<第196回国会 2018年6月15日 本会議>


◇卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律案に対する反対討論

○卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、卸売市場法及び食品流通構造改善促進法一部改正案に反対する討論を行います。
 卸売市場法等改正案は、衆議院、参議院とも僅か六時間の質疑で採決されました。与党推薦の参考人から、地方自治体や議会が関与しないと市場システムが崩れるとの指摘がありましたが、こうした懸念を払拭することなく短期間で質疑を打ち切ったことに抗議するものです。
 現在の卸売市場法の基本骨格となったのは、大正時代に成立した中央卸売市場法があります。一九一八年、問屋による米の買占め、価格のつり上げに反対した米騒動が契機となっています。今年はそれから百周年です。改正案について、市場関係者から、改善すべき課題はあるものの、卸売市場の公正公平な価格形成機能は、一世紀を経た今日もなお大きな力を発揮していると言われています。にもかかわらず、記念すべき年になぜ変えるのでしょうか。
 安倍政権は、官邸主導、規制改革推進会議主導で農政改革を進めています。卸売市場法の改悪も、規制改革推進会議がTPP対策の一環として時代遅れの規制は廃止すると提言したことがきっかけでした。卸売市場ができた歴史から学ばず、現場を置き去りにした農政改革はやめるよう強く求めるものです。
 以下、反対理由を述べます。
 本改正案に反対する最大の理由は、卸売市場に対する公的な役割を後退させるものだからです。
 卸売市場法の目的は、卸売市場の取引規制と、国、地方が行う整備計画という二つの柱を据えることで、生鮮食料品の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図ることにあります。ところが、改正案は、二つの柱を目的から削除するとともに、八十三条の条文を十九条に削減するものです。参考人は、改正案を、事実上の卸売市場制度を解体の危機に直面させるものと指摘しています。卸売市場法を骨抜きにすべきではありません。
 改正案は、中央卸売市場の開設について、国の認可制から認定制に変えるものです。認定制に変えることになればどうなるでしょうか。中央卸売市場などは認定を受ける卸売市場になりますが、認定を受けない卸売市場を開設することもできます。事実上、認定を受けた卸売市場と認定を受けない卸売市場が共存することになります。
 認定外の卸売市場は、どこからも指導、監督など、規制を受けることがありません。共存すれば、卸売市場間の競争が激化し、認定卸売市場の経営が困難になるかもしれません。認定を受けた卸売市場がどのような影響を受けるのかと聞いたところ、卸売市場は既に競争していると開き直りました。行き過ぎた市場間競争は歯止めを掛けるべきです。
 中央卸売市場は、地方公共団体が開設者になり、生鮮食品の流通に必要な規模と施設を整備したからこそ、卸売会社や仲卸会社は自前の土地や建物を持つ必要がなく、安心して生鮮食料品の取引に専念することができたのです。住民に安定的に安全な生鮮食品の供給に果たしてきた卸売市場の枠組みに風穴を空けることは許されません。
 認可制を認定制に変えることで、国の関与は大きく後退することになります。現在、国は、中央卸売市場の卸売業者を監督し、問題があれば、業務改善命令、業務停止命令を出して、業者名も公表しています。認定制になれば、卸売業者が市場開設者になることができますが、問題が発生しても、自分を自分で監督するということになります。国が業者名を公表することもありません。国の責任放棄と言わざるを得ません。
 地方自治体と議会の関与が弱まることも問題です。財政負担に苦しむ自治体が卸売市場の運営から撤退すれば、大手小売企業に都合の良いバックヤードと化し、住民に食料を安定供給する自治体の使命が果たせなくなります。公的に行われていた食品衛生検査員の派遣ができなくなり、食の安全性が後退しかねません。
 東京都は、国の動きに合わせて、築地卸売市場の広域拠点化を進めています。築地市場は、築地ブランドとして世界でも注目され、水産物取扱量では世界一を誇っています。豊洲に移転したら、豊洲と築地に市場機能がばらばらにされ、築地の市場機能が困難になると築地の女将さん会を始め関係者は批判の声を上げています。
 今は国が関与していますが、認定制になれば国は手を引くのかと聞いたところ、価格形成は大事だから、そうした卸売市場は認定するとの答弁がありました。参考人からは、汚染されていることを知りながら豊洲移転を進めている、築地が更地になると元に戻すのが困難になり、築地ブランドが後退すると言われました。価格形成機能が大事だというのであれば、市場機能をばらばらにしてはなりません。市場機能と築地ブランドを守るよう求めるものです。
 第二の理由は、需給調整と価格形成を行う卸売市場の機能を損なうものだからです。
 第三者販売、商物分離、直荷引きが自由化されたら、卸が仲卸を通さない直接取引で価格決定が行われるとともに、大手流通、小売業界の販売力が強まり、公平公正な価格形成が損なわれます。
 卸と仲卸の皆さんは、第三者販売などが自由化されると、卸売業者と仲卸業者、売買参加者が対峙する関係が崩れる、卸売市場の根幹である公平公正な価格の形成が損なわれると言い、参考人は、不公正な価格形成になると、地域経済が資本の原理で動き、窒息しかねないとの指摘があります。これが、日々市場で品物を扱っている皆さんの実感です。
 原則は維持しつつ改善で対応すべきで、第三者販売、商物分離、直荷引きの自由化はやめるべきです。  第三の理由は、中小の仲卸業の淘汰が進む懸念があるからです。
 卸売市場に荷が集まらなくなれば、今でさえ厳しい経営が一層苦しい状況に追いやられるでしょう。仲卸業者の利益率は低く、脆弱な経営体質を支えているのが公設市場です。業者と地方自治体が組むことで、低コスト供給システムをつくることが可能になりました。
 衆議院に参考人として出席した中澤誠参考人は、競りが減っても仲卸は価格形成で重要な役割を果たしている、築地市場で五百の仲卸が商品の値を聞き歩くことで相場観が生まれる、これが価格形成機能の維持に力を発揮していると言われました。
 仲卸業者が廃業に追い込まれたら、目利きの力に依存してきた専門小売店、料理店、すし店などの仕入れも困難になります。品質を見極める目利きの力、マンパワーは、卸売市場でなくてはならない力です。日本のブランドを育てた仲卸業への支援を強化こそすれ、リストラを迫ることがあってはなりません。
 我が国では、北海道から沖縄まで南北に長い国土で、季節ごとに多種多様な生産が行われています。それを収集、中継、分散し、公正な価格で消費者に届ける、これを保障しているのが卸売市場法で言う差別的取扱い禁止の法規制です。こうした役割を果たしている卸売市場の役割を後退させてはなりません。
 改正案は廃案にすることを求め、反対討論といたします。(拍手)