<第201回国会 農林水産委員会 2020年1月30日>


◇ASF(アフリカ豚コレラ)が発生していない状況下で予防的殺処分を可能のせざるを得ない緊急性、切迫性について提案者に質問/予防的殺処分を可能にすることは、財産権に踏み込む公権力の行使であり、関係者の理解と補償が必要だが農水省としてどのように対応するのか確認した

○農林水産に関する調査(CSF及びASFの発生状況と対策に関する件)
○家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案(衆議院提出)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず初めに、各会派の御理解を得てこうした質問の機会を与えていただきまして、心から感謝を申し上げます。
 それでは、早速ですけれども、提案者に伺います。
 この改正案の大きなポイントは、アフリカ豚コレラ、豚熱というふうに変えるということなんですけれども、ASFが蔓延し又は蔓延するおそれがある場合であって蔓延防止が困難である場合、患畜及び疑似患畜以外の家畜、つまり健康な豚であっても、殺すことをやむを得ないと認めるときには予防的殺処分ができるという内容であります。
 それで、予防的殺処分は、二〇一〇年の平成二十二年に議員立法によって可能になったものだと思います。当時、宮崎で口蹄疫の感染が続いていて、その感染力の強さから、殺処分、埋却処分、処理が追い付かない状況に至って、そして地域社会や地域経済全体に深刻な影響を与えるおそれがあるということから、この予防的殺処分の規定を作ったというふうに理解をしています。
 そこでなんですけれども、口蹄疫の場合と今回は少し違うと。それは、口蹄疫の場合は既に感染拡大は続いていた状況だったわけですよね。今回は、国内でASF、つまりアフリカ豚コレラは発生まだしていないということであります。この状況で予防的殺処分を可能にする理由あるいは判断があったんだと思うんですね。
 そこで、提出者にお聞きするのは、国内でアフリカ豚コレラが発生していない状況の下でこの予防的殺処分を可能にせざるを得ないその緊急性、切迫性をどのように認識され、どのような議論がなされたのか、そして提出に至ったのかということをお聞きをしたいと思います。

○衆議院議員(宮腰光寛君) ASFは、現在我が国で広がっているCSFよりも病原性が強く、口蹄疫と異なり、ワクチンも存在しておりません。また、ASFは、我が国ではいまだ発生していないものの、周辺諸国においては急速に拡大をしてきております。
 既に、水際では、一昨年十月以降、生きたASFウイルスが二件確認されたほか、ASFウイルスの遺伝子を含む肉製品等が八十件以上確認をされております。そして、昨年九月には近隣の韓国でASFが発生し、さらに、昨年十二月には我が国と同じく島国のインドネシアでの発生が判明し、島国でも侵入のリスクが高いことが改めて認識をされたところであります。こうした中、韓国では速やかな予防的殺処分が行われ、昨年十月を最後に飼養豚での発生が抑えられていると承知をいたしております。
 このような状況を踏まえると、ASFが万一我が国で発生した場合において確実にこれを封じ込めるためには、現行法では口蹄疫にしか認められていない予防的殺処分をASFについても可能とするための法整備を一刻も早く行う必要があります。
 なお、御指摘のとおり、平成二十二年の口蹄疫の発生時には予防的殺処分という法制度が存在せず、感染拡大のスピードを抑えるため、農家の協力を得て、殺処分を前提としたワクチン接種を開始いたしました。その後、与野党合意の下に議員立法で予防的殺処分を可能とする口蹄疫対策特別措置法を制定をし、その施行後直ちに予防的殺処分を行い、その封じ込めに成功したという経緯があります。
 口蹄疫の発生時の経緯も踏まえれば、ASFの急速かつ広範囲な蔓延を一刻も早く防止するためにはあらかじめ予防的殺処分を可能とするための法整備をしておく必要があり、家畜伝染病予防法の抜本的な見直しに先行して、与野党合意の下に緊急に法整備を目指すこととなった次第であります。

○紙智子君 今お話もいただいて、予防的殺処分を導入するという場合、慎重な判断が必要なわけですけれども、同時に、アジアでASFに感染が拡大し、昨年の九月の段階で韓国に広がり、また、海を渡ってフィリピンやインドネシアまでということです。日本の国内の空港で既にウイルスの遺伝子検査で八十六例が検出されたと、うち二例は生きたウイルスが確認されたと。有効なワクチンが存在していない中で、やはり一刻も早くという話ありましたけれども、やっぱり国会として迅速に対応する局面なんだというふうに私も思います。
 そこでなんですけれども、農水大臣にお聞きします。
 予防的殺処分は健康な豚を殺すことを認めるということになりますので、これは、財産権を制限する、財産権に踏み込む公権力を行使するものになりますので重い規定だというふうに思うんですね。ですから、しっかりとした関係者の理解と補償が必要だというふうに思います。それで、農林水産省としてどのように対応するのかということを確認をしておきたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 紙先生のおっしゃるとおりでございまして、宮崎でも、予防的ワクチンを接種して、そしてまだ罹患していないにもかかわらず殺処分をしたとき、大変な怨嗟の声をたくさん私は直接聞きました。しかし、結果としてそれが宮崎県から外に出さずに済んだという効果を生んだことも事実だと思います。
 そのときに、先生おっしゃるように、やはりきちっとした説明、そういったものを、財産権に踏み込むわけですから大変なことですので。そして、産業動物とはいえ、それぞれの畜産農家は思いがあります、その動物に対して。その思いも含めて、我々は重く受け止めなければいけないと思っています。
 そして、今回は、野生動物で発生した場合においても、いろんな消毒とか移動制限とかの措置を講じた上で、最終手段としては、野生動物しか出ていなくても殺処分をする可能性があるという、そういった法律を用意していただいたことは、まさにこのワクチンのないアフリカ豚コレラに対して真剣に向き合っていただいているということで、これは、私は農林水産大臣として重く重く受け止めなければならないと思っております。
 今まで以上に都道府県、関係者の方々、それから農家の方々の理解や御協力いただけるように、情報もしっかりと提供していきたいと思っています。
 そしてまた、本法に基づいて殺処分を行った場合におきましては、現行法の第六十条の二、その第一項に基づきまして、評価額の全額を補償するということにいたしたいと考えております。

○紙智子君 口蹄疫の際に、口蹄疫特別対策措置法は時限立法として作って、家畜伝染病予防法の見直しを求めていました。政府に必要な対策を求めておいて、私どもの質問といたします。
 ありがとうございました。

○委員長(江島潔君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕

○委員長(江島潔君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定をいたしました。