<第199回国会 農林水産委員会 2019年5月14日>


◇参考人質疑/安藤参考人 法案の改正部分が目指しているところについて/宇田参考人 1990年代にオレンジの自由化が行われて、産地が大きな打撃を受け、耕作放棄地の拡大につながったことを指摘し、国の支援の在り方をについて質問/佐長参考人 農地を流動化させる際、農地の番人と言われてきた農業委員会の関与が重要だが、地域に根差した円滑化事業を残して、必要に応じて農地中間バンクと連携することが現実的だと思うが、秋田県の状況について質問

○農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

 参考人
 公益社団法人秋田県農業公社理事長 佐藤 博君
 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 安藤 光義君
 紀ノ川農業協同組合組合長理事 宇田 篤弘君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、参考人の皆さん、大変貴重な参考になるお話をいただきまして、ありがとうございます。
 それで最初に、安藤参考人からお聞きしたいと思うんですけれども、元々この農地中間管理機構の話って、やっぱり非常に担い手が高齢化してきているという中で、農地がそのまま放置されたら大変なのでそこをやっぱり何とかつないでいくというようなことで、特に大変なところに手当てしていくようなものとして議論されてきたように思っていたんですけれども、だんだんちょっと変わってきちゃったなというのがあって、法案出されて以降。それで、安藤参考人の先ほどの話の中でも、やっぱり現場でいろんな矛盾が出てくるんじゃないかということでいろいろ指摘もあったところがやっぱり当たっていて、そこを修正していくという中身があるんだということも含めてお話しされていたと思うんですけれども。
 それで、農地中間管理機構というのは三つ目的が、目的というか役割があるということが書かれていて、一つは農業経営の規模を拡大すること、二つ目は農用地の集団化を図ること、三つ目は新規参入を図ることと。この三つ目の新規参入を促進する規定を作ったというのは中間バンクの特徴なんだと思うんですよね。
 それで、農業のアグリビジネス化という角度から見ると、やっぱりこれは大きなビジネスチャンスになると。今回、全国的に農業経営を展開できる認定農業者をつくるということですとか、農地所有適格化法人の中でグループ経営を行う際に役員要件を緩和して労務管理を広域で行えるようにするということもあるわけですけれども、そういう意味では、この新たな認定農業者の創設とか法人の役員要件緩和ということなんかの目指しているところというか、その辺をどのように思われているかなということをちょっとお聞きしたいと思うんですけれども。

○参考人(東京大学大学院農学生命科学研究科教授 安藤光義君) そういう点で、今の御指摘の点は、ある意味で農地の、まあ今は賃借権だけですけれども、所有権も含めた自由化に向かうような流れをつくろうということなのかもしれません。
 ただ、この中間管理機構の実績でもお分かりになりますように、土地利用型農業は余りもうからないですから、そこに入ってくる理由というのはちょっとよく理解し難い部分があるかなというふうに見ております。
 ただ、もう一つこの中間管理機構について言うならば、新規参入、新規就農者の育成という点でいうと、全く縁もゆかりもない人たちに農地を貸し付ける仕組みをつくったという面もあって、それなりに新規就農者の育成にとって貢献している面も、これは今先生から御指摘ありましたように、大企業とかアグリビジネスとかそういうものではなくて、本当に農村にやってきた若い人たちに門戸を開放すると、そういう役割を多少ですけれども果たしている部分があるというのも事実かなと思います。
 ただ、そのときにこの機構を使う必要が本当にあったのかどうなのかということについては、書類の問題もありますので、書類というのはそれに伴う事務処理の問題も結構ありますので、もしかするとなくてもできた面もあるかもしれないなというのも事実かと思います。
 以上です。

○紙智子君 ありがとうございました。
 それじゃ、宇田参考人にお聞きしたいと思います。
 紀ノ川農協の話をされて、販売専門農協ということで、それでトマトとか、それから柿、タマネギ、ミカンなどなど、主要品目ということで取り組まれていると。和歌山県というのはミカンということで、その産地で有名なところだったと思うんですけれども、一九九〇年代にオレンジ、牛肉の自由化が行われて、やっぱり産地が大きな打撃を受けたんだと思うんですね。そういう中で再生産を必死になって努力をしてこられたところだというふうに思うし、耕作放棄になったところなんかも含めて、やっぱりそこを立て直すということで取り組んでこられたんじゃないかと思うんです。
 その中で、地域の再生といいますか、先ほどのずっと話を聞きながら、やっぱり再生するための果敢な、何というかな、努力というか、やられているなということを思いましたし、やっぱり立体的に、複合的に、その枠を作るということが先じゃなくて、支えていく人をつくっていく、力を引き出していく、そういうことでのいろんな試みが努力されているんじゃないかなというふうに思って、すごく感銘を受けながら聞いていたんですね、実は。
 いろんなつながり、消費者とのつながりとか若い学生も入れ込むとか、そういうこともやりながらやってこられているんですけれども、その点でいうと、今、中山間地で農業を再生するというために、そういう大変な苦労というか、さっきは十分語れなかったけれども、いろいろ苦労があったんじゃないかなと思うので、その努力されていることを一つはお聞きしたいのと、もう一つは、やっぱりそういう今努力していることを本当に生かしていくということでいうと、国の支援の在り方といいますか、農地の整備ということも含めて御意見を伺いたいと思います。

○参考人(紀ノ川農業協同組合組合長理事 宇田篤弘君) 苦労はいっぱいなんですけれども、ミカンの、オレンジ輸入自由化のときに減反で、八九年、九〇年、九一年辺りだったと思うんですけれども、その辺りから落葉果樹の方に大転換されていくんですけれども、その品目が従来の産直ということには向かないというか、桃なんかが非常に扱いにくかったということもあって、それと、お取引先もバブルの崩壊の後、消費不況に入っていって、価格がすごく下がり始めた時期があったんですね。
 急速に伸びたんですが、またそこから下がっていくというところをどう立て直していくかというところが非常に苦労したんですが、あの当時、とにかく私は、三十八歳から組合長になりましたし、何をしたらいいかよく分からないような状態からやったんですけれども、やっぱり若い人に、すぐ次のことを考えていくということが非常に大事なんじゃないかなというふうに思いました。
 ここで、五年辺りも、とにかく次の経営陣どうしようかとか職員をどうしようかとか、担い手をどう育成していくかということを取り組んではきているんですけれども、その中心に据えていくような考え方というのは、全てのことを、やはり消費者の方、社会からも支持されるということが非常に大事なんじゃないかなと。自分たちの利益だけにということではなくて、そのことが非常に社会的に役割があるということを、この産直の中、この事業展開の中で明らかにしていくということが大事なんじゃないかなというふうに思いました。
 大変な時期に考えたのが、有機の町づくりというのを考えました。単に安全、安心でなくて、その地域自身が持続性をどう持っていくかということを考えましたし、今もそういう意味では持続できる環境保全型農業をどう展開していくかということを考えたりしています。
 それは、農業の持つ本来の機能をどう発揮させていくかという方向を商品を通じて消費者の方に理解していただくという取組が非常に大事なんじゃないかと思うんですけれども、まだ、例えば有機の農産物も、やはり自分の安全、安心だけでとどまっている方が非常に多いというふうに思います。でも、有機農業の求めていることというのは物すごい幅広い内容があるはずなんですが、そのことがまだ消費者の方も作る側の生産者の方にも浸透しないという問題があるというふうに思います。
 その辺りを、価値をどう共有していくかというところが非常に大事だと思いますし、そういう点では、若い方の感性、感覚でもって次の見通しを立てていくというところが非常に大事なんじゃないかなというふうに思います。苦労といえば、そういうところを理解していただくということかなというふうに思います。
 以上です。(発言する者あり)
 先ほども、私というか、農家の方の要望として出てくるのは、結局、担い手、価格、それから耕作放棄地、獣害なんですね。基本的にはやっぱり価格をどう安定さすかというところでいえば、農業の多面的機能、農林水産省が出されたやつで二千二百億円ぐらいあったと思うんですけれども、現在直接支払でされているのが多分七十億ぐらいだったと思うんです。間違っていたらごめんなさい。まだまだ、評価されているにもかかわらず、直接的なそういう農業の多面的機能に対する支援がもっとあれば、安心して農業にチャレンジできるんじゃないかなというふうに思います。
 以上です。

○紙智子君 ありがとうございます。
 それでは、最後、佐藤参考人にお聞きします。
 以前、秋田の方にもお邪魔していろいろ説明をいただきまして、ありがとうございました。
 それで、佐藤参考人にお聞きしたいのは、ちょっと北海道と本州と大分違いがあるというふうには思うんだけど、農地利用の集積円滑化事業、これはやっぱり農地バンクに今回統合一体化するということなんですけれども、いや本当にこれ統合ということになるのかなというか、円滑化事業の実質的な廃止になるんじゃないのかなという気がして、なぜならば、この農業経営基盤強化促進法にあるこの円滑化事業の条文が見直し案に入っていないということがあるんですね。特に、市町村の基本構想に円滑化事業を記載した上で農業委員会の決定を経なければならないということで、農業委員会の関与が明確に書かれているんですけれども、見直し案にはそれが特に入っているわけではないと。
 つまり、ポイントとしては農業委員会の意思決定という問題。農地を流動化させる際に、これまででいえばというか、かつては農地の番人と言われてきた農業委員会の関与というのは重要だったわけなんですけれども、地域に根差したそういう円滑化事業を残して、必要に応じて農地中間バンクと連携するということが現実的なんじゃないのかなというふうにちょっと私なんかは思ってしまうんですけれども、その辺はどうなんでしょう。秋田の場合は相当今もう集約してきているんですけれども、ちょっとお聞きしたいと思います。

○参考人(公益社団法人秋田県農業公社理事長 佐藤博君) 当県の事情をお話ししますと結論が出ちゃうわけですけれども、やっぱり円滑化の直近の実績、最盛期の一割強ぐらいしかもうなくなっておりますし、先ほど申し上げましたように、もう満期を迎えるものから順次切替えしている状況にございます。
 これを、円滑化事業を残して、北海道さんですとかそれから愛知県さんみたいに、頑張っていらっしゃるところはやっぱりきちっとそれはこれからも頑張ってもらう道を残しておくべきだと思うんですね。ただ、大方のところにつきましては、大なり小なりうちの県と同じような状況じゃないかと思うんですね。農協さんの組合長さんにお話ししますと、じゃ任せたと、そうだねということで、これから発展的にこれをやっていくというのはちょっと私は現実問題厳しいと思いますね。ですから、市町村も同じでございます。多分、うちの方の首長なりJAの組合長にアンケート取れば、まずほぼ一〇〇%、機構に頑張ってくれと。
 ただ、私、ここで大事なのは、円滑化の制度云々をどうのこうのというよりも、これまでずっと農協さんですとか市町村が頑張ってきた、現場でいろいろと蓄積してきたものがあるわけですね。そうしたノウハウをやっぱり機構が機構事業の中でそれをしっかり生かしてもらうと、引き継いで生かしていくという考え方が大事だと思うんですね。
 ですから、極端に言えば、農家にしてみれば、これは出す方も受ける方も、円滑化だろうと何だろうと、やっぱりしっかりと農業経営に資するような形でやってくれればこれは問題ないわけですよね。そう考えますと、やっぱりここ五年で、私は農地政策で五年というのは極めてまだ短い期間だと思うんですね。これでこれを今また元に戻すというのは、私は、現場の方ではとてもでないけどちょっと耐えられないよなと、私でなくて、農協さんなり組合長さんが、首長さんが多分そう言うんでないかなと思いますし、何が困るって、農家が多分一番困るんでないかなと思っていますので。
 ですから、ちょっと新聞等で見ましたけれども、大臣がお話ししていた都道府県単位の機構なのか市町村単位なのかという、そういった二者択一でなくて、やっぱり一緒にやっていくという考えでいいところをこれからも引き継いでいってやっていくということが、やっぱり今、農家のためにも一番大事なのではないかなというふうに思ってございます。

○紙智子君 ありがとうございました。
 誰のために本当に役に立つのかということをしっかり考えた方向で推進できるようにしなきゃいけないというふうに思います。
 以上で終わります。ありがとうございました。