<第155回国会 2002年12月5日 農林水産委員会 第8号>


平成十四年十二月五日(木曜日)
   午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農林水産に関する調査(平成十五年産米の政府買入価格に関する件)
 (米政策等に関する件)
 (水田農業の再構築と食料の安定確保に関する決議の件)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 発表されました生産調整に関する研究会の報告は、この中で、「我が国の水田農業政策と米政策は、」「今日一段と混迷の度を深め、もはや放置できない状況を呈している。」ということで書いて、まあ他人事のように評価するのみと。大綱もその線です。
   〔委員長退席、理事田中直紀君着席〕
 現実を見ますと、いかに今大変かということは、これははっきりしていると思うんですね。私もあちこち回った際に、米の生産者は価格暴落で収入が半減した、それで経営が大変で生命保険を解約して当面する生活費に充てると、こういう話も何件も聞きました。そういうやっぱり深刻な実態にあるということ、そして、先ほども話が出ていましたけれども、優良農家というふうにされてきた農家が、規模拡大して、そこがやっぱり価格暴落で大変な事態になっていると。
 こういう現実があるわけですけれども、問題は、なぜこういう状況になったのか、価格暴落をもたらした要因、そしてそういう政策を取ってきた政府の責任ということなんですけれども、そのことについては今回のまとめでは何も出ていない、何も反省されていないと。国民の主食という話もさっきもされてきましたけれども、この日本の農業の支柱である米生産の閉塞状況というのは、結局、米価の暴落とそれによる農家の存亡にかかわる経営悪化と。
 これは、主食の米の価格支持を外した結果であるというのは私は議論の余地がないというふうに思いますけれども、大臣の認識はいかがでしょうか。
○国務大臣(大島理森君) なぜ米が下がったのか、その責任は政府にあるのではないか、簡単に言えばこういう御主張ではなかったかと、このように思います。
 米とて、一面、経済行為の中での価格というものがあると思うんです。食管制度のときに米価決定時における算定基準として、やはり労賃あるいは経費、利潤、そういうものを積み上げながらやってまいりましたが、やはりそれでも、その背景には需要と供給を考えなければ決めないということもございました。
 私は、様々な皆様方からの今日の御議論をいただいている。米政策がここまで来ているというその基本的な問題のところに、需要の減少というものが私どもが予想した以上の速さで進んできた。しかし、米というのは年一回の生産作物であって、そういう激しい変化に対してなかなかにフレキシビリティーに対応できなかった。
 一方、消費者は、先ほど来酒のお話もございました、四つの安、四安というキーワードも提案としてございました。安ければいい、安くてうまいものがいい、いや高くてもおれしか食えない米がいい。様々な多様な米に対する需要の変化もございました。
 そういうものにやっぱり対応するためにこういう改革を行ったものでありまして、すべて国が決めてすべて計画生産をしてすべて国が管理するというのが、これはその経過の中で、先ほど来申し上げましたように、その余り米対策でもう三兆円もお金を使いました。減反政策に一律のこれはばらまきのお金ではないかという厳しい御指摘もいただいてまいりました。
 消費者には先ほど来申し上げた多様な要望に対する米が、生産者は本当に多様な米を作って頑張っているぞと国井先生から先ほど教えていただきました。しかし、それがどうも消費者のところにマッチングしない。だから、そこはマッチングできるようにその改革をしようと、これが今度の私どもの大綱でございます。そういう反省に基づいた大綱、改革案であるということを御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 需要の変化とか食生活の変化ということを挙げられたわけですけれども、私はやっぱり、本当に今まで一生懸命作物作ってこられた皆さんの中でも、話を聞きますと、かつて例えば米が過剰になるということは過去もあったと。やっぱり天気が良くなれば豊作になるわけで、これはたくさん取れるということがある。逆に天気が悪くて取れないということもあると。こういう凸凹があったけれども、そのときでいろいろな調整もあったりしたけれども、しかし今までと違うのは価格がずっと下がり続けてきていることだと、もう歯止めないと、こういうことは今までなかったということを何十年とやってきた方が言うんですね。それはいつからかというと、やっぱりこの自由化の路線に進んで、輸入米が入ってきて、値幅制限も外されると、それが行われてからだということをおっしゃいます。
 私は、やっぱり問題にしたいのは、この一、二年とか近い話ではなくて、今から十年前に農水省が新しい食料・農業・農村政策の方向、新政策というのを出されて、そしてガット・ウルグアイ・ラウンドの農業合意の前提に市場原理の導入と、そして十年後はどういうふうにしていくのかという目標を定めてやってきたと思うんですよ。大体どのぐらいの規模の農家は何万戸にするのかということも含めてやってきたと思うんですよ。
 十年たった現在、どうなっているかというのを見ますと、食料自給率でいえば、四六%あったのが今四〇%を割る事態です。それから、農地の面積は全部で減って、三十七万ヘクタール減っていると。これは四国全部とそれから中国の山口県を除いた、それに匹敵するだけの農地が結局減っているわけですね。それから農家は、これもまた減りまして、六十二万人減ってきたと。稲作経営の所得は、十アール当たりの所得にすると、当時は八万円だったのが二〇〇〇年代で四万円台に半減したと。経営拡大しても所得は伸びないということが最近のことではなってきているわけですし、米の価格は、自主流通米で当時六十キロ当たりで二万円以上していたわけですけれども、これが今一万四千円台ですよね。
 ですから、認定農家というのも作ってきたわけですけれども、四割の認定農家が目標を達成できなかったと。こういう事態を作ってきたということでいえば、この政策自体がどうだったのかなということで当然真剣な検討が求められるし、そこに立って、じゃ、これからどういうことが必要なんだと出されなきゃいけないと。それがここには全然ないわけですよ。私は、非常にこのことは欠落しているというふうに指摘をしておかなければいけないと思うんです。
 もう一つ続けますけれども、我が党は、そういう意味ではこの間、米生産の再生にとっては価格支持というのは不可欠だという立場でずっとやってきました。それで、政府がWTO協定でAMS、この農業保護の相当額、この削減の方針を盾に、必要以上に早く価格支持廃止をやってきたということを指摘してきました。現行の協定上でも、実行可能な施策はすべて実施して国内農業を守るべきだと。特に米についてはこの価格保証をやるように強く求めてきたと思うんです。
 現在、我が国のAMSは、二〇〇〇年度の約束水準の一八・八%と、ほかの国はもっといっていますけれども。それにもかかわらず、大臣は、それはやらないんだということをおっしゃっているわけです。
   〔理事田中直紀君退席、委員長着席〕
 しかし、今度のWTOの新ラウンドに対する日本提案では、このAMSの基準値は、農政改革の過程の連続性を確保する観点から、ウルグアイ・ラウンドの合意時に決めた二〇〇〇年度の約束水準、上限値とするというふうにしていますよね。自国のAMSについては、主食の価格支持を全廃して約束水準よりも八割もカットしてしまう、一方では、加盟国に対してはその水準なんだよと。これは私、非常にちぐはぐじゃないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(大島理森君) 紙委員の指摘のところで、私は認めなきゃならぬところが一点あると思うんです。
 それは、稲作収入の第一位農家の形態を見てみますと、非常に主業農家の所得が減っている。そして、その主業農家が、準主業農家、副業的農家よりも農家所得が少ない。正にこれは、もういささか勇気を持って言えば、ばらまき農政のある意味では私は結果でなかったかと。
 したがって、この主業農家、この方々に頑張ってもらえる仕組みを、そこを中心にして頑張ってもらえる仕組みを作ることが、ある意味では今度の私は改革のねらいだと思うんです。だからといって、準主業農家や副業的農家を切り離していくということではありません。主業農家をコアにして、そういう方々も包含してやっていく構造にしていきたいというのがねらいなんです。
 そして、そういう観点から、今、WTOのルールのお話を伺いました。ここのところは、大変恐縮ですが、真っ向から意見が違います。AMSというその価格支持政策は、もはやどの国も、これを増やすあるいは存続すること自体、WTOの議論としては厳しくなってきているんです。むしろ、緑の政策、青の政策に政策転換をしながら国内農業をどう守っていくかというところに方向性が行っているときに、共産党さんの御主張のように価格支持を厚くしていけという、これは、主張はなかなか通らない。私は、そういう意味で、この価格支持政策をむしろ厚くしていくというより、先ほど来民主党の和田委員からもお話があったと思いますが、緑の政策としてそういう色合いを濃くした所得補償政策、デカップリング、そういうふうなところに持っていきませんと、これはなかなか理解得られないところだなと。
 したがって、御主張のように価格支持政策を厚くしろ、もちろん全く取らないわけではございません。もし急激に価格が下がった場合に基礎的な、基本的なところはきちっと押さえていくという政策はこの大綱の中にもございます。したがって、言わば緑の政策、青の政策のその範疇の中で、日本の水田農業政策を守り得る施策と同時に、先ほど申し上げた主業農家に頑張ってもらう。主業農家と準主業農家、副業的農家の農家所得、米を中心とした農家所得を見れば、本当に今、主業農家の皆さんが大変なことを私も知っております。だからこそ、そこに集中した政策を施しながら頑張ってもらう、これが今度の構造改革だと、こういうふうに御理解いただければ有り難いと思います。
○紙智子君 真っ向から意見がこの点については違うという話をされたわけですけれども、私は、とにかく今の日本の現状というのは、食料自給率で四割を割る状況になっていると。それで、諸外国もいろいろWTOでもって交渉するわけですけれども、アメリカにしてもどこにしても一〇〇%とか、それを超えているわけですよね。そういう状況の中で、本当に現実は、先ほども言いましたように、もう生きていけるかどうかのぎりぎりの瀬戸際にあるという中で、やっぱりやれるものを国内で精一杯やって、やってこそ、他の国に対しても、日本はやっぱり米というのは主食なんだということを主張して頑張ることができるし、説得力を持ってやること、迫力を持ってやることができるんじゃないかというふうに思うんですよ。
 それで、米の価格の暴落は自然に起こったわけでもないし、生産者の責任に帰すことでもないと思います。WTO協定下でも、削減の必要のない米の価格支持を日本は真っ先に削減したんですよ。米政策に必要だということでいいますと、これも意見割れると言うかもしれませんけれども、価格支持を復活させるということが大事だと。しかし、今度の新しい政策ではそれに逆行しています。
 私は、最大の問題だと思うのは、この報告書のどこにも価格回復のための施策がないと、一層市場原理を貫こうというふうにしていることです。過剰米の処理の予算が掛かり過ぎた、掛かり過ぎたということで、この予算の削減が最大の目的になっていると。米の需要を、価格に対する政府の責任を放棄して、結局は農民に責任を転嫁するものじゃないかと思うんですね。稲作農家に対しての国の助成を削減し、廃止していくものだと。生産者切捨ての減収策を次々と打ち出している、これが今度のこのまとめだというふうに思いますよ。
 さらに、生産調整に関する研究会の報告では、米づくりのあるべき姿ということで、消費者ニーズを起点とし、家庭用、業務用、加工用、新規需要用、稲発酵粗飼料用等、様々な需要に応じて、需要ごとに求められる価格条件等を満たしながら、安定的供給が行われる消費者重視、市場重視の姿を目指すというふうに書いていますね。
 現在、加工用米というのは主食用の三分の一から二分の一ですね。それから、えさ米についていえば六十キロ当たり九百六十円ですよ。それから、今度の新規用途の、今お話もありましたけれども、米粉パン用にしても、小麦粉の代替としての予想価格というのは六十キロ当たり六千円です。生産者に対して、実需者の要望に合わせて米の価格を引き下げなさいということなんでしょうか。いかがでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) お米につきましては、需要に応じた生産をきちっとしていくというのがまず根本的に大事だということは、これまでるるお話をしてきたところでございます。その際に、生産目標数量に従いまして計画的に作っていくというのは基本でありますけれども、当然農作物でありますので豊凶変動がございます。取れ過ぎるということもあるわけでございます。その取れ過ぎたものが主食の世界に入っていくと、それは値崩れを起こしていくということで、今回提案をいたしております過剰米の短期融資制度というのは、そういう主食の世界に、取れ過ぎた場合でも、できるだけ影響を与えないようにということで考えた制度でありまして、生産農家の経済状況も勘案をして、きちっと経営の安定に資するようなものとして全体の政策運営をしていく、全体の制度設計というものをしているところでございます。
○紙智子君 米の用途を拡大するということは、これは大事だと思います。
 例えば、二〇〇〇年度産の米価が一万六千八十四円、自主流通米の入札価格ですけれども、このときでさえ、例えば生産費を償えるのかどうかと見たときに、農家数、これは償えるのは二四%、販売数量でも四八%しかないんですね。加工用では物材費にもならないと。えさ米に至っては、種苗費と肥料代も出ないと。主食用との差額の補てんの措置は全くないわけですし、それから、最近ずっと言われています多収量品種やコスト削減のための技術開発、これを収益を確保するめども保証も確実なものというのは今のところないですよね。米過剰の責任を結局はこういう形で生産者に転嫁するものになるんじゃないでしょうか。いかがですか。
○国務大臣(大島理森君) 生産者に全部負担を掛けるということの仕組みではございません。大事なことは、基本的にやっぱり需要者と生産者という関係が近くなり、生産者がやっぱり自分たちの米がどういう形で売れてどうされているかということを分かれば、それはある程度、このぐらいを作って、これ以上作っちゃうと自分たちの所得にも影響してくるな、そういうことをもうちょっと考えてもらいながら米を作ってもらおうという仕組みにしたいということなんです。
 多分、後の質問にもあると思いますが、先ほど私はばらまきという批判があるということをお話ししました。しかし、九州の先生方や、あるいはいろんな他の先生から聞くと、今まで例えば集団でこういう営農をしたい、畜産の方に力を入れたい、そういうふうに先ほど来からいろんな議論がありますけれども、そういった場合には、今までの調整政策というもののお金はなかなかがんじがらめになってそれは使えなかった。むしろそういうふうな考え方を持ってくれるんなら、集落で考えて、畜産の方に何かそういうものを使うために、水田のを飼料用に考えながら、そういうふうなところにお金を使える。集落で考えさせてくれ、そっちの方がいいんだ、そういうふうな農家の支援策でございますとか、あるいはまた、価格が本当に、一応第三者機関で来年の予測をきちっと立てさせていますけれども、それにも豊作がどっと出た場合は最低の価格線は保証してやろう。
 そういう中で、先ほど来申し上げたように、足腰の強い、そういう水田農業構造政策を作りたい、こういうものがねらいでございますから、全部生産者にこのツケを回しているんだという仕組みではないことだけは御理解いただきたいと、こう思います。
○紙智子君 今おっしゃったことは、また後でも議論させていただきますけれども。
 過剰米の処理の問題について質問したいと思うんですけれども、報告では、二〇〇四年度から生産調整は生産数量配分、ポジ配分ですね、ということで、それを超えた分は過剰米として生産者の責任で処理する過剰米短期融資制度を設けるというふうにしています。問題は、この融資単価でそのまま引き渡された場合、新規加工用途に販売することに回収可能な水準を考慮するとして、六十キロ当たり三千円ということで提示をされていることです。政府米も市場価格で買い入れるとしていますから、これやりますと一俵三千円というのが唯一の公定価格になって、際限のない米価引下げになるんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 十六年度から導入しようとしております過剰米の短期融資制度、これは、生産目標数量を上回った場合の過剰米について、先ほど申しましたように、主食の世界に影響を及ぼさないようにということで導入をするものでございます。
 表現は適切ではないかもしれませんが、十アール当たり例えば十俵取れる、そこで生産をされている方がいたとします。天候条件非常に良くて、十俵作る予定が十一俵取れてしまったと、取れたとしますと、その一俵というのは生産コストの面から見ますと、これは全然、何といいますか、追加的な費用というのは掛かっていないわけでございます。十俵作ろうと予定して生産をされた方であれば、その十俵が主食の世界で適正な価格で売れていれば、その方の経営の計算が成り立つということになります。
 たまたま予想外に取れた一俵について、主食の世界に出回るといろいろと悪影響があると。その一俵をどういうふうにしていくかということで、この短期融資制度で一年間は主食の世界とは一種隔離をしておくということでございます。それが売れなかった場合には物的担保としてそれが引き渡されますので、それを加工用、最低の水準ということであればえさに回るかもしれませんけれども、えさであったりあるいは米粉などの新規加工用途に回ると。
 そういたしますと、これは担保として差し出されているものでありますから、その新規の用途に実際、現実問題として使われるようなものを想定してどれぐらいの単価がいいかということで考えますと、一つの考え方として、検討過程で確かに六十キログラム当たり三千円という単価もお示しした経緯がございます。
 いずれにしても、この三千円というものはそういった用途を勘案した場合の一つの水準ということでありまして、現実にこの制度が適用されるようになりますと、その時々の販売価格水準でありますとか販売可能数量などを勘案して、毎年適切に設定をしていきたいというふうに考えております。
○紙智子君 何か余りよく分からないんですけれども、要するに、心配していることは、だれでも、生産者は一生懸命苦労して、一俵当たり三千円でなんて売りたくないですよ。それが、結局そういうことになって三千円でも出すということになってしまったら、それだったら、もうとにかく一万でもいいから早く売ってしまおうといって売り急ぎに走るという事態だって、生産者自ら、自分で一万円台に下げるというようなことでもって追い込んでいかざるを得ない状況になるんじゃないかということを心配するわけです。
 大臣、あるんですか。
○国務大臣(大島理森君) ちょっと、そこの考え方なんですよ、紙先生。
 だから、そこを生産者が本当に考えて、流通とかそういうものを考えてもらわなきゃならぬ時代になったんじゃないでしょうかと。今までは過剰米に対して、言わば政府が全部例えば担保します、何しますとなると、もう過剰という問題に対して敏感でなくなってきたがゆえに、過去の話ですよ、三兆円もお金を掛けたじゃありませんか、国民の税金を。
 したがって、やっぱり、今、次長がお話ししましたように、自分たちの米を適正な価格で売りたい、こうするならば、やっぱりそこは自分たちで、自分たちもある程度の責任を持って区分して、そして抱えて勝負していく、しかし、そこには政府もある一定の協力をいたしますと、こう申し上げているんですね。
 だから、その過剰米という問題に対して、それは物の考え方でございますが、余り手厚い対応をしてまいりますと、全体の利益として、生産者全体の利益として本当にいいんだろうか。そこの意識をちょっと変えてくださいというのが今度の改革の一つであることを是非御理解いただきたいなと、こう思うんです。
○紙智子君 需給調整に、私は、政府が責任を持つというのは、先進国の農政の普通の姿だと思うんですね。
 それで、例えばアメリカの価格支持の融資制度では、価格が暴落した場合に五年間、農家の平均の受取価格の八五%相当を融資単価として農民に渡すと。それで、価格が上がらなければその金額が農家の手取りになるんですね。日本の米価で言いますと大体一万三千円相当になるわけですけれども、正に価格の下支え制度です。それだけじゃないですね。その上、固定支払等、新たな不足払いを復活させて家族所得を補償していると。我が国は全く逆に、五分の一から九分の一の価格で買いたたかせようということになってしまうんじゃないかと。これだったら、価格の引下げ策というものじゃないんでしょうか。いかがでしょうか。
○政府参考人(中川坦君) 今、紙先生の方がアメリカの制度を例に引いてお話しになりましたので、アメリカのローンレートと、私どもが今回導入しようとしております過剰米短期融資制度の基本的な違いの点についてのみ私の方から御説明いたしますが、アメリカのローンレートが適用になりますのは、過剰分ではなくて通常に生産された分についてそのローンレートというものが設定をされているわけでございます。
 それに対しまして、この過剰米の短期融資制度は、先ほど言いましたように、通常生産を予定したものを上回った過剰分であると。言わば余り物に値なしという言葉もありますけれども、そういったものについて、どう悪影響、普通の主食の世界に影響を与えないようにするかという仕組みで導入したものでありますので、基本的なねらいが違うということを申し上げたいと思います。
○紙智子君 不安のわくようなことをといいますか、そういうことをやっぱりやらないでいただきたいと思うんですね。
 続いて、稲作経営廃止の問題についてですけれども、生産調整に関する研究会の報告が、農民の命綱とも言える稲作経営安定対策の廃止を打ち出しました。新たに担い手を対象とした経営安定対策を実施するとしているわけですけれども、この新たな対策の対象となる担い手というのはどのような生産者を言うのか。生産調整に関する研究会で出されているペーパーでは、対象になる者の要件について、認定農業者又は集落型経営であって、一定規模以上の経営を行っている者というふうにしています。
 大綱の参考資料として出された農水省の案では、二〇一〇年の効率的かつ安定的な農業経営の経営規模の二分の一という考え方に基づいて、認定農業者、北海道の場合は水田面積が十ヘクタールと、都府県は四ヘクタール以上というふうにしていますけれども、この対象となる認定農業者数はどれだけあるでしょうか。推計でも結構ですけれども、分かれば。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今回打ち出しております担い手の経営安定対策でございます。今、先生が御指摘ございましたとおり、対象者は認定農業者と集落型経営体ということで考えておりますが、幾つか要件がございまして、規模の要件もあるわけでございます。規模の要件は、今先生が御指摘がございましたとおり、水稲だけでなくて、麦・大豆等の転作作物も含めた水田経営全体の規模で判断をするということで、北海道で十ヘクタール以上、都府県で四ヘクタール以上、また集落型にありましては二十ヘクタール以上と、こういう要件を加えております。
 この要件に該当する対象者等どの程度あるのかというお尋ねでございまして、このものずばりの統計はないわけでございますので、ある程度の試算を推計を交えましてやりますと、農家戸数で申し上げますと、約全国で九万戸、北海道で一万戸、都府県で約八万戸というふうに考えております。
 ただ、集落型経営体につきましては、これはまた新しい概念でございまして、なかなか、この要件を満たすものはどの程度あるのかというのを数量的に推計するのはなかなか困難でございます。
○紙智子君 パーセントでは分かりませんか、今の数字は。
○政府参考人(川村秀三郎君) まず、戸数について申し上げます。全国で九万戸と申し上げましたが、シェアでは五%でございます。北海道、都府県の内訳で申し上げますと、北海道は一万戸でございますが、これは北海道の四四%に該当いたします。都府県では四%でございます。
○紙智子君 こうやって数字をお聞きしましても、結局大多数の農家がこの経営安定対策の対象から外れることになりますね。稲経は、不十分とはいえ最低限の手取りを保障して、辛うじて米価の暴落から農業経営を守ってきたというのが事実だと思います。これを外しますと、米価下落の歯どめの措置は全くなくなって、更に市場原理を強めようという中で、対象から外される、百万戸以上あると思うんですけれども、この農家についてはもう米作りの担い手とはみなさないと、稲作をやめなさいということになるんじゃないですか。どうですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) この担い手の経営安定対策は、今説明したとおりでございますが、この担い手経営安定対策の対象とならない方、これは産地づくり推進交付金というのがございまして、この全体の今回の対策の一環でございますが、生産調整実施者であれば、その規模のいかんを問わず、参加されますとこの米価下落影響緩和対策というものが受けられるわけでございます。先ほど申し上げました担い手の対策は、この米価下落影響緩和対策の更に上乗せ措置としてやりますので、この米価下落対策の対象にもなります。
 それから、その上乗せ措置につきましても、先ほど言いました、集落型経営体ということを申し上げましたが、この中に、小規模の方でもあるいは兼業をやっていらっしゃる方でも、その中に参画をして一体となって経営に参画されるということであれば対象となるということでございます。
○紙智子君 集落という話も出てくるんですけれども、農水省の案では、米価下落影響緩和対策で、結局稲経の二倍の負担を求めているわけですよね。補てん額は大幅に後退すると。現在でもこの収益の悪化というのは著しいわけで、これでは米生産が続けられなくなるというのは目に見えているわけです。
 それから、対象となる担い手農家にとっても経営安定対策というのはとても言い難いと。直近三年平均の稲作収入を基準稲作収入として、それを下回った場合に、差額の八割まで補てんするというものです。生産者の拠出は一対一、これもさっき話出ましたけれども、現行の稲経よりもこれは大幅に後退することになるんですね。現行の稲経は、その限界がはっきりしたもんですから修正が行われたと。ですから、これで本当にその担い手が残ると思うのかということも非常に疑問だというふうに思います。
 サーカスでも、だれか言いましたけれども、サーカスでも綱渡りのネットを床まで下げてしまえば、これはセーフティーネットにならないというふうに思うんですね。正常なやっぱり労働報酬を償えないような水準でセーフティーネットとは言えない、最後の命綱さえなくそうというに等しいと、こういうセーフネットそのものをなくすということになるんじゃないでしょうか。いかがですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今回、米価下落対策を含めまして、先ほど申し上げました産地づくり推進交付金、それから担い手の経営安定対策という構造でやるわけでございますが、この新しい仕組みにしましたのは、現行の稲作経営安定対策が幾つかの問題点なり反省点があるということでございます。
 先生も御案内のとおり、この稲作経営安定対策が、言葉を選ばず言えば、かなり手厚いということで、必要以上の値引き競争等がこれによって引き起こされたといったような批判もあるわけでございまして、これからは正にその市場の動向をビビットに、鋭敏に感知をしなくちゃいけない、そういうことでもやはり基準収入の取り方は市場動向をより反映しやすい形にしなくてはいけませんし、またモラルハザードの問題も回避するという意味で、一定のやはりそこのバッファーといいますかすき間を作っていくことによって、皆様方の努力、経営努力というものを促していくという仕組みがやはり必要であろうということでございます。
○国務大臣(大島理森君) 今サーカスの話を出されましたので、サーカスのお話でちょっと返したいと思うんですが、ここに、先ほど来先生がお話ししていますが、米を作っている主業農家、準主業農家、副業農家というのがあります。これを、全部この人たちが本当にこの主業農家と同じようにサーカスの綱の上を歩いているんでしょうか。私はやっぱり、本当にサーカスの綱の上を歩いている人に、より安全なセーフティーネットをきちっと作ってやる。この人たちにはもうちょっと低いかもしれませんけれども、このセーフティーネットを作ってやる、こういうふうなのが今度の思想であると私は思うんです。
○紙智子君 集落営農に、掛からない人は集落営農の中でという話をされるんですけれども、この集落営農についても様々な条件付いていますね。実際、施策の対象から外そうということも言われているわけです。
 研究会の報告で、今後担い手としてみなすのは、主たる事業者が、市町村の基本構想で定められている所得水準を目指し得る、他産業並みの所得水準、それから一定期間内に法人化する等の計画を有する集落型経営体ということで書いています。全国のこの水稲中心の集落営農組織七千のうち、対象となる集落営農組織というのはどの程度というふうに推定されるんでしょうか、どうですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 現状で、今申されたように、水稲の集落営農というのは七千ございます。ただ、今回こういう形で集落型営農経営体というものを明確に位置付けをし政策支援をしていくということを打ち出しました。農業団体、系統組織も、今回のこの米政策の見直しを機に、集落での話合いを精力的に行って集落型経営体の育成というものに精力的に取り組んでいくということを申されております。
 現状では、確かに七千という数字の内訳だと思いますが、そういう努力等を勘案しますと、かなり広範にまとまった形での組織化が行われることを期待しているところであります。
○紙智子君 期待ということなんですけれども、例えば農業新聞では、稲作中心の営農集団七千のうち要件を満たすのは千程度と。集落営農の先進県である富山、JA富山中央会の調べでは、県内に三百七十三の集落営農組織が早くからやっていますよね、努力していますよね。そのうち、協業経営組織というのは百八十六あるけれども、ここに示されている要件どおりに振り分けられれば対象にはほとんど残らないというふうに言っていますよ。
 そして、農林中金の総研の研究報告の中でも、この集落営農について、農地利用の相互調整や機械・施設の共同利用、共同作業等を行うことによって、集落全体としての経営の革新や効率化を果たして、地域農業資源の保全や活用、地域社会の維持・活性化に寄与していると、こういう実態を無視して、中核農家の存在の有無等で一律に集落営農を評価することは誤りだというふうに指摘して、さらに、一律的評価は地域営農システムの環を断ち切る恐れさえあるというふうに批判しています。それでやはり、農政サイドからの選別ではなくて、意欲と能力のある営農組織自らの判断、選択を重視すべきだというふうに言っているわけですけれども、大綱はやっぱりそういう点では、今まで努力してきている集落営農組織にまで線引きをして、分けて切り捨てるための施策になってしまうんじゃないかというふうに思うんですよね。この点はどうですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 現状での集落営農の在り方というのは様々でございます。非常に集落内の営農を一括管理運営するという、我が方が今正に目指しているようなものを既に達成されているところもありますし、作付け内の団地内の共同利用等を単に行うだけというものから様々でございます。
 やはり、これから私ども、二十二年の農業構造を展望しそれに向かっていくためには、やはり方向性を持って政策を展開しなくちゃいけないということを考えますと、やはり法人化の計画やあるいは一定の収入を基準とした目標というものを持つことは非常に重要なことだろうというふうに思っているところであります。
○紙智子君 時間が来ましたのでもう終わりますけれども、今のやり取りもやった上で、今回の米政策見直しということなんですけれども、結局、米生産と安定供給に対する政府の責任をこれは投げ捨てるものだと、日本の米生産にやはり大きな打撃をこれからも与えていくし、中山間地の荒廃にもつながると、そして消費者や生産者が本当に望んでいる安全な安心な米の供給も不可能にしていくということで、私は、この中身については断じて許せないし、撤回すべきだということを最後に強く申し上げまして、質問を終わります。