<第154国会 2002年3月19日 農林水産委員会 2号>


平成十四年三月十九日(火曜日)
    午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農林水産に関する調査
 (平成十四年度の農林水産行政の基本施策に関する件)
○特殊土じよう地帯災害防除及び振興臨時措置法の一部を改正する法律案(衆議院提出)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 武部大臣は所信で、聖域なき構造改革に取り組む改革断行内閣の一員として農林水産業の構造改革に取り組むと決意を述べられました。この構造改革は、私は日本の農業とそして農山村に非常に重大な問題でもあるというふうに思いますので、この当委員会でも十分な議論が必要だと思います。
 私は、最近、北海道の空知の農村の町村長さんたちとお話をする機会がありました。その中で出された問題の一つは地方交付税の問題です。人口の少ない自治体に交付金の割増しをする段階補正の見直しで、総務省の試算でもおおむね初年度では千七百万から千八百万と、そして三年目になりますと五千万円程度の削減になることが示されました。これは農村の自治体に大変大きな不安を与えています。これでは農村の規模の小さな自治体にとっては大変になってしまうんじゃないかというふうに思うわけですけれども、やはり農山村を維持する、農山村を守るというお立場にある農林水産大臣としては、そのように思わないでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 地方交付税の交付金の問題については、私も地元の町村長から深刻な様子はよく聞いております。それでありますだけに、私は自民党の過疎対策特別委員会の委員長を務めてまいりまして、新過疎法に関係してまいったんですが、農山漁村の新しいコミュニティーといいますか、その一番大事なことは、そこに住む人々の生活環境でありますとか生活条件だろうと、このように思うわけでございます。
 今後、市町村合併の問題も具体化してくるんだろうと、かように思いますが、その際に、農山漁村政策について、所信表明におきましても、農山漁村の新たなる可能性を切り開き、もって循環型社会の実現を目指す、こういうふうに私は申し上げているわけでありますが、都市と農山漁村の共生・対流ということは、人、物、情報の循環を可能とするプラットフォームづくりということと、市町村のイニシアチブに基づく新たな村づくりと、こういう考え方で取り組んでいるわけでございまして、そういう厳しい財政状況の中で、農山漁村に住む人々、そこで働く人々が、近代的なといいますか豊かな生活環境の下で豊かな農業に全力を挙げて取り組むことができるような、そういう考え方が必要だろうと。そういう意味では、ある意味では集落の再編というようなことも念頭に置いた村づくりということも私は必要になってくるのではないかと、このように考えているわけでございます。
 また、特に都市の人々にとって、おいしい水、きれいな空気、美しい自然というのは、今までは無い物ねだりだったかもしれませんが、昨今夢でなくなったという思いがあるんじゃないかと思います。私どものホームページに一番最初に、農業をやりたい人を応援しますといったら一日に百件以上のアクセスがありました。そういうようなことも視野に入れて、これからの村づくり、農村づくりをどうするかと、そして農村における農業の振興をどうするかということを真剣に考えていきたいと、このように思っているところでございます。
○紙智子君 今のお話の最初の部分でも、やはり大変であるということは認識されていると思います。
 農村の自治体にとっては本当に重大な問題で、空知の町村長さんたちからは、このままでいくとやはり人が住めなくなってしまうという声も出されました。
 全国町村会の前の会長さんでいらっしゃる群馬県の上野村の黒澤丈夫村長さんは、市町村などの自治体は大きければ大きいほどいいというものではないと。農山村の住民は、農山村を守る、そういう貴重な使命を負っているんですと。そして、今、山の守りのために守り賃も掛かりますし、それから国土を守るためにはやはり何らかの財政措置が必要です、交付税によってこの農山村の守り手としての住民がやはり生活できるように財政的な保障をするというのが国家の役割だというふうにおっしゃっています。そして、地方自治は、政治、行政におおむね同じような利害を感じる範囲でやられるべきものであって、その規模は適正な規模で行われるべきだということも述べられています。
 やはり、構造改革という形で地方財政をますます大変にしてしまって、そして町村合併を自主性を無視した形で行うべきではないというふうに私は思うんですけれども、この辺はどうでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 町村合併については、自主性を無視してやるべきでないということについては私は同感でございます。しかし、これ現実問題、財政事情を考えざるを得ないということも事実でございます。
 それから、最近のように情報インフラが整備され交通インフラも整備されているときに、何でもかんでも町役場や市役所へ行かなかったら用が足せないというような、これも非近代的と言わざるを得ないんじゃないでしょうか。ですから、二百戸、三百戸でもいいですから、新たな村を作って、そこで都市的な基盤整備も進めて、農家の人たちもそこに住んで、それであれば酪農家の奥さんもそこに保育所があれば安心なんですね。五分か十分車で走れば牛舎にも行けるわけです。
 私はおととい西興部村に行ってまいりましたけれども、千二百人の村ですけれども、全戸に光ファイバー網が支給されているんです。そして、牛舎に全部テレビカメラで牛の管理ができるようになっているんですね。そういう新しい文明の利器というものもあるわけでありますし、そういう意味で、新しいコミュニティーづくりということをやったらいいんじゃないのかなと。
 私は、特定郵便局辺りを中心に、そこへ行けば何でも用足りる、役場へ行かなくたって全部用足りる、その隣にはコンビニエンスストアがあるような、そしてそこには小さなレストランもある、都市の人たちもそこに移り住む、農家の人たちも生活の本拠地はそこにして通い作をやると、そういうようなことが私はできる時代になったんじゃないのかと。そういったことを組み合わせて、より効率的な財源によってより豊かな生活水準を維持して、そしてより機能的な農業などが営めるような、そういう構想というのは私は可能だと、こう思って考えているわけでございます。
○紙智子君 自主性を無視した形でやっぱりやるべきではないということを私申し上げましたので。
 そして、次に強く町村長さんたちから出されたのは、やっぱり農家経営の問題です。農業の疲弊はもう深刻で、待ったなしというふうに言われます。北海道の農家一戸当たりの平均農業所得は、一九九五年で四百二十三万円だったんです。それが二〇〇〇年で三百二十万円と七六%に減っているわけです。これは年間の平均の所得ですから、本当に大変な状況になっているということだと思うんです。
 そして、こういう中で納税者、納税額とも激減している実態が出されました。私も驚いたんですけれども。大臣は岩見沢、御存じですよね、ここの税務署が報告したところでは、農業の納税者の数は前年比で五五・七%になっているんですよ。納税額でいっても、前年比で六二・三%と激減なんですね。ですから、農業地域といいながら、そこから入ってくる、納税している人自身が本当に極端に減っているということで、もう二重三重に大変な状況があるということが明らかにされました。
 今、これに対して農水省は、これから経営安定対策を三年掛けて検討すると言っているわけですけれども、私はそういう認識なのかということを問いたいと思うんですね。いかがですか。
○国務大臣(武部勤君) 最近における農家経済の実態が非常に深刻であるということは私も承知いたしております。それだけに、今後の農業経営というものがいかにあるべきかということを真剣に考えていかなければならないと、このように思うのでございます。
 また、私の知っている農家は株式会社にして、非常にビジネスチャンスがたくさん農村にはあるんだと言って、相当ここ数年で大きな事業に転換しているという例もございます。それだけに、法人化でありますとか集落営農でありますとか、そういったことも積極的に取り組んで、意欲と能力のある望ましい経営体というものを育てていくということが私は一方において必要だと思いますし、高齢者でも法人の一員として、あるいは集落営農の一員として、この好きな田園、ふるさとで生活しながら、仕事しながら、みんなと一緒にふるさとに定着して頑張れるという方法もあると思うんです。
 しかし、今の現状ですと、紙先生も御承知のように、もう農村の高齢化、過疎化というものは大変な状況に置かれているわけでありますので、今の現状をそのまま固定して、ここで豊かな経営というものを、また将来性ある経営というものを実現させようということは私は容易なことではないのではないかと、このように思います。
 また、もう本当ならばやれるまでやろうと思っているけれども、もし政策的に法人化でありますとか集落営農でありますとか協業化でありますとか、そういった方向でもっと楽できるならば、自分は農業をしたいだけなんだからという人たちもいるわけで、いろんな多様な人々がいるわけですから、多様な人々に対応した多様な私は農村政策ということが大事じゃないのかと、こう思っているわけでございます。
○紙智子君 今いろいろなことを言われたわけですけれども、経営所得安定対策の検討ということなんですけれども、生産者からいつも出てくるのは、やっぱり価格を何とかしてほしいということです。価格保証という声が強いわけですけれども、しかし、この経営対策という中では、その内容は、今、生産者が受けている打撃を緩和する程度のものなんじゃないですか。実際にこの五年、六年と激減してきているその下がった所得を引き上げるというふうにはなっていないんじゃないでしょうか。これは引き上げるようにするんでしょうか。そこのところはどうですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 経営所得安定対策でございますが、まず、新しい基本法の下で今後の望ましい農業構造を展望しております。その中では、正に効率的、安定的な農業経営が大宗を占める農業構造にしていくんだと、そのためにはその構造改革にチャレンジをされる方々をいろんな形で支援をしてまいります。それはこの所得安定対策に限らず、いろんな補助事業もございますし、金融もございます。そういうものを使ってチャレンジをしていただく。
 ただ、そのチャレンジをされる場合に、価格変動でありますとか、あるいは農業収入等の変動がございます。そういうもののセーフティーネットとしてこの経営所得安定対策は検討しておるということでございます。
○紙智子君 結局、このチャレンジする人を支援するという形で、一部の担い手を対象にして中小というのはそこから外すということがこの農水省さんで出された、これですね、経営政策。この中にも書いてありますよね。それで、結局はすべてのやりたい人たちの意欲を本当に生かしていくということではないんじゃないかと。
 私は、去年八月三十日に経済財政諮問会議の会議が行われていて、そこに武部大臣も出席されています。その中で、一ヘクタール未満の小さな農家についてはこれはガーデニングに近いというような発言をされています。株式会社化を促進するんだとも言っていると。
 しかし、そういう小さな農家をこういう経営安定の対策から外しますと、ますます離農しなければならなくなるし、結局は集落そのものを維持するとか農地を守るということができなくなってしまうんじゃないんでしょうか。懇談した町長さん自身もそのことを一番恐れていたんです。本当に農業者すべてを対象とした手厚い対策を打つということなんでしょうか。
○国務大臣(武部勤君) 一ヘクタール未満というのは一つの目安でございまして、一ヘクタール未満でそれだけで生活を立てるということは、これはなかなかできる話ではないんじゃないですかと。したがって、一ヘクタール、これは兼業農家は別ですよ、要するにそれだけで、農業の収入、農家収入だけで一ヘクタール未満ではどの程度の収入になりましょうか、それならば、一ヘクタールの田んぼを十ヘクタールに集約して集落営農でやるとか、あるいは生産法人にするとか、そういう形で農地を集積してそして協業化するとか法人化するとか、そういうことでやるようにしたらいいのではないかと、こういうふうに私は申し上げているわけです。
 なお、都市の人だって現役のサラリーマンが農業をやることできますよと。それは現地の農家の人と契約して、それはもう小さな畑でも持っていわゆる自分の農場を持つこともできますよと。それはそういう法人組織を作ればふだんいなくたってサービスでできるわけですからね。
 ですから、そういうことで申し上げたんで、一人の農家が一ヘクタールの農地で生活を一から十まで成し遂げることは難しいということを申し上げたわけでございまして、農地の集積をし、法人化など集落営農などにしていったら、これからはそういうふうに農地の集積をしていく必要があるということを申し上げているわけでございます。
○紙智子君 一ヘクタール未満の農家の方も、そうしたくてなったわけじゃないですよ。やはり非常に経営が困難な中で、もうそれだけではやれないから働きに出なきゃいけない、副職持たなきゃいけないと、そういう中でこうした事態が生まれてきているわけです。そして、小さな農家も含めて今本当にこの生産をもう八割方担っているというのが現実です。
 今、私は前回も、去年の十一月にも大臣とこの問題については議論しましたけれども、やはり価格の引上げ、特に米価の引上げの対策、そして農産物の価格を安定させるということでも輸入に対する規制も行わせると、そのことが必要だということを申し上げてきましたけれども、しかし、さきのこの経済財政諮問会議の中で大臣の発言の中では、北海道の農家は会社にしてしまって、冬の間は仕事がないから中国の南の方に行って野菜を作ったりしてそこで商売やったらどうだと、そういうふうに言っていますよ。
 私は、本当に農業だけでは食べていけないからこういう形になってきたわけで、そういう状況に一体だれが追い込んでいったのかと。それにもかかわらず、今、経営が大変だから、仕事がなかったら中国に行って働けというのは余りにもちょっとひどい発言じゃないかと。こんなことを聞いたら北海道の生産者は怒りますよ。どうですか。
○国務大臣(武部勤君) 先ほどの話もしますけど、僕は、お米を基準に一ヘクタール未満と、こう言っているわけでして、ガーデニングということを言ったのは、花作り、花卉栽培だとかそういったことはできるんですよ。それから、花卉栽培であれば年取ってもできるわけですから。だから、そういう組合せが必要だということを言っているんです。
 それから、北海道の農家でも、なおさらのこと負担が掛かっているんですよ、もう夫婦二人で広大な面積ですから。だから、法人化をして人を雇ってやるという方法を考えたらいいのではないかと、ビジネスチャンスというのはたくさんあると。農業に関連する産業は百兆円の売上げあるんですよ。農家の売上げというのは大体十兆円未満じゃないですか。
 だからもっと、私は、専業化、専業化と言っているけれども、専業農家の兼業化というか、いろいろなビジネスチャンスを生かしてやるべきでないかということを申し上げたわけで、現に私どもの地元では、今言いましたように、冬の間をどうするかということを考えている若い人たちいるんですよ。冬の間も遊ばない方法を考えようと。みんなが同じようにタマネギを作ったり同じように米作ったりしていると、あれこれと手を出せないと。それを法人化すれば、法人化すれば一部の者は、中国でもいいですよ、出掛けていって人を雇って生産できると、そういうもくろみを持っている人たちもいるんです。
 私はそう簡単にそれはいかないと思うんですよね。それは、輸入農産物のことを言っているんだから、それは農林水産大臣としてはそう言うことは適切ではないかもしれませんけれども、しかしこれからの農業というのは法人化などによっていろいろなことができるということを私は提唱しているわけでありまして、それは誤解のないようにお願いします。そういうもくろみ持っている若者たちはいますからね、現に。それから、農業だけじゃなくて商売やろうと、そういう、だから、こともあるんで、この一部を取り上げてそれがすべてのような考え方にならないように、あえてまた誤解のないように申し上げておきたいと思います。
○紙智子君 私は法人化されているところも見てきました。それで、本当に五軒、六軒と若手の後継者がいるところの人たちが、やっぱり息子たちのためにということで、町も農協もそれこそ出資をして法人化立ち上げてやっているんですよ、ハウス作って。ところが、この後の見通しどうなんだということを聞きますと、そこはトマトでしたけれども、輸入で入ってきていると、それでもって価格が下がるためにこの後の見通しが本当に大変だということを言っておられて、だから法人化すればすべてうまくいくわけではないと。
 ですから、私はやっぱりそういう意味では、大臣がおっしゃったような、一部に集中してとにかくそこを支援するんだと、それ以外の小さなところはそこから外すということではなしに、やっぱり価格を本当にきちっと据えていくという対策を今進めることが大事だということを申し上げまして、次の負債対策の問題に、負債問題に入らせていただきます。
 それで、政府の政策にのっとって言わば模範生として規模拡大を進めてきたのが北海道の農家です。畜産農家、それから稲作農家、こういう農家の方々が今大変大きく膨れ上がった負債でつぶされそうになっているわけです。この問題をどう解決するかということに今後の農業の存亡が懸かってくるというふうに思っているんです。
 去年八月に発表されたこの経営政策、この中で、償還不能な負債を抱える農業者が多く農業経営が停滞している地域において不良債権の最終処理に向けた合意形成を促すと述べている内容があります。具体的に、これ、どういうことを指しているのかお聞きしたいんですが、ここで言っている負債農家の選定というのはどういうふうに決められるんですか。
   〔委員長退席、理事田中直紀君着席〕
○政府参考人(川村秀三郎君) 今お尋ねのことにつきましては、十四年度予算におきまして具体化をしておるわけでございます。負債農家や離農農家の経営の再生を図るということの支援策といたしまして、地域におきまして不良債権の最終処理に向けた合意形成、こういったものを促すとともに、その地域で中核となる農業生産法人ということで、市町村や農協の出資を受けた農業生産法人を作るということがまず一点ございます。そして、再建困難な負債農業者の経営資源等をこの中核となる農業生産法人へ継承するということでございます。その場合、農地保有合理化法人がございますので、それも活用いたしまして、当該農地を現物出資をするといったような支援を行いたいということで事業を考えているところでございます。
 この負債農家の考え方につきましては、正に既往の……
○紙智子君 選定はどのように。
○政府参考人(川村秀三郎君) 選定につきましては、正にその負債の状況を見まして、それが償還可能かどうかというところを精査をして決めていくということで、これはかなり個々の判断にわたると思います。画一的な基準ではなかなか判断できないと思っております。
○紙智子君 本人がちゃんと分かった上でやられるんですか。本人が、その意思に無関係に決まるということはないんですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) これはもうあくまで当事者間のお話合いということでございますので、その意思を無視してするようなことはないということでございます。
○紙智子君 結局、実際にやるというふうになると、その法人を作って出資する農協とか市が、市町村が出資者になるわけですけれども、本人が入らないところでどこそこの農家をどうしようとか、そういう話合いをするということになるんじゃないんですか。そして、いざ決まったら後で説得に入るという形にならないんでしょうか。その保証というか担保はできるんでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) これはもう正に今後のその事業の実施の具体的な運営になるわけでございますが、正にそういう意思を無視したようなことというのは非常にいいことではないわけでございますので、正にその合意形成ということは、そういった方々を含めた関係者が納得の上でそういう対策を講じていくということでございます。そういうことをまた指導していきたいと思います。
   〔理事田中直紀君退席、委員長着席〕
○紙智子君 この経営政策の中で書いてある、経営政策の中で書いてある多額の負債を抱えた農業者が多く存在する地域、こういう地域で今何が起こっているのかということなんですね。
 あえて名前は言いませんけれども、私が調べたある地域では、七百五十戸の農家のうち、昨年の末で三十二戸に農協が離農勧告しています。二百五十戸が既に再建整備資金の対象で、規模拡大のために公社から農地を購入した農家というのは離農勧告予備軍になっているんです。たくさんいます。
 それからまた、ある地域では、販売農家が三百六十戸、米農家の負債が一気に増えてきたんです。十ヘクタールぐらいの大規模な農家の場合、年間で三百万から四百万この借金が増えてきている。この負債が増える傾向にある農家の五十四戸のうち三十六戸を要対策農家ということで指定して、そしてそのうち十一戸には、おたくのところは一年休んでください、子供も含めて働いてください、奥さんも働きに行ってくださいと、こういうことを言っているんですね。農業を続けようという意欲があってもこういう形で離農させられている現実があるんですよ。
 だから、農業の担い手を切り捨てていくようなことをやっていくような構造改革というのは許せないし、やはりこれを今、農水省が組織的にやろうとしているんじゃないかということを私は非常に危惧するんです。現場でこういうふうな話が実際に今されていると。
 そういうときに、先日ちょっと説明聞きましたけれども、負債農家の経営資源継承法人の育成と、こういうスキームがもし回っていったとしたら一体どういう事態になるか。これはもうどんどん離農勧告進めるようなことになってしまうんじゃないかということを非常に心配するわけなんですけれども、そこはどうですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 先生が今御指摘のような、地域によってはなかなか、非常にその再生のためのプランが作りにくい地域というのもあるということは十分承知しております。それがゆえに、正にその地域の再生、その地域農業をどう位置付けていくのかという非常に重要な課題を抱えているということでございます。
 そういう中で、この今申し上げました事業も一つの手段として活用していただきたいということで、またその運用に当たりましては、先ほども言いましたように、あくまでやはり合意形成というものを基本にやっていただきたいということで、我々はそれを十分指導していきたいということでございます。
○紙智子君 今、負債を抱えている農家の多くは、ちょうど十年前です、九二年の新政策が出されたときに、その中で望ましい農業経営ということが出されて、それを目指して忠実に規模拡大を実現をしてきた農家です。規模拡大のために多額の負債を抱えて、そして乳価も米価ももうずっと下がってきていると。そういう中で窮地に立っている農家に対して、おたくの農家は償還不能だといって判断されたら、農地も結局取り上げられてしまうと。そういう事態になることを農水省の方針として進めることになってはいけないと私は思うんですね。
 それで、大臣にお聞きしますけれども、この一番の負債対策というのは一体何だと思いますか。
○国務大臣(武部勤君) 農家の負債対策を講ずるに当たっては、やはり意欲と能力のある農業者が経営の実情や課題等を十分に認識して、融資の返済可能性を含めて的確な見通しを立てた上で経営改善に主体的に取り組む場合に、これを適切に支えていくことが私は大事だと、このように思います。
 このような観点に立ちまして、既往借入金の償還負担の軽減を図るために、本年度から農協系統の農業経営負担軽減支援資金、また農林漁業金融公庫の農業経営維持安定資金、同じく公庫の経営体育成強化資金を創設しまして負債対策に万全を期しているところでありますが、この実績を見ますと、本年度から創設された新たな負債整理資金の利用状況について申し上げますと、負債整理資金の利用状況は、三資金合計で二百二十四億円であります。
 各種負債整理資金の十二月末までの具体的な利用状況は、都道府県及び農林漁業金融公庫からの報告によれば、農業負担軽減支援特別資金が七十八億円、農業経営維持安定資金が八十五億円、経営体育成資金が六十一億円、二百二十四億円でございまして、一方、十二年度における負債整理資金の貸付実績が合計で五十九億円でありますので、約三・八倍になっているわけですね。本年度に創設された新たな負債整理資金は、その資金内容から見て効果があり、十分に活用されているものと考えるわけでございます。
 負債整理については、私どもも最も重要な施策と考えておりまして、現地の農家の皆さん方にこれが受け入れられやすいような、そういう制度に改善をしてきているわけでございますが、しかしやはり意欲と能力のある、そういう経営体というものをいかに育てていくかということが大事だと、このように思っております。
 同時にまた、いろんな方々が農村におります。そういった方々が、経営を移譲したいんだけれどもなかなか負債で移譲できないというようなことで困っている人もいるんです。そういう人たちがスムーズに円滑に移譲できるような、そういう方策ということも一方において必要なのではないかと。これは決して農家を切り捨てるということではないと思うんですね。そして、法人化等によってそういった方々も別な形で一緒にやっていけるという方策を私どもは考えて、今みんなが少しでも幸せになるような道をと、このように考えて負債整理対策の改善に全力を尽くしたいと、こう思っているわけでございます。
○紙智子君 次にしようと思っていた質問のとこまで踏み込んで回答されたんですけれども、私は、やはり負債対策ということで今本当に大事だと思うのは、農業従事者の方が本当に存続できるようにすることだと思うんです。その意味では、国境措置と価格支持政策、これを中心に思い切った保護政策を取るということがやっぱり今大事だというふうに思うんです。
 WTOの協定があると言うかもしれませんけれども、日本に対してさらなる市場開放を要求しているアメリカだって、自国の農業に対しては農民支援制度を整備しています。価格・所得制度としての直接固定支払制度とか、実質的には農産物の定価の価格を保証する価格支持融資制度とか、こういう形で、自給率だって一〇〇%超えているじゃないですか。
 日本のように四割にも満たないような、そんな状況になっている国がどうして保護政策取らないのかということを逆に私はもっと毅然として日本は世界に向かっても言わなきゃいけないというふうに思うんですよ。それこそ負債対策の大道だというふうに思います。
 そして、続けて次の質問のところですけれども、今どれだけの実績、借りられているかという話がありましたけれども、現場を歩きますと、やっぱり制度はいろいろあるんだけれども実際に使えないという声を聞きます。経営改善計画の条件が厳しくて使えないと。それから、経営改善計画を作って申し込んでも農協ではねられちゃうと。それから、ある地域では、農協が合併して職員をリストラして、リストラが終わった、今度は組合員イコール農民のリストラだと。だから、農家の再建より不良債権処理の方が先だ、新たな資金を貸すことはしないんだという話になっているというんです。これでは本当にいけないと。
 こういう状況を本当に考えたときに、制度の趣旨に反することが現場では行われているということでは、やっぱり本当に困っている人、借りたい人が借りられるような努力をするべきではないかというふうに思います。
 ちょっと時間も迫りましたので、あとBSEの問題ですけれども、集中審議も行われるようですので、ここでは二つだけお聞きしたいと思います。
 廃用牛の流通緊急支援事業ということで一か月半たちました。それで、この廃用牛、経産肉用牛の滞留については相変わらず解消していない状況です。農家は、BSEを出したらやっぱり地域全体が迷惑を被るということで、もう自分のところだけじゃ済まないからなかなか出せないということを言っています。
 猿払村でも牛乳についてはまだ元に戻っていないということです。そして、それ以外の地域も、牛肉と一緒に食べる野菜、ニンジンとかお芋、タマネギとか、こういう野菜まで一緒に過去にないような販売不振に陥っていて出荷調整を行っていると。これは十勝の話ですけれども、こういう事態も出ている。それから、あるところでは、メロンを作ってきたんだけれども、肉骨粉を肥料に使ったために風評の被害でもってこれもまた下がっていると。だから、肉だけじゃない。こういう形で、いろんな形で影響が出ているということなんですけれどもね。
 この周辺をめぐる影響については、農水省は押さえているんでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) これまで三例BSEの発生が見られたわけでございます。
 先生おっしゃるように、発生直後に一時的に他の農畜産物にも影響が生じたというお話は関係者から伺っているわけでございます。
 私ども、このBSEに関連いたしまして風評被害というものが生じないようにするためには、今の安心、安全な牛肉しか供給されないんだというこのシステムについて皆様方に理解を深めていただくと。我々が十月の十八日以降、昨年の十月十八日以降、全頭検査という体制を取ったということについて、それを通せばもう安心な牛肉しか出ないんだということを理解していただくということが何よりも基本的に重要であるというふうに思うわけでございます。
 発生農家対策として、我々、廃用牛の流通緊急対策あるいは互助制度、いろいろ講じてまいりました。その基本になるところは、やはりいろんな先入観を持ってそういうところ、発生農家とか発生地域を見ないでいただきたいというその基本のところの御理解というものを醸成をしながら、一方では農家の方にも、互助制度だとか廃用牛は買い上げて焼却するという、そういう事業を仕組んだということで、思い切って出荷をしていただくような雰囲気づくりというものが重要なのではないかというふうに考えている次第でございます。
○紙智子君 発生地域の名前が付いているだけで拒否されるというのがあるんですね。北海道のものは要らないとか、そういうやっぱり影響も出ているということで、一番言いたいことは、なかなか屠場に回っていかないという今のこの本当に大変な状況というのをどうやって打開するかということなんですよね。生産者の側もなかなか恐ろしくて、自分だけで事済まないものだから、周りにも迷惑を掛けるから出しにくいというか出せないでいると。結局もう、例えば屠場に出さないで直接もうレンダリングに回しちゃうというところもあるという話も出ているんですよ。
 だから、本当にちゃんと屠場に行って検査もしてもらうというふうにするためにも、やはり地域全体でも、もし例えば、そうなってほしくないですけれども、四頭目が出たとかといった場合にも、それでも大丈夫です、本当に地域が安心してこれから続けていけるからどんどん出しなさいと言って出しやすくするためにも、地域の様々なほかの影響も含めて考えていただきたいということなんですよ。
 そこを最後にお答えいただいて。
○国務大臣(武部勤君) これまでの佐呂間とか白井市だとか猿払、それから宮城村ですね、総務大臣にお話をして、特交でそれぞれの町や村がやった地域対策、それについては手当てをしていただきました。同時に、今、局長から説明いたしました互助制度でありますけれども、これは一頭当たり、代替牛を買うのに五十万、それから経営再開・維持のためには十万、一頭六十万円、四分の三は国で持ちまして、四分の一は生産者が持つと。そして、牛も疑似患畜等がいなくなって牛舎が空っぽになって、遅くとも一月以内に全部その地域の酪農家と契約して搾乳できる牛が集まるようなそういう仕組みを作ったわけでございます。
 従来の対策に加えてそういう形をやりますから、五十頭であれば三千万出ると。今までは二千五百万ぐらいだったのがそれにプラスして三千万、五千五百万ぐらいの収入が入る。そういうことで、万が一出た場合に、これまでやってくれるなら腹を固めてやろうという、そういう気持ちを持ってもらうことと、地方対策は二分の一、国が助成することにしているんです、地域でやることを。そういう仕組みも作りました。ところが、まだこれは先生方も余りよく御存じないようでありますし、また我々もこれ平成十四年度からの事業でありますが、しかし十四年度ですけれども、私は指示しまして、宮城村と猿払と白井市、こういったところの当該農家についてはきちっと対策、その後もやることにしました。
 それから廃用牛についても、今ようやく全県分かりました。農協が止めているところもあります。それから、県が止めているところもあります。全部実態分かりましたので、それで二人の副大臣と政務官に今、全都道府県行脚していただきまして、そして知事さんにもお会いして、具体的なお話を詰めていただくことにしておるわけでございまして、おかげさまで、聞くところによりますと、宮城村でありますとか、白井市の内藤さんでありますとか、今はもう元気に頑張っているということも耳にしておりますので、そういったことが、そういう実績が出てくれば酪農家の皆さん方もあるいは生産者、農業団体も、これならひとつ国の政策に協力しようということになってくるんじゃないか、こう期待をしているわけでございますが、なお我々努力して、そういう不安や恐怖に近いものがございましたので、それを解決するために今そこのところが一番大事だ、こう思って努力をしている次第でございますので、御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 生産者の方は本当に冷や汗を流しながら一頭一頭出しているという状況なんですね。ですから、本当にそこのところを酌み取っていただいて、地域含めた対策ということでお考えいただきたいということを言いまして、質問を終わらせていただきます。