<第208回国会 政府開発援助等沖縄・北方問題に関する特別委員会 2022年3月23日>


◇ロシアとの平和条約交渉について/日ロ外交の抜本的見直しについて/日ロ共同経済活動について/北方四島におけるロシアの実行支配について/日ロ経済協力プランについて/北方四島へのビザなし交流について/日ロ漁業交渉について

○政府開発援助等及び沖縄・北方問題対策樹立に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず初めに、昨日三月二十二日付けの新聞報道で、ロシア外務省は日本との北方領土問題を含む平和条約交渉について継続する意思はないとする声明を発表したと報じていますけれども、これはこれまで取り交わしてきた日ロ間の約束に反するものではありませんか。外務大臣に伺います。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為であります。明白な国際法違反であり、断じて許容できず、厳しく非難をいたします。
 今回の事態、これは全てロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しているものであり、それにもかかわらず、日本側に責任を転嫁しようとする今般のロシア側の対応、極めて不当であり、断じて受け入れられず、強く抗議をするところでございます。昨二十二日、こうした日本政府の立場をロシア側に伝達し、強く抗議をしたところでございます。
 今般のウクライナ侵略について、我が国としては、国際秩序の根幹を守り抜くため、国際社会と結束して引き続き毅然と行動していく考えでございます。

○紙智子君 我が党は、日ロ領土問題については、領土不拡大の原則に反して秘密協定を結んできた不公正を正して、戦後処理の原則に立って、国際的な道理に基づいて外交をするべきだと、展開するべきだということを繰り返してこれまで言ってまいりました。
 ところで、安倍元総理の進めた新しいアプローチと称するこの日ロの外交というのは、今度のウクライナの侵略によって抜本的な見直しが求められているのではないでしょうか。これは、林外務大臣と西銘北方担当大臣にお聞きします。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) ロシアとは、平和条約締結問題を含む政治、経済、文化など幅広い分野で日ロ関係全体を国益に資するよう発展させるべく、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下で、これまで粘り強く交渉を進めてきたところでございます。
 しかしながら、今回のロシアによるウクライナ侵略に対しては、G7始め国際社会と結束して毅然と行動する必要があると考えております。日本政府として領土問題を解決して平和条約を締結すると、この対ロ外交の基本方針は不変であります。その上で、対ロ関係の展望につきましてはこの時点で申し上げるべき状況にはないと考えております。

○国務大臣(沖縄及び北方対策担当大臣 西銘恒三郎君) 総理も外務大臣も繰り返し述べられているとおり、今般のウクライナ侵略につきましては、我が国としては、国際秩序の根幹を守り抜くため、国際社会と結束して引き続き毅然と行動していく考えであります。
 以上です。

○紙智子君 新しいアプローチというのは、安倍元総理が、戦後の領土交渉は一ミリも進まなかったといって、二〇一六年の五月にロシア南部のソチでプーチン大統領と会談をし、北方領土問題を含む平和条約交渉を進める方針ということで確認をしたわけですよね。今までの発想にはとらわれないんだと、新しいアプローチで交渉を進めると、今までの停滞を打破する、突破口を開く手応えを得ることができたんだと。プーチン大統領も同じ認識だと成果を強調しました。
 同年の十二月には山口県でプーチン大統領と首脳会談を行って、北方四島における共同経済活動に関する協議を開始するということが平和条約の締結に向けた重要な一歩になるんだというふうに言われたんですね。相互の理解に達したというふうにも言われました。
 そこで、質問なんですけれども、共同経済活動で何か成果があっているのでしょうか、あるのでしょうか。北海道の北方隣接地域の経済は発展しているのでしょうか。担当大臣にお聞きします。

○政府参考人(外務省大臣官房審議官 徳田修一君) お答え申し上げます。
 北方四島をめぐる共同経済活動につきましては、これまでロシアとの間で、日ロ双方の法的立場を害することなくという大前提の下に様々な協議を重ねてきたところでございます。
 例えば、具体的には、北方四島への観光パイロットツアー、あるいはごみ処理専門家の交流、こういったことが実現してきているところでございますけれども、今この状況で、平和条約交渉もそうですけれども、共同経済活動につきまして、その展望については現時点では申し上げる状況にはないと言わざるを得ないということだと思います。

○紙智子君 まあ、ごみの減容の対策だとか、ツアーだとか、観光の問題とかといろいろ言われるんですが、私、何回も今までもレクチャーでどう進んでいるのかと聞くんですけれども、なかなかはっきりしないというふうに思っていて、やっぱり、隣接地域の人たちに聞くと、何をやっているのか見えないという話をよく出されます。
 それで、共同経済活動というのは、両国の法的立場を害さないと、ここ重要ですよね。害さないという下で行うというふうにされてきたわけです。しかしながら、ロシア側は、これはロシアの主権の下で行われるんだと繰り返し表明してきました。
 プーチン大統領は、ロシアに領土問題は存在しないというふうに言っているわけです。そして、二〇二〇年には、領土割譲禁止ということを明記したロシアの憲法の改正もやったわけですね。今年に入って、三月九日には、ロシアで経済特区法が成立をしたと。進出する日本も含めた内外の企業に対してこれ二十年間にわたって税の優遇措置を適用するというものですよね。
 現実にはこうやって北方四島でロシアの実効支配がますます進んでいるんじゃないのかと、そういう認識は、外務大臣、おありでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) この北方四島につきましては、我が国が主権を有する島々でありまして、我が国固有の領土でございます。ロシア憲法の改正を始めとするロシア側の一方的措置により、こうした北方四島の法的地位、これが変わるものではないというふうに考えております。

○紙智子君 実効支配が進んでいるという認識はありますか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 先ほど申し上げましたように、法的地位が変わるものではないと、こういうふうに考えております。
 また、この実効支配について、我々としてのこの評価、これを申し上げるのは差し控えさせていただきたいと思います。

○紙智子君 私は、この共同経済活動は領土交渉を前に進めるものにはなっていないと思うんですよ。ロシアのウクライナの侵略を受けて、今回ロシアは、ロシア側がですね、継続しないというふうに言っているわけですね。
 共同経済活動、そういう中で、中止すべきではないかと思うんですけれども、いかがですか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 我々として、領土問題を解決して平和条約を締結するという対ロ外交の基本方針、これは不変でございます。
 その上で、この今お尋ねがありました共同経済活動、これに対する今後の対応につきましてはこの時点で申し上げるべき状況にはないというふうに考えております。

○紙智子君 新しいアプローチの名で進めてきた領土交渉というのは、一ミリでも進めるどころか、ロシアの実効支配が進んでむしろ後退していると思うんです。今回のプーチン大統領の発言によって、これ事実上破綻していると思うんですね。ですから、この外交路線というのは抜本的に見直すべきだと、改めるべきだということを申し上げておきたいと思います。
 ロシアへの経済制裁などについてお聞きします。
 日ロの経済協力、政府の事業は八項目の協力プランについて当面見合わせるとしながら、民間企業への支援はその都度判断ということなんですけど、しかし、マスコミが書いていますよね、欧米企業は早々に事業を撤退、停止したけれども、日本の企業の動きは鈍いと、そして、企業は経済戦略の見直しをすべきじゃないかという見出しで書いています。
 日本政府の姿勢がこの企業の決断を遅らせているんじゃありませんか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 現下のこのウクライナ情勢を踏まえますと、我が国としても、もはやロシアとの関係で新たな経済分野の協力、これを進めていく状況にはなく、八項目の協力プランも含めまして、ロシアとの経済分野の協力に関する政府事業については当面見合わせることを基本に、国際的な議論も踏まえて、エネルギー安定供給、また人道上の配慮に留意しつつ対応してまいる所存でございます。
 他方、今後のウクライナ情勢や国際的議論の展望、これを正確に見通すことは困難でありまして、これら事業を具体的にどう取り扱うべきか、これにつきましては、今後の状況を踏まえて政府として適切に判断をしてまいりたいと考えております。

○紙智子君 サハリン2はシェルが撤退をしたとして、EUも二七年までに撤退を表明しているわけです。日本も直ちに撤退すべきだと思うんですけれども、直ちにというふうに言えないのであれば、せめて撤退の時期ぐらいは明確にするべきではないんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) 我が国としては、これまで一貫して、エネルギーの安定供給と安全保障、これを最大限守るべき国益の一つとして、G7を始めとした国際社会と協調しながら適切に対応していくことを方針として述べてきたところでございます。
 三月十一日に発表されましたG7首脳声明では、秩序立った形で、世界が持続可能な代替供給のための時間を確保しつつ、ロシアのエネルギーへの依存を削減するため更なる取組を進めていくことで一致をしたところでございます。
 今お話のありましたサハリン2につきましても、このG7首脳声明の方針に沿って、我が国のエネルギーの安定供給等の観点を十分考慮しつつ、経済産業省とも連携し、適切な対応を考えてまいりたいと考えております。

○紙智子君 サハリン2の今後のことも今ちょっと述べられましたけど、私、民間企業だったら普通はリスク分散ということは考えているというふうに思うし、それくらいの力を日本の企業というのは持っているというふうに思います。
 二〇一四年のクリミア半島の併合のときにも、EUが対ロ経済制裁を行っていた下で日本がロシアとの経済協力を進めていて、このときも我が党は、それでは国際的なロシアへの経済制裁の取組を壊すことになりかねないというふうに批判したんですけど、結局そのままし続けて、北方領土の問題も、実効支配が更に強まったということを見るならば断固とした態度を示すべきだということを改めて申し上げておきたいと思います。
 それから、ビザなし交流についてもお聞きします。コロナでこの間、二年間やられていません。
 二月の七日の北方領土返還要求大会のときに、これオンラインで参加をして発言する予定だった千島歯舞諸島居住者連盟の根室支部長の宮谷内亮一さんが亡くなりました。七十九歳だったんですね。元島民の平均年齢が八十六歳と。元島民が生きている間に解決してほしいということを私たち何度も訴えられてきたんですよね。ですから、元島民の皆さんはじくじたる思いだと思うんです。
 今回の事態を受けて、もう言葉が出ないとか落胆されている人もいるし、でも諦めるわけにはいかないんだという話もあるわけで、是非、この問題、足を運んで今の状況を島民の皆さんに説明をしながら励ましていただきたいなと思いますけれども、西銘担当大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(沖縄及び北方対策担当大臣 西銘恒三郎君) 私も全国大会に参加をしておりました。島民の方々の思いは本当に重たいものがあります。
 高齢となられた元島民の方々、平均年齢八十七歳と承知をしておりますが、その思いに何とかお応えしたいという強い思いはありますが、この二年間、コロナ禍でビザなし交流等が途絶えてしまって、やっと何らかできるんじゃないかという思いのときのウクライナ侵略であります。現時点でこの状況に鑑みると、当事業の具体的な展望については申し上げる状況にはないと考えております。
 なお、私自身の隣接地域、一市四町への隣接地域への訪問につきましては、現時点で申し上げられませんが、状況を見極めた上で適切に判断してまいりたいと考えております。

○紙智子君 難しい状況であることはよく分かりますけれども、やっぱり行って、ちゃんと丁寧に説明して聞いてあげてやっぱり励ましていただきたいと思うんですよね。
 それから次に、日ロの漁業交渉についてお聞きします。現在、交渉はどうなっているのか、水産庁に簡単に説明をお願いします。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 藤田仁司君) お答えいたします。
 まず、我が国とロシアとの間の漁業交渉につきましては、三つの政府間協定と一つの民間協定に基づきまして四つの交渉が行われてございます。
 このうち、日ロ地先沖合漁業交渉及び北方四島周辺水域枠組み協定に基づく交渉につきましては、昨年十二月に本年の操業条件等についてロシア側と一致しているということでございます。また、日ロのサケ・マスの漁業交渉、これにつきましては、本年四月からの漁期に向けまして、現在、関係省庁と連携しつつ日程を調整しているところでございます。
 民間協定に基づいて行われます貝殻島昆布交渉につきましては、本年六月からの漁期に向けまして現在日程を調整しているところと承知してございます。

○紙智子君 まだ交渉には入れていないということだと思うんですよね。終わったものも、実際に出られるかどうかというのは分からない状態だと思うんです。
 水産庁によると、政府間交渉というのは、一九九一年に旧ソ連が崩壊したときも含めて、一度も中止されたことがないというふうに聞いています。出漁できなければ、漁業者だけではなくて、関連する加工や、缶詰とか箱詰めとかですが、運送関係ですね、関連業全てに影響が出るし、隣接地域全体にも影響が出ると。
 これ、どれぐらいの損失になるのか、つかんでいるでしょうか。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 藤田仁司君) ちょっと流通業のところまでは正確に把握してございませんけれども、現時点では、民間協定を含みます四つの交渉全体で、二〇二一年におきまして、これ、漁獲量だけですけれども、約五千トン程度の水揚げがございます。水揚げ金額として把握しておりますのは、北方四島周辺水域操業枠組み協定に基づく操業では約二億円、貝殻島昆布協定に基づく操業では約三億円の水揚げが承知しているということでございまして、こういったものを、影響をしっかり丁寧に把握していくということが重要だと考えてございます。

○紙智子君 ちょっと、流通関係把握できていないから、水揚げだけでも五億円これはもうなくなってしまうということになるわけですよね。もっと全体に大きな影響を考えれば、もっと大きな損失が出てくることになると思うんですよ。地域経済がこれ冷え込むことは避けられなくなると。出漁できたとしても拿捕されるかもしれないという不安もあるわけで、そういう場合にどういう支援ができるのか。
 私、国内対策をちゃんと準備しておく必要があると思うんですけれども、これ、水産庁と担当大臣、一言ずつお願いします。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 藤田仁司君) 今申し上げましたように、交渉自体につきましては、現在関係者と連携して日程調整を行っているという状況でございますので、現時点でその影響について明確に見通すということは難しゅうございますけれども、影響が生じる場合にはその状況をしっかり丁寧に把握して、努めてまいりたいというふうに考えてございます。

○国務大臣(沖縄及び北方対策担当大臣 西銘恒三郎君) 水産業に関する対応につきましては農林水産省の所掌でありまして、内閣府としましては、今回の事案が与える影響を注視してまいりたいと考えております。現地を訪ねる機会がありましたら、その辺の情報は農水省と連携したいと思います。

○紙智子君 やっぱり北方地域の隣接地域含めて、やっぱり、心配しなくても大丈夫だよと、こういう対応策を、水産も含めて、経済支えていくということで是非出していただきたい、そのことを申し上げまして、質問を終わります。