<第196回国会 2018年6月1日 本会議>


◇参議院本会議/TPP11は、「食の安全や医療、雇用、地域経済も脅かされ、農業は壊滅的な打撃を受ける」と批判/輸入品の検査の短縮など食の安全も後退させられる危険を告発/北海道の農民の声を紹介し、政府の認識をただす

○本日の会議に付した案件
 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案(趣旨説明)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部改正案について、安倍晋三総理に質問いたします。
 衆議院において、TPP11協定案は五月十八日に、TPP整備法案は二十四日に、多くの国民が反対する中、採決されました。
 国政の私物化と批判されている森友、加計疑惑、自衛隊のイラク日報問題など、疑惑の解明には蓋をしながら、五千ページに及ぶ協定案の質疑は、外務委員会で僅か六時間、TPP整備法案も十七時間という短時間で質疑が打ち切られました。
 参考人からは、何がメリットなのか曖昧だ、TPP11はTPP以上に大きな打撃となる、影響試算も納得できないなどの意見が出されました。
 国民生活と国内産業、地域経済に大きな影響を及ぼす法案を、会期末が近づいたからといって採決を強行することがあってはなりません。国民の意見を聞いて、丁寧に審議すべきではありませんか。答弁を求めます。
 安倍総理、思い起こせば、あなたの通商政策は、国民を欺くばかりです。
 自民党は、野党時代には、TPP断固反対、六つの選挙公約を掲げました。政権に就くや否や、アメリカを訪問し、聖域なき関税撤廃が前提でないことが分かったなどと言って、TPP、環太平洋経済連携協定に参加しました。
 アメリカのトランプ大統領がTPPからの離脱を表明すると、アメリカ抜きのTPPはあり得ないと言いながら、いち早くアメリカを訪問し、アメリカの意向に沿って二国間の交渉を求める日米経済対話の枠組みをつくりました。
 日米経済対話において日米交渉が進展しないことにアメリカが不満を漏らすと、アメリカのいら立ちを抑えるために、茂木大臣とライトハイザー通商代表との間で新たな経済協議の場、FFRを設けました。
 日本農業新聞が四月に行ったモニター調査では、安倍農政を評価しないが七割を超えています。安倍総理、あなたは、二年前、TPPの慎重審議を求めた農業者や消費者、地方自治体関係者の意見を忘れたのですか。
 TPPは、トランプ政権が離脱したことで発効できなくなりました。
 TPP11は、そのTPP協定の一部を除き、TPPをよみがえらせるものです。第一条でTPPの全条項を取り込み、二条でTPPの一部の項目を凍結しました。生物製剤などアメリカが押し込んだ項目に各国から不満が噴出したからです。第六条は協定の見直し規定で、TPP協定の効力発生が差し迫っている場合又はTPP協定が効力を生じる見込みがない場合に見直すことになっていますが、この凍結項目も含め、アメリカの意向に合わせた協定ではありませんか。
 アメリカが抜けたとはいえ、TPPの本質は全く変わりありません。多国籍大企業や国際競争力の強い国の利益を優先し、関税の原則撤廃や投資の自由化を参加国に押し付け、各国の経済主権や食料主権を侵害するものです。
 日本にとっては、食の安全や医療、雇用、地域経済も脅かされ、農業は壊滅的な打撃を受けるものではありませんか。答弁を求めます。
 日本の農業の生産基盤の弱体化や、食料自給率の低下に拍車を掛けるのがTPPです。
 安倍総理、あなたは、今年の施政方針演説で、攻めの農政によって生産農業所得は直近で三兆八千億円となり、過去十八年で最も高い水準になったと言われました。
 しかし、食料自給率は三七・五%、一年間で約二%低下し、冷害で苦しんだ一九九三年を除けば最低です。販売農家は、二〇一〇年の約百六十三万戸から二〇一七年には百二十万戸に、基幹的農業従事者は約二百五万人から百五十万人に減少し、耕地面積も四百五十九万三千ヘクタールから四百四十四万ヘクタールへと減少しています。
 今年の冬は、生産量が減ったという理由で野菜価格が高騰しました。これは一時的なものではありません。近年、野菜や果実、肉類などでは生産量、供給量が減り、価格が上昇しました。大手農機具メーカーの経営者は、食料の生産基盤はかなり厳しい状況であり、生産基盤の弱体化で食料問題になってくる可能性があると語っています。価格が高騰しているのは、生産基盤が弱体化し供給量が減ったことに原因があるんです。
 齋藤農水大臣は私の質問に生産基盤の弱体化を認めましたが、総理も同じ認識でしょうか。
 TPP整備法で経営安定対策を行うと言いますが、生産基盤の弱体化に歯止めを掛けることができるのですか。答弁を求めます。
 TPP11は、アメリカが抜けたことで、日本の農業にとってメリットがあるのでしょうか。
 TPPで譲歩したバターと脱脂粉乳の低関税輸入枠は残されたままです。七万トンの枠を、ニュージーランド、オーストラリア、カナダなどが対日輸出を迫ってくることになります。そうなれば、アメリカの畜産業界は不満を募らせ、日本と二国間交渉での圧力を強めるのは必至です。日本政府には、その場合、対抗できる手だてはあるのですか。お答えください。
 TPP11の農林水産業への影響試算についてお聞きします。
 政府が公表した影響試算では、農林水産物の生産額は約九百億円から千五百億円下がるものの、国内対策を行うから国内生産量は維持できる、農家所得も食料自給率も変わらないというものですが、余りにもこれは過小に見積もっているんじゃありませんか。
 カナダも影響試算を公表していますが、対日輸出で八・六%増加する、その大半が農林水産物だと言っています。ニュージーランドも対日輸出は、乳製品で八四・九%から一一九%増えるとしています。そのことを把握していますか。
 熊本県は、独自の影響試算を公表しました。減少額は政府試算の二倍の最大九十四億円になるとしつつ、今後の国の対策が十分でない場合は更に影響が大きくなる可能性があるとしています。本当にこんなTPP11を進めていいのですか。
 輸入品の検査は、平均九十二時間掛かっている検疫所通過を四十八時間以内にすること、違法な遺伝子組換え食品が見付かっても突き返さずに輸出国と協議する等、こういう食の安全を後退させることはやめるべきではありませんか。
 TPP11には守秘義務はありません。国民への丁寧な説明と言うならば、情報は全て公開にすべきです。答弁を求めます。
 私のふるさとである北海道は、日本の食料基地として大きな役割を果たしています。北の大地で長年を掛けて今日の生産基盤をつくってきました。
 冬はいてつく厳寒の大地で、農家は、今は大変だけれども、春が来たら雪は解ける、だから頑張れる、でも、TPPが来たら春は来ないと言っているんです。これはオール北海道の思いです。
 今、各国で歯止めなき自由化の動きに反対する世論が高まっています。各国の経済主権を尊重しながら民主的で秩序ある経済の発展を目指す、平等、互恵の貿易と投資のルール作りこそ求められている流れではないでしょうか。TPPに断固反対することを表明し、質問といたします。(拍手)

   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 紙議員にお答えをいたします。
 国民の意見を聞いて丁寧に審議すべきとのお尋ねがありました。
 TPPについては、既に合計百三十時間を超える国会審議や三百回以上に及ぶ説明会を通じ、国民の皆様に丁寧に説明をしてきたところであります。
 そうした中で、TPP11協定は、一部の凍結項目を除き、TPP12のハイスタンダードな内容が維持されており、また、今回のTPP整備法の改正内容も実質的に施行期日のみを改正するものであり、TPP12のときと比べて、十本の法律に係る改正事項に変更はありません。
 いずれにせよ、政府としては、今後とも、一層の国民理解を得ることを目指し、引き続き、国会審議を通じて丁寧な説明を行うことも含め、不断の努力を重ねてまいります。
 TPPに対する様々な意見に関する認識についてお尋ねがありました。
 TPPについては、様々な不安を持っておられる方々がいらっしゃることは承知しており、総合的なTPP等関連政策大綱に基づき、農林水産業者、地方自治体関係者等に対してきめ細やかな対策を講じることにより、そうした不安や懸念にもしっかりと向き合ってまいります。
 こうした政策の中身については、この二年間、求めに応じて説明会を実施するなど、農業者や消費者、自治体関係者等の皆様に説明する努力を重ねるとともに、その声に耳を傾けてまいりました。今後とも、丁寧な説明を心掛け、一層の理解を得るよう努力してまいります。
 TPP11は米国の意向に合わせた協定ではないかとのお尋ねがありました。
 近年、世界で保護主義への懸念が高まる中、このアジア太平洋地域に自由で公正なルールに基づく経済圏をつくり上げるとの意思を世界に示すことは、自由貿易を推進する観点から、画期的な意味があります。
 TPPは、我が国を含め十一か国全てがこうした思いを共有し、米国が離脱した中でも、TPP交渉で生まれたモメンタムを維持するべく、早期合意を目指し、物品市場アクセスの内容を含めた協定の内容自体の修正は行わず、米国が離脱したことに伴う一部ルールを凍結することによって策定した協定であります。
 このため、米国の意思に合わせて策定された協定との御指摘は当たらないと考えます。
 TPPの食の安全や医療、雇用、地域経済、農業への影響についてお尋ねがありました。
 TPPは、単に関税を下げるだけではなくて、幅広い分野について、二十一世紀型の自由で公正なルールをつくり出すものであります。その結果として、最大のメリットは、消費者の皆さんが、域内の様々な良い商品をより安く、安心して手に入れることができるようになります。さらに、手間暇掛けて良いものをこしらえてきた我が国の雇用や地域経済を支える中小・小規模事業者、農家の皆さんに大きなチャンスが生まれます。
 TPPには、食の安全や国民皆保険、地域経済を脅かすようなルールは一切ありません。こうした点についても、引き続き丁寧に説明してまいります。
 同時に、政府として、総合的なTPP等関連政策大綱に基づき、農業者や中小・小規模事業者の皆さんに対してきめ細やかな対策を講じ、それでもなお残る不安や懸念にもしっかり向き合っていく考えであります。
 農業の生産基盤についてお尋ねがありました。
 農業従事者の平均年齢が六十六歳を超えるなど、農業の生産基盤を含め、農業をめぐる状況が非常に厳しいことは私も認識しております。
 安倍内閣では、こうした状況を正面から受け止め、農業の活性化は待ったなしとの強い危機感の下、米の生産調整の見直し、農地集積バンクによる農地集積や輸出促進、若者の新規就農の支援など、農政全般にわたる抜本的な改革を進めてまいりました。これにより、四十代以下の若手新規就農者は統計開始以来初めて三年連続で二万人を超えるなど、着実に成果が出始めています。
 さらに、TPPの影響についても、総合的なTPP等関連政策大綱に基づき、コスト低減や品質向上などの体質強化対策や、経営安定対策を充実させることで、引き続き国内の生産量が維持されると見込んでいます。
 安倍内閣としては、TPPを攻めの農林水産業に切り替えるチャンスと捉える若者が夢や希望を持てる農林水産新時代を構築していく決意であります。
 TPP11の我が国農業へのメリットと低関税輸入枠についてお尋ねがありました。
 TPPは、単に関税を下げるだけではなく、幅広い分野について、二十一世紀型の自由で公正なルールを作り出すものであります。良いものが良いと評価される広大なマーケットが生まれ、品質の高いものをこしらえてきた我が国の農業者にとって大きなチャンスであります。
 その上で、協定の第六条では、米国を含めたTPPが発効する見込みがなくなった場合等には、締約国の要請に基づき協定の見直しを行うと規定しています。
 この点、米国からの輸入量も念頭にTPP12協定で合意された個別の関税割当て等について、我が国として第六条に規定する将来の見直しの対象と考えております。こうした我が国の考え方は、各国に明確に伝え、十分理解を得ていると考えています。
 米国も含め、将来の協議等について予断を持ってお答えすることは困難ですが、いずれにしても、我が国としては、いかなる国とも国益に反するような合意を行うつもりはありません。
 TPP11の影響試算についてお尋ねがありました。
 TPPについて、カナダやニュージーランドなど、各国でそれぞれ経済効果を分析、公表していることは承知していますが、前提や試算の根拠が明らかでないため、コメントすることは差し控えたいと考えています。
 TPPについては、我が国が交渉を主導することで、特に農業分野について、重要五品目を中心に、関税撤廃の例外をしっかり確保し、関税割当てやセーフガード等の措置を獲得することができました。
 それでもなお残る農業者の方々の不安を受け止め、安心して再生産に取り組めるよう、総合的なTPP等関連政策大綱に基づき、体質強化や経営安定など万全の対策を講じてまいります。
 今回の農業についての試算は、こうした点を十分に勘案して、過大でも過小でもなく、適切に評価した結果であると考えています。
 食の安全についてお尋ねがありました。
 食品安全に関する制度については、食品安全委員会のリスク評価を経ていない遺伝子組換え食品の輸入、販売等の禁止を始め、TPP協定によって一切変更を求められておりません。
 消費者の健康を守るため、国産品であれ輸入品であれ、安全性が確保されたものでなければ流通は許されない、これは食品行政上の大原則であり、今後もこの原則を堅持してまいります。
 TPP11の情報公開についてお尋ねがありました。
 TPPについては、協定の内容等に関する各種説明資料、分野別の中小企業向けの資料など、これまで四千ページ以上に及ぶ資料を情報を公開しております。
 交渉のやり取りを明らかにすることはお互いの信頼関係の下に控えるというのが、条約、協定交渉における一般的な考え方でありますが、可能な限り、一層の国民理解を得るため、積極的な情報提供と丁寧な説明を行うことにより、引き続き不断の努力を積み重ねてまいります。(拍手)