<第211回国会 政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会 2023年4月7日>

質問日:2023年4月7日 政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会

ジェンダー平等 前へ 紙氏 G7前に遅れ指摘 参院ODA沖縄北方特別委

 日本共産党の紙智子議員は7日の参院ODA沖縄北方特別委員会で、ODA等におけるジェンダー問題について質問しました。
 紙氏は、ODA大綱案に初めてジェンダー主流化が明文化された一方、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位(2022年)で、ODAでのジェンダー平等を主目的とした案件は、経済協力開発機構の開発援助委員会(OECD―DAC)を構成する諸国で最下位レベルの1%未満で推移している事実を示した上で、具体的な目標値が設定されていないと指摘しました。
 林芳正外相は、ジェンダー平等を主要目的とする案件を増やすことは重要だと従来の答弁を繰り返しました。紙氏は、さらに踏み込むべきだと主張しました。
 紙氏は、大綱案にLGBTQなどの性的少数者についての記載が全くないと指摘。外務省の遠藤和也国際協力局長は、文言はないが包摂性の重要性としての趣旨は盛り込まれていると答弁しました。
 紙議員は、日本のLGBTQへの対応状況について経団連の十倉雅和会長が「理解増進法が議論されようとしているが恥ずかしいくらいだ。世界は理解増進ではなく差別禁止だ」と対応の遅れを指摘したと紹介。主要7カ国(G7)で唯一同性婚制度がない日本は、法整備を急ぎ、G7サミット議長国として積極的なメッセージを発信すべきだと主張しました。(しんぶん赤旗 2023年4月22日)

◇開発協力大綱とジェンダー平等について/格差是正について/LGBTQについて/自由で開かれたインド・太平洋について/政府安全保障能力強化支援について/ODAと軍事支援について

○政府開発援助等及び沖縄・北方問題対策樹立に関する調査(政府開発援助等の基本方針に関する件)(沖縄及び北方問題に関しての基本施策に関する件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 開発協力大綱が出されました。ジェンダーについてお聞きをしたいと思います。
 二〇一五年に、持続可能な開発のための二〇三〇アジェンダが採択をされました。そのゴール五は、ジェンダー平等を達成し、全ての女性及び女児のエンパワーメントを行うことを目標に掲げました。同年二月に決定した開発協力大綱は、実施上の原則の中に、開発協力があらゆる段階において女性の参画を促進し、積極的に取り組むことを位置付けました。
 しかし、我が国で見ますと、二〇二二年、このジェンダーギャップ指数が百四十六か国中百十六位ということで、前年からほぼ横ばいなんですね。ODAにおけるジェンダー案件について見ると、ジェンダー平等を主目的とした案件、この比率が二〇一一年以降、OECD、経済協力開発機構の開発援助委員会、DACで最下位レベルの一%未満で推移していると。
 この現状について、大臣、どのように思われますか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) このODAにつきましては、被援助国自身のニーズ、また要望等も踏まえながら様々な支援を行う必要があると考えております。
 その上で、今御紹介していただきましたように、ジェンダー平等の実現と女性、女児のエンパワーメント、これは全てのSDGsの目標とターゲットの進展において重要であると理解をしておりまして、人間の安全保障の推進の観点からも、引き続き、被援助国のニーズや要望等も踏まえながら、ジェンダー平等を主要目的とする案件の重要性、これにも留意して取り組んでまいりたいと考えております。

○紙智子君 四月五日に公表された大綱案では開発協力の適正性確保のための実施原則にジェンダー主流化が明記をされたことは、これ評価できると思います。
 資料をお配りしたんですけど、御覧いただきたいと思います。
 国際女性研究センターが出版したフェミニスト・フォーリン・ポリシー・インデックスですね、この中で、市民社会組織が四十八か国を対象に、ODA、平和と安全、気候正義など七つの評価項目で評価をしているんですね。資料にありますように、日本はどこにいるかということで見てみると、下から十番目です。ずっと取り組んできているといっても、市民社会からの評価は低いわけですね。
 大綱案でジェンダー主流化を位置付けるということであれば、これ、ジェンダー平等を主目的とした案件の具体的な目標数値を設定すべきじゃないかと思うんですけど、大臣、いかがですか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) この新たな開発協力大綱案について、誰一人取り残さない質の高い成長の文脈において、女性を含む包摂性の視点が一層求められていることに触れるとともに、人間の安全保障を推進するために不可欠な人への投資である教育の中で女性のエンパワーメントの視点について言及をしております。お褒めをいただいて大変恐縮をしておりますが、開発協力の実施原則の一つとして、このジェンダー主流化を含むインクルーシブな社会の促進、これも掲げております。
 先ほども申し上げたように、被援助国自身のニーズ、また要望等も踏まえながら様々な支援を行う必要がありまして、特定の分野における数値目標を設けること、これは容易ではございませんが、引き続き、ジェンダー平等を主要目的とする案件の重要性、これに留意して取り組んでまいりたいと思っております。

○紙智子君 数値目標は容易ではないということを言われていて、実はこれ去年三月に井上議員も質問しているんですけれども、一年たっているんですけれども、相変わらずの答弁なんですね。いや、もっと踏み込んでいただきたいということを申し上げたいと思うんです。
 間接的支援には、実は、鉄道整備に女性車両を付けるなど、インフラ整備などが含まれているので数字そのものは大きくなるんですけれども、ジェンダー平等を主目的としたこの案件ですね、ここをやっぱり大幅に増やすべきではないかと。
 日本はやっぱりG7の中で議長国ですよね。なので、是非、世界をリードする数値目標を設定していただきたいということを改めて言いたいと思います。
 それから、今までの大綱の原則には、貧富の格差あるいは格差是正ということが明記されてきたと思うんです。それで、今回の大綱案には格差是正というのが書かれていないんですけれども、これはなぜなんでしょうか。

○政府参考人(外務省国際協力局長 遠藤和也君) お答え申し上げます。
 新たな開発協力大綱の案におきましては、多くの開発途上国が国内外の経済格差に見舞われ、拡大する経済格差等に起因する途上国の不満が国際社会の分断リスクを深刻にしているという現状認識の下で、成長の果実から誰一人取り残さない包摂性を備えた質の高い成長が一層重要になっているという旨を述べているというところでございます。また、開発協力の実施原則の一つとして、社会的に脆弱な立場に置かれている人々を含む全ての人々が開発の恩恵を受けられるよう、公正性の確保に十分配慮するということが掲げられております。
 御指摘のとおり、格差是正という文言そのものは現在の大綱案には含まれてはおりませんですけれども、その趣旨はしっかりと盛り込まれているものと認識をしております。大綱案の文言につきましては、パブリックコメントにていただく御意見等も踏まえながら、引き続き検討してまいりたいと考えております。

○紙智子君 パブリックコメントで意見出されればそういうことも書き込むということも検討してもいいよということなんでしょうか。

○政府参考人(外務省国際協力局長 遠藤和也君) 今申し上げましたとおりで、大綱の文言につきましては引き続き検討してまいりたいというふうに考えておるという次第でございます。

○紙智子君 やっぱり、格差是正という問題、今まで書かれていたわけですから、文言としてね、これやっぱりきちっと入れるべきだということを申し上げておきたいと思います。
 それから、同じパラグラフに、社会的に脆弱な立場の方への配慮としてLGBTQの記載もないんですけれども、これはなぜなんでしょうか。

○政府参考人(外務省国際協力局長 遠藤和也君) お答え申し上げます。
 今の大綱案におきましては、誰一人取り残さない質の高い成長の文脈におきまして、女性やマイノリティーを含む包摂性の視点が一層求められるということに触れるとともに、開発協力の実施原則の一つとして、先ほど委員御指摘のジェンダー主流化を含むインクルーシブな社会の促進ということを掲げているというところでございます。
 御指摘のとおり、LGBTQという文言そのものは含まれておりませんですけれども、包摂性の重要性といった趣旨はしっかりと盛り込まれているものと認識をしております。

○紙智子君 G7で同性婚の制度がないのは議長国である日本だけなんですよね。
 経団連の十倉雅和会長が三月二十日の会見で、日本のLGBTQへの対応状況について、理解増進法案が議論されようとしているんだけれども、恥ずかしいくらいだと、世界は理解増進ではなくて差別禁止にあるんだと、この対応の遅れを指摘されているんですね。
 それから、ラーム・エマニュエル駐日米大使は、二月十五日の記者会見とツイッターで、LGBTQIプラスの人々は家族の一員で頼れる存在と話しています。アメリカでは、グローバル平等基金の創設メンバーとして百か国以上の団体と協力をして人権を擁護しているんですね。
 大綱案には明文化されていないわけなんですけれども、国内法整備を急ぐとともに、やはりG7のコミュニケなどで是非メッセージを発信していただきたいということを併せてお願いをしておきたいと思います。
 次に、ODA大綱とOSAについて質問します。
 まず、外務大臣にですけれども、ODAはこれ一体どこに向かうのかなと、その位置付けについてお聞きするんですが、一九九二年の大綱には、国際連合憲章の諸原則を踏まえた大綱だったんですね。そういう文言が書いてありました。それから、二〇〇三年の大綱は、日本国憲法の精神にのっとりという文言がありました。しかし、二〇一五年の大綱は、安倍政権が閣議決定した国家安全保障戦略でODAの積極的、戦略的活用を打ち出したのを受けて決定されたもので、従来のODAを大きく変えるものになりました。
 今回の大綱案も二〇二二年の十二月の国家安全保障戦略を踏まえたもので、大綱の基本的な考え方として、外交の最も重要なツール、わざわざ最もという言葉を使ってツールだと言っているんですね。
 しかしながら、開発協力というのは、それ自身が価値があるものではないかというふうに思うんですよ。外交ツールを強調すると、これ日本の外交に従属したODAに限定されるということになりませんか。大臣にお聞きします。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 今回の大綱案におきましても、開発協力とは、開発途上地域の開発、これを主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動、これを指す旨を記載しておりまして、この点につき変わりはないわけでございます。
 その上で、今回の大綱案では、我が国の開発協力の目的といたしまして、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の下、平和で安定し、繁栄した国際社会を開発途上国とともに築いていくこと、同時に、我が国及び世界にとって望ましい国際環境を整備し、我が国及び国民の平和と安全、繁栄といった国益の実現に貢献すること、この二点を記しております。
 この点については、これまでの従来の大綱においても、国際社会への貢献を通じて我が国の平和と繁栄を確保すると、こういう旨が記載をされておりまして、今回の改定によりODAの性格を変質させるというものではないわけでございます。
 また、日本国憲法への言及ということが今お話がありましたけれども、今回の大綱案において日本国憲法への直接的な言及はございませんが、開発協力を国際社会の平和と繁栄を誠実に希求する平和国家として我が国に最もふさわしい国際貢献の一つと位置付けまして、これを堅持するということを明確に述べておるところでございます。
 そして、これはまあ当然のことでございますが、政府の活動である以上、開発協力の実施に当たっては憲法の精神にのっとって進めていくこと、これは何ら変わりはないということでございます。

○紙智子君 それで、ちょっと質問なんですけれども、大綱案の重点政策に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持強化というふうになっていて、特に、自由で開かれたインド太平洋、FOIPですね、FOIPのビジョンの下、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持強化に取り組むというふうにあります。
 この開発協力の対象ですが、そうすると、この地域に優先することになるんではありませんか。

○政府参考人(外務省国際協力局長 遠藤和也君) お答え申し上げます。
 インド太平洋地域というところにつきましては、そのOSA、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出するという目的に鑑みまして主要な支援対象の一つというところでございますけれども、その対象国はインド太平洋地域に限定されるというものではございませんで、支援の具体的な対象国、内容の選定に際しましては、当該国の状況やニーズ、我が国にとっての安全保障上の意義等といった個々の事情を総合的に考慮し、個別に判断していくというところになっておるというところでございます。
 いずれにしましても、OSAにつきましては、開発途上国の経済社会開発を主たる目的とするODAとは別に、同志国の安全保障能力、抑止力の強化を目的とする新規の支援の枠組みでございまして、ODAとは全く異なるものでございます。
 したがいまして、本支援の導入によってODAの対象国が限定されるといったことは想定しておりません。

○紙智子君 限定しないと言うんですけれども、自由で開かれたインド太平洋という、FOIPは元々、安倍元首相が出されていた方針だと思います。
 防衛省がパンフレットを出していますけれども、そこには、FOIPビジョンはインド太平洋地域全体に広がる自由で活発な経済社会活動を促進するというふうに書いていると。安全保障の名で、結局地域による優先性を持ち込まれる危険性は、これ否定できないんじゃないかというふうに思うんです。
 それからもう一点ですけれども、政府開発援助、これまで基本的に非軍事に限ってきました。ところが、国家安全保障戦略に、ODAとは別枠でと、同志国の安全保障上の能力、抑止力の向上を目的として同志国に対して装備品や物資の提供やインフラ整備等を行うと、軍等が裨益者となる新たな枠組みをつくるという方針を受けて、四月五日の九人の大臣の会合でこの政府安全保障能力強化支援、いわゆるOSAを決定したわけです。
 これまでODAは非軍事といいながら、もう一方でOSAで軍事支援というふうになれば、これ途上国などからもODAの原則である非軍事支援を形骸化したんじゃないかというふうに思われるんじゃないかと思いますけど、いかがですか、大臣。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 軍事的用途への使用の回避原則、これは開発途上国の経済社会開発を目的とするODAに関する実施上の原則でございまして、今後も堅持をしてまいります。
 同志国の安全保障能力、抑止力の強化を目的とするOSAについては、我が国の平和国家としての歩み、これを引き続き堅持しつつ、同志国の安全保障上のニーズに応えていくということを大前提としております。
 こうした観点から、日本がこの支援をもって紛争に積極的に介入したり武力の行使を後押ししたりするわけではなく、例えば、領海における警戒監視能力を向上させることで地域における抑止力を高めるといった、国際紛争そのものとは関係ない分野に限定して国際の平和、安定、安全の維持のための支援を行う考えであり、先般、そのための実施方針を定めたところでございます。
 具体的には、防衛装備移転三原則及び同運用指針の枠内で支援を行うこと、国際紛争との直接の関連が想定し難い分野に限定して支援を実施すること、国連憲章の目的及び原則との整合性を確保すること等について定めたところでございます。

○紙智子君 今三点、防衛装備三原則の枠内というふうに言うんですけれども、これ、今、でも見直そうとしているんじゃないですか。だから、何の歯止めにもならないんじゃないかというふうに思うんですよ。
 多くの国々からこれまで感謝され、いまだに語り継がれているペシャワール会の医師の、もう亡くなりましたけど、中村哲さんはやはり尊敬すべき活動家だったと思うんですよね。国会に来られて院内集会やられたときに、御本人が、我々がこういう活動をできるのは、憲法九条を持っている日本への信頼感があるからなんだと、非軍事の立場を明確にしているから受け入れられてきているんで、やっぱり改憲をするというのは信頼を失うことになると発言をされていたことを、私、今でも覚えているんです。
 ODAでは非軍事原則を堅持するというふうに言うんだけれども、それとは別にOSAで軍事支援ができるようになると、多くの現地で活動されているNGOの皆さんが危惧している、日本が軍事化したというふうに判断される懸念というのは払拭されないというふうに思うんですよ。防衛三原則や国家安全保障戦略ではなくて、やはり日本国憲法に則した大綱にすべきだということを強く申し上げて、質問といたします。