<第198回国会 農林水産委員会 2019年4月18日>


◇西日本豪雨の被害を受け、従来のため池の保全管理が不十分だったということかと質問/ため池法によって増える市町村の業務に対する国の支援や、防災工事の実施による財政面への支援を求めた/農業次世代人材投資事業について、交付対象を所得600万円以下としたことで支援が打ち切られた事例を紹介し、丁寧な対応を求めた/新規就農者に対する間口は広げることが必要だと主張/農業次世代人材育成投資事業の投資対象者の考え方についてという通知は撤回すべきだと主張

○農業用ため池の管理及び保全に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 昨年七月の西日本豪雨災害を受けて、農林水産委員会で広島、岡山に調査に行きました。あれから八か月です。復興のために努力している皆さんに敬意を表したいと思います。
 福山市で決壊した堂ノ奥池に行きましたけれども、このため池というのはいつできたか分からないところで、木がうっそうと茂っていましたよね。同じ福山市内でため池が決壊して、大量の泥水が民家を直撃して三歳の女の子が亡くなったということでした。
 危険なため池であることが把握されていれば、集中豪雨の備えや避難をすることもできたと思うんです。ため池の決壊や河川の氾濫、山の崩壊など自然災害に備えて、まずは自ら身を守るということ、それから家族や近所で助け合うと。行政は、事前にやっぱり危険箇所を把握し、いざというときにいち早く住民に知らせて対応する責任を果たすというのが大事だと思いますので、今回のこの新たな仕組みというのは必要なんだというふうに思います。
 そこで、西日本豪雨で六府県の計三十二か所でため池が決壊しましたが、防災重点ため池に選定されていたのは三か所だけと。選定されていないため池が、これなぜ決壊したんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) これまでの防災重点ため池は、国が、下流に家屋や公共施設等が存在をして、決壊した場合に影響を与えるおそれがあるものとの考えを示していたものの、都道府県が独自に選定基準を策定しておりましたために規模の小さいため池が選定されていなかったものでございます。
 七月豪雨で決壊をいたしましたこの三十二か所のため池の多くは、築造年が不明又は古く、周辺地の山の強度が低い真砂土を使って築造されていたために決壊したものであると認識もいたしております。
 今後は、決壊等により人的被害が生じないように防災重点ため池の選定の考え方を全国統一基準にいたしまして、本法案に基づく特定農業用ため池の指定を行い、優先順位を付けて、施設の補強に向けた対策と避難行動につなげる対策を効果的に推進をしてまいりたいと思っております。

○紙智子君 農林水産省は、西日本豪雨被害を受けて、ため池対策検討チームというのをつくったわけです。検討したということは、従来のため池保全管理が不十分だったということでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 昨年の七月豪雨を踏まえまして、農林水産省本省、研究機関、広島県等地元関係者等から成るため池検討チームで今回の災害の原因と今後のため池対策の在り方について検討いたしました結果、約二十万か所のため池のうち十万か所しかデータベースに登録をされておらず、ため池の所在地や所有者、使用実態が把握されておりませんでした。
 利用実態のないため池や日常の維持管理が適切に行われていないため池が数多くあることが判明をいたしました。権利関係が不明確かつ複雑で、補強や撤去を行うにも権利者の合意が取れないため池も増えておりました。施設の構造上の課題に加えまして、管理保全に関する課題が明らかになったところでございまして、これらの課題に対応するために本法案を今国会に提出をいたしたものでございます。
 これを機に農業用ため池の適正な管理及び保全が効果的に行われるように、農林水産省といたしましても万全を尽くしてまいりたいと存じております。

○紙智子君 災害に強い町づくりということは必要なわけですけれども、従来の対策のやっぱりどこに弱点があったのかということを明らかにすることは、今後の対策につなげる上では大事だというふうに思っています。
 それで、農業用ため池は、全国、今二十万か所あるというふうに言われていますけれども、江戸時代以前に築造された施設も多く、管理者がデータベース化されたのは約九万六千か所と。データベース化されたため池のうち、管理者が不明なため池が三%の二千四百か所というふうに聞いています。
 管理者が不明なため池二千四百か所のこの対応、対策、いつまでにこれ完了するということでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農村振興局長 室本隆司君) 管理者が不明又は不在の農業用ため池というのは、まず、農業上の利用が著しく低下しているか全く使われていない状態にある場合が多いというふうに考えておりまして、今後、法に基づき整備するデータベースでは、届出のあった所有者、管理者に関する情報により改めて情報の把握を行うということになろうかと思います。
 その上で、依然として管理者が不明又は不在である場合についてですが、施設を廃止するか、あるいは治水などの他用途に転用するのか、地域の関係者において速やかに決めていただく必要があると考えておりまして、仮に廃止工事を行う場合は国の定額の補助事業を活用することが可能であります。また、この法律に基づいて廃止する必要がある農業用ため池について、所有者の探索を行ってもなお特定できない場合には、公告手続を経て都道府県知事が代執行することができる仕組みを導入してございます。

○紙智子君 今後、データベース化されると対策が必要なため池が増えると思いますので、迅速な対応が必要だと思います。
 そこで問われるのは、先ほどもちょっとありましたけれども、台風シーズンにいよいよまた向かうと、今年の夏をどうするかということもあるわけで、昨年の経験から、ため池が決壊する危険性があるのであれば早い段階から住民に知らせて避難対策を示すことが必要だというふうに思います。
 それで、五月末に向けてため池の再選定を行っていますけれども、ため池法が今年の夏に備えてどういう役割を発揮するんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農村振興局長 室本隆司君) まず、委員がおっしゃるように、夏の台風シーズン前にこの法律を施行することによりまして、再選定が五月の末ということでございますので、それを経て、この法律の手続を経て、まずは特定農業用ため池、これが指定されることになります。これは恐らく一挙に行われるのではなくて、数が多いものですから優先度等を勘案しながら、各都道府県で順次、といえども遅くならないようなスケジュール感で進めていくのではないかと考えておりますが、この法律の施行によりまして、現場レベルではため池の管理上必要となる措置が講じられていないと認められる場合には、まず都道府県による勧告が可能となると、勧告を出せるということになります。
 特定農業用ため池については、必要な防災工事が行われない場合の都道府県による工事命令あるいは代執行と、こういうことも可能になってきますし、所有者不明で適正な管理が行われていない場合の市町村による施設管理権の設定、つまり、今まではほったらかしになっていたんだけど、市町村の方で管理権を持てるという手続にも入れますし、あるいは、委員がおっしゃるように、円滑な避難を図るためのハザードマップ、この作成が促進されるというふうな効果があると考えてございまして、そういう観点からも早期に施行することが望ましいというふうに考えてございます。

○紙智子君 やっぱり、昨年のような被害が出ないようにしっかりとした対策が必要だというふうに思います。
 それで、ため池には洪水調節機能、土砂流出機能があるわけですけれども、このため池を廃止してこうした機能が失われてしまったら困ると。洪水機能調整を維持するためにため池を残したいと住民が求めた場合にどういう対応すればいいんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農村振興局長 室本隆司君) 仮にそのため池が農業利用がなくなっているため池であれば、管理者不在等によって適正な管理が行われないおそれが高いことから廃止していただくのが基本ではないかと考えておりますが、委員がおっしゃるようにそういう声が現場にあるのであれば、ストックの有効活用の観点から治水目的、洪水調節目的などの他用途に利用されることも十分あり得るというふうに考えてございます。ただし、農業利用を廃止して他用途に使うということになれば、新たな管理者や財産の所有者を決めていただいて、適切に管理していただく者も決めていただかなければいけないと、こうなります。
 仮に治水目的、洪水調節目的で補修、補強を行う場合には、治水施設としての施設基準に適合させる必要があることから、治水部局の補助事業等を活用していただいてこのため池の再整備を進めていただくということになりますが、全てそういう治水部局に任せるのではなくて、農水省としても関係行政機関とか地元の調整に乗り出していって、関係省庁と連携が取れるようしっかり取り組んでまいりたいと考えてございます。

○紙智子君 防災工事についてお聞きするんですけれども、危険なため池と認定されて、改修費用が掛かるわけですよね。それで、データベースに登録されているため池のうち、集落、個人等が管理者になっているため池が五万六千か所というふうに書いてありますよね。地震、豪雨に備えて防災工事をする際に、これ自己負担はあるのでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農村振興局長 室本隆司君) これは、当該管理者である集落等が自ら工事を行う場合は当然自己負担でやっていただきますが、普通はそういう莫大なお金を自己投資できるわけではありませんので、ほとんどは県営事業で行うことになります。
 その場合、豪雨対策、地震対策ということで工事を行うということであれば、農家負担はゼロということになっております。

○紙智子君 市町村の業務と防災工事への支援についてもお聞きします。
 ため池法案では、所有者が不明で適正な管理が困難なため池は市町村が管理権を取得することになっています。昨年の森林経営管理法などもそうなんですけれども、市町村の業務がそれによって増えているわけですよね。ため池法によって増える市町村の業務に対する国の支援があるのかと、また、防災工事の実施に当たって財政面を支援すべきではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農村振興局長 室本隆司君) まず、工事の関係でございますが、今回、特に三か年の緊急対策工事を行っていただく場合には、起債充当率が一〇〇%、交付税措置が五〇%という防災・減災・国土強靱化緊急対策事業債というのが活用できることになっておりまして、地方公共団体の負担軽減が図られるというふうに考えております。
 それから、一つ目におっしゃいました行政事務が増えるということに対しても、普通交付税の中で適切に措置されることと考えてございます。

○紙智子君 昨年は、このため池の決壊によって多くの被害が発生しました。今年からは、やっぱり早く住民に知らせて、甚大な被害が発生しないように全力を尽くしていただきたいと思います。
 あともう少し時間ありますので、前回、先週ですかね、藤木議員が質問されておりました新規就農支援の制度についてお聞きをしたいと思います。
 農林水産省は四月一日に、農業次世代人材投資資金の投資対象者の考え方についてという通知を出しました。新規就農支援制度の対象を前年度の世帯全体の所得が六百万円以下にするというものです。これなぜ足切りをするんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省経営局長 大澤誠君) お答えいたします。
 農業次世代人材投資事業につきましては、これまでも生活費確保が必須の者などを優先するよう求めておりましたが、事業実施主体でございます自治体等から明確な基準等を提示してほしいとの要望があったところでございます。
 農林水産省といたしましては、こうした要望等を踏まえ、今年度の本事業の交付に際しまして、真に支援を必要とする方々に次世代投資資金が効果的に活用されるよう、支援対象者の採択に当たって考慮すべき考え方を示すということで、四月一日付けで御指摘のとおり課長通知を発出いたしまして、交付対象者の考え方の一つとして六百万円以下という数字を具体的にお示ししたものでございます。
 なお、これはあくまで優先すべき者を示したものでございまして、六百万円を超える所得があったとしても支援対象とすべき者であると事業実施主体が判断する場合には、予算の範囲内で交付対象とすることは可能であると考えておりまして、四月三日にその旨関係者に通知したところでございます。

○紙智子君 今のお話でも、明確な基準を提示してほしいというふうに市町村から要望があったというふうに言って、それで考え方なんだというふうに言いながら、もう一方で、今の答弁にあったように、市町村の判断で支援対象にすることができるというふうに言っているわけですよね。市町村の判断というのであれば、やっぱり足切りの通知は出すべきではないと思うんです。市町村から問合せがあれば相談に乗ればいいのであって、通知にしてしまうとこれが独り歩きして、実質的にはもうそれが基準になるという面があると思うんですね。
 それで、昨年度の実績に当てはめた場合に、この足切りで給付を打ち切られる方というのは何人になるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省経営局長 大澤誠君) お答えいたします。
 昨年度交付した方の報告が全て上がってきておりませんので、今上がってきている範囲でお答えいたします。
 現時点で、農業次世代人材投資事業平成三十年度新規採択者は、準備型、研修等を行います準備型で約千人、経営開始型約二千人と見込まれておりますけれども、このうち、現時点で交付対象から氏名等の交付情報の報告がありましたのは、準備型三百六名、経営開始型二百四十五名でございます。これらについて、世帯所得が六百万を超えるかどうかで見ますと、六百万円を超える方は準備型で七十三人、これは三百六人のうちですので約二割、それから経営開始型は二十六名、これは二百四十五人のうちでございますので約一割となってございます。

○紙智子君 だから、切られてしまうという人たちが実際に出てくるんだけれども、今学校に通っているという方から訴えがあったんですね。北海道の親から給付金をもらえなくなったという通知が来たので、学校をやめなければならないと。で、実家の農家を継ぐということで給付金を受けてきたんだけれども、父と母と祖父で六百万円の年収というのは高過ぎるんですかということですよね。
 大臣、この方は兄弟もいて、お父さん、お母さん、それからおじいちゃん、家族三人で六百万円というのは高過ぎるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 高過ぎるかどうかと言われるとなかなか返答に困りまするけれども、まあ決して高くはないんではないでしょうか。

○紙智子君 そうなんですよね。
 だから、やっぱり本当にぎりぎりかつかつでやっているという中でこういうふうに通知出されて、それでもらえないからという話になると、こういう具体的な話も出てくるので、ここは是非、まあ市町村の判断でということでもあるので、相談に乗っていただいて、ちゃんと丁寧な対応をしてほしいというふうに思うんですけど、大臣、どうでしょう。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 今、大澤局長からもお答えをさせていただきましたけれども、今回の通知はあくまでも優先して採択すべき者の考え方を示したものでございまして、六百万円を超える所得があったとしても支援対象とすべき者であると事業実施主体が判断する場合には、予算の範囲内で交付対象とすることはもちろん可能でございます。
 また、所得だけで判断するのではなくて、就農ビジョンと研修の目的が明確かどうか、就農が確実に見込まれるかどうかも併せて考えることといたしております。
 これらの点を丁寧に現場に説明をいたしまして、事業実施主体が、個別の事情をよく勘案しつつ、真に支援を必要とする方々が採択されますように適切に指導してまいりたいと存じますし、間違ったメッセージを与えないように今後は適切にやってまいりたいと思います。

○紙智子君 大臣、先日、食料自給率について質問したときに、大臣は、生産基盤が弱体化しているということで、若手の新規農業者を着実に増やしていくことなどもしっかりと対応したいというふうにおっしゃったんですよね。
 新規就農者を増やすために、この間口をやっぱり広げるということが必要なんだと思うんです。間口を広げるんじゃなくて狭めるようなことはやっぱりやるべきじゃないというふうに思うんですけれども、狭めることになるんじゃないかと、これは、どうですか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 今も私がお答えさせていただきましたように、そのようなことがないように、真に支援を必要とする方がきちっと採択されるように、適切に更に指導してまいります。

○紙智子君 安倍総理も、安倍政権になってから新規就農者が増えているということで、成果として強調してきたわけですよね。だから、やっぱり農業の次世代人材投資資金の投資対象者の考え方についてという通知は、これ新規就農者の夢を壊して現場に混乱を与えてしまうということなので、撤回すべきだということを申し上げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

○委員長(堂故茂君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 農業用ため池の管理及び保全に関する法律案に賛成の方の挙手をお願いします。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(堂故茂君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、田名部君から発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代君。

○田名部匡代君 私は、ただいま可決されました農業用ため池の管理及び保全に関する法律案に対し、自由民主党・国民の声、立憲民主党・民友会・希望の会、国民民主党・新緑風会、公明党、日本維新の会・希望の党及び日本共産党の各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    農業用ため池の管理及び保全に関する法律案に対する附帯決議(案)

  農業用ため池は、農業用水を供給する施設として我が国農業の発展に重要な役割を果たしてきた。近年、台風等による豪雨や大規模な地震等により農業用ため池が被災する事例が発生している一方で、江戸時代以前に築造された古い施設や築造時期が明らかでない施設が多く、管理が適正に行われなくなることが懸念される状況にある。
  よって、政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 都道府県及び市町村が農業用ため池の適正な管理及び保全に関する施策を講ずるに当たって、農業用ため池に係る正確な情報が、都道府県の整備する農業用ため池に関するデータベースに蓄積されることが前提となる。このため、所有者等による届出が確実に行われるよう周知徹底を図るとともに、市町村が農業用ため池に係る情報を把握できるよう配慮すること。
 二 決壊による水害等により周辺区域に被害を及ぼすおそれがあるため池の防災工事が迅速かつ確実に行われるよう、特定農業用ため池の指定の要件を適切に定めること。
 三 農業用ため池の管理や廃止に当たっては、地域における水利用の在り方、農業用ため池の位置付け、必要な対策について、農業用ため池の所有者・管理者、農業用水の供給を受ける農業者及び地方公共団体の関係者が十分に話し合いを行うよう、ガイドラインの策定等による支援を行うこと。
 四 地方公共団体又は農業用ため池の所有者等が施行する防災工事に対して、適切な財政上の支援を確保するとともに、農業用ため池の所有者等が行う適正な管理に対して、必要となる資金面及び技術面からの援助を実施すること。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ御賛同をお願いいたします。

○委員長(堂故茂君) ただいま田名部君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手をお願いします。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(堂故茂君) 全会一致と認めます。よって、田名部君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。