<第211回国会 農林水産委員会 2023年4月18日>

質問日:2023年4月18日

食料主権を軸にせよ 紙氏、財政審方針に疑問 参院農水委

 日本共産党の紙智子議員は4月18日の参院農林水産委員会で、食料主権を軸にした食料安全保障の構築を提案しました。
 1970年代後半、世界で食料需給が不安定化し、外交手段の一つとなるなか、参院本会議は「食糧自給力強化に関する決議」(80年4月)を採択し、農水省は「80年代の農政の基本方向」で自給力の維持強化を打ち出しました。
 ところが、当時の中曽根康弘首相とレーガン米大統領の合意で設置した「日米諮問委員会」は、日本は米国から農産物を買うよう求め、「日本の食糧安全保障政策は、構造調整を妨げ、真の食糧安全保障をも阻害している」との報告書を出しました。
 政府はどう受け止めたのかとの紙氏の質問に、野村哲郎農水相は「国会決議を踏まえて、国内生産の増大を図る見解を示した」と答弁。紙氏は米国の圧力で牛肉、オレンジの自由化を受け入れ、WTO協定を批准し自由化が進んだとして、その後の日本政府の対応を批判しました。
 紙氏は、昨年12月の「食料安全保障強化政策大綱」で「過度な輸入依存からの脱却」を提起したが、財政制度審議会は相変わらず「自給率の向上に疑問」「国際分業、国際貿易のメリットを無視している」との建議を出したと指摘。野村農水相も「財政審の考え方には疑問を抱かざるを得ない」と答えました。(しんぶん赤旗 2023年5月2日)

◇食料安全保障について

○農林水産に関する調査
(食料安全保障に関する件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、食料安全保障について質問いたします。
 農林水産省は、昨年の十二月二十七日に食料安全保障強化政策大綱を策定しました。食料安全保障を強化することには異論はないと思うんですけれども、食料安全保障というのはそもそも何なのか、これまでの日本の政策としてはどうであったのかという議論が必要だと思うんですね。
 それで、お配りしました資料なんですけど、これ、一九八〇年の四月に参議院本会議で食糧自給力強化に関する決議というのが採択をされました。これ衆議院でも採択をされていますよね。当時、決議案の提案者の青井政美議員は、農業基本法の制定以降、これは一九六一年の基本法のことなんですけれども、基本法制定以降、近代化が進められてきたが、飼料用穀物、小麦、大豆等の農畜産物の輸入が急増する下で、米を始めとする農畜産物の需給の不均等が生じていると。それで、今後の世界の食料需給は、食料が外交手段の一つとして用いられる等、食料輸入国である我が国にとって食料問題は極めて重要な課題となっているというふうにして、政府に、国民生活の安全保障体制として食料自給率の、自給力の強化を図り、我が国食料、あっ、農業、漁業の発展と生産力の増強に万全の施策を講じるべきだというふうにしているわけです。
 この決議を受けて、政府は、これどのような対応をしてきたんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 杉中淳君) お答えいたします。
 ただいま御指摘ありましたように、一九八〇年四月の衆参両院における食糧自給力強化に関する決議によれば、海外からの農畜産物の輸入の増大等に伴い食料自給率が低下していると、そういう状況に対して、国民生活の安全保障体制として食料自給力の強化を図り、我が国農業、漁業の発展と生産力の増大に万全の施策を講ずるべきという、されたところでございます。
 その後、同じ同年、一九八〇年の十月に農政審議会から内閣総理大臣に示された「八〇年代の農政の基本方向」におきまして、担い手の育成を中心に農地の確保等を含め、総合的な食料自給力の維持強化に努めること等に重点を置く必要があるという御指摘をいただいたところでございます。
 このような議論が現行基本法の制定につながりまして、効率的かつ安定的な農業経営を中心とする農業構造を確立することによって、国内生産の増大を基本とする食料供給を確保するという政策に引き継がれていったというふうに考えております。

○紙智子君 今ちょっとお話ありましたけど、一九八〇年に「八〇年代の農政の基本方向」というのが出されたと。それで、そこで自給力強化、安定的な輸入、国内備蓄ということを打ち出していますよね。それから、飼料穀物の国内生産についても、食料の安全保障の観点に立って長期的な展開を明らかにすべきというふうにしていると思うんです。
 それで、この食料安全保障に異論を唱えたのが、当時、日米諮問委員会の報告なんですよね。この諮問委員会というのは、一九八三年に、当時、日本の中曽根首相とアメリカのレーガン大統領でしたけれども、この両者が両国の民間人数名から成る、両首脳に助言を行う組織として設置されたと。
 一九八四年の九月に報告書が出ています。そこでは、アメリカはその食料供給のアクセスの保障を強化することによって日本の安全保障上の懸念を効果的に和らげるという言い方なんですけど、要は、アメリカから農産物を買うように求めていると。同時に、日本の食料安全保障政策は見直すべきであると。現在、その政策は、構造調整を妨げるばかりか、真の食料安全保障をも阻害しているというふうに指摘をしているんですよね。この指摘をどういうふうに受け止めたんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 杉中淳君) お答えいたします。
 御指摘の一九八四年九月の日米諮問委員会報告におきまして、両国政府は農産物貿易を増大させるための現実的、漸進的、かつ継続的な方策を講ずるべきという考え方の下、日本側は、農業補助により高コストで競争力のない農業システムを温存するのではなく、効率的に生産し得る農業生産構造への転換を図ること、あと、米国につきましては、我が国への食料の安定供給のため対日食料供給の継続的保障を強化すること等の提言が行われたというふうに承知をしております。
 この提言に、報告に関しまして、一九八五年一月十一日に閣議決定されました日米諮問委員会報告などに関する質問に関する答弁書と、質問主意書に対しまして、食糧自給力強化に関する決議の趣旨を踏まえ、生産性の向上を図りつつ、国内で生産可能なものは極力国内生産で賄うことを基本として、総合的な食料自給力の維持強化を図ることとしているというふうに答弁をしているところでございます。

○紙智子君 当時の国会議論があって、答弁はそういう、さっき述べたような答弁がされたということなんですけれども、これ、アメリカが日本の食料安全保障の懸念を和らげるんだと、だから日本の安全保障をアメリカが守ってやるんだという、言わば国際分業論というのを当時言われましたけど、これ、大臣、どのように受け止められていますか。

○国務大臣(農林水産大臣 野村哲郎君) 日米諮問委員会報告に対しましては、当時の国会審議におきまして、佐藤守良農林水産大臣は、我が国の自然、社会、経済的要素を総合的に勘案し、国民生活の安全保障体制として食料自給率の強化を図り、我が国農業、漁業の発展と生産力の増大に万全の施策を講じるという、こういう衆参両院の食糧自給力強化に関する決議の趣旨を踏まえて対処していく旨答弁されております。
 日本としては、国内生産の増大を図っていく必要があるという見解を示したところでございます。

○紙智子君 つまり、その国内で生産図っていくというふうな趣旨、決議で上げた趣旨をそこでやったということを大臣としては受け止めているということだと思うんです。
 それで、日米両政府の首脳が合意して設置された諮問委員会の報告書なので、これ具体化が必要になってくるわけですけど、農政でどういう対応をしたんですか、具体化は。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 杉中淳君) 日米諮問委員会報告とは直接の関係はございませんけれども、当時、農産物の貿易自由化という交渉を行っておりまして、その後、WTO農業協定などにより国境措置の削減と価格支持の縮小というのが求められていったと。こういう情勢の中で、国内におきましては、競争力の高い経営体を育成して国内農業生産を増大しつつ、これに安定的な輸入等適切な備蓄を組み合わせて食料の安定供給を図るという議論が行われていったところでございます。こういう議論が現行基本法の制定につながっていったというふうに認識しております。

○紙智子君 諮問委員会から出された報告書が出た後、一九八六年に、二十一世紀へ向けた農政の基本方向というのが出されましたよね。その冒頭のところに、国際収支面での経常収支不均衡の大幅な拡大を契機として、国際協調型経済構造への変革の要請が高まっているというふうに書いていて、で、基本方向を明らかにすると言っているんですね。
 で、国際化の進展が強調されていた中で、この「八〇年代の農政の基本方向」に書いてあった食料安全保障という言葉が消えているんですよね。それから、総合的な食料自給率っていう文言があったんだけど、これが食料供給力に変わっていると。で、アメリカの圧力が、まあ圧力っていうふうに私は思うんですけど、受けて、その後、牛肉・オレンジの自由化が進められました。その後は一気に自由化が進んできて、三度国会決議が出されていたのにWTO協定を批准して、その後、米も関税化に踏み出したということだったと思うんです。
 それでも、日本政府は二〇〇〇年に、WTO農業交渉日本提案というのを出しましたよね。そこでは食料安全保障についての提案をしているんですけども、これ、端的にちょっと説明をいただきたいんですけれども。

○政府参考人(農林水産省輸出・国際局長 水野政義君) 委員御指摘のWTO農業交渉日本提案は、WTO農業協定に基づく継続交渉において、二〇〇〇年十二月に日本政府が策定し提案したものでございます。
 我が国の交渉上の立場として、一部の輸出国のみが利益を得るような交渉結果は認めない、各国の多様な農業の共存が図られるべきなどの立場を明確にした上で、具体的な内容として、持続的な生産活動を通じた農業の多面的機能が十分に発揮されること、食料の安定供給を確保することなどを提案しております。

○紙智子君 かなり詰めて話してもらったんですけど、もっといっぱい長く書いてあったと思うんですけど。
 それで、今ちょっと紹介あったんですけど、説明の部分では、輸出国には輸出する自由や輸出しない自由が存在するが、輸入国にはこのような自由は認められていないと、このため、世界最大の食料純輸入国である我が国の消費者にとっても食料安全保障は最大の関心事の、事項の一つであるというふうに言っているんですよね、当時ね。
 それで、農林水産省は二〇〇八年四月に、食料安全保障課というのを設置したというふうに言っていますよね、設置しました。初代の課長は末松広行さんということで、農水省の元事務次官だったわけですけれども、食料安全保障の観点から日本の食料自給率をどう向上させていくかということで仕事をしているんだというふうに語っているわけです。それでも、食料自給率は上がったのかというと、上がるどころか低迷したままだったわけですね。
 で、二〇一〇年代に入りますと、TPPを始めとして、メガ協定が次々とこれが締結されていくわけです。ところが、影響試算のところで何て説明しているかというと、いや、食料自給率は影響は受けないんですっていうふうな説明になっているんですよね。だけど、本当にそうなんだろうかと。新たな分析、その後されてないと思うんです。私、本当にそうなのかということを繰り返し質問の中でもやってきたんですけども、十分な分析されていると思えません。
 そこで、昨年十二月に出された大綱なんですけれども、書いていますよね。過度な輸入依存からの脱却とか、それから構造転換対策っていうふうに言って、小麦や大豆、飼料などの品目を挙げているわけです。
 だけど、一九八〇年に国会決議で、このことって既に、飼料用穀物、それから小麦、大豆等の農畜産物の輸入が急増しているということを指摘しているわけですよ。だから、一九九九年に現在の農業基本法を制定しても、それからその後、食料安全保障課をつくっても、それ以降も、言ってみればこの八〇年のときに国会決議が指摘した中身、構造というのは全くと言っていいほど変わっていないんじゃないかと、これ一体なぜなのかという質問なんですけれども。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 杉中淳君) 小麦、大豆、トウモロコシ等の農作物につきましては、海外から安価で安定的に輸入できるという状況が続いておりましたので、これらの輸入というのが我が国の食料供給を下支えしてきたというのが実態であったというふうに考えております。しかしながら、一方、近年の世界的な食料需給の逼迫や気候変動による食料生産の不安定化、昨年来のウクライナ情勢等で輸入リスクが増大しているという中で、これまでのように必要な量を安価に調達することへの不安というのは高まりつつあるというふうに認識しております。
 現行の食料・農業・農村基本法、またそれに基づくその後の政策におきまして、輸入依存度の高い小麦、大豆の増産等に取り組んでまいりましたけれども、このような取組については本格化しつつあるというふうに考えております。例えば、小麦のカロリーベースの自給率でございますけれども、平成十年は九%であったものが令和三年には一七%に、食用大豆につきましては一七%から二六%に上昇するといった一定の成果も見られるというふうに考えております。

○紙智子君 今若干の数字が変わってはいるという話なんでしょうけど、私は、やっぱり構造的には、また今も言わなきゃなんないのかというぐらい変わってないんじゃないかというふうに思うんです。
 なぜ輸入に過度に依存した農業、食料政策になったのか、食料自給率がなぜ上がってないのか、このことに対するやっぱり分析とか国民的な議論が必要なんじゃないかというふうに思うんですよね。本当に深く、ああ、なるほどなというふうに思えないんですよ、これまでずっと。何回もこういうこと質問されてきているんですけどね。やっぱりちゃんとした議論、分析が必要じゃないかというふうに思うんです。
 それと、加えて気になる動きなんですけど、昨年十一月に財政制度の審議会の建議ありましたよね。食料安全保障という項目を立てていて、そこで、食料安全保障の議論が自給率の向上や備蓄強化に主眼が置かれているということには疑問だとか、国内生産を増大させる場合には国際分業や国際貿易のメリットや経済合理性を無視してまで行う必要があるのかというようなことが議論の中で言われているわけなんです。
 食料自給率の向上を言わば否定するような議論であり、国際分業論が万能であるかのような議論が行われているわけですよ。やっぱりこの国際分業論というのは、さっきも言いましたけど、一九八四年の日米諮問委員会でも言われてきたことなんですね。この財政審の指摘に対して、これ、大臣、農林水産省としてどういうふうに対応するんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野村哲郎君) お答え申し上げたいと思いますが、時間も経過しておりますので簡単に申し上げますが。
 今、紙委員からお話がありましたようなことにつきましては、私どもも、やはりこれに対する考え方として昨年の十二月に食料安全保障強化政策大綱を決定して、食料などの輸入への過度な依存を低減していくための構造転換対策を進めていくことにいたしております。
 そのために、生産性の高い農業経営が需要者のニーズに合った農産品の供給を図る必要があると考えておりまして、また、今現在議論していただいております基本法検証部会においても、食料分野では、輸入リスクが増大している中で、可能な限り国内生産を図りつつ輸入の安定化と適正的な備蓄を実施するとともに、農業分野では、農業従事者が大幅に減少する中で、今よりも相当少ない農業経営が生産性の高い農業を実現することで食料の安定供給を図るという議論が行われておりまして、こういった観点を踏まえつつ、基本法の見直しを進めてまいりたいというふうに思っているところでございます。

○紙智子君 ちょっと、なかなかしっくりこなくてですね。いや、だって食料自給率上げようと言っているし、国内で生産を高めていくんだという話を議論しているじゃないですか、一方で。ところが、それに逆行するような話がされているわけですよ。食料自給率の向上だとか備蓄強化に主眼が置かれていることは疑問だという発言だとか、そういう国際分業という話なんかも含めて、国際分業というのは、アメリカが輸入してやる、あっ、輸出してやるから日本はそれを受けて、で、日本でできるものをやればいいですよという話なわけですから、そういう言ってみればこの圧力というのか、依然としてそういうものが日本国内のそういう財政審の中からも出ているという中で、これに本来だったら政府としては、今本当にぎりぎり、土壇場のところで、この先農業どうするのかというときに、それは違うよということを農水省から発信してやっぱりやらなきゃいけないときなんじゃないのかなというふうに思うんですね。
 今、あっ、これに対してちょっと、もう一言、大臣どうですか、その辺。

○国務大臣(農林水産大臣 野村哲郎君) 財政審のこの考え方につきましては、私どもも疑問を抱かざるを得ないというふうに思います。
 それはなぜかといいますと、やはりこの自給率の向上や備蓄強化に主眼が置かれることには、これは品目ごとの国産化による自給率の向上なりを上げていくというふうにしておるわけでありますので、輸入に依存している品目等の国産化を、もう少しこの国産化を向上させていかなければいけないと、こういう考え方でおりますので、今申し上げたように、この財政審につきましては疑問を抱かざるを得ないと、こんなふうに思います。

○紙智子君 私も全く同感なんですよ。そこのところがやっぱり強くちゃんと議論の中で政府全体の認識になっていかないと、幾ら片方でいいこと言っていても、変わっていかないんですよ。
 今、コロナとかロシアのウクライナ侵略を受けて、食料危機が表面化してきているわけです。SDGsは二〇三〇年までに飢餓ゼロを掲げていると。国連が提唱している家族農業十年の取組を進めるというのも重要だし、国連の食料の権利に関する特別報告でマイケル・ファクリさんですかね、発言しているんだけど、食料への権利に基づく新しい国際的な食料協定への移行も提案をされていると。WTOからもう三十年たっていますからね。そういう食料の主権をちゃんと軸に置いた食料安全保障を構築する議論を行う必要があるというふうに思うんですけど、最後に一言、大臣からお答えいただきたいというふうに思います。

○国務大臣(農林水産大臣 野村哲郎君) 今、ロシアによるウクライナ侵略などによる状況につきましては紙委員からお話があったとおりでありまして、このために、国内で生産できるものはできるだけ国内で生産していく必要がありまして、食料や生産資材の輸入への過度な依存を低減していくための構造転換を進めるべきだと、こういうふうに考えておりまして、必要な食料や生産資材の安定的な輸入も必要でありますが、適切な備蓄にも取り組むということでもって食料安全保障の確保にしっかりと取り組んでまいりたいと思います。

○紙智子君 じゃ、時間が来たので終わりますけど、また引き続いてこの議論していきたいと思います。ありがとうございました。