<第198回国会 本会議 2019年6月5日>


◇国有林野の管理経営に関する法律等の一部改正案に対する反対討論

○国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案に反対する討論を行います。
 冒頭、日米貿易交渉について述べます。
 政府は、昨年九月の日米共同声明以来、日米貿易交渉において、TPP以上の関税引下げに応じないことを基本方針にしています。
 それなのに、五月の日米首脳会談に際して、トランプ大統領は、アメリカはTPPに拘束されないと述べました。四月の日米首脳会談でも、日本は米国の農産物に巨額の関税を課している、その関税を撤廃したいと求めました。日米共同声明に反する発言なのに、安倍総理はなぜ反論しないのでしょうか。
 それだけではありません。トランプ氏は五月二十七日にツイッターで、日本との貿易交渉ですばらしい進展があった、農業と牛肉で特に大きい、日本の七月の選挙後に大きな数字を期待していると発信し、共同記者会見では、恐らく八月に両国にとってすばらしいことが発表されると答えました。密約があったのではないかと疑われても仕方がありません。
 アメリカの求める農産物の大幅な譲歩を選挙が終わるまでは口をつぐみ、終わったらアメリカの要求を丸のみする、こんな亡国の農政は許せません。
 予算委員会は二か月以上開かれていません。国民への説明責任を果たすためにも、予算委員会の開会を強く求めるものです。
 以下、本法案に反対する理由を述べます。
 理由の第一は、本改正案が、またしても規制改革推進会議に基づく官邸主導の現場を無視した改革案であるからです。
 農林水産省の諮問機関である林政審議会会長の土屋俊幸東京農工大学教授は、衆議院の参考人質疑で、今回の改正案が未来投資会議の提案で始まったことに言及し、トップダウンで行われた、長い複雑な成立経緯と多様な公益的機能を併せ持つ国有林の重要な経営判断は少数の非専門家に委ねるべきではないと不快感を示しました。参議院の参考人質疑で、泉英二愛媛大学名誉教授は、竹中平蔵氏が求めたコンセッション、PFI法の特例法だと指摘しました。
 国有林をもうけの対象として開放するために、国有林の現場と役割を無視する強権的な手法を認めることはできません。
 第二の理由は、昨年成立した森林経営管理法を補完するものであり、一部の大規模な林業経営者の利益のために、国民の共有財産を売り渡すものだからです。
 改正案は、経営規模を拡大する林業経営者に、五十年にも及ぶ樹木採取権と樹木採取区を新たに与え、排他的、独占的に経営することを認めています。
 国民の共有財産である国有林を、一部の林業経営者の利潤追求の道具にしてはなりません。地域に根差した森林所有者、中小林業経営者よりも、安価な木材を求める大手木材メーカーや大規模なバイオマス発電会社の利益を優先することになりかねません。
 また、林野庁は、樹木採取権を、長期的に安定的な権利とするために物権とみなすと言っていますけれども、泉参考人は、物権とするというのは、巨額の資金を借りるために必要で、外資の参入も見込まれると指摘をし、また、鮫島正浩信州大学特任教授も同様の認識を示されました。国民の財産を外資に売り渡してはなりません。
 第三の理由は、国有林が持っている役割、使命が果たせなくなるからです。
 国有林には、第一に公益的機能を発揮する、第二に林産物を持続的、計画的に供給する、第三に地域振興、住民の福祉の向上に寄与するという使命があります。
 まず、公益的機能です。森林には、国土の保全、水源の涵養、地球温暖化抑制、生物多様性の保全など多面的な機能があります。
 本法案で、広大な国有林の樹木採取権を取得した林業経営者に伐採後の植栽を義務付けていません。再造林がなされなければ、どうなるでしょうか。山が荒廃するのは明らかです。林野庁は、林業経営者に対して樹木の採取と植栽を一体に行うよう申し入れると言います。伐採して利益を上げるのであれば、山が荒廃しないよう植栽を義務付けするのは当たり前です。
 与党推薦の参考人は、課題として、国有林の公益的な機能を担保することが前提だ、これを重視して慎重に対応していくことが大事だと述べました。泉参考人も高篠和憲参考人も、造林の担い手がいない、集まらない、皆伐して再造林するときにいつも出てくる問題だと口々に言われました。担い手の確保対策こそ不可欠です。
 数ヘクタールの再造林でも、苗木が鹿に食べられて樹木が育たない山があるという指摘があるのに、数百ヘクタールにも及ぶ国有林を伐採すれば、国有林が持っている公益的機能が損なわれ、荒廃しかねません。
 山づくりという点でも問題があります。林野庁は、国有林において、八十年から百年という長伐期施業等を進め、森林の公益的機能を維持増進すると言ってきました。五十年という短伐期再造林方式は、林野庁が言ってきた山づくりにも反するものです。
 同時に、地域振興にも反するものだからです。
 国有林野の立木販売事業者の九割が地元事業者、中小事業者で、伐採面積は平均二十ヘクタール程度です。ここに、地域外から数百ヘクタール規模で伐採する事業者が参入してくればどうなるでしょうか。民有林と国有林を一体的に経営する事業者は、当面十社程度を想定しているといいます。大規模な林業経営者が大ロットで取引量を増やせば、中小の地元の事業者が市場取引で不利になり、経営困難に陥ることが想定されます。これでは、地域の振興に役立てるという国有林の役割が果たせなくなるのは明らかです。
 林業関係者は、改正案で冷やし玉が投げられると言っています。冷やし玉というのは、国有林からの供給量の急増で木材価格が暴落するという意味です。冷やし玉は、既に、輸入材の関税を削減し撤廃するTPP11、日EU・EPAの発効によって投げられています。日本の林業経営者は、関税削減による輸入の急増、国有林野からの供給過剰によって、木材価格の低下に苦しむことになるのではないでしょうか。地域振興に反することはやめるべきです。
 歴代政権の外材依存政策の下で木材価格の低迷が続き、林業労働者が減少するなど、危機に瀕しています。それに拍車を掛けるのが、森林の多面的な機能を著しく軽視し、利潤拡大を優先する安倍政権の林業の成長産業化路線です。
 森林の公益的機能を持続的に発揮させることは、森林・林業者だけでなく国民共通の願いであり、国際的な合意でもあります。森林資源が増大している今こそ、外材を国産材に置き換える実効性ある対策や、規模拡大を目指す林業経営者だけでなく、現状を維持しながら自分に合った経営をしている自伐型林業経営者を支援すべきです。
 今必要なのは、安倍政権の林業成長産業化路線から持続可能な森林・林業への転換です。そのことを強く求めて、反対討論といたします。(拍手)