<第196回国会 2018年5月16日 本会議>


◇参院本会議/法案説明資料のねつ造を指摘し廃案を求める/規模拡大推進のため、森林経営者の経営の自由を奪う仕組みだと指摘/林業の再生を図ることが重要と主張

○本日の会議に付した案件
 森林経営管理法案(趣旨説明)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、森林経営管理法案について、まず農林水産大臣に質問いたします。
 本法案は、戦後林政を大転換させるものです。それなのに、衆議院は僅か六時間の政府質疑と参考人質疑のみです。参考人からは、作成プロセスが余りにも密室的、森林所有者に対して余りにも強権的で、廃案にするのが望ましいという意見が出されました。しかも、採決後には、法案提出の根拠となる説明資料を書き換えました。戦後以来の林業改革というのに、国民的な議論もなければ国会への丁寧な説明もありません。齋藤大臣、国民置き去りではありませんか。
 本法案の審議の前提となる説明資料の捏造問題についてお聞きします。
 林野庁は、森林所有者から経営管理権を取り上げることを正当化するため、八割の林業者は経営意欲が低いとする資料を用いて説明しました。その基となったのは、林業経営規模の意向についてのアンケートでした。その回答は、現状を維持したい七一・五%、縮小したい七・三%でした。これを合わせて、八割は経営意欲がないと決め付けたのです。経営規模拡大の考えがなければ経営意欲がないとねじ曲げる、これは政府に都合のいい数字をつくり上げるための捏造そのものではありませんか。
 こうした指摘を含め、説明資料の訂正は八か所にも及びました。余りにもずさんで、法案審議をゆがめるものです。国会軽視そのものではありませんか。
 安倍晋三首相は、施政方針演説において、戦後以来の林業改革に挑戦します、意欲と能力のある経営者に森林を集約し、大規模化を進めます、その他の森林も、市町村が管理を行うことで国土を保全し、美しい山々を次世代に引き渡してまいりますと言われましたが、本当にそうなるんでしょうか。
 そもそも、なぜ林業者は経営の展望をなくしたのでしょうか。既に立木の価格は長期にわたって低下の一途をたどっています。それは、いち早く木材の輸入自由化を進め、木材価格が低迷するのを容認してきたからです。歴代の自民党政権の林業政策の下で、林業経営が成り立たない状況に追いやられました。その反省もなく、今、TPP、環太平洋経済連携協定とか日EU・EPA協定など、歯止めなき自由化政策を推進しています。
 戦後以来の林業改革と言うなら、歴代自民党政権の林業政策こそ総括すべきです。木材の自由化が林業家の経営と生活にどういう影響を与えたのか、検証、総括すべきではないでしょうか。
 本法案は、未来投資戦略二〇一七と、規制改革推進会議の林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の推進のための提言を受けて、まともな検討もないまま閣議決定されました。
 本法案の最大の問題は、森林所有者の経営権に介入して、強権的に経営の自由を奪うスキームになっていることです。
 林業家は、木材価格が安く、再造林の費用も賄えないと判断すれば、伐採を行わず、木を育てる経営判断を行います。森林所有者の中には、森林の多面的な機能を保全するために長伐期施業を行っている方もおられます。おおむね百年を掛けて間伐を繰り返すことで、コスト低減を図る効果があると言われます。こうした持続可能な森林経営を行うには、専門的知識と継続的な経営意欲が求められています。必要なのは、短期的な規模拡大意欲ではなく、長期的、継続的な経営計画です。
 それなのに、森林所有者に、適時に伐採、造林及び保育することを義務付けて、若齢段階と言われる五十年生の木の伐採を求めると言います。森林所有者に意欲と能力があるかを判断し、適時に伐採等をしないなら経営も管理もできない者と烙印を押すのは、林業政策に差別と選別を持ち込むものではないでしょうか。
 また、森林所有者が自ら伐採しないなら、市町村への委託を強要し、市町村の経営管理権集積計画に同意しないなら、市町村が勧告し、知事の裁定まで行って森林所有者の経営権も管理権も取り上げるものです。
 なぜ森林所有者が長年掛けて育てた木材を取り上げるのですか。憲法の保障する財産権や経営の自由に介入するものではありませんか、答弁を求めます。
 第二の問題は、森林所有者を林業の担い手から外し、伐採、搬出を行う素材生産者を初めて林業経営の担い手に位置付けたことです。
 林野庁は、意欲と能力のある素材生産者等に施策を集中すると言います。その選定基準は、生産量又は生産性について、五年間で二割以上、三年間で一割以上増加させると言っています。林業経営は、短期的利益追求型ではなく、作業の質を高めるとともに継続性が求められます。伐採してから再造林や保育の補助金が出る間は頑張るが、採算が見込まれないなら撤退する素材生産者が出かねません。それでは木の切り逃げになるのではないんでしょうか。以上、農林水産大臣、お答えください。
 三つ目の問題点は、これまでの森林政策の失敗を棚に上げて、地方公共団体に重い責任を負わせるものになっていることです。
 森林所有者や素材生産者の選別、経営管理権集積計画の作成、もうからない森林の管理など、最も困難な仕事は都道府県や市町村が担うことになります。戦後林政の大転換とは、まさに国の責任放棄ではありませんか。人的、財政的な負担を市町村に押し付けるものではありませんか。総務大臣と農林水産大臣に答弁を求めます。
 林業の成長産業化は誰のための産業政策なのでしょうか。
 林野庁は、この四月、森林・林政改革の推進を公表しました。木材の供給量は、千五百万立方メートルを約二倍の二千八百万立方メートルに引き上げる計画です。これだけの木材が市場に供給されれば、今でも安い木材価格が更に安くなるのは明らかです。環境保全、自国産業を育成する動きが世界的に進み、木材の輸入が困難になりつつあります。大手木材メーカーは安い国産材を求め、大規模なバイオマス発電会社も燃料用の木材を求めています。こうした要望に応えることが本法案の狙いなんじゃありませんか。
 本来、持続的な森林経営によって、災害防止、水源涵養機能、二酸化炭素の吸収による環境保全など、公益的機能を発揮させることが求められているのに、本法案の示す姿は、これに反して、日本の林業を荒廃させ、日本の山でもうける一部の産業のためのものではありませんか。農林水産大臣、お答えください。
 森林政策に必要なことは、森林が持つ公益的機能の発揮、地域の雇用や所得を補償することを通じて林業の再生を図ることです。五十年、百年という長期的な視点が必要です。本法案は、徹底審議の上廃案にするよう求めて、質問といたします。(拍手)
   〔国務大臣齋藤健君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) 紙議員の御質問にお答えいたします。
 国民置き去りではないかとのお尋ねがありました。
 本法案の立案過程において、林政審議会には法案の方向性について御説明をし、その趣旨について御理解いただいたと認識しています。
 また、新たな森林管理システムを円滑に運用していくためには、市町村を始め林業の現場に携わる関係者の皆様の御理解が重要であると認識しており、都道府県や市町村、林業関係団体にも本法案の方向性を御説明し、意見交換してきたところでございます。
 このように、本法案の立案過程で国民の理解を得る努力はしっかり行ってきたと考えております。
 説明資料の訂正についてのお尋ねがございました。
 今回の森林経営管理法案の説明資料の修正につきましては、資料の基となった調査結果のデータそのものを修正したものではなく、整理の仕方について正確性を期したものであります。
 したがって、我が国の森林の適切な管理を図るためには、現に経営管理が不十分な森林について経営管理の集積、集約化を図ることが課題であります。その実現のためには、これらの森林を経営規模の拡大を志向する者を中心とした担い手につなぐ必要があるという本法案の必要性や前提が変わるものではありませんけれども、今後、資料の作成に当たっては、丁寧な対応に努めてまいりたいと考えています。
 林業政策の検証、総括についてのお尋ねがありました。
 戦後の経済復興に伴い木材需要が急増する中、我が国の森林資源は高度経済成長期においてその多くがいまだ利用期に達していなかったために、昭和三十九年に木材の輸入を完全自由化し、外材により国内の木材需要を満たしてきたところであります。
 その後、山元立木価格の低迷や林業の採算性悪化もあり、戦後造成された人工林がようやく本格的な利用期を迎えていますが、経済ベースで十分に活用できておらず、また、適切な森林管理が行われていないという課題が存在しているわけであります。
 こうした中、昨年、本年に妥結、署名した日EU・EPA交渉、TPP11協定については、林産物に一定の関税撤廃期間等を確保しているほか、生産コストの削減や高付加価値化等の体質強化対策を講ずることとしております。
 今後は、こうした対策と併せて、新たな森林管理システムの導入により経営管理の集積、集約化を促進し、搬出コストや流通コストの削減を通じて国産材の競争力を向上させるとともに、需要の拡大を図り、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の確立を確実に進めてまいる所存であります。
 市町村への経営管理権の設定についてのお尋ねがありました。
 今般の法案におきましては、森林所有者の林業経営の意欲が低下し、林業の発展のみならず、森林の有する多面的機能の発揮に支障が生じる懸念があることを踏まえて、森林所有者に経営管理を行う責務を明確化し、それが果たせない場合には、森林所有者の同意を得た上で市町村に経営管理権を設定することとしたほか、森林所有者が不明等の場合でも、都道府県知事の裁定等の手続を経て市町村に経営管理権を設定することを可能としております。
 このため、議員御指摘のような長期的な経営により経営管理が行われている森林については、市町村は経営管理権を設定するような判断はしないものと考えております。
 また、都道府県知事の裁定により市町村が経営管理権を設定することと憲法が保障する財産権との関係につきましても、森林はその多面的機能の発揮を図ることが重要であること、今般の措置は、森林を森林として維持、利用すべき区域にあるにもかかわらず、それがなされていない森林の多面的機能の発揮を図るためのやむを得ない措置であること、森林が適切に経営管理されることで、森林の機能の回復のみならず、財産的価値も回復、増大し、経営管理を行わない森林所有者にも裨益すること、裁定の手続を経て市町村に権利が設定された場合でも、一定の条件に該当する場合には当該森林の経営管理権が取り消されることなどから、森林所有者の財産権を不当に侵害するものではないと考えています。
 林業経営についてのお尋ねがありました。
 本法案におきましては、現に経営管理が不十分な状態になっている森林について経営管理の集積、集約化を図ることとしていることから、集積、集約化の担い手となる意欲と能力のある林業経営者については、森林所有者及び林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有するなど、効率的かつ安定的な林業経営を行うことができることに加え、主伐後の再造林を実施するなど、林業生産活動を継続して行うことができる者を想定をいたしております。
 さらに、本法案においては、林業経営者は市町村を介して経営管理実施権の設定を受ける仕組みとするとともに、市町村は林業経営者から経営管理の実施状況等の報告を求めることができることとしていることから、切り逃げ等の実態には至らないと考えております。
 市町村などの役割についてのお尋ねがありました。
 市町村は、既に森林法上の役割として、市町村森林整備計画の策定や森林所有者等に対する指導監督のほか、林地台帳の整備等により森林や森林所有者に関する詳細な情報を把握していることなどから、本法案による新たな森林管理システムについても市町村が主体となる仕組みとするのが適当と考えています。
 人的支援については、市町村が林業技術者を地域林政アドバイザーとして雇用する取組を推進するとともに、近隣市町村と連携して共同で事業を行うことが可能であるほか、本法案においては、都道府県による市町村の事務の代替執行ができるなどの制度を導入しており、必要な体制整備に向けた取組を進めることとしております。
 また、財政面では、農林水産省として、市町村が実施する森林情報の整備や路網整備等について支援するほか、市町村が行う公的な管理を始めとする森林整備等の財源として、森林環境税及び森林環境譲与税が創設されることとなっています。
 このように、本法案で創設する新たな森林管理システムは、市町村に主体的に担っていただく仕組みではありますが、市町村への各種支援も行っており、負担を市町村のみに押し付けるというものではございません。
 本法案の狙いについてのお尋ねがありました。
 我が国の森林は、資源が充実し主伐期を迎えつつあることから、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を両立していく必要があります。
 このため、本法案においては、森林所有者自ら経営管理できない森林のうち、経済ベースに乗る森林については、その経営管理権限を市町村を介して意欲と能力のある林業経営者に集積、集約化するとともに、経済ベースに乗らない森林については、市町村が公的に管理するという仕組みを創設することとしております。
 これにより、木材の供給量の増大が図られることから、並行して木材需要の拡大を図ることが重要となっております。
 このため、公共建築物を始め、これまで余り木材が使われてこなかった中高層、中大規模、非住宅など、新たな分野におけるCLTの活用促進も含めた建築物の木造化、内装木質化、木質バイオマスエネルギー利用、付加価値の高い木材製品の輸出拡大などに取り組んでまいります。
 農林水産省としては、本法案における新たな森林管理システムの創設と木材需要の拡大に取り組み、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図ってまいりたいと考えています。
 法案の意義についてお尋ねがありました。
 我が国の森林は、資源が充実し主伐期を迎えつつありますが、若齢林が非常に少なく資源構成に偏りがあることから、伐期が到来した資源については適時に伐採し、その後、再造林を行い、切って、使って、植えるといった循環利用を進めていく必要があります。
 他方で、自然的経済的社会的条件によっては、長伐期による森林経営が適している場合等もあり、これを一律に排除するのではなく、地域の実情に応じた資源管理を行うことが可能と考えています。
 このような取組を通じて、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を両立させ、次世代に豊かな森林を引き継いでまいりたいと考えております。(拍手)

   〔国務大臣野田聖子君登壇、拍手〕

○国務大臣(総務大臣 野田聖子君) 紙議員にお答えいたします。
 本法案における市町村の事務の負担についてお尋ねがありました。
 本法案においては、森林として利用することが相当でないと認められる民有林を除き、森林の経営管理を行うべき責務をまず森林所有者に課した上で、森林の経営管理の状況や地域の実情等を勘案し、市町村が必要かつ適当であると認める場合に限って経営管理権集積計画を定めること等としています。
 一方、各市町村の体制の現状などに鑑み、都道府県による森林経営管理事務の代替執行の仕組みや市町村に対する国及び都道府県の援助なども盛り込まれており、農林水産省において適切な助言等がなされるものと承知しています。
 なお、本法案を踏まえ、平成三十一年度税制改正で森林環境税及び森林環境譲与税を創設することとしており、市町村分の森林環境譲与税の使途については、平成三十年度の税制改正の大綱において、間伐や人材育成、担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用とされています。
 各市町村においては、こうした使途の範囲内で森林環境譲与税を充当して事業を幅広く実施することが可能であり、本法案に基づいて市町村が行う森林の公的管理に要する費用にも充当していただけるものと考えています。(拍手)