というんですかね、棘突起の上部の部分的な骨化、骨、硬くなる部分だと思うんですけれども、等は、若い牛の特徴ではあるが、これらの特徴に基づく月齢判定については、従来の生物学の分野では十分な知見がないと認めています。
 生物学的にも十分な知見がない状態で、かつ統計学的にも不十分で、しかも検査する当事者であるアメリカの検査官の労組の委員長は、肉の色や骨の硬さを見て判断することは非常に困難だ、科学的根拠に欠けるというふうにNHKの取材に答えているわけですね。
 格付ではなくて、やっぱり食の安全に係る基準を、生物学的にも知見がなく、米国の検査官も科学的根拠がないというふうに言っているものを採用するのは、科学的知見に基づいて判断をするという政府の立場に反するんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょう。
○政府参考人(中川坦君) この月齢判別に関する検討会でアメリカ側から特別の研究の結果が示される以前、こういった、そもそもA40といったものは、アメリカにおいて流通している牛肉の格付をするために用いられているものでありまして、そのことと月齢判別とということを関連付けて学術的に研究がされたというものは確かにないわけであります。ないからこそ、改めて日本人の専門家、それからアメリカ側の専門家と交えて議論をしながら、これが本当に使えるものかどうかという視点から検討をいただいたわけであります。
 その結果といたしまして、報告書の中にもありますように、Aの40とAの50との間を見分けるその視点は、今先生がおっしゃいましたように、腰椎の棘突起の先端の骨化の程度、その他明瞭にその見分けをする箇所というのがあるということが分かっておりますし、そういう意味ではAの40をAの50と見間違えたり、あるいは逆にAの50をAの40と見間違えたりするという点においては、そういうことはありませんと。そこははっきりした判断基準があるということが専門家の結論でございます。
 また、このAの40とそれから二十一という、二十一か月齢以上の枝肉がA40に格付されないということの確かさについては、一定のサンプル数を基にして統計学的な分析をしますと、先ほども申し上げましたが、九九%の信頼度でAの、失礼しました、二十一か月齢以上の枝肉がAの40に格付される可能性というのは高くても一・九二%だったという、であろうというのがその統計上から出てくる結論でございます。
 この点については、先ほども申し上げましたけれども、そのことだけで是非を云々することではなくて、対象物のリスクというものと併せて考えるべきだというのも報告書に記載されているところでございます。
 なお、少し補足させていただきますと、労組の検査官のお話もありましたけれども、通常、アメリカで検査官が格付をしている際には、月齢を意識をしていないのは当然だと思います。それは、現場においては、アメリカの中で肉が格付をするときに判断の基準としてやっているのであって、それは月齢とはアメリカにおいては関係ありません。私ども、アメリカの肉が日本に輸入をされる一つの条件として、月齢を二十か月よりを超えているか超えていないかということが一つの条件になるものですから、それをAの40という格付を使って判別することができるかどうかというのを日本とアメリカとの間で専門家も交えて検討しているわけでありまして、現場の検査官は、そのことと、つまりAの40が二十一かどうかということとは、それは知らないのは当然だというふうにも思います。
○紙智子君 今いろいろ言われましたけれども、食の安全ということとの判断というふうにはならないというわけですよね。いずれにしても、このような方法で牛肉の安全を左右する基準が決められるということがあってはならないというふうに私は思います。
 それで、次、大臣にお聞きしたいんですけれども、アメリカは、五月に開かれるOIE総会に、感染牛の発生頭数が一頭とか二頭だったら牛肉貿易が停止できないルールを提案するというふうにしているわけです。
 各国がBSEの清浄化のために今本当に真剣に努力をしているときに、自国の利益だけを考えて、牛肉の安全をないがしろにするような主張だと。これはもう本当受け入れられないというふうに思うわけですけれども、政府としてこのような提案は認められないということは、やっぱり明確に姿勢を示すべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(島村宜伸君) OIEのBSEに関する規約について米国が行った提案につきましては、現時点ではその内容、具体的な内容を承知いたしておりません。また分かりましてから内容を検討したいと思います。
 なお、OIEの現行のBSEに関する規約では、牛関係の産品について、輸出国のBSEリスクの程度に応じた貿易条件を定めておりますが、BSEが一頭でも発生すれば貿易を禁止すべきとのルールを一律に定めているわけではありません。しかし、現実にはBSE発生国の牛関係の産品については多くの国が輸入を禁止していると承知しております。
○紙智子君 もう一点、大臣、お聞きします。
 先ほどもどなたか触れられていましたけれども、今日の日経新聞でも書いています。昨日、ブッシュ大統領が首相に電話で輸入再開を要請すると。小泉総理も、日米関係を害することのないように努力したいというふうに答えているわけです。来週はライス国務長官が訪日をすると。牛肉の輸入再開の時期を具体的に示すように求めたいというふうに報道されているわけです。しかし、国内措置についてもまだ結論が出ていないわけですね。
 こういう中で、この後、アメリカ産の牛肉の輸入再開に対する食品安全委員会の評価、これが非常に必要で、とても期日を示す段階には今ないというふうに思うわけですけれども、その立場を明確に米国に示すべきだと思うんですけれども、いかがでしょう。
○国務大臣(島村宜伸君) 周囲からどうごらんになっているかは知りませんが、私は一貫して、米国のいろいろな筋のお話に対しては、あくまで我が国の言わば国内措置に準じた、準じたというか従った措置を希望し、同時に、我々はあくまで科学的知見に基づく食の安全と安心を大前提に取り組んでいるので、その点をよく御理解をいただきたい、かたくなにそのことを主張し続けているわけです。
 こういうことですから、米国産牛肉の貿易再開に向けては、まず国内措置の見直しについての食品安全委員会の答申を受けた後に消費者の方々などと意見交換を行うこととしているわけでありますが、それらの手続を踏んだ上で、米国産の牛肉の輸入の是非について我々は検討していくことになります。
 いずれにいたしましても、この際にも食品安全委員会に諮問し、その答申を踏まえて具体的な輸入条件を決定する考えでありますので、このような手順を踏んで進めることを是非御理解いただきたいと思います。
 輸入再開の期日については、現時点においてはしたがって示すことは困難であると、こういうことです。
○紙智子君 米国に対してもその趣旨、はっきりするということだというふうに思います。
 それで、やっぱりのど元を過ぎれば熱さを忘れるということもありますけれども、二〇〇一年に初めて日本でBSEが発生して、本当に大きな被害が出て、大議論がされて、食品安全委員会そのものの設定も、そういう反省という話もさっきありましたけれども、踏まえてなされたものだと思うんです。やっぱりそこで反省された中身というのは、当時も専門家の方たちがやっぱり重要な発言をしていたわけですよ。だから、WHOの勧告に基づいて法的なそういう措置取る必要があると言っていたのにもかかわらず、無視して行政指導にとどめたという問題があったわけで、そういう意味では、そのやっぱり反省点を踏まえて対応していくということが大事だということを申し上げておきたいと思います。
 じゃ、ちょっと時間が押してきていますので、次、米価の問題について質問いたします。
 それで、ちょっと最初の質問は飛ばしまして、二年間、二年続いて不作ということで、普通なら価格が多少上がるのかと思うんですけれども、米価は下げ止まらない異常な事態になっているというふうに思うんです。
 それで、北海道では米の生産者の仮渡し金がもうついに一万円を割るという状況になりました。これは、オーストラリアの米が九千六百五十四円ということなんで、もう並ぶような状況になってきているんですね。この価格では、北海道の大規模な農家、担い手と言われるような農家も生産費をとてもこれ上回れない、下回るものになっちゃうわけです。北海道で全額算入生産費で計算されているのを見ますと一万四千五百九十六円ですから、大幅にこれ生産費下回るということになるわけです。
 しかし、担い手経営安定対策の発動はされないんですね。共益経費で、まあ二千五百円ですけれども、差し引いた手取りが九千四百円と言われているわけです。このままでは北海道の米作りは途絶えると。作る人いなくなっちゃうということで、本当に悲痛な声が上がっているんです。
 二〇〇五年度からの特例で見直しを行っているわけですけれども、二〇〇四年度の補てんというのはないわけですよね。それで、やっぱり二〇〇四年度産から特例を認めるべきではないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(村上秀徳君) 担い手経営安定対策の特例の問題でございますけれども、北海道につきましては、先生御指摘のとおり、いろいろ価格の問題、それから実際に発動されるかどうかという問題で、北海道が、この対策の設計をするに当たって、過去三年の価格を取り、それから産地づくり交付金の方に一部その積立ての方を回すというような設計をされたというようなことも、事情もございまして、担い手経営安定対策の発動は今の状況では難しいであろうというふうに見ているわけでございます。
 これを、現十六年産について特例といいますか見直しをすべきではないかという御指摘でございますけれども、やはり国の税金とそれから生産者の拠出金で一定の前提の下にその収入の不足分を補うというプログラムを立てたわけでございますので、その後の価格の変動においてその設計を見直すということになりますと、やはり途中でルールを変えるというようなことになるということで適当ではないということで、途中での見直しというのはできないというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 農水省は、価格決定、市場に任せても、担い手にはセーフティーネットがあるから大丈夫だというふうに言ってきたわけです。でも実際には、いろいろ回って話を聞いても、空知は米を作っているところなんですけれども、ここの農家の人に聞いても、〇四年産で十八ヘクタール作っていても、去年は十アール当たりで大体七・五俵しか取れないと。八万ぐらいなんですね。これでは経費、それから負債、償還金を支払うと畑の収入があっても組勘は赤字になると。補てんはゼロなわけです。こういう状況ではセーフティーネットとは言えないんじゃないかというふうに思うわけです。
 今回、価格下落について、政府の備蓄の管理に対する批判も強く出されているんですね。現在、百万トンが適正備蓄ということなんですけれども、そのうち大半が超古米と。だから、九七年産、九八年産、九九年産入っているわけですね。二〇〇四年の十一月現在で、政府備蓄が六十万トンのうち、この九七年から九九年産以前のお米が五十七万トンなわけですよ。六十万トンのうち五十七万トンがその古い米なわけです。その後、二〇〇四年産を二十五万トンを買い入れているんですけれども、新しい米は三十万トンにすぎないと。
 古い米は、私、実は去年申入れもしたわけですけれども、実際食べてみたと。そうしたら、やっぱり古い米はかなりにおいのするのもあるというのが局長のお話だったわけですけれども、やっぱり、備蓄米を今ランクに分けて、昨年の段階で二十六万トンが主食用としては最低ランクのA3ですよ。A1、2、3というふうにいい順から行くわけだけれども、A3だと。実際に消費に堪えないような米を備蓄している状況があると。
 もし今年不作だったら、たちまちこれ不足しちゃうんですね。やっぱり、我々はもうこれでは足りないと言ってきたわけですけれども、百万トンの備蓄は農水省が決めたルールなわけで、最低限でも直近のお米でルールどおり買入れをするべきじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょう。
○政府参考人(村上秀徳君) 政府備蓄米の在庫の関係でございますけれども、先生御指摘のとおり、十六年十月末現在で五十七万トンということで、その大部分が九年産から十一年産という状況になっております。
 そういう状況の中で、十六年産米の作柄が九八となったようなことを踏まえまして、十六年産米の買入れにつきましては、備蓄の適切な運用を図るという観点から、昨年十一月に策定しました米の需給及び価格の安定に関する基本指針におきまして、本年六月までに四十万トンを買い入れるということにいたしました。これを受けまして、二月までに二十五万トンを買い入れて、残り十五万トンについても四月以降に順次買い入れることにしているところでございます。
 政府備蓄米につきまして、古いものについて早く処理をして新しいものに換えるべきという御指摘でございますけれども、全体として、本年六月末には備蓄水準が九十一万トンに回復するというふうに見込んでおりますし、それから生産者団体の方も、十六年産米の需給状況の下で、政府の設定した四十万トンの数量を、これを確実に政府に売り渡すということをまず目標にしているという状況でございます。そういう意味で、今の計画に基づいて粛々と買入れをしていきたいというふうに考えているところでございます。
 なお、先生御指摘のその備蓄米のうち品質劣化等により主食用に適さないと判断されたものにつきましては、引き続き主食用以外の用途に処理するということとしておりまして、その需給実態に応じて順次実施することにしているところでございます。
 先ほど先生から御指摘ありましたA3というのがございますけれども、これも、Aランクというものは品質的に見て主食用としておおむね供給可能であるというふうに現在のところ判断しているところでございます。
○紙智子君 昨日も、基本計画の答申が出されて、意欲ある担い手を育てるというんですけれども、全く逆だというのが現場の皆さんの率直な声ですよ。しかも、二〇〇三年も戦後最低の収穫量だったわけです。価格の安定に関する政府の責任を放棄した結果で、やっぱり市場に、担い手と食料基地を窮地に陥れると、市場に任せて。これが米改革の目指すあるべき姿なのかということで、本当に強い怒りもあります。
 是非そのことを受け止めていただいて、本当に、あるべき姿ということでは、今の実態を踏まえてしっかり農政をやっていただきたいというふうに思います。
 以上で質問を終わります。