<第154国会 2002年4月16日 農林水産委員会 第6号>


平成十四年四月十六日(火曜日)
   
午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○漁業再建整備特別措置法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
○水産業協同組合法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
○漁業災害補償法の一部を改正する法律案(内閣提出)
○遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

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○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
私は、法案に入る前に、大変切実な問題になっておりますので、ロシア水域での北洋漁業に関して幾つか質問させていただきます。
 最初に、ロシア漁船による漁具被害についてです。北方四島の安全操業区域では九九年から二〇〇二年までの間で延べで八十六隻、二千百六万円の被害、漁具被害が出ています。この被害補償が一件もされていないんですね。何が障害になっているのでしょうか。水産庁長官。
○政府参考人(木下寛之君) 委員御指摘のとおり、北海道周辺水域におきまして、ロシア・トロール漁船によります漁具被害が発生をしているわけでございます。
 漁具被害につきましては、基本的には加害者のいる民事案件ということでございまして、当事者間で解決すべき課題でございますけれども、今御提示あった案件の場合、加害者の特定が難しいという点が解決に至っていない原因だろうというふうに考えております。
○紙智子君 この操業水域がロシアの実効支配というふうに、領海であるというふうに言われていますし、それから漁民や我が国の取締り船による監視がここでできないと。一般に加害船の特定というのは困難だというふうに言われているわけですけれども、ここは特別に困難だと。同時に、私は、仮に加害船が特定できた場合でも処理する機関が保障されていないんじゃないかというふうに思うんですね。
 ロシアとの間に漁具被害を含めた漁業損害賠償請求処理委員会というのがありますね。ここは我が国の領海より外の沖合水域での被害が対象になっているわけですが、北方四島の安全操業区域は本来は我が国の領海だと、我が国の領土だという立場でこれまでやってきているわけですし、ところがロシアが実効支配していると。それで、この加害船が特定した場合にこの処理委員会で扱う対象になるんでしょうか。
○政府参考人(木下寛之君) 漁業賠償処理委員会の対象でございますけれども、我が国沿岸の地先沖合の公海海域において発生をした日ロ間の漁船・漁具間の事故に伴う損害賠償請求でございますので、今御質問の件については対象にならないというふうに考えております。
○紙智子君 対象にするのはできないということですね。それであるならば、やっぱり私は新たな処理のためのスキームを検討すべきだというふうに思うんです。まず、こういう被害が起きないようにするというその防止の対策というのが先決なわけですけれども、しかし実際に起こっている被害についてはちゃんと補償させるべきだと、解決させるべきだというふうに思うんですね。まず、そのためにもロシアとの被害補償を話し合うための機関を設定するべきだと思うんですよ。
 それで、加害船がわからないというふうに相手が言うかもしれないけれども、そのときから含めてやはり話し合いをその段階で持って、ロシア側はロシア側としてそれを特定するそのための努力をやってもらうように要請すべきだと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 我が国漁業者が安心して操業するためには漁具被害の防止が必要でありまして、政府としてはこれまでもロシア側に対しまして漁具被害防止のための協力を要請してきたところでございます。その結果、平成十一年度七十二件あった被害が平成十二年度及び平成十三年度には十数件に減少しているという実態がございます。また、昨年末の日ロ地先交渉の結果、襟裳岬南方にロシア漁船の操業禁止区域を新たに設定いたしたところでございまして、これにより襟裳岬水域の漁具被害は減少すると考えているところでございます。
 なお、ロシア漁船による漁具被害については、基本的には加害者のいる民事案件でございますが、当事者間で解決すべき問題で、したがいまして、ございますが、漁業賠償請求処理委員会に申請のあった案件については、その処理を促進してまいりたいと、かように考えておるわけでございます。
○紙智子君 現地に行きますと、やっぱり後を絶たないわけですね。今年に入ってからも三件あったわけですし、やはり一貫して漁具被害に遭っているわけだけれども、それに対しては何ら賠償されないと。相当昔にかなりの件数で被害が起きたときに、このときにいろいろ検討されたということはあったようですけれども、それ以来でいうと、本当に実態は泣き寝入りしているような状況になっているというふうに思うんです。ここはやはり常設に機関を設けて、もっと頻繁にそういう会議もやるなどして、しっかりとした補償できるような体制を組むべきだというふうに思いますし、そして、そういう機関もなかなか取れないということであれば、やっぱり領土絡みな問題ということもあって、地域の方からはそれ以上言えないという状況があるわけですよ。そうであるならば、現場の漁業者がいつも言うんですけれども、それだったらもう国が補償してくれというふうにも言われるわけですね。
 ですから、そこについて、やっぱり本来はここは日本の領海なわけですから、確固とした姿勢で、ロシアに対してもその対応策ということでは、少しずつ変わっているということではなくして、きちんと対応できるように日本政府としてもやるべきだと思うんですけれども、もう一度、いかがでしょうか。
○政府参考人(木下寛之君) 私どもも、先ほど大臣が御答弁申し上げましたように、ロシア側に対しまして、漁具被害の防止が必要だということにつきましてもこれまでも申入れをしてきているところでございます。また、このような被害が発生する、特に襟裳岬南方等でございますので、このような海域につきましては、先ほど申し上げましたようにロシア操業禁止区域を新たに設定するという方向の中で被害の防止策に努めていきたいというふうに考えております。
紙智子君 襟裳岬の方は問題特に、いや、今、一件上がっていますよね。それを今投げ掛けているけれども、それだってまだ返事が来ていないということで、現地の漁民は怒っていますよ、早くしてくれという話をしているわけですけれどもね。今、私言いましたのは、羅臼の近辺ですよね。
 こういうことを含めてしっかりやっていただきたいということと、それからもう一つですけれども、羅臼のスケトウダラの問題です。昨年、ついに一万トンを切りました。二千トンから三千トンの大きなやはりここでは大型のロシア船が根室海峡に現れたのが今から十三年前ということですけれども、そのときと比較しますと、もう今やそこで捕れる漁獲量というのが十分の一以下に減っています。
 それで、この資源枯渇の原因については、大臣自身も昨年の農水委員会で、やっぱりロシアのトロール船によって影響を受けているんだということでお認めになっているというふうに思うんですけれども、北方水域はとにかく密漁ですとか本当に無秩序なそういう操業も指摘されていて、あらゆる種類の資源の枯渇ということが危惧されているところでもあります。
 大臣は、成魚も稚魚も含めて、とにかくあらゆる種類のものが根こそぎですね、トロール船で底の方からがあっとやっていくわけですから、そういう意味では根こそぎ捕り尽くしていく。しかも、海底の状態まで変わってしまうということが言われています。魚が卵を産んで産卵するそういう魚礁も含めて形が変わってしまうようなそういうトロール船の規制について、ロシアに対してもどのように働き掛けていくのか、そこのところ、いかがでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 羅臼沖の問題につきましては、あそこは今、委員御指摘のように産卵場として非常に貴重な魚族資源の宝庫であったわけでございます。今、残念ながら、その資源も低位減少傾向と推定されるのでございますが、資源状況の的確な把握のためには、北方四島及び根室周辺水域における資源調査が重要であると考えておりますので、そのことはしっかりやらなきゃならないと、こういうふうに考えているわけでございますが、ただ、御案内のとおり、北方四島周辺水域については我が国が実効支配していないということでございまして、直接調査することが事実上困難な状況にございまして、したがいまして、毎年、日ロ漁業専門家・科学者会議等の場を通じて資源状況に関する情報収集に努めているところでございます。
 羅臼沖におけるロシア・トロール漁船の操業については、漁業資源への悪影響が懸念されることは言うまでもないことでございますので、ロシア側に対しまして操業自粛等を強く申し入れてきたところでございますが、これは今後ともこうした措置が実現するよう機会をとらえて粘り強く強力に働き掛けを行ってまいりたいと、かように考えております。
○紙智子君 今年二月に北方領土返還問題で根室の市議会の代表の皆さんが上京されました。そのときに、根室の漁業は九割をロシア水域に依存しているんだ、しかし年々操業海域が狭くなって漁獲割当ても減るばかりだ、来年はどうなるか分からないと、正に沈没の一歩前だという話をされているんですね。このままだとロシア水域から割当ても少なくなっていくし、協力金だけが上がっていくというような状況で、先細りする一方なんです。
 それで、領土返還問題自身もこの間のいろんな問題があって非常に困難な条件が生まれているわけですけれども、北洋漁業のやはり維持のために、これまでの漁業外交についてもやはり点検をし総括をし、そして新たな展望を見いだせる交渉方針を構築する必要があるんじゃないか、そういう時期に来ているんじゃないかというふうに思うんですね。
 我が党は二十数年前から、この領土問題が未解決の状況の中では、両国の主張する二百海里、これが重なり合う部分については、最低でもその重なり合う部分については、資源の科学的な評価とそれから利用方法の合意による共同管理方式、こういうやり方でやる必要があるんじゃないかと。だから、科学者も含めてですけれども、今はお互いの情報を提供し合ってということになっているようですけれども、やっぱり正確に資源がどうなっているかということをちゃんと評価するし、両国が納得いく形で評価するといいますか、そういうふうな形でやり方を進めていくことも含めて検討をしていったらいかがなものかということで、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 近年、ロシア側におきましても極東地域における水産振興ということについて大きな関心を持っているわけでございますので、私どもといたしましても、外国漁船の操業に対する漁獲割当ても従来に比べ非常に厳しいものになってきているという現状も踏まえまして、強力な努力をしていかなければならないと、かように思っているわけでございますが、昨年末の日ロ地先沖合漁業交渉は、一昨年の交渉に引き続きまして、お説のとおり、漁獲割当てが減少した魚種がある中で、交渉努力によりまして、操業区域が新設されまして大幅に増枠された魚種もございます。総枠では増加を確保したところでございまして、本年三月のサケ・マス交渉では、漁獲可能量等につきましては漁業者の要望を踏まえた交渉結果を得ていると、かように考えているところでございます。
 いずれにいたしましても、今後の交渉に当たりまして、我が国漁業者の要望を十分に踏まえて、最大限の努力をしてまいりたいと考えております。
○紙智子君 非常に現場は危機感で一杯なんですね。それで、やはりこのまま行ったら資源が枯渇しちゃうと、先がなくなってしまうということです。だから、今までのやっぱり延長線でといいますか枠内で協力金を払って、そしてある程度捕らせてもらってと、こういうことの積み重ねだけではもういかなくなっていると思うんですね。やっぱり抜本的に、両国にとっても資源がなくなるということは大変な問題ですから、そこは踏み込んだやっぱり交渉の在り方ということで検討いただきたいということを重ねて言いたいと思います。
 次に移ります。水協法の問題です。
 それで、本法の施行で、農林中金が定めています自主ルールというのは基本方針となって法的な権限を持つと。自主ルールは、漁協、信漁連をモニタリングし、財務、資産、体制等の基準をクリアすることを要求しています。信漁連では、この債権の分類に応じて貸倒引当金を積むように厳しく要求をされています。破綻懸念先では五〇%から七〇%、それから破綻先は一〇〇%ということですけれども、これが大変だということで話を聞いています。行政や系統の検査で正常債権が破綻懸念先に格下げをされて引当金を積まなければならなくて、そのために財務状況が悪くなると。
 先日、静岡県に調査に、現地調査に委員会で入りましたけれども、ここでも焼津の皆さんが、信漁連の皆さんもいらっしゃいましたが、やっぱり今の対応をめぐってはなかなか苦労されていると、厳しいという話をされていました。
 そこで、お聞きしますけれども、この系統の金融検査マニュアルですね、この検査マニュアルでは、債権分類や償却や引き当ての基準は一般銀行と同じ基準でやっているんでしょうか。
○政府参考人(田原文夫君) お答えいたします。
 私どもの官房協同組合検査部が行っております系統金融検査マニュアル、これは金融庁の金融検査マニュアル、これと中身的には同じだということでございまして、貸出金等の債権につきまして、担保でございますとか保証等、こういった状況を勘案いたしまして、回収の危険性あるいは価値の毀損と申しますか、毀損の危険性の度合い、こういったことに応じまして第T分類から第W分類という四段階の分類にしているわけでございます。
 具体的には、第T分類は問題がない資産、それから第U分類は通常の度合いを超える危険を含むと認められる資産、それから第V分類が最終の回収などに重大な懸念が存する資産、それから第W分類は回収不可能な資産と、こういうことでございます。
 そこで、こういった資産分類に応じまして、また債務者の区分に応じまして、必要な償却あるいは引き当てといったことをやっていただくということで、一定の方法で予想損失額を算定するということによりまして行っているところでございます。
 ただ、こうした資産の査定に際しましては、債務者の財務状況というだけではなくて、技術力でございますとか販売力、あるいは代表者の方の収入状況、こういったことを総合的に勘案するとともに、被検査系統金融機関の考え方、こういったことも十分に確認して行うようにということで検査を進めているところでございます。
 以上でございます。
○紙智子君 今のお答えですと、内容的には変わらないということですね。
○政府参考人(田原文夫君) はい。
○紙智子君 系統の信用機関というのは協同組合の金融ですね。人的な結び付きを信用の土台にしているというふうに思うんですね。今年は不漁だけれども、しかし来年以降は資源の回復があるかもしれないという場合もありますし、資源管理の政策、あるいは政府の支援でもって適切な営漁指導が行われれば経営は安定するということもあるわけです。そういう特殊な条件にある漁業金融という特性がやっぱり生かされるべきだというふうに思うんですね。
 資産精査等を一般と同じような検査マニュアルで画一的にやるということになると、これはやっぱりよくないと。幾ら漁業の特性を配慮するとしても、決めているマニュアル自身が同じものでやっているということになりますと、基準が同じですから、これ結局機械的になっちゃうんじゃないでしょうか。いかがですか。
○国務大臣(武部勤君) 農林水産省の系統金融検査マニュアルは、やはり金融庁が作成した金融検査マニュアルにのっとり作成したものであることは、今御説明したとおりでございます。我が国の系統金融システムの安定を図ることが、貯金者を保護する上で重要であるということは言うまでもありません。したがいまして、すべての系統金融機関を対象としているわけでございます。
 なお、この系統金融検査マニュアルは、検査官が検査する際に用いる手引書として位置付けられるものでございます。また、同マニュアルには、その適用に当たりまして、漁協等の各系統金融機関の規模や特性を踏まえまして、機械的、画一的な運用に陥らないよう配慮することが必要であることも明記されているわけでございまして、実態に即した検査を実施することが担保できると、このように考えているわけでございます。
○紙智子君 漁協系統独自のものを作る用意はありませんか。
○政府参考人(田原文夫君) 確かに、漁協系統信用事業をめぐります状況というものは厳しいわけでございますけれども、仮に漁協系統についてのみ独自のマニュアルというふうなことを検討するということになりますと、他業態と比べますと、当然のことながら緩やかな基準を作成、適用しろということの御指摘になろうかと思いますが、そういったことをいたしますと、かえって漁協系統信用事業に対します一般国民の方々からの疑念、健全性に対します信用、こういったものが揺らいでくるというふうなことで、漁協系統信用事業自体の信用性の方に悪影響を及ぼすということではないかということで、ここは、金融という我が国経済の中におきます共通の基盤の中での話ということで対応することが私どもとしては適当ではないかと、かように考えている次第でございます。
○紙智子君 今、中小企業も、結局、金融マニュアルの一般でやるということでは実態に合わないということで独自のものを作ろうということで努力をされているわけですね。マニュアルを末端まで徹底させようということになれば、本当に大変なことだというふうに思うんです。
 一〇%という自己資本比率、これをクリアしていない漁協は信用事業実施の五百六十二のうち四十八というふうに聞いていますが、ただ、この基準を超えていても、いろいろな基準に満たないところは信用事業をできないということになると。北海道の場合でいいますと、三十億円以上の貯金量がないと信用事業の継続ができないというふうにされているわけです。だから、五百六十のうち、そういう形で今実施要件に合わなくて単独では信用事業ができない漁協というのは幾つあるんでしょうか。
○政府参考人(木下寛之君) 今回の法律改正では、漁協が信用事業を行う上の要件というのは、一つは最低出資金が一億円以上、もう一つは、組合長以外に信用事業担当の常勤理事一名以上の義務付けを定めたところでございます。この規定につきましては、私ども、施行を来年一月一日というふうにしておりますけれども、三年間の猶予措置を設けることを考えております。
 また、系統の調査によりますと、この要件のうち、最初の要件でございます最低出資金一億円以上という要件を満たしている組合は全体で三百四十九組合で、全体の四四%ということでございます。
 また、常勤理事ということでございますけれども、組合長以外の常勤理事を設置している組合は二百二十五組合でございまして、ちょっと時点が、平成十二年三月ということで、若干古うございますけれども、全体の二八%という状況でございます。
○紙智子君 自己資本比率。
○政府参考人(木下寛之君) 農林中金が定めます自主ルールで、漁協は一〇%の自己資本比率ということになっているわけでございますけれども、現時点でこれを満たすものは全国で大体九二%、五百十四組合というふうに承知をいたしております。
○紙智子君 今ざっとお聞きしただけでも、やはりこれらを全部クリアして、それで単独で信用事業できるというのはやっぱり一部分でしかないと思うんですね。ですから、非常に大変な改革をやろうということだと思うんですよ。そして、漁業者の皆さんにも大変な努力を要請しようということになると思うんですね。
 私が聞いたところでも、北海道の胆振管内十漁協がありますが、この十漁協の中でこの基準に該当するところはと聞いたら、一つもないということなんですよ。ある組合長さんなんかは、地域のそれぞれの条件をやっぱり尊重した経営の在り方や信用事業であってほしいと。だから、一律的に適用するのはどうなのかという意見も出されていました。
 そうしたら合併すればいいということなんだけれども、合併は一応計画はされているけれども、これもそんなにたやすいものじゃないと。やっぱりリスク背負うかどうかということになるわけだから、赤字持っているところは、こっちはくっ付きたいけれども、受け入れる方は嫌だというようなことで、そう簡単にはいかないという状況があるわけで、私は、やっぱり単独ではできない基準を設けて無理くりこの合併や事業を移譲するというやり方について、いかがなものかというふうに思うんですが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 漁協は、漁業・漁村における中核的な組織として様々な事業を展開しているわけであります。これまで合併等が進まず、零細な事業・組織体制にとどまっているという実情がそれぞれの地域にあるということも委員御指摘のとおりでございます。
 しかしながら、新たな基本法の下、漁協が資源管理、担い手育成等水産業の新たな課題に積極的に取り組むということと同時に、ペイオフ解禁後の金融情勢の変化の中で漁協系統信用事業を的確に実施していくと。そのためには、やはり合併、事業譲渡による漁協の事業・組織基盤の再編を緊急に進める必要があると私は考えます。
 このために農林水産省としても、昨年度より、まず資源管理等を担うに足り得る事業・組織基盤を備えた漁協を認定漁協として明確化した上での広域的な合併を促進するということと同時に、漁協から信漁連への信用事業譲渡を柱とした信用事業の基盤強化を重点的に支援していくということで進めているわけでございまして、これらの措置を通じて、漁協の合併等による事業・組織の再編を積極的に推進すると同時に、漁業・漁村における漁協の従来からの機能というものも確立していくことができると、このように考えているわけでございます。
○紙智子君 私は、無理くり合併とか事業譲渡というやり方がどうなのかということを申し上げているんです。系統関係で自主的にいろいろ努力されていると思うんですけれども、問題は、法律でやはり過大なことを強制するということ自体が問題なんじゃないかということを申し上げているんですね。
 そこのところをもう一度、どうですか。
○政府参考人(木下寛之君) 漁協系統の信用事業につきましても、やはり一般の金融と同じように、貯金者の信頼あるいは信認がないとなかなか成り立たないという業態だろうというふうに思っております。したがいまして、漁協系統の信用事業につきまして、他業態に比べより緩やかな基準を設定したといたしますと、かえって漁協系統の信用事業に対する信頼なり信認に揺るぎが来るというふうに考えております。
 したがいまして、私ども今回提案しておるように、少なくとも協同組合組織の他業態と同じようなところまで持っていかないことには、なかなか、ペイオフ解禁下の競争の激しい金融の中で生き残っていくのは非常に難しいというふうに考えております。
○紙智子君 合併や譲渡できるところはいいと思うんですよね。でも、相手がいないところは立ち往生しかねないと思うんですよ。基準を独自にクリアできないし、しかし地域の合併もなかなか困難だと。県の信漁連も経費が掛かるから荷物になってしまうということで譲渡を引き受けないと。
 そういう場合に、この中に書いてありますけれども、指定支援法人による資金援助が受けられるのかどうか、それとも信用事業を廃止しなきゃいけなくなるのか、単独でもせざるを得なくなるのか、この点いかがですか。
○政府参考人(木下寛之君) 漁協系統信用事業におきます指定支援法人としては、現在ございます社団法人全国漁協信用事業相互援助基金を指定をしたいというふうに考えております。
 同基金は、これまでも漁協の信用事業が破綻した場合に、漁協の事業を承継する漁協等に対しまして、農水産業貯金保険機構による資金援助と同時に資金援助を行ってきております。今後も基本的な支援方法は同様のものを考えておるところでございます。
 指定支援法人は、このような資金譲与のほかに、優先出資の引受け、資金の貸付け、あるいは劣後ローンの供与等を行うこととされておるわけでございますけれども、これらの支援に当たりましては、再編強化法に基づきます基本方針に基づき農林中央金庫の要請を受けて行うこととされております。
 その発動要件につきましては、今後、基本方針とともに具体化していきたいというふうに考えておるところでございますけれども、例えば優先出資等の資本増強のための支援につきましては、漁協なり信漁連が基本方針に定める一定水準をクリアできなくなった場合に必要に応じ支援が行われるというふうに考えております。
○紙智子君 結局、支援がどこでも受けられるということなんでしょうか、そうなった場合。
○政府参考人(木下寛之君) 基本的には、支援につきましては、再編強化法によりまして、一つは、農林中央金庫の要請を受けて行うというのが一つの要件でございます。二つ目といたしましては、今後具体化していく必要があるだろうというふうに思っておりますけれども、優先出資の資本増強の支援等々につきましては、漁協なり信漁連が定めます一定水準をクリア、これにつきまして今後検討していきたいというふうに考えておりますけれども、一定水準をクリアできなくなった場合に必要に応じ行われるというふうに考えております。
○紙智子君 今までに信用譲渡を行ったところでも、既に三十六か所が廃業というか、やっていますよね、廃止されているわけですよね。ですから、そういうことを見ますとやっぱり懸念せざるを得ないということなんですね、心配せざるを得ないわけです。
 それで、やはりセーフティーネットといえば聞こえがいいわけですけれども、選別的なものではやっぱりいけないというふうに思うんです。漁協はほかの金融機関とやはり違っていると思うんですね。総合的に事業を行っているのが漁協だと思うんです。指導事業がありますし、指導事業がうまくいって、本当にいった場合は水揚げが上がると。水揚げが上がることでもって信用事業も好転するというふうになっていきますし、流通や販売の事業もやっていますよね。これがやっぱり努力されて工夫されていくことで良くなっていくという場合もあるわけですし、総合的に漁協を見なければならないと思うんですね。
 しかし、やっぱり狭いといいますか、そういう信用事業そのものがどうかという、そういうことだけでそれを評価してやってしまうということになりますと、それでもって組織再編やそれを強制するやり方をやるということ自体に危惧を感じているということなんですよね。そこのところを、本当にそれでいいのかということを言いたいわけです。
 それで、水産庁の資料の中に答申が含まれていますけれども、その答申の中に、「漁協の事業・組織の在り方について」というのがありますね。この資料の中の冒頭のところで、最初の部分のところに、ページに書いてあるわけですけれども、ただし、漁協の原点は、漁業者の組織としてそれぞれ特色を有する浜々の利益のために貢献することであり、そのことを忘れ、すべてを一般論で押しつぶすことがあってはならないし、これまでと同様、浜での真摯な創意工夫が重要であることを改めて指摘したいというふうに言っているわけです。
 大臣、やはりこの指摘を受け止めますと、本当に機械的な信用事業の再編というのはやっぱり相入れないんじゃないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 一般論として、機械的に合併とか事業譲渡とかということを進めるということについては問題があると思いますけれども、しかし、私も現場を多少知っている者として、組合員一人一人は、この時期にどうあるべきかということについては、今私どもが進めようということについてはおおむね理解をいただいていると、かように思います。ここはやはり積極的に進めるということが私は一番大事なことではないのかなと。
 もちろん、一様に人の、一人一人の理解がなくやるということはいけないことであろうと思いますけれども、しかし同時に、ここは決断とか勇断とか、そういうようなことも迫られているのではないかと。したがって、私は、多くは理解の上で進められると、このように認識しております。
○紙智子君 信用事業の健全化ということを言うのであれば、私は政府の漁業政策の検証が必要だというふうに思うんですね。漁業者はやはり水揚げを貯金にすると。そして、そこから生活費や営漁のためのお金を引いて、言わば財布代わりに使うという状況なわけですけれども、そういう中で、魚価安がずっと続く、そして資材の高騰が一方であるということがもうストレートに影響していくわけですよね。やはり赤字はすぐ借金になっていくわけですし、農業の場合も共通していることがあるわけですけれども、しかし農業と違うのは、農業の場合は不十分ながらも価格の補てん制度が今まで行われてきたというのがあるわけです。農業予算でいいますと二兆数千億円ありますけれども、その中でも価格対策の予算というのが四千九百六十九億円と、約二〇%ですか。
 そこでお聞きしますけれども、この水産予算三千九十二億円の中で、価格安定対策の予算というのは幾らで、何%あるでしょうか。
○政府参考人(木下寛之君) 水産物の価格安定を図るための予算といたしましては、平成十四年度で、一つは、主要水産物につきまして、水揚げ集中等によりまして価格が低落する際にこれを買い入れ、漁期終了後に放出を行う水産物調整保管事業を推進しているところでございます。この予算が国費で五億二百万、これが第一でございます。
 第二点目が、やはり産地の価格形成力を強化をすることが価格の安定につながるというわけでございます。産地市場の統合を始めとする産地機能の強化を積極的に推進する水産物産地流通機能強化対策事業として五千三百万円を計上しているところでございます。
 このほかに、基本的には需要の拡大を図ることが価格の安定に資するということでございまして、水産物の消費改善対策が同じく国費で六千万と。このほかに、冷凍水産物の需給情報検討会などの検討会費がございます。
 以上が私ども水産関係の予算でございまして、国費ベースにいたしますと十七億円程度というふうに考えております。
○紙智子君 本当にわずかなものですよね。だから一%にならないですよね、全体の割合の中で。だから、本当にわずかなもので、私は、漁業は歴史的に見ても、価格対策や経営の直接助成という政策は排除されてきたというふうに思うんですね。
 「全漁連の運動と事業のあゆみ」という、こんな厚い創立の記念誌がありますけれども、四十周年のがありますけれども、その中にも書いてありますが、かつて石油危機のときに一万人の漁民の集会が行われて、このときに、実はヨーロッパではもう既に行われていたわけですけれども、非常に高騰した燃料の油ですね、この燃油の価格差について補給金を出してほしい、それから魚価の安定制度をやってほしいということが要求としてわっと上がっていて、その当時は自民党の水産部会もそれに賛成していたわけですね。ところが、決まったのは融資だったと。生産調整保管事業という、魚価安定にはほど遠い施策だったわけです。
 そのころからやっぱり借金漬け経営、借金漬け漁業ということがずっと言われてきて、それが今日に続いてきていると。だから、何でも融資ではない。しかも、魚価安の長期化の下で不良債権がだんだん膨らんでいくというのは言わば当たり前と言ってもいいようなわけです。ですから、直接助成の対策がやられていたならばこういう状況にもなかっただろうと。
 そして、仮に今、農業の場合の十分の一程度の価格・経営安定の予算が組まれていたとしたら、今の漁協のこのリスク管理債権、九百四十三億円といいますけれども、二年から三年でこれはなくなってしまうというふうに思うんですね。その意味では、私は、政府の漁業者への直接助成のない政策が信用事業の大変さを作ってきたというふうに言えると思うんです。
 この点で、最後に大臣の発言をお願いします。
○国務大臣(武部勤君) 魚価の問題も、すべて漁業経営の安定ということがそこの根底にある問題なんだろうと、かように思います。
 今般の水産四法は、水産基本法において明確にされました資源管理、経営体の育成を具体化するために提出されたものでありまして、中でも漁業再建整備特別措置法の一部改正においては、効率的かつ安定的な経営体を育成するための長期資金の融通、それから漁業災害補償法の一部改正では、漁業実態のニーズに即した漁業共済制度の改正、さらに、水産業協同組合法の一部改正では、営漁指導の明確化と系統資金を安定的に供給するための事業基盤の強化等の推進を目指しているわけでございまして、今後、漁業経営の安定を図るためには、魚価の安定にも努めつつ、これらの法律にのっとった施策を確実に推進することが最も重要だと、かように考えている次第でございます。
○紙智子君 質問を終わります。