<第159回国会 2004年5月25日 農林水産委員会 第17号>


平成十六年五月二十五日(火曜日)
   午前十時開会
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本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○政府参考人の出席要求に関する件
○家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 家畜伝染病予防法の質問に先立って、諫早干拓の中・長期開門調査、この見送りについて最初にお聞きしたいと思います。
 それで、大臣は中・長期開門調査について、コンピューターによる再現を含めて検討した結果、漁業環境に影響を及ぼす、漁業被害が出るので実施できないということにしています。
 この検討についてお聞きしたいと思うんですが、まずこの補足説明の四項に、排水門の常時開放により潟土が有明海に広がる様子が示されているわけです。それで、前提条件として排水門は常時開放だと。で、それ以外の方法を検討したのかということなんです。というのは、研究者や漁民、市民団体が提案しているように、徐々に海水を入れて排水をするならば、凝集効果ということで濁りや洗掘が抑えられるというふうにしているわけです。大臣の検討というのは、一気に全開し、そして常時開放という、言わば最も極端な場合であるわけです。
 それ以外のケースについては検討したのかどうか、まずお答え願います。
○政府参考人(太田信介君) 私どもは、中・長期開門調査の検討会議も含めて、この中・長期開門調査の取扱いについての論点の整理をいただき、その後、様々な検討を進めてまいっておりますけれども、今御質問の点につきましては、いわゆる開門によって分かること、分からないこと、様々議論がある中で、やはり大きく開けることが、大きく開けることによって何らかのことが分かるんではないかという、その前提に立ちまして、常時開門をするという前提での検討を行ったものであります。
 ちなみに、少し開けてという議論は検討会議の中の専門委員会等でも御議論されておりますけれども、そうした場合には、短期開門調査と比較して新たに分かることは極めて限られておるという結果となっております。
○紙智子君 ということは、やっぱり常時開放ということでもって検討した以外は特には検討していないということだと思うんです。
 それで、いろんな研究者が被害のできるだけ出ない方法でできないかということで工夫、研究をしているわけです。
 五月十三日に日本造船学会で九州大学の経塚教授が発表した論文がありますけれども、これは大臣、御存じですか。
○政府参考人(太田信介君) 内容を詳しくは承知しておりませんけれども、そのような論文が出されたということは目にしております。
○紙智子君 大臣は御存じですか。
○国務大臣(亀井善之君) 発表されたことは、こういう新聞の報道で承知をしている限りであります。
○紙智子君 その論文の中では、干潟再生の面積を広くする必要があると。それで、調整池内の水位を海抜ゼロメートルからマイナス一・二メートルの範囲で保ちながら、水門は底から九十センチのところまで開いて水面下で海水を出し入れするという、潜り開門ということですよね。
 潜り開門の場合に、この流速というのは秒速で一・四メートルということで、水底の泥を巻き上げるという、農水省が言っているわけですけれども、一・六メートル、秒速一・六メートルというふうに流れが、速い流れだと巻き上がると言うんですけれども、それを下回ることになるわけです。これだったら被害は出ないと。しかも、かなりの水位差で海水を入れて被害を抑えられる方法だということなんですけれども、こういう方法も検討すべきではないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(太田信介君) 先生御指摘のとおり、開門の方法、もちろん様々ございますけれども、いわゆる短期のときに行いましたマイナス一メーターから一・二メーター、これは背後地の安全を考えた場合に現在の調整池の水位がマイナス一メーターであると、そこから下げることは可能だけれども、上げることについて、しかもそれを人為的なコントロールによって行うことに対する予測し得ない様々な影響ということが懸念されるわけであります。
 いわゆる全面開放ということになりますと、それを開けることによって、それをすべて開けるわけですので、これにおいても、本来は高潮であるとか本当の大きな洪水のときにどうゲートを操作するかということについては、技術的なことも含めて同等の安全性を確保することがかなり困難な面はあるわけでありますけれども、特にその中間開度で、しかも調整池の水位をマイナス一メーターよりも上げた状態ということは、いわゆる背後地の安全等を考えた場合に、排水門操作自体が本来持っておる安全性を確保しながら行い得るのかということがございまして、私どもとしては、検討会議における開けた場合に何が分かるのかという議論を踏まえて、全面開門といいましょうか、常時開放ということをベースに検討したわけでございます。
○紙智子君 ちょっとなかなか分かりづらい、聞いていてよく分からないわけですけれども。
 常時全面開放となると被害が大きい、水量が大きいと、だからできるだけそういう被害が出ないような形でやり方がないかということで今研究のことが言われているわけですけれども、そういう形で方法があるのだとすれば、それに対して、マイナス一メートルですか、上げたらその後どういうのが出るか、安全に対してもよく分からないということなんですけれども、結局分からないわけですよね。根拠がないわけですよね。だとするならば、やっぱりきちっとそのやり方については検討の中に入れてその選択肢の一つにするべきじゃないんですか。
○政府参考人(太田信介君) 安全が分からないという観点が違っておりまして、いわゆる全面開放した場合は、背後地の防災上の安全の問題ももちろんございますけれども、基本的には諫早湾内、ひいては有明海に対する予期し得ない漁業被害の可能性があるということでございます。
 今申し上げました中間開度で行います場合には、それ自体を、ゲート自体を常に操作するわけであります。しかも、短期開門調査のときはマイナス一メーターということを守っておりましたので、その安全性に対して、もちろん塩分の問題があるにしても、いわゆる浸水とかそういったことに対する被害の可能性ということは避け得るわけでございます。ところが、いわゆる中間開度で行い、しかも調整池の水位を一メーター、二メーターと、まあその高さにもよりますけれども、そういう操作を行うこと自体は、例えばこれを地元住民の皆さん方、特に背後地の皆さん方に説明した場合に、前と同等の安全が確保できるのか、そのような操作ができるのかということを問い掛けられた場合に、私どもとしてはそれに答え得る方法を持ち得ていないという観点で検討案としてはそれを入れなかったということでございます。
○紙智子君 そこのところがよくはっきりと結果がどうなるかということがつかめない中でそれを排除したという話なんですけれども、やっぱり様々なそういうやり方をめぐっては提案がされているわけですから、初めからそれを外すということではなしに、考える必要があるんじゃないかと思うんです。常に全面開放にしたときのというふうに想定した話になっていて、だけれども、第三者委員会がそもそも提案した中身というのは、開門はできるだけ長く大きいことが望ましいんだ、できるだけ毎日の水位を大きくし、できる干潟を増やすことが望ましいんだと、こういうふうに言っているわけですよね。つまり、常時全開ということも含まれるわけだけれども、それだけじゃなくて非常に幅のある提案をその中でされていると思うんです。
 それなのに、農水省の方は、一番極端なケースでしか検討しないということが、この今の話の中でもそういう話になっているわけですから、これはやっぱり納得できないというふうに思うんです。この点、どうですか。
○政府参考人(太田信介君) 私どもは、検討会議、特に専門委員会、これは四県の水産試験場長等も入っていただいた、そういう中で議論した中で、実は全面開放だけを論じたわけじゃなくて、短期開門と同じような方法でやる方法、これについても検討をいたしております。そうした中で、小さく水位を変動させる方法については、短期開門調査等、新たに分かる知見は本当にあるのかどうかという疑問が呈されておることもございます。
 それから、いわゆる中間開度的なことにつきましても、総論といたしましては、干潟の問題につきましても、以前のそれじゃ干潟と同じ状況が再現されるのかという議論をした場合に、そこでは当然、例えば洪水が起きれば一気にそこが真水になります、塩水を入れておっても。そうした中で、非常に不安定な生態系といいましょうか生物環境が創出される中で、そういった従前あった諫早湾における干潟の浄化機能なり、そういったものを抽出できるのかという議論の結果、それについてはなかなか難しいということを踏まえて、私どもとしては、それであればやはり大きく開門し、その中でということを、その方法を特に深く検討したという結果でございます。
○紙智子君 常時開放だけを検討したわけじゃないというふうに今いろいろおっしゃったわけですけれども、それであれば、その中身もちゃんと資料を示すべきじゃありませんか。それ全然示さないで、結論として結局はそれは無理だろうからということで示さないでやっぱり提起するんじゃなくて、やってあるんであればそれも含めて全部資料も出してやるべきだと思いますよ。そういう意味では、示し方自身も私は非常に欠陥があるというふうに思うんです。
 しかも、その被害が出るという最悪のケースを見てもいろいろ問題あるというふうに思うんですね。シミュレーションでは、ずっと開けた場合に泥というか広がっていって、それで三十日後には熊本の沖に達するというふうに言っていて、資料をいろいろいただいていますけれども、このいただいた資料で見ても、色でもって茶色い色がだんだん広がっていくというふうに示してあるわけですけれども、この先端部分というのは資料を見ると濁っているわけですけれども、単位でSSという形で濁りの単位を言っていますけれども、SSで大体五から十ですよね。そうすると、この先端部分というのは通常の濁りと同じじゃないかと思うんです。変わらないと思うんです。
 農水省の平成十二年度の海域SSの測定結果というのをまたもう一つ出されていますけれども、これを見ても、結局、福岡の漁場のSSというのは平均で見ると八・三から二十四・八、佐賀でいうと三・三から四十四・五ですよ。だから、本当に、水色の海に茶色の汚泥が広がっていくというふうな形で、図を見るといかにも何か広がっていくというふうになっているんですけれども、これで、数値見ますと、どうして有明海全体に漁業被害が出るのかということなんです。これを明らかにしていただきたいと思うんです。
○政府参考人(太田信介君) 私どもは、有明海全体に漁業被害が出るという説明の仕方はしておりません。
 排水門の常時開放によりまして潟土が有明海に広がる様子につきましては、海域それから調整池の濁りの拡散シミュレーションの結果を、御指摘の水中の浮遊物質、つまりSSの濃度で表したものであります。具体的には、浮遊物質の濃度を五ミリグラム・パー・リッターから千ミリグラムまでの八段階に分けてグラデーションを付けて説明しておりますけれども、排水門を常時開放したシミュレーションの結果では、常時開放をスタートしてから三十日後には諫早湾内のまず広い範囲、要するに色の濃い部分ですけれども、ここでは一リットル当たり数百ミリグラムと、これまで環境モニタリング等でも行っておる観測結果には得られておらないような、そういう高濃度になります。
 諫早湾外の佐賀沖あるいは島原沖におきましても一リットル当たり三十から五十ミリグラムになると予測されたところでありまして、先生御指摘の佐賀沖であるとか福岡の地先であるとかいう議論はありますけれども、いわゆる常時、本来はかなり澄んでおる、透明度のいいようなところに一か月以上にわたってそういう濁度を持った水が停滞するということがまずは諫早湾内の漁業への影響、そしてそれが有明海に及ぼす影響の可能性、そういったいわゆる連鎖的な影響もあるという観点からの判断を行ったものであります。
 ちなみに、先ほど御指摘がありました、私どもは、被害があるからこの開門調査を難しいんだということだけを申し上げているわけじゃなくて、様々なことを含めて総合的に検討した結果であることを申し添えさせていただきたいと思います。
○紙智子君 被害が出るからというのは大臣の漁民の皆さんへの中にも言っているわけで、一体、じゃ、どういう被害が出るのかということは地元の皆さんも疑問を呈しているわけですよ。
 それで結局、方法の上でも、やっぱりいろいろな選択肢じゃなくて、最初から極端なケースに限ったもので、開けてもいいけれども、開けた場合はこんなに大きな被害が出るよというような形でやると。そして、その予測でも、その先端の濁りというのは非常に大きく濁りが広がるような印象を与えるような中身になっているわけですけれども、実際には通常を超えるものではないと、先端のところは。
 今のお話でも、有明海全体に被害が広がるということではないという話をされたわけですけれども、やっぱり非常にその辺はあいまいもことしているわけで、私は、やっぱりそういう中で今度の出している中身というのは、いろいろ反対の異論もある中では撤退をすべきだと思いますね、撤回をすべきだと思います。少なくとも、更に漁民の皆さんとも話し合って、検討で、やっぱりその結果いろいろ方法としていいのが出てくるのであれば、一回出したとしてもそれに固執しないというような柔軟な対応で臨むべきだと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) この中・長期開門調査の取扱いにつきましては、中・長期開門調査検討会議と、そして様々な立場の関係者から広く意見を聴取すると。それから、先ほども御質問ございましたが、関係四県の水産試験場長を始め関連する専門家、こういう方々の意見もいろいろ伺って、専門委員による技術的、専門的な助言を得て、いろいろ論点の整理もしてきたところでもございます。
 そういう中で、やはり私は、漁業者の皆さんが期待されております有明の再生、このことを明らかにすると。そういう面で、この調査の取扱いにつきましては、どのような成果が期待でき、そしてどのような影響が生じ、そしてそれに対してどのような対策が必要となるかと。そのことを、いろいろこの報告書も読み、またあるいは私どもの関係者から話を聴き、総合的に判断をしたところであるわけでありまして、この中・長期開門調査による濁りの拡散を検討した中でも、排水門を常時開門をした場合には、潮汐により排水門の周辺を中心に広い範囲の潟土を侵食する速い流れが毎日二回生ずるとか、あるいはまた、一日に排水門から排水される水量は、潮受け堤防完成後に発生した最大の洪水排水量の約二倍にも及ぶと、こういう結果もあるわけでありまして、このように潟土が混ざった大量の水が諫早湾に排水され、それが諫早湾外にまで広がることによりまして漁業環境に影響を及ぼす可能性もあると考えたところでございまして、この調査、実地の調査あるいはその対策を対応すると。そういう中で、一日も早く私は有明海の再生とその道筋を示したいと、確立したいと。そして、それには是非漁業者の皆さん方にもいろいろお話も伺って、そしてそのような中でその対応をしてまいりたいと、このような判断をしたところであります。
○紙智子君 有明海の再生のためにも中・長期調査をやってほしいというのはこれまで地元からも強く上がっていたわけですから、そこはやっぱり、これでもって、一度出したからこれでもって押し切るということを決してやってほしくないと。やっぱりちゃんと柔軟な対応でこの後も引き続き地元の皆さんとも話をしてやっていただきたいということを更に付け加えて言わせていただきたいと思います。
 そして、続いて家畜伝染病予防法の質問ですけれども、一月十二日に山口県で、そしてその後、大分、京都ということで拡大していった鳥インフルエンザ、一応終息を見たわけですけれども、未解決の問題、まだまだ残されています。それで、京都の丹波町の養鶏業者も移動制限が解除された後、取引の再開を求めて駆け回ったわけだけれども、もうスーパーなんかでは既に出荷ストップした段階でほかの業者に、ほかの人に切り替えて元に戻らない、こういう状況になっていますし、価格も下がったままで売上げも回復しないと。発生前の状況と比べるならば、やっぱり相当まだ取り戻すにはほど遠い状況にあるわけです。
 それから、アジア諸国での新規発生の報告というのはまだ今されていないわけですけれども、専門家は、大流行の再発する可能性というのはまだ残っているんだというふうに指摘していますし、そのためにも、今回の事態を教訓にしてやはり万全の恒久対策というのを取っていく必要があるというふうに思います。
 その点で、まず第一に、家畜所有者自身に対して届出通報義務を強化するということが非常に大事だというふうに思います。今回の事態で、家畜所有者が届出を怠った場合にいかに深刻な事態を招くかと。これは本当に今大型化して、畜産経営が実際には法律にかみ合ったものになっていないということが明らかになったわけで、この見直しが必要になると思います。
 今、現行法では届出義務は基本的に獣医師に課せられていると。唯一、法定伝染病に限って獣医師に診せずに家畜所有者自身が判断した場合にのみ所有者に届出義務を課しているわけです。それから、新疾病、届出伝染病の場合は、家畜所有者には届出通報の義務は課されていないわけですね。今回の政府案では、家畜所有者について、現在、通報の罰則の強化のみで、家畜所有者自身の届出通報義務が生じる範囲を拡大強化していないんですけれども、これはなぜでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) まず、いわゆる法定伝染病、家畜伝染病というのは、症状も非常にはっきりしておりますし、また多数の家畜が続けて死亡するというふうなことで、獣医師でなくてもそういうことが起これば十分察知することができるものであります。それに対しまして、届出伝染病ですとかあるいは新疾病、こういったものにつきましては、感染しても顕著な症状が出ることが余り多くないということがございます。ですから、所有者、いわゆる獣医師のような専門的知見を持っていない場合にはなかなか見付けにくいということ。それからもう一つは、感染力も弱く、また死亡の比率も低いということで、殺処分などの蔓延防止措置を至急取らなければいけないというものでもないわけでございます。こういうふうに、家畜伝染病とそれから届出伝染病ではかなりはっきりとした違いがございます。
 こういう中で、獣医師ではなくて、家畜の所有者に対してそういった届出伝染病なり新疾病といったものについて届出義務を課すということについては、やはりそこは過重なものではないかというふうに判断をしているところでございます。
○紙智子君 実際にはそうじゃないんじゃないかと思っていたけれどもそうであったりということもあるわけですから、そこはやっぱり十分慎重にやるということが必要だし、その意味では私は、診せても診せなくてもきちっと届けるというふうにするのが今後にとっても必要だというふうに思います。
 それで、この法律を制定した当時というのは、結局規模も小規模だったわけですよね。家畜の疾病に関する知識も不十分だったと思うわけですけれども、今はもうその当時と比べると比べものにならないぐらい非常に規模が拡大して、そして企業経営になってきていると。それで当然、感染症に対する知識や管理能力も求められているし、報告や通報の義務が課せられる必要があるわけです。
 今回、浅田農産の場合も、結局内部通報で初めて事態が明るみに出たわけですよね。家畜保健衛生所の立入りがそれでもってされたわけですけれども、やっぱり大経営の内部というのは通常分からないわけですよ、外からだけでは。
 それで、我が党の修正案で、家畜所有者は患畜又は疑似患畜となったことを発見したときには獣医師による診断又は検案を受けたかどうかにかかわらず都道府県知事に届けなければならないと。そして、これまで家畜所有者に義務のなかった家畜伝染病以外の伝染性疾病と、今までなかったような新しい疾病についても、その疑いがある場合も含めて発生を確認した場合に、獣医師に診せていないときは届出をしなきゃならないと。そして、さらに、既に知られている伝染性の疾病にかかっている可能性を示す異変を発見したときには通報しなければならないというふうにしているわけなんですけれども、その点でやっぱり家畜所有者の義務の拡充強化というのを求めておきたいというふうに思います。
 それから次なんですけれども、移動制限によって影響を受けた家畜等の所有者への助成の措置、これを法制化するということで、これは我が党としても、二〇〇〇年の口蹄疫のときに既に大きな問題になっていて、それで、そのときからずっと要求してきたことで、その意味では一歩前進ということで評価できるというふうに思います。
 しかし、国は県が助成金を交付した場合にその二分の一のみ負担するという改正案になっているわけです。これでは私は国の責任が不明確だというふうに思うんですね。山口県を始めとして、今回、高病原性インフルエンザが発生した自治体からも批判の声も上がっているわけです。家伝法では手当金の規定で、発生農家の疑似患畜を殺処分した場合に、国が疑似患畜の評価額の五分の四を支払うことになっています。それと比べてもやっぱり国の責任、あいまいになるんじゃないかと。なぜ県が助成した場合にその額の二分の一を交付するという規定にしたんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 移動制限を受けた農家に対する助成につきましては、その移動制限に伴う影響が広範囲に及ぶと、広範囲の地域の農家経営の安定にも大変な影響が及ぶということで、地域の畜産振興を図っていく観点からも大変重要なことだというのが一つの理由でございます。
 これが、都道府県から見ても一定の助成をする一つの根拠といいますか、そういう理由だというふうに私ども考えておりますし、もう一つの理由は、移動制限は家畜伝染病の蔓延防止を図る際に中心的な役割を果たします都道府県が国と協力しながらやるという、そういった性格もあるわけでありまして、こういった二つのことから、都道府県が助成をする際に国がその二分の一を負担するというふうにしたわけでありますけれども、この都道府県が助成をする際に国が二分の一というこの書きぶりでありますが、これは何も都道府県がその助成をしないことをあらかじめ想定しているということではなくて、むしろ国は国、都道府県は都道府県というそれぞれの役割を果たしながらやっていくというときに、それぞれの役割分担の下で一定の負担をするということで二分の一としたことでございます。
 この辺の規定ぶりは、例えば似たような例としまして、感染症の場合、感染症や結核の予防等、伝染病の予防といった類似のケースでも、やはり国と県はそれぞれ二分の一、その差というふうになっておりますし、また農業者の責めによらない事態への対応である天災時の農業者への融資、その場合の国の負担割合も二分の一となっていると、こういったものを勘案いたしまして、二分の一というふうにしたわけでございます。
○紙智子君 私は、本来、家畜伝染病予防と蔓延の防止というのは国が責任を持つべきだというふうに思うんです。だから、都道府県知事が命令する殺処分に対しての手当金も疑似患畜なら家畜の評価の五分の四を国が払うと、移動制限についてもやっぱり同様だというふうに、考え方はですね、同様だというふうに思います。だから、やっぱりその二分の一というのでは不十分だというふうに思います。
 それで、都道府県は法律や既成の制度だけで救済できない問題あるわけですよね。例えば風評被害についても、独自に対策も取らなきゃいけないとか、そのほかもういろいろ、実態に見合った救済ということではいろいろやっぱりきめ細かくやらなきゃいけないというのがあるわけで、そういうことがやれるようにするためにも、基本のところはやっぱり国が責任をはっきりさせて、負担の割合を増やすべきじゃないかというふうに思うんです。
 それから、もう一つ、特殊卵の問題、高付加価値卵というこの卵の損失補償の問題ですね。
 大分県、それから京都では、国の損失補てんが標準卵を基準価格としているので、平飼いなどの高付加価値卵の生産者からは、単価が低過ぎると、損害の実態に合わないというふうに批判が、これ農水省にも上がってきていると思うんですけれども、出ています。それで、この高付加価値卵の生産というのは小規模の養鶏者が多いわけで、その影響も非常に深刻です。
 我が党としても、繰り返し実態に見合っての損失補償ということで求めてきているわけですけれども、農水省では、地鶏には規格があるんだけれども、高付加価値の卵については規格がなくて適正な評価ができないんだと、そういうことを理由にして、補償基準の価格というのは一律に約百四十円ということで、市場価格に抑えられているわけですね。これ再度、例えば鳥インフルエンザが発生するような事態が起こった場合に、またこれ重大な問題になっていくというふうに思うんですよ。飼料に添加して栄養成分を強くしたり、飼い方でもって、異なる飼養方法でもって特別の、特殊卵と言われるものが作られているわけですけれども、この実態ですね、生産者数、それから流通量、価格の状況というのはどうなっているんでしょうか。
○政府参考人(白須敏朗君) ただいまの高付加価値卵、特殊卵についてのお尋ねでございます。
 消費者の健康なり安全に対する意識の高まりというふうなことを背景といたしまして、鶏卵に対するニーズも多様化しているわけでございます。そこで、ただいま委員からも御指摘ありましたように、飼料でございますとかあるいは水、あるいは飼養環境と、そういった飼育方法に工夫を凝らしたこの鶏卵の生産努力というのが行われておりまして、いわゆる特殊卵でございますが、全国的に統一した定義もないわけでございまして、その正確な実態は把握しておりません。関係業界によりますと、約七百種類以上あるというふうに言われているわけでございます。
 流通量につきましても正確に把握しておりませんが、聞き取りによりますれば、店舗による違いもあるけれども、量販店で特殊卵が売場面積の四割から七割を占めているというところもあるというふうに聞いているわけでございます。
 また、価格もきちんとした把握はしておりませんが、聞き取ったところによりますと、量販店で特殊卵として販売しておるものの小売価格は、希望小売価格ベースで一個当たり二十円から五十円というふうな大変大きな幅がある。一般卵は小売価格で大体一個当たり約十八円、これ総務省の小売物価統計調査でございますが、そんなことで大きな幅があるというふうに承知をいたしているわけでございます。
○紙智子君 既に家庭に出ていく消費量、四分の一とか相当な部分が占めているというふうに言われているわけですけれども、それについて全くやっぱり状況として把握きちっとされていないということでいえば、やっぱり農水省の責任としては問題じゃないかと思うんですね。高品質の卵や付加価値を付けて販売するというのは、やっぱりこれ農水省自身が中小の生き残りのために推奨してきているわけですよね。予算もそれで付けてきているものだと思うんです。それなのに、そこをちゃんと把握をしていないということになれば、これは矛盾していると思うんですね。
 今回の法改正に当たっても、農水省は高付加価値卵については対象にしないという立場を取っているわけですけれども、特殊卵については規格が、なかなか評価できないと、なくて評価できないということなんですけれども、二〇〇〇年の三月ですね、養鶏問題懇談会報告書というのが出されていて、そこで既に特殊卵について、やっぱりこの実態も調査するし、統一的な基準策定の必要性があるんだということを報告で述べているわけです、指摘しているわけですね。それからもう四年たっているわけですけれども、そういう統一的な規格や基準策定のための調査検討というのはやられたのかどうか。
○政府参考人(白須敏朗君) ただいまの統一基準の策定という観点についてでございますが、業界の内部にこれにつきましては賛否両論がございます。一つには、競争が大変激しい鶏卵市場におきまして、消費者ニーズにこたえようと、そういうことで努力した結果として特殊卵が生産されて流通されておるといったことにかんがみますと、統一基準を作成するということは、販売上の特色でございますとか個性が出にくくなるということで、取り組むべきではないというふうな意見もあります。一方には、鶏卵に対する表示等の信頼の確保のために業界一丸となって取り組んでいくべきだという意見ももちろん見られるわけでございまして、そういうことで業界内において賛否両論がございまして、合意には至っていないということでございます。
 そこで、調査もうやらないのかというお話でございますが、ただいま委員からも御指摘ございましたとおり、十六年度から、中小規模の鶏卵生産者の経営近代化を促進するという観点から、高品質な鶏卵生産の推進事業に取り組むというふうにいたしているわけでございまして、そういった中で特に高品質な鶏卵として評価を得ているものの生産に係る現状把握を通じまして、今回十六年度から仕組みました事業の中でそういった客観的な品質の基準でございますとか、あるいは衛生管理基準、そういった、あるいは生産、流通に関する基準等々、品質向上に資する基準につきまして策定ということについての調査を行うというふうなことでやってまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○紙智子君 今それをやっているということなんですけれども、規格、基準ができるまでの期間についても、例えば兵庫県が、制限区域内の、移動制限ですね、区域内の農家三十六軒聞き取りをして、国の基準を超える価格で販売している区域内農家の加重平均で基準価格を三百五十六円に設定して差額の補てんを行っているとか、京都も同様に平飼いで三百六十円、ゲージ飼いでという二段階に分けて、区域内の農家の加重平均価格で、それぞれ三百六十円、二百円と、こういうふうに価格を決めているわけです。
 それで、今度の法案で都道府県の助成額の二分の一を国が負担するという仕組みを作ったわけですから、こういう京都の、いや兵庫のような、具体的に実態に合わせて価格設定を行った場合に、それに国が二分の一の助成を行えば、これ現行の法のままで対処、対応できるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 国が助成をします際には、やはりそれの積算の根拠になるデータというふうなのはきちっとしたものでないと、いろんな意味で後々問題が起こるというふうに思っております。
 そういう意味で、今、京都あるいは兵庫の例が先生の方からありましたけれども、国が助成をいたします際の基準単価としましては、やはり何といいますか、全農などの卸売市場できちっと取れるそういった価格を基準にして助成の基準価格にしたいというふうに思っておりまして、そこから上のところを各県でどういうふうに御判断されるかというのはありますけれども、国が助成をする際、繰り返し申し上げますけれども、国が助成をする際の基準単価の考え方というのは、やはりだれが見ても同じ結果になる、そういったはっきりとしたデータに基づいてやるべきではないかというふうに思っているわけでございます。
○紙智子君 ちょっとあとの、時間が迫ってきましたので、二つ、あとお聞きしたいと思うんです。
 一つは、今度の法案で移動制限で影響を受けた農家の助成について、助成の対象となる「特定家畜等」というのがあって、「第三十二条の規定による移動又は移出の禁止又は制限がされることにより畜産経営に重大な影響が及ぶ家畜、その死体又は物品として政令で定めるものをいう。」というふうになっているんですけれども、特定家畜、必ずしもこの移動制限を掛けられた区域内にいる家畜に限定されないというふうにとらえていいのかと思うんです。
 それで、例えば兵庫県で実際問題になったんですけれども、養鶏農家が制限区域外だったんですけれども、出荷先である食肉処理場が区域内にあったわけです。それで出荷ができなくなって、育ち過ぎた鶏を処分しなきゃいけなくなったと。これは明らかに移動制限に起因しているということなんですけれども、こういう場合に、移動制限による損害という形で助成対象とすべきじゃないかと思うんですけれども、それについてどうかということが一つと。
 もう一つは、これ京都の丹波町なんですけれども、殺処分しましたよね、二十数万羽の鶏の死骸が山林に埋め立てられて処分されたと。約一万立方メートルのふん尿、鶏のふんが発酵消毒されて鶏舎内に残っているわけです。これらについて住民からは撤去して最終処分をするように要望が出されているんです。丹波町と住民としては、埋却した鶏については家畜伝染病予防法に基づいて三年間経過した後に安全を確認して最終処分する、鶏ふんに関しても一定期間後に最終処分するということを約束して覚書を交わしているわけですけれども、この際、最終処分費用が京都で七億六千万円というふうに見積もっているわけですよね。それで、非常に巨額だということもあって、国に是非費用の負担も要望したいということを言っているわけですけれども、国として、これに対してどういう対応をするのかという、ちょっと二点、お答えお願いします。
○国務大臣(亀井善之君) 第一点の制限区域外の農家、これは、出荷は制限されておらないわけであります。影響の範囲、また大きさを客観的に判断できないことから、これは今度の法律の対象外と、このように助成の対象外と、こうなっておるわけであります。しかし、移動制限区域外の農家に対しましては、低利の融資等によります経営支援と、この方は対象にしておるわけであります。
 また、京都の問題。このことにつきましては、処分した鶏や鶏ふんにつきましては、一定期間経過すれば防疫上の問題は解消するという点はあるわけでありますが、その取扱いにつきましては今後慎重に検討してまいらなければならないと、こう思っております。
 また、もう一点、京都府からいろいろお話もちょうだいしております。検討状況等を聴きつつ、最終処分に要する経費等につきましては、今後国としても十分その検討状況等を聴きつつ対応を検討してまいりたいと、このように考えております。
○委員長(岩永浩美君) 時間が参りました。
○紙智子君 是非善処していただくように最後に申し上げまして、質問を終わります。