<第160回国会 2004年8月5日 農林水産委員会 第1号>


平成十六年八月五日(木曜日)
   午後一時開会

   ――――― ◇ ――――――
本日の会議に付した案件
○理事選任の件
○国政調査に関する件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農林水産に関する調査
 (WTO農業交渉に関する件)
 (平成十六年七月豪雨災害による農林水産関係の被害に関する件)
 (米国産牛肉輸入問題に関する件)
 (食料・農業・農村基本計画見直しに関する件)
 (中山間地域等直接支払制度に関する件)
○継続調査要求に関する件
○委員派遣に関する件
   ――――― ◇ ―――――
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 最初に、二十分の質問時間ですので、答弁できるだけ簡潔にお願いしておきたいと思います。
 それで、BSEの問題からですけれども、政府とアメリカはこの夏をめどに双方の牛肉の輸入再開について最終結論を出すというふうにしているわけですけれども、しかし、そういう段階なんだろうかというふうに思うんですね。
 日米専門家会合のこの報告書ですけれども、この報告書でも我が国の国内対策との違いというのは明確です。そして、アメリカの対策というのは非常に不十分であるということもはっきりしているわけです。飼料による交差汚染の問題でいいますと、日本側はこの中で、米国の飼料規制は交差汚染の可能性が排除できず、肉骨粉の適切な管理のために飼料工場のライン分離、専門化等による交差汚染防止対策を実施する必要性ということを指摘していると思うんですね。この指摘に沿って、それじゃこの夏までにアメリカ側というのはそういう対応をする見込みがあるのかどうか。夏というと、今八月ですから九月ぐらいまでになるのかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 四月の局長級協議において、本年夏を目途に日米双方が牛肉の輸入再開について結論を出すべく努力をするということが合意されているわけでございますけれども、具体的なそういった条件はこれからの協議になるわけであります。
 先生今例示に挙げられました飼料規制等につきましては、牛肉をアメリカから輸入する場合、日本の消費者に対して安全、安心を確保するという点からいたしますと、そこはちょっと別のものでございまして、飼料規制というのはアメリカでBSEが蔓延をするそのサイクルを断ち切るために大変重要なものとして日本としては指摘をしていることでございまして、牛肉そのものを輸入する場合の条件というのは、先ほどからお答えしておりますけれども、日本が現在取っているBSEの検査ですとか、あるいはSRMの除去といった点について必要な条件をきちっと合意をしていくということだと思っております。
○紙智子君 この夏までにということでいえば、これはこれからだということですから、はっきりしてないわけですよね。
 それから、アメリカはBSEの感染の疑いのあるこの本来検査すべき牛の四分の一しか検査できてなかったという事実も明らかになりましたよね。非常にずさんな実態だというふうに思うわけですけれども、この報告書で、やっぱりアメリカはサーベイランスの問題で、三十か月齢以上の高リスク牛を今後大体一年から一年半掛けて集中して調査をすると、そうやってサーベイランス強化するんだということを言っているわけですけれども、その感染の程度を測るためにやっているわけですね。その結果を受けてアメリカ産牛のこの汚染状況を判断するというのが筋だと思うんですけれども、この点どうでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 強化されたサーベイランス、その目的、それからこれからの実施のスケジュールは、今、先生おっしゃったとおりだというふうに思います。
 ただ、その日米の牛肉の交渉ということについて申し上げますと、サーベイランス自体は、アメリカの言わば汚染度といいましょうか、BSEの蔓延の状況を測るということでございまして、そういう状況であっても、安全な牛肉が輸入される条件が整えばそれは可能性があるというふうに思っております。
 ですから、大事な点は、日本でもBSEは発生をして、これまで十一頭見付かっておりますが、その中で消費者の方々は、日本の現在取っているBSE対策の下で消費が拡大をし、安心して消費していただいているという状況にあります。ですから、そういう状況を、アメリカ、これからどういうふうにBSEが発生するか、それは予断を許しませんけれども、そういう中で消費者が安心してもらえる、そういう条件を確保していくということがポイントだというふうに思います。
○紙智子君 ちょっと聞いていることが、その感染の程度を測るためにやっているその結果を当然受けて検討することになるんじゃないのかということを聞いたんですよね。
○政府参考人(中川坦君) BSEの強化されたサーベイランスの結果は、もちろん一年とか一年半たたないとそのこと自体は分からないと思います。ですから、その点についていえばまだ不確かな部分があるというのはそのとおりでありますけれども、そういった状況の中でどういう条件を確保すれば牛肉の輸入というものが可能かということを、そこを議論していくのがこれからの課題だということでございます。
○紙智子君 それから、この報告書でも書いてあるんですけれども、アメリカはBSE暫定清浄国だというふうに主張しているわけです。それで日本側は、米国がまだOIEによる暫定清浄国ということで承認されていないと、さっきも答弁にありましたけれども、ということを挙げてこの中で異論を示したわけですね。それで、この夏中に、じゃアメリカに対してOIEによる承認が出る見通しがあるというふうに考えていますか。
○政府参考人(中川坦君) 同じような答弁になって恐縮ですけれども、今、先生が御指摘になった点も、確かにアメリカのOIE基準によりますステータスという点では、日本がアメリカに対して見ていることと、それからアメリカ自身が自分をどう評価しているかということの違いがございます。
 そういうことはそのとおりでありますが、そういった点も含めて、先ほどから申し上げていますように、牛肉そのものの輸入再開についての条件をどうするかということで、これから議論していこうということでございます。
○紙智子君 OIEによる承認ということでは、今その見通しというのは立ってないわけですよね。だから、そこのところをちょっとはっきりしてほしいというふうに思うんですよ。
 それで、結局今聞いた一つ一つの問題についてはよく分からない状況になっているわけですよね。で、そういう状況なのに、最後の出口であるこの全頭検査、それからすべての月齢のSRM、危険部位の除去、これもアメリカ側はしないわけですよね。それでどうして安全と言えるのかと。こういう段階で最終的な結論を出す段階とは言えないんじゃないかというふうに思うんですけれども、この点どうでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) アメリカが現在国内において取っておりますSRMの除去の方法、それからBSE検査の方法、これは日本が現に今実施をしているものと大変大きな違いがあります。
 それはそうでありますけれども、そういう、それをそのもので牛肉貿易の再開をしようとしているわけではありません。これから再開をするに当たってどういうふうな条件をアメリカ側に要求し、それを実現していくかということがこれからの課題だということでございます。
○紙智子君 日本の国民がやっぱり不安に思っている。今一つ一つ挙げたこと自身がやっぱりクリアされるかどうかという問題は非常に大きな点だというふうに思うんですよ。
 それで、ちょっと大臣にもお聞きしたいんですけれども、大臣はこの間、内外無差別の原則というのは基本的なことだと、この立場を繰り返し強調されてきたというふうに思うんです。この内外無差別というのは当然なことですけれども、これまで確立をしてきた国内での安全対策、これを放棄して輸出国のそれに合わせてやっていくということでは全然ないというふうに思うんですね。
 その原則を貫くとなりますと、やっぱり今のアメリカの対策の現状のままではその解禁というのはこれ不可能だという判断になるんじゃないかと思うんです。この点どうかということと、もう一つは、夏をめどに輸入再開の結論を得るとこれに書いてあるわけですけれども、これだけやっぱり双方の違いがある中で、やっぱり先に期限ありきということではなくして、やっぱり十分検討して、そしてやるということが必要なことだというふうに思うんですけれども、夏をめどにというこの期日、期限にこだわらないというふうに明確にお答えになられるでしょうか、その点ちょっと二点。
○国務大臣(亀井善之君) 私、終始申し上げておりますとおり、一つは日米の局長レベルの会合、これから開かれることになっておりますが、これまだいつになるか決まっていないわけでありますが、基本的には我が国の国内での措置、これと同等の措置が講じられるということが基本的なことであります。やはり何といってもこれは食の安全、安心ということが確立されなければならないわけであります。そういうことを基本に米国との協議をすると、しているというのが現状であるわけであります。
 これ夏がいつまでか、これも分かりませんし、今その合意ができるというのは、予測するということは今の時点では何とも申し上げることはできないと思います。
○紙智子君 今の御答弁ですと、これからの検討の中でということで、だから夏までかどうかということについてもちょっと今のままだと、これも明確に夏までと書いているんだけれども、やっぱりこれ無理があると思うんですよ。
 だから、そういう点では、そういう期限にこだわらないで、今、安全、安心、国内でのそこのところを確保するということをおっしゃったわけなので、そこはこだわらないということで理解してよろしいでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 先ほども申し上げましたとおり、国内の同一の基準という基本的なことでありますので、こういうことが入れられなければ、これ期限の問題という、これはもうないわけでありまして、あくまでも私は我が国と、国内措置と同等の措置、これが基本的でありますし、併せて食の安全、安心と、このことが重要なことであるわけでありまして、このことを優先しなければならないと、こう思います。
○紙智子君 そういう安心、安全を確保するということを重点にして期限という問題はこだわらない。こだわらないというか、この中に、何と言うんですか、基づいて、夏までというふうになっているんだけれども、こだわらないというふうに受け止めて理解をしたいと思います。
 それで、昨日、食品安全委員会が主催した食に関するリスクコミュニケーションがやられているんですけれども、この中でも全頭検査の継続してほしいという要望が相次いで出されて、複数の公述人から米国産の輸入牛肉の輸入解禁につながることがあってはならないという意見が出されています。その上で、輸入再開を検討するにはアメリカ産輸入牛肉についてのリスク評価が必要だという意見が出されたわけですね。そうしたら、これに対して座長でありますプリオン専門調査会をやっておられます吉川座長が、アメリカのリスク評価というのは肩の荷が重い、情報が得られていない中では不確実なものしか出てこないというふうにおっしゃっているんですね。事実上、やっぱりアメリカ産牛肉のリスク評価というのは今の時点では不可能だということを示唆している発言だというふうに思うんです。
 こういう状況下で輸入再開を検討するということ自体にやっぱり無理があるというふうに思いますし、そういう段階の中で、最終結論としてこの輸入再開の方向ということで無理に結論出すということになると、これはやっぱりアメリカの圧力に屈したんじゃないかということでの批判も受けざるを得ないというふうに思いますし、消費者の安全、安心よりもアメリカ優先の姿勢なのかというふうな批判も受けざるを得ないというふうに思うんです。恐らくそんなことはよもややらないとは思いますけれども、そういうことをやらないということでお約束していただけるでしょうか。大臣にお願いいたします。
○国務大臣(亀井善之君) 先ほど来申し上げましたとおり、私は国内の措置、これと同一の基準と、こういうことでありますし、食の安全、安心と、このことがまた大前提であるわけでありまして、昨日の議論がどういうことであったか私は細かく承知をしておりませんけれども、これからの協議の中で私は今私が申し上げたようなことを前提にいろいろやらなければならないと思っております。
○紙智子君 それじゃ、WTOの問題ですけれども、ちょっと時間がありますので、少し詰めてお話を、質問したいと思います。
 それで、既に議論されてきているんですけれども、今回の枠組みの合意というのは、輸出国、輸入国で解釈をめぐってはどちらもいろいろ都合よく解釈できる内容だというふうにも言われているわけですけれども、例えば高関税の品目の大幅削減というのは避けられないという見方が出ている中で、日本は重要品目については枠外だというふうに主張しているわけです。こういう重要な部分で合意文面の各国の解釈というのはこれ一致していると思われないんですけれども、この点についてどうか、お聞きしたいと思います。
○政府参考人(伊藤健一君) 今回の農業に関する枠組み合意をどう見るかでございますけれども、例えば上限関税につきましては、その役割は更に評価されようということで実質的に先送りになっていますし、また重要品目につきましても、今御指摘ありましたけれども、一般の階層方式とは別枠で扱うということも明示されております。そういった意味では、問題がすべて先送りされているというばかりではないというふうに考えております。
 ただ、あくまでも今後のモダリティーを決める前提となる枠組みでございますので、具体的な数字も入っておりませんし、要件もまだ入っておりません。そういう意味では、今後の交渉にゆだねられている課題が多いことも事実でございます。
 そういった点につきまして、今後の交渉の中で、今回のこの枠組み合意につきまして各国がそれぞれの立場でそれぞれの主張をするということも当然想像はされます。そういう意味では、今後のモダリティー交渉は大変重要な交渉であり、また厳しい交渉になるというふうに認識しております。
 交渉というのは元々そういうこと、要素は当然あるかと思いますけれども、当然我が方としましては、この枠組み合意を根拠にG10諸国のような連携国、あるいは途上国へも更に強力に働き掛けまして、我が国の主張が反映したモダリティーにしていくように強力にやっていきたいと思っております。
○紙智子君 これからの厳しい交渉になるというお話もあるわけですけれども、やっぱりそれぞれの主張で必ずしも統一した解釈でない中で、解釈なしに関税割当の拡大、それから階層方式をうたったということは、今後それを根拠にこちらも言うかもしれませんけれども、逆に輸入自由化に一層進まざるを得ない状況に追い込まれることもあるんじゃないかと思うんです。
 それで、やっぱり上限関税の評価という文面を残したということも日本にとってはこれ不利になるんじゃないかと思います。関税の上限を決めるということでは、当然のことながらやっぱりこれから追求されていくわけですし、その意味では火種を残したと言っていいのか、作ったと言っていいのか、そういうふうに言わざるを得ない状況でもあって、やっぱりその期限の中だけで合意をしようというふうに、そのことを優先したということがそういう事態作っているんじゃないかと、拙速じゃなかったのかというふうにも思うんです。
 それで、私は、これからの交渉ということについて、大臣が今度の交渉の中で重要品目の選択について各国の裁量に任されてその数の拡大の余地があるということについて、それぞれの裁量でということを評価されて言っておられるんですけれども、もっと根本的にといいますか、本当にその国その国の実情に合った自主的、独自的な農業政策や貿易政策が幅広く保障されると、そういう枠組みを本来作るべきであって、やっぱり今までの交渉の枠内だけでいきますと、幾分は日本の意見も取り入れられるけれども、多くは妥協を迫られるという形になってしまって、そういう交渉じゃなくて、やっぱり重要な部分についてはそれぞれのその国の主体的、自主的な政策の実現が認められるような枠組みにしていくことが大事だというふうに思うわけですけれども、それに対する大臣の御認識を。
○国務大臣(亀井善之君) 今回の枠組み合意の問題で、今、上限関税の問題を御指摘になりましたけれども、今度いわゆる階層方式、これはもう御承知のとおり、これを幾つにするか、階層を三つにするか四つにするか、こういうことになるわけでありまして、そういう面では高関税のところもあるわけであります。
 そういう面ではやはり、そういう階層方式ということになるわけでありまして、センシティブ品目をそれから除外する、こういうことでありますので、上限関税はある面では私は設定というのはこの階層方式に屋上屋を重ねるようなことであるわけでありまして、このことを私はこの一般理事会の中でも強く主張をし、上限関税の問題は事実アメリカやそのほかの国からも強く設定の議論があったわけでありますが、そういうことを主張してまいったわけでありまして、いわゆる階層方式を採用するという中でセンシティブ品目をまた別に作るということは、私は今後この上限関税の問題につきましては、また更にそのことは主張しますけれども、一つの整理ができたんではなかろうかと、このように思っております。
 さらに、今御指摘の多様な農漁村の共存、これを基本理念として主張してきたわけでありまして、生産性のみを追求した画一的な農業が生き残るのではなく、あくまでも農業の多面的な機能と食料の安全保障等非貿易的関心事項、このことが適切に配慮がされなければならないわけでありますし、このことも附属書の中にもうたわれておるわけでありまして、今後ともいわゆる各国の農業が共存できるような柔軟性が確保された貿易ルールが確立されるように更に努力をしてまいりたいと。
 またさらに、G10の諸国やあるいはまたそれ以外のいろいろの国々とも十分話し、また積極的に働き掛けをいたしまして国際的な理解が得られるように努力をしてまいりたいと、このように考えております。
○紙智子君 多様な農業の問題もお話しになっているわけですけれども、やっぱりその実現のためにも、私はWTOの枠そのものに対しても改定を求めていくということが必要だということを最後に申し上げまして、質問を終わります。