<第156回国会 2003年4月24日 農林水産委員会 第9号>


平成十五年四月二十四日(木曜日)
   午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農業経営基盤強化促進法の一部を改正する法律案(内閣提出)
○農業災害補償法の一部を改正する法律案(内閣提出)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず初めに、農業災害補償法の一部改正案について質問いたします。
 今度の改正案では、共済のメニューを増やして加入者が農業経営の実態に合わせて個別に選択できるようにすると。現場なんかからも選べるようにしてほしいという要望なんかも出されていまして、全体としては賛成します。
 しかし、懸念する点もあります。家畜共済の支払限度額上限設定の問題ですね。家畜共済について、事故多発加入者を対象に死亡廃用に係る共済金に支払上限を設けるというふうにしています。生産者にとっては非常にこれは重大な問題だというふうに思うんです。
 過去の被害率が一定水準を超える事故多発加入者というのは、具体的にはどういう基準を設けるのか。そして、支払限度上限設定ですね、どの程度に考えているのか。まず、この点明らかにしていただきたいと思います。
○政府参考人(川村秀三郎君) 家畜共済の関係でございまして、今御指摘のとおり、死廃事故に共済金の支払限度を設定するという方向で改正を考えております。
 この背景となりますのは、近年の家畜共済事業の実態から見ますと高被害農家が固定化する傾向にあるということで、農家の中にはこれに安住するということで事故防止の努力を怠っているのではないかと見られる方もあるわけでございますし、また、地域におきましては農家間で共済事故の発生率に格差が生じまして、共済金支払の不公平感が高まっているということ、それから飼養規模の拡大に伴いまして、特にこの大規模経営農家の共済掛金の負担が増大しているという問題がございます。
 こういう状況を踏まえまして、今、先生御指摘のありましたような形で、つまり恒常的に死亡なり又は廃用事故を起こしている高被害農家に対しましては、共済金の支払限度を設ける新たな補償方式ということにしてございます。その場合の設定でございますけれども、畜種や地域によって被害率が異なっておりますので、この実態を前提にいたしまして、料率を設定する地域ごとにその地域の平均的な被害よりもかなり高い水準を設定をいたしまして、その水準を超える者につきましては支払限度を適用すると、こういう基本的な考え方で臨んでおります。
○紙智子君 じゃ、具体的には、今、まだその実態に合わせてということで、どういう設定の基準というか、上限ということでは、上限ということではどうでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) まだ具体的には、今申し上げましたとおり、それぞれの地域によってかなりの実態に差異がございますので、具体的にはまだお示しはできないわけでございますが、基本的な考え方としては、先ほど言いましたように、平均的なものと比べますとかなり高い水準ということで設定をして、普通の方がこれに引っ掛かってしまうということはないようにしたいと思っております。
○紙智子君 BSEとか口蹄疫などの伝染病は、これは農家の努力だけで回避できるものではないと思うんですね。しかし、一回発生しますと、本当に大きな影響が出て、ほとんどの家畜を処分しなければならないと。BSEについて言えば、肉骨粉の使用禁止の措置を取らなかった政府の責任があったわけですし、口蹄疫も中国産の稲わらですね、ここに原因があったんじゃないかということで、水際での検疫措置で防ぎ切れなかったということがあったわけです。
 輸入飼料に圧倒的に依存する日本の今日の酪農や畜産では、飼料に起因する疾病というのは農家の努力だけではこれはもう防ぐことができない面があると思うんですね。伝染病や飼料が汚染されているために起こった疾病について生産者に責任を負わすということになると、これはちょっとひどいと、よろしくないというふうに思うんです。これらに支払の上限を設けるということになれば、それこそ立ち直れなくなるというふうに思うんですけれども、この点についてはどうでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今、委員から御指摘がありましたとおり、事故にはいろんな原因がございます。今回の死廃事故につきまして共済金の支払限度を設けるとしたその趣旨でございますけれども、先ほども申し上げましたように、農家の中には通常行うべき事故防止の努力を行って、その結果として事故が多発していると、農家の飼養管理努力によって防止が可能なのにかかわらず、やはり事故がかなり多発してしまうということを防止したいということで、そういう被害、高被害農家に対する事故防止へのインセンティブを付与するというのが正に趣旨でございます。
 したがいまして、通常の飼養管理努力では予防が困難と、またかつ、発生した場合に農家の経営に与える影響が大きいものにつきましては特定事故ということで除外をしたいというふうに考えておりまして、具体的には、今御指摘のございましたような伝染病でありますとか自然災害、火災といったようなものについてはこの支払限度は適用しないという方向で制度を仕組もうと思っています。
○紙智子君 分かりました。
 今度の法の改正に当たって、農業災害補償制度検討会というのが全国六か所で開かれていますね。
 これは北海道の会議の中身の概要なんですけれども、これを見ますと、その中でもやっぱりこの問題について多くの意見が出されています。北海道の会場では、百二十頭から百三十頭を飼っている、牛を飼っている酪農家がフリーストールというやり方を導入してから七、八年たつんだと。それで、牛の寿命が非常に短くなってきているという話をされています。その中で予想しなかった突発的な病気や事故が起こるように、出るようになってきたと。
 獣医さんから話を聞いたんですけれども、獣医さんの話でも、最近ここ十年ぐらいというふうにも考えられるんだけれども、今まではなかなか多くなかった病気が頻発するということを指摘されていまして、例えば第四胃変位、四つの胃袋があるわけだけれども、その四番目の胃袋が本来の機能を果たさなくなってきているということで、そういう病気が増えているとか、それからお産した後の病気で周産期疾病というのがあると。それから乳房炎、それから蹄底腐乱と言って足の病気なんです、足にくる病気なんですけれども、こういう病気がこの間増えているということなんですね。
 そういう中で、確かに事故多発農家が固定という話されましたけれども、それは確かにそういう傾向というのは、実態はあるんだと。しかし、やっぱりその背景には、牛肉の輸入自由化や乳製品の税金の、関税の引下げですね、それから乳価の下落の中で生産者自身が多頭飼育しなきゃいけない、もうたくさんの頭数を飼ってやらなきゃならない。効率化ということで、この間、ずっとやっぱり追われてきているわけです。生産量をとにかく上げなきゃならない、たくさん搾らなきゃならないということで、一日二回搾乳だったのを三回にするとか、そういう形で相当牛に無理をさせてきたという中で出てきている問題というのがあって、その意味では構造的な問題もあるというふうに思うんですね。
 それで、やっぱり大臣にもそこのところの認識もお聞きしたいんですけれども、大規模化というのは言わばこれまでの政府の政策でもあったわけで、その政策の結果として生み出された実態でもあるというように思うんです。
 多くの農家がやっぱり事故は起きないようにしようと思っていると思うんです。それを減らすために努力をしているということの中で、そういう農家を含めてまじめに取り組んでいる農家も、この支払の問題で上限設けるというような形で枠を掛けられた場合、経営にとって大きな不安、負担というのが掛かるんじゃないかということについて、いかがでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 事故の発生の状況を見ますと、かなりその分布にばらつきがございます。いわゆる正規分布ではなくて、やっぱり事故の多発されている方はかなり特異な分布になっているということがございます。
 それは、一般的にやはり個人の努力に負う部分が、今確かに先生が、今、委員がおっしゃったようないろんな状況の中で各農家が努力をされておるわけでございますが、やはり努力でもちろんカバーできる部分があるわけでございまして、そういう方との不公平というものを是正する一つの方法ではないかということでございまして、全般的な話はまた共済とは別の世界の対策等ももちろんあり得るのかとは思いますが、共済の世界では、そういう共済の適正な運用と、運営という意味からはこういう改善が必要かと思っております。
○国務大臣(亀井善之君) いろいろ個別の問題、今、委員からも御指摘の、大変着実な地道な努力をされていると、そういう中でそのような事故等々の問題というのはこれ生ずることでもございます。
 今回、このような農業共済補償法の改正と、こういう中でいろいろ改正をするわけでありまして、今、局長からもお話し申し上げましたとおり、若干違った形での要因もある面につきましては十分検討していかなければならないんではなかろうかと、こう思います。
○紙智子君 全体がそういう物すごく偏ってきているということで、全体に掛けるというその形というのはあるかと思うんですけれども、特異な状況ということであれば、そのことを理由にして、ほかの努力しているところにも言ってみれば迷惑が及ぶというようなことがあってはならないと思うんですね。
 それで、マイペース酪農ということを御存じかと思うんですけれども、特にBSE発生後なんかは、本当に今までの牛の飼い方がどうだったのかということで見直しを掛けなきゃならないんじゃないかと。やっぱり牛の健康状態を保ちながら、大事に育てながら、そして人間ももちろん、それこそ人間もたくさんの牛を飼ってやるとなったら寝る時間を惜しんでやるわけですから、人間も健康だし牛も健康だと。そういう状態の中で、いい草を作って、栄養価の高い草を作って、それを食べさして乳を出させていくというような飼い方にやっぱり飼い方自身も見直していく必要があるんじゃないかということなんかもずっと議論されてきているわけですね。
 やっぱり今そういう時期に来ているということでもあると思うんです。安定した経営ができるようなやっぱり乳価の保証という問題が当然そこにはあると思いますし、そういう対策にもっとやっぱり目を向けてやっていただきたいというふうに思うんですね。
 それからもう一つ、北海道で問題になっている問題なんですけれども、サルモネラ感染症の問題なんです。これについてはやっぱりこの討論会の中で出されているんですけれども、非常に重要だというふうに思っている問題があります。
 家畜共済では臨床症状が出ていないものについては保険給付の対象外になっていますね。だから、最近、北海道でこのサルモネラの感染症が乳牛の間にも増えてきていると。北海道一万戸の酪農家の中で毎年三十から三十五戸ぐらいで発生しているということなんですね。牛の場合、症状として外に現れていなくても、保菌というか菌があれば、持っていると、これは感染源になるので、検査とか予防といいますか治療をしなくちゃいけないわけです。それで、北海道の農業共済連合会によりますと、治療費だけでも一件当たり約二百十万円掛かると。最大で一千百万超えるというふうなことで、乳牛の場合だと牛乳を全部これ廃棄しなきゃいけないとか、こういうことで相当大きな被害になっていくわけなんですね。
 それで、北海道の幾つかの自治体では独自に互助制度を作ってやっているというところもあるんですけれども、国として何とかの、何らかのこの支援策というのはできないものだろうかと、そういう声も出されているんですけれども、この点についていかがでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) サルモネラ症の問題でございますけれども、正に北海道等このサルモネラ症が問題になっているということは承知をしてございます。
 ただ、共済との関係で申し上げますと、今御質問の中でもあったとおり、家畜共済では、家畜の死亡・廃用、それから疾病・傷害を対象にしていますので、これが発症すれば、その治療に要する費用に関しては傷病事故として扱われます。
 ただ、疾病の検査あるいは消毒等の予防措置につきましては、損害防止として重要な役割を果たしておりますけれども、一義的には飼養者自らが通常行うべきという考え方に立ちまして、共済制度の中では予防的経費を給付対象にはしておりません。
 ただ、国におきましては、この家畜共済とは別途の措置でございますが、事故発生を未然に防止するという観点で、農業共済団体等通じまして損害防止事業に対する助成も行っております。サルモネラ菌の菌検査や、その後の飼養管理指導等に対しまして補助金を交付している事業もございますので、こういうこと、こういう事業も活用していただきたいというふうに思っております。
○紙智子君 清浄化するのにやっぱり一年近く掛かるということで、その間、相当やっぱり大きな経営にとっては痛手になって、持ちこたえられなくなるということも出てくるんですね。
 それで、この会議のときに、検討会議のときに現場に行っておられた委員の方も、一つの課題として受け止めさしていただくというように答弁もされていまして、是非、農水省として積極的な対応をお願いしたいというふうに思います。
 それから次に、農業経営の基盤強化促進法についてですけれども、農業生産法人の要件緩和についてです。
 農業経営の基盤強化促進法のこの法案ですけれども、今回またしても農業生産法人の要件について適用除外を設けるものになっています。農業生産法人の要件というのは、二〇〇〇年のときの農地法の改正でも大幅に緩和されましたね。これ以上の要件緩和ということでいえば相当批判も強いと、そのために、農水省として農地法について検討するために昨年設置しましたけれども、経営の法人で拓く構造改革に係る有識者懇談会と、こういうのを立ち上げて議論をしてきているわけですけれども、ここでも議論が分かれて、論点整理でも農業生産法人の要件緩和に関しては両論併記だったと思うんです。
 そういうことでいうと、実際、今度の改正というのはどうなのかということなんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 昨年十一月に取りまとめられました経営の法人化で拓く構造改革に係る有識者懇談会、この論点整理の中で、農業の現場から、分社化に当たっての出資要件の緩和を始めといたしまして、農業生産法人制度の要件緩和要望がその討論の議題になったわけでございます。
 そして、これにつきましては、今委員が御指摘のとおり、一定の前提条件の下で、適当であると、あるいは許容されるという賛成の御意見と、これ以上の要件緩和は問題ではないかという両論は確かにございました。ただ、今後の取扱いとして、農村現場からの懸念の声、要件緩和の要望の実情等十分念頭に置いて検討していくことということにされております。
 私どもとしましては、そういう両論はございましたが、今後の方向として、十分そういう配慮をしながらということで検討を進めてまいりまして、今回は要件緩和を行いますが、認定農業者の経営改善を目的とした出資に限定をするし、計画の認定の際には、出資の具体的内容でありますとか、それから認定農業者たる農業生産法人の経営基盤に寄与するかどうかといった内容を審査をする。また、新たに農地の効率的かつ総合的な利用という観点も法律上明記をいたしまして、これが適切かどうかをチェックをする。それから、計画の有効期間、五年間に限定した特例という形にしておりまして、万が一不適切な事態が生じた場合は、有効期間中であっても市町村が認定を取り消すことができて、議決権の割合についての制限が復活すると。また、役員要件につきましては、農業に従事する構成員が業務執行役員の過半を占めるというこの役員要件自体は変更をしておりません。
 こういった幾つかのチェックポイントなり担保措置ということを組み込んだ上で改正をお願いしているところでございまして、懇談会の議論を踏まえて措置をしたということでございます。
○紙智子君 この有識者懇談会の論点整理の話も今されたんですけれども、その中身自身は、結論としてだからやっぱり進めていいという話にはなっていなかったんだと思うんですよね。前回の農地法改正から、あ、そうですね、前回の農地法改正からは日が浅いと、農村現場からは懸念の声が聞かれていること、要件緩和の検討が容認されているという考え方においても様々な前提条件や留意事項が提起されていると、要件緩和についても耕作者主義の基本的な考え方に影響を及ぼし得る事柄を内在していると、そして現行の土地利用規制措置についても課題を抱えている、こういう点を十分に念頭に置くことが大事だと言って、そして、のれん分けや分社化の問題についても、要件緩和の要望についても、複数の委員からは反対論とか慎重論が出されていたわけです。だから、その論点整理のところでも、制度の問題であるのか、それから運用解釈の問題、制度の理解に関する問題であるのかについて、十分に実情を掌握、確認していくことが重要だと言うにとどめているわけですよね。
 だから、そういうところから見ると、今度の改正というのは、この論点整理で結論について言えば、これを、言ってみれば反しているんじゃないかというふうに私は思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今もお答え申し上げましたとおり、農業生産法人の要件緩和の問題につきましては、確かに両論がございました。ただ、我々としましては、その両論を十分踏まえた上で、その今後の取扱いというところにも書いてあることを十分念頭に置いた上で措置をしているということでございます。
○紙智子君 農業生産法人の要件が、農地法の耕作者主義の原点とも深くかかわっている問題だと思うんですね。やっぱりずっと今までの議論の積み重ねがあったというふうに思うんです。だからこそ、やっぱり懇談会の中でも慎重に審議するべきなんだということが言われていたわけで、そういうことがありつつも、部分部分でもって骨抜きにしていくというようなやり方というのは私は良くないというふうに思うんですね。
 それで、今回の法改正で、認定農業者である農業生産法人については、認定計画に定めるという条件付きながらも、農外企業などは議決権の四分の一、一構成員当たり十分の一に制限されている。この構成員の要件を農地法の特例として緩和するということで、そうなると、農業生産法人が農業生産法人に出資する場合だけではなくて、農業企業も含めて関連業者すべてが制限されないことになると思うんです。のれん分けや分社化の場合は上限がないと。それから、関連業者の場合は二分の一未満まで出資可能だと。
 この二分の一というのは、午前中の議論でも出ていましたけれども、農業生産法人の経営をコントロールすることが十分可能じゃないかというふうに思うんですけれども、歯止めを取るという話もありましたけれども、本当に大丈夫なのかというところでどうでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 今回の特例、農業生産法人の議決権の制限について、多様な経営展開の実現等を求める農業内部からの緩和の要望が上がっており、また担い手の育成の面でも支障を生じていることから、認定農業者に限っての措置を講ずることとしたものであり、農業経営改善計画の認定に当たっては、認定農業者の経営改善を目的とした出資に限定すること、農地の効率的かつ総合的な利用の観点からもチェックすることと、事後的に市町村による認定の取消しが可能であることなどにより、真に農業生産法人の経営基盤の強化に資するものであるかどうか、農外資本による経営支配のおそれがないかどうかを十分チェックすることとしていることから、御指摘のような懸念はないものと、このように考えております。
○紙智子君 二〇〇〇年の農地法の改正のときに政令が改正されて、構成員の要件が大幅に緩和されると。それで、継続して法人に投資、役務を提供している者、法人から物資や役務の提供を受けている者、それから新商品、新技術の開発、提供に係る契約を締結している者などに拡大をされるというふうになりました。事実上、業種に関係なく関連業者になることができるというふうになったわけですね、前回の改正で。
 それで、午前中、加工会社なんかがそういう意味では影響を持つようになるんじゃないかというのを出されていました。今回の法案で、例えば法人に種苗の提供をしている企業だとか、あるいは委託栽培などで生産者の販売を行っている企業だとか、輸送を行っている輸送業者だとか、業種に関係なく二分の一まで、未満まで出資可能だということになると思うんですね。
 それで、農地法は、耕作者主義などの農地法の趣旨を逸脱しないように、農業生産法人に対する出資に量的な制限を設けてきたと思うんです。農水省自身もこれまで、四分の一、十分の一の量的な制限が農外企業支配の歯止め措置であるということを繰り返しおっしゃってこられたと思うんですね。
 認定農業者の農業生産法人ならば、結局、農地法の趣旨を逸脱してもいいということに今度のこれでいうとなるんですけれども、そういうことなんでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 農地法の一般的な規定上は、確かに今、紙委員から御指摘があったとおり、総議決権の四分の一以下、一構成員は十分の一以下という規定があるわけでございます。ただ、今回は、これを緩める代わりといいますか、その条件として、先ほど大臣もお答えをしましたとおり、認定農業者に限るとか、その認定を受けている機関に限定をするとか、一定の制限を加えて、その支配等から生ずる懸念を払拭した上で措置をするということで御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 私にはどうしても、やっぱりチェックするということなんですけれども、いったんこれを緩めていくことで、元に、じゃチェックして元に戻すことできるのかといったら、なかなかそれは大変なことだと思うんですよ。農業委員会としてもっと役割を果たすという話がありましたけれども、もちろんそのことは大事なんですけれども、実際上、じゃそういうことで本当に大きな責任というのを果たすことできるのかということにもなっていくわけで、だからやっぱり慎重にということが今までも言われてきたというふうに思うんです。本来、農業生産法人は地域に根差した耕作者が中心になるべきものだというふうに言われてきたと思うんですね。出資制限を外せば農外企業による支配権を認めることになると。そうすると、この原則が貫かれなくなって、農地法の見直しについてはやっぱりなかなか貫かれないという状況が出てきてしまうわけで、今回のように次々とやっぱり適用除外を設けていくということは、実質上、骨抜きにしていくというものとして、私はやっぱりやるべきでないということを再度申し上げておきたいというふうに思います。
   〔委員長退席、理事国井正幸君着席〕
 それから、次に、特定農業団体についてなんですけれども、集落営農組織の中で政令で定める要件を満たすものを特定農業団体とするというふうになっていますね。それで、昨年十一月に、米政策改革大綱が決定されましたけれども、その際に、農水省が集落型経営体というのを要件を示しました。それで、規模要件以外に三つ示していますね。一つは、生産から販売、収益配分まで組織として一元的に経理を行う、それから二つは、主たる従事者が他産業並みの所得水準を目指し得るとともに、三つ目は、一定期間内、五年ということですけれども、めどに法人化する計画を有する等、経営体としての実体を持つものというふうに、三つ示されているんですけれども、この要件と同じというふうに考えてよろしいんでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 特定農業団体と、今回の法改正で盛り込みます特定農業団体と集落型経営体の関係でございます。
 まず、集落型経営体につきましては、昨年決定を見ました米政策改革大綱の中で取り上げておりますが、これはあくまで担い手経営安定対策におきます対象者という位置付けでございます。そういうことからいたしますと一定の規模要件等を必要とするわけでございますが、これに対しまして、基盤強化法の特定農業団体は、基盤強化法の趣旨が認定農業者などの担い手に農地の利用を集積し規模拡大を図るということでございますので、そういう農地全般の引受け手といいますか、そういう形での組織になるわけでございます。
 ただ、その特定農業団体も集落型経営体も、今後、法人として安定的な、効率的、安定的な経営体へ発展していただくという意味では共通の基盤があろうかと思いますが、集合的な関係でいいますと、特定農業団体の方が広くて、そしてその中で更に一定の要件を加えたものが集落型経営体というふうに御理解をいただきたいというふうに思います。
○紙智子君 要件と同一ではないわけですか、そうすると。さきに言った集落型経営体として示したものとこの特定農業団体というものとは同じではないということですか。
 違いというか、よく分かるように、分かりやすく言っていただきたいんですが。
○政府参考人(川村秀三郎君) 共通する部分とそうでない部分があるということでございまして、共通する部分としては、将来とも効率的、安定的な経営体として発展をしていただくということが前提になりますので、具体的に二つございます。
 それは、組織としての実体を有するための確認ということで、例えば当該組織が目的、構成員の資格、代表に関する事項とか、総会の議決事項等を定めた定款等を有するとか、そういう組織としての実体の要件。それからもう一つは、将来法人化した上で効率化、安定的な経営体として発展することを目指すということで法人化計画を有するという、この大きくは二点においては共通しているということでございますが、対象となる農地が経営安定対策の場合は水田でございます。特定農業団体の場合は、特に水田に限らず、畑地も含めた農地全般になりますし、面積要件について、特定農業団体はございませんが、経営安定対策の方は、既にお示ししている提案は二十ヘクタール以上という面積要件を付けているということでございます。
○紙智子君 米政策大綱で二〇〇四年度の概算要求までに求めるとしている担い手経営安定対策の対象、これは特定農業団体の中から、言わばこれ全体じゃなくて、経営規模によって更に選んでいくということになるんですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 経営規模もございますし、それから農地の種類もあるわけでございますが、基本的には、こういう特定農業団体になり得るものの中から集落型経営体が出てくるというふうに御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 もう一つお聞きしたいんですけれども、二〇〇一年の八月三十日に出されている農業経営政策に関する研究会報告、ここで「農業構造改革推進のための経営政策」というのがありますが、ここでの経営所得安定対策について、育成すべき農業経営が構造転換に取り組む場合に、価格変動によるリスクを緩和するためのものであることから、対象となる経営は、意欲を持って経営改善に取り組む認定農業者を基本に検討することが適当だというふうにしていますね。それで、集落的営農については、その取扱いを検討する必要があるということで結論を保留しました。つまり、集落的営農についても、経営所得安定対策、これはみんな対象にするわけではないということですよね。どうですか。
   〔理事国井正幸君退席、委員長着席〕
 それともう一つ、今回、集落営農について新たにこの特定農業団体という規定を設けるわけですけれども、これが今後、認定農業者と併せて育成すべき農業経営と位置付けられるということなのか、それが一つですね。それからさらに、経営所得安定対策の対象も特定農業団体が基本になるというふうに考えられるのかどうか、この点について。
○政府参考人(川村秀三郎君) 御指摘の平成十三年八月の経営政策大綱の中では、集落営農の取扱いは今後検討すべきということでなっておるわけでございます。
 この大綱も踏まえまして、その後、米政策の全般的な見直しの中で検討をいたしまして、少なくとも水田農業につきましては、先般、米政策改革大綱の中に盛り込んだように、集落型経営体を、集落営農のうち集落型経営体を対象にするという方向を出したということでこの点は御理解をいただきたいと思います。
 それから、特定農業団体につきましては、これが直ちに認定農業者となるわけではございませんが、将来、特定農業法人等、法人化しまして特定農業法人等になっていただくという意味で、ちょっと言葉が的確かどうかはあれですが、予備軍的な存在になると思っております。
○紙智子君 経営安定対策の対象も、特定農業団体、これが基本になるということでよろしいんですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 特定農業団体が直ちになるわけではございませんが、そういう過程を経て集落型経営体になり得るということでございます。
○紙智子君 農業経営政策に関する研究会の報告で、農業関連施策ですね、これ、育成すべき農業経営に対して集中的、重点的に講じることにより云々というふうになっています。
 そういうふうになりますと、政策対象の絞り込みについて、結局、明確に打ち出しているということになると思うんです。その際、今回の法案で定められているこの特定農業団体の要件が集落営農の選別の基準になるということは間違いないんじゃないかと。どの程度の集落営農が対象になるのかが問題になっていくわけです。
 これはもう本当に農協とかへ行くと、今まででいうとはっきりしていないものですから、どこまでどうなるのかということをみんなおっしゃっていたわけですけれども、どこまでが対象になるかというのが問題になっていくと。
 農水省が示した生産から販売、収益配分まで組織として一元的に経理を行うという条件の一つを取っても、全国の集落営農数は二〇〇〇年十一月一日の現在で九千九百六十一あるというふうに思うんです。そのうち集落内の営農を一括管理運営している集落営農というのは一二・一%で、約千二百組織にすぎないわけですね。
 だから、農水省が挙げる要件を満たしてこの特定農業団体になる集落営農というのは極めて限定されていくことになるんじゃないでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 担い手の減少、あるいは高齢化の進展、農作物価格の低迷等の農業事情の下で、各地域では地域農業を継続していくために、工夫として集落営農の形を取りながら、転作田の団地化等、地域内の土地利用の調整を行う、あるいは機械を共同購入し、それを共同利用して農業生産を行う、中心的な担い手に主な作業を委託すること等により生産から販売まで共同で行うといった多様な取組が行われております。
 今回の基盤強化法の改正においては、これらの多様な集落営農の取組のうち、農業の構造改革を促進し、望ましい農業構造の実現に資する観点から、現時点では法人格を有していないものの、将来的には法人化した上で、効率的かつ安定的な農業経営へと発展することが期待される集落営農組織に法律上の位置付けを与えて、その育成を促進しようとするものであります。
 今回、法改正等をきっかけとして、この特定農業団体の組織化に向けた取組がなされていることを期待しているが、特定農業団体以外の取組に対しても、機械の共同利用による生産の効率化やコストの低減を図る取組に対しては、生産対策の面から、中山間地域等で農地の保全・管理を行うものに対しては中山間地域等直接支払制度の中で、それぞれの機能、役割に応じた支援策を講じていく考えでおります。
○紙智子君 その特定農業団体となる集落営農はどの程度に想定しているんでしょうか。ちょっと確認したいと思います。
○政府参考人(川村秀三郎君) 現在、どの程度のものが特定農業団体となり得るのかというのは、見通すのは非常に困難でございます。農地的な利用活動を行います農用地利用改善団体、これは全国に一万二千ございます。現在でも一万二千ございます。先ほど紙委員から言われたように、集落営農の取組は約一万あって、そのうち水田が七千といったような、こういったものが母体になるとは考えております。現状で母体になると考えております。
 ただ、委員も御案内のとおり、今回の米政策大綱の部分を含めまして、基本要綱を作りまして、その中で各地で地域水田農業ビジョンというものを作ることになっておりまして、地域での精力的な話合いで、だれがその地域の水田農業を担うのかということで精力的な話合いを行うということになっておりますので、今後、またこういう動きが活発化すれば、そういう母体は更に広がっていくものというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 ちょっとなかなか、よく聞いても具体的によく分からないんですけれども、農水省が示した要件ということでは、実際の集落営農の状況から見ても大きく乖離していると言わざるを得ないんですね。
 一定期間内に法人化することを要件にしているわけですけれども、法人化するには、代表役員を決めなきゃならないとか常勤者を確保するとか、それから人件費を賄えるような資金の裏付けが要るとか、通年雇用を確保しなきゃいけない。法人として永続するための収益性と経済、経営の基盤の確保などが必要になるわけです。
 農水省が一農場型営農組織ということについて行った調査でも、法人化を希望しているのは二三%ですね。そして法人化しないというふうに言っている理由は、経理や労務管理が負担になると、これ四五%の人がそう答えていますね。リーダー確保が困難だと、これ四三%。兼業農家がほとんどを占めるような集落営農組織の実態からして、多くのところで法人化というのはなかなか困難なんだというふうに言われているわけです。集落営農の意思とも反しているというふうに思うんです。
 それから、中核を担う生産者が他産業並みの所得を目指すという要件についても、認定農業者のいる集落営農というのは、全国で平均すると四一%ですけれども、これは平均であって、実際に近畿で言うとどれぐらいかというと、一八・六%。それから北陸では二六・九%、中国・四国で三一・五%ということで低いわけですね。こういう条件で絞り込んでいくということになりますと、これまで地域農業を担ってきた集落営農の圧倒的な部分が対象から外れるということにならざるを得ないというふうに思うんですよ。
 やっぱり特定農業団体の要件から外れる多数の集落営農が、育成すべき農業経営ということから、そこにはみなされないで切り離されていく対象になって、これから後の稲作の担い手経営安定対策からも経営所得の安定対策からも除外されていくんじゃないかと。そして、政策対象の絞り込みが打ち出されている中で、その他の施策の対象からも除外されることになってますます大変なんじゃないかということを、私は非常にこれ問題だというように思っております。
 これについて、一言、ちょっと時間がなくなってきたのでお願いします。
○政府参考人(川村秀三郎君) 確かに御指摘ございますとおり、この集落営農の形態は地域によってもかなり差がございます。よく地域の実態等は踏まえまして、夏の概算要求に向けまして、要件を最終的に決定するということになっておりますので、引き続き検討させていただきたいと思います。
○紙智子君 もう一つ、特定遊休農地の届出の問題についてお聞きします。
 この特定遊休農地の届出を義務付ける問題で、耕作放棄が増大して深刻な事態になっていると、これは事実だし、対策が必要だというのは、これはだれも否定しない、必要なことだというふうに思っていますね。
 しかし、今回の措置については、計画提出を義務付けて、言ってみれば行政罰まで設けるということになると思うんです。そもそも、だんだん年を取ってきて、高齢で後継者がいない、そういう中でやむなく耕作放棄になっている状態があるわけで、そういう人が自ら耕作する計画を出せることもできないと思うんですね。これは農地所有者が過料を背景に、事実上売渡しか貸付けの選択を強制されることになるんじゃないかというふうに危惧するわけですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) この遊休農地の利用計画の届出の問題でございますが、これはすべての遊休地についてこういうことをするということではなくて、正に特定遊休農地として非常に支障があるというようなもの、それから正当な事由があるものについてこういうものを発動するということではございませんので、そこの部分の御懸念はないというふうに考えております。
○紙智子君 先祖から受け継いで、あるいは祖父母や、本当に、親の代で苦労を重ねて本当に開墾して切り開いた農地を好きで荒らしている人はいないと思うんですね。やっぱりできれば、例えば子供に後を継がせてやっていきたいというのがあるわけですけれども、今の農産物価格では家族の生活そのものが成り立たないと。だから、せっかく戻ってきたのに継がせないで就職させるという話もありましたし、あちこち農業調査で歩いたときに聞いた生の声でも、教育費が出せないんだと。そういう状態の中で、後を継いで農地やってほしいという話ができないという実態があるわけですね。
 だから、もちろんこういう解決のための努力というのは必要なんですけれども、私は、ちょっと時間がなくなってきたんではしょりますけれども、やっぱりこれは私はやり過ぎじゃないかというふうに思うんですね。追い込んでいってしまうんじゃないかというふうに非常に懸念します。
○委員長(三浦一水君) 質疑者に申し上げます。時間を過ぎておりますので、質疑をおまとめください。
○紙智子君 はい。
 やっぱり根本的な一番大本になる問題点、一番の土台のところといいますか、やっぱり経営がちゃんとできるようなための対策を本来打つというところに全力を挙げるということが先だというふうに思います。
 そのことを申し上げまして、私の質問を終わります。