<第196回国会 2018年4月3日 農林水産委員会>


◇日本政府は、アメリカ抜きのTPP11を推進したのか/日米首脳会談での共同声明の中で記されている高い基準とはTPPも含まれるのか/アメリカは、日本との高い基準の経済協定の土台にするためにTPP11を黙認したのではないか/日米経済対話の中で、今後関税も取り扱っていくのか/TPP11について、根拠を示し影響試算の公表を求める/新しい協定を作るに当たり、発効もしていない協定を取り込んだことは過去にあったのか/アメリカ抜きのTPP11は、アメリカと高い基準の経済圏をつくるための一つの手法であることには変わりないと主張

○農林水産に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、TPP、そしてTPP11についてお聞きいたします。
 安倍総理は、アメリカ抜きのTPPはあり得ないと言っていました。しかし、TPP11を推進しました。なぜアメリカ抜きのTPP11を推進したのでしょうか。

○政府参考人(内閣官房TPP等政府対策本部政策調整統括官 澁谷和久君) アメリカがいることを前提にTPP12をまとめたというのはそのとおりでございますが、昨年の三月、トランプ大統領の離脱宣言後、初めてのTPP閣僚会合が開催をされまして、その場で十一か国がこのハイスタンダードでかつバランスの取れた協定をアジア太平洋地域に広げていくという当初の理念をアメリカがいなくても実現していく必要があるという認識で一致をしたものでございます。その際、日本がリーダーシップを取ってまとめてほしいという強い要請を各国の閣僚から頂戴したところでございます。まさに文字どおり、我が国が議論を主導して三月八日の署名に至ったということでございます。
 TPP11によって日本が二十一世紀型の新しいルール作りをリードすることの意味合いは非常に大きいというふうに考えております。

○紙智子君 日本がリードしたというふうに言うわけですけれども、アメリカ抜きがあり得ないと言っていたのに、なぜTPP11にかじを切ったのかと。そのきっかけになったのは、昨年、二〇一七年の二月十日に行われた日米首脳会談なんじゃないのかと思うんです。安倍首相は、トランプ大統領とこの日米首脳会談を行って、共同声明を出しました。その声明の日米経済関係の一部について抜き出して資料としてお配りしましたので、見ていただきたいと思います。
 日本及び米国は、両国間の貿易・投資関係双方の深化と、アジア太平洋地域における貿易、経済成長及び高い基準の促進に向けた両国の継続的努力の重要性を再確認した。この目的のため、また、米国が環太平洋パートナーシップ、TPPから離脱した点に留意をし、両首脳は、これらの共有された目的を達成するための最善の方法を探求することを誓約したと。これには、日米間で二国間の枠組みに関して議論を行うこと、また、日本が既存のイニシアチブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進することを含むと書いています。
 この赤い字の部分ですけれども、高い基準の促進に向けた両国の継続的努力の重要性を再確認したとあるんですけれども、この高い基準というのはどういう意味なのか。TPPを含むという意味なんでしょうか。

 日米首脳会談における共同声明(2017年2月10日)

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) 委員の御指摘の日米首脳会談における共同声明でございますが、御指摘の高い基準の促進とは、アジア太平洋地域において、知的財産、それから国有企業、政府調達、電子商取引等の貿易、投資に関する各種ルールやマーケットアクセスを高いレベルのものにしていくということを一般的に確認をしたというふうに理解をしているところでございます。

○紙智子君 それはTPPを含むということなんですか。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) この共同声明には、後ほど、日本が既存のイニシアチブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進することを含むということがございますが、この既存のイニシアチブに関する箇所については、我が国がこれまで実施してきている地域における貿易、経済成長、高い基準の促進に向けた取組を指しておりまして、その中にはTPPやFTAAP、RCEP等が含まれるというふうに理解をしているところでございます。

○紙智子君 TPPも含まれるということだと思うんですけれども。
 今ちょっと言われたんですけれども、日本が、その次の文章ですよね、既存のイニシアチブを基礎としてというのはどういう意味なのか。これ自身の意味ですね。TPPやRCEPを含む日本のイニシアチブということなんでしょうか。その意味について。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) 委員の御指摘に今お答えをさせていただいたところでございますが、この既存のイニシアチブというのがTPP等が含まれるということになっておりますので、したがいまして、既存のイニシアチブを基礎としてということになりますと、TPPを基礎としてというふうに解釈できるというふうに理解をしておるところでございます。

○紙智子君 TPPを含むと。
 安倍総理がなぜこのTPPを推進してきたのかということで言うと、やっぱりそれは日米首脳会談で高い基準の促進に向けた両国の継続的努力の重要性を再確認したと、ここがポイントなんだと思うんですね。再確認したと。つまり、アメリカとは高い基準の経済協定を作るということを共通の土台にするということで一致したので、その一つの手法としてTPPの枠組みを活用することが可能になったんじゃないかと。だからアメリカは日本にどうぞおやりくださいとTPP11を黙認したということなんじゃないんですか。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) 二月の共同声明におきましては、この共同声明の中に最善の方法を探求することを誓約したということになりますので、これには既存のイニシアチブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進することを含むとなりますので、この当時においては日米間で最善の方法を探求することを誓約したということにとどまるということだというふうに理解をしているところでございます。

○紙智子君 アメリカとは高い基準の経済協定を作ることを共通の土台とするということができたと、誓約したと。TPPの枠組みを活用することが可能になったというふうに思うんですけれども、言い換えれば、これアメリカの言わばお墨付きを得てTPP11を構築することが可能になったんじゃないかと思うんです。TPP11は十一か国、今は十一か国ですけれども、そのほかに入りたい国があると、十四か国とか十六か国とか、そこまで広げるという話も出ているわけですけれども、このアメリカと高い基準の、水準の経済連携協定を作るための準備が既に始まっているんじゃないかというふうに思うんですね、考えるんです。日米首脳会談では、この日米間で二国間の枠組みに関して議論するということも確認をしているわけです。二国間の枠組みですね。既にアメリカの農業団体は日本の農業の市場開放を求めています。
 齋藤大臣は、前回、三月二十二日に私の質問に対して、アメリカとの関係は日米経済対話のフレームでこなしていくというふうに答えられたんですね。アイダホのポテト、これを、その検疫について、検疫部門については日米経済対話の枠組みで国民に知らせずこっそりとこれは解禁をしたと。
 二つお聞きしますけれども、今後、これ関税も扱っていくんでしょうか。その際、農業交渉というのはTPP水準が出発点になるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) まず、今、日米経済対話においては、貿易、投資に関する両国の関心事項について農業分野を含めて議論を行っているという、それが実情でございまして、今御指摘あったように、この二国間で個別品目の関税について交渉するとか、そういうことは今行っておりません。これは明言させていただきたいというふうに思っております。

○紙智子君 今はやってはいないということなんですけれども、関税については、しかし今後は扱っていくことになるわけですよね、その話はしていくことになるわけですよね。

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) 私の理解では、この日米経済対話はアジア太平洋地域の現状を踏まえた上で地域のルール作りを日米が主導していくことが重要であるという認識の中で、どのような枠組みが日米経済関係及びアジア太平洋地域にとって最善であるかを含めてここで建設的に議論をしていくというふうに聞いておりまして、この場で関税交渉をするというふうに私どもは認識をしておりません。

○紙智子君 その場でやらないとしたら、いつ関税関係の交渉はすることになるんですか。

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) いや、私ども、今そういうことは、いつとかいうことも含めて想定をしておりませんので、ちょっとお答えができません。

○紙智子君 まあ政府はこのTPP11を日米関係と切り離して今批准しようとしているわけですけれども、日米間では、二国間の枠組みや日米経済対話の決着次第では、これは日本の農林水産業への影響は計り知れないというふうに思うんです。
 米国のライス協会でいえば、元々、日本の米の消費量については二%に当たる十六万五千トンを受け入れるように要求していました。それから、全米の肉牛生産者・牛肉協会と豚肉協会、ここはトランプ大統領に、牛肉と豚肉の輸出にとって日本は最も価値ある海外市場だと、すぐに行動を起こさなければ我々は競争相手、つまりオーストラリアですね、に後れを取ることになるんだといって、早期の交渉入りを求めていたわけです。
 政府が公表しているこのTPP11の影響試算が日米関係にどういう影響を与えるのか、これ明らかにするべきだというふうに思うんですね。そういうことも出さないでTPP11の批准を急ぐことは必要ないんだと思いますよ。しっかりとそれをやるべきだと思います。
 政府が出したTPP12、十二か国のときの影響試算、これは信用できないという声が出ているわけですよ。非常に不評だった。実際に対策を取るから大丈夫だと言われたって、その根拠がないということで不評だったんです。それなのにまたTPP11でも同じ指標で試算を出しています。だから、北海道や熊本なんかを始めとして各県で影響試算を独自に加えて、政府がやっているような十九品目じゃなくて、更に加えて試算を出しているわけです。政府が言う対策を取るから影響はないというような楽観的な受け止めはしていないんですね。
 やっぱり、ちゃんと根拠を出して、根拠を示して、納得できるような、そういう影響について明らかにするべきではないんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) この議論も、12のときも大分繰り返し行ってきた議論でありますが、このTPPについては、11も12も関税撤廃の例外をしっかり確保したり、まずはその国境措置においてしっかりとしたこういう措置をとっているということを明らかにした上で、それぞれ定性的な影響分析もし、そしてその上で対策も講じて、その結果こうなるということを私どもとしては発表させていただいたのが12でございまして、それを今回も踏襲をさせていただいているということでございます。

○紙智子君 それが当時、なぜ踏襲するのかと。あれだけ議論になって、納得できないという声がずっと残り続けたわけですよ。
 それで、これ農業共済新聞に書いてあるんですけれども、要するに、政府が発表した影響試算が生産現場の不安をむしろ増幅させていると。TPP11の農林水産物の生産減少額を最大限一千五百億円と見込んだけれども、その前提は国内対策によって生産量は維持されるというものだと。しかし、もちろん国内対策をしなきゃいけないというのはあるけれども、しかし政府の説明というのは根拠が不明確だという批判を、今年のこれ新聞ですよ、一月の新聞の中でも現場の声はそうなっているということなんですよ。
 なぜそれをちゃんと受け止めて、それに対して納得いくような説明なされないのか。それはもう蓋をしたままやっぱり前と同じようなやり方を踏襲してやっていくというやり方自身、これ納得得ることできないというふうに思いませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 齋藤健君) これ、国境措置も併せて全体の姿をきちんと見ていただくということが大事だろうというふうに思っておりまして、こういうやり方をしているわけであります。
 例えば国境措置も、物によりますけど、長い期間掛けて少しずつ関税は下がっていくと、その間、競争力を強めるための体質強化策を併せてやっていって、したがってこういう姿になるのではないかというのを示させていただいていることでありまして、納得していただけるように引き続き努力をしていきたいと思っております。

○紙智子君 納得をする努力をしていくというのであれば、もう一回ちゃんとしたものを出し直すべきだと思いますよ。
 それから、TPP11協定についても聞くんですけれども、これ新しい協定だというふうに言っているわけですね、新協定だと。第一条には、TPP12も、元のTPP協定を組み込むと書かれています。
 WTOの際に一部暫定発効していたガット協定を適用したことはあるようですけれども、新しい協定を作るに当たって発効もしていない協定を取り込んだことというのは過去にあったんでしょうか。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) 例えばほかの例でございますが、一九九四年のガット同様に、WTO協定の一部を成すTRIPS協定、これ知的財産の貿易関連の側面に関する協定でございますが、その中では未発効の、これは集積回路といってICなんですが、知的所有権に関する条約の関連条項に従った保護を規定している例がございます。このように、未発効の協定の規定を新たな協定の下に取り込んで実施する例は存在するというふうに理解をしております。
 なお、一方の協定の規定を他方の協定の下に取り込んで実施する際には、取り込まれた一方の協定の規定は他方の協定の効力発生とともに他方の協定の一部として効力を生ずることであり、一方の協定が効力を発生しているか否かは問題とはならないというふうに我々としては理解をしているところでございます。

○紙智子君 聞いたのは、要するに今お話しになったのは、一部の国で暫定発効していたものをそれを部分的に取り入れているという話で、協定全体ですよ、一部のことについてはあったとしても、協定全体としてまだ発効していないものを取り込んだことはあるのかと聞いたんですよ。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) そのように全体を取り込むという例につきましては、千九百七十三年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する千九百七十八年の議定書というのがございまして、この中では一九七三年の条約を丸ごと取り込みながら、一部修正をしておりますけれども、取り込んだ例はあるというふうに認識をしております。

○紙智子君 未発効なものですか、それは。

○政府参考人(外務大臣官房審議官 飯田圭哉君) 当時は未発効だというふうに理解をしております。

○紙智子君 ですから、発効もしていない協定を丸まま取り込んだというのは初めてだと思うんですよ、今回。
 TPP11はTPP協定のような秘密保持契約というのは、これはあるんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房TPP等政府対策本部政策調整統括官 澁谷和久君) TPP12の際は秘密保護に関する書簡というものを取り交わしましたが、TPP11におきましてはそういう文書は存在しておりません。

○紙智子君 そうですよね。ですから、やっぱり何で過去に例がなかったような形で交渉を進めたのか。秘密保持契約がないわけですから、交渉内容明らかにすべきなんですよ。農業についても関税においてどういう議論がされているのか、そういったことも含めて明らかにすべきじゃないですか、秘密保持義務がないんですから。

○政府参考人(内閣官房TPP等政府対策本部政策調整統括官 澁谷和久君) TPP12のような書簡はありませんが、外交交渉でございますので、一般的に外交交渉に関する情報につきましては、他国との信頼関係、他の交渉に与える影響などを考慮して、少なくとも一定の期間これをつまびらかにはしないというのが一般的な外交交渉の慣行だと承知しておりますが、ただ、TPPにつきましては11も含めて国民の皆様の関心が非常に高いということもありまして、交渉中から逐次記者会見等を行っておりまして、説明会も開催をし、情報提供努めておりますが、これからも引き続き情報提供の努力をさせていただきたいと思っております。

○紙智子君 やっぱり政府のやり方というか手法において、本当に前のめりで、やっぱり発効もしていない、今まで発効してもいない協定を初めて取り入れて新協定を作ったと。過去にないことをやっているわけですよ。昨年十一月に合意していない部分が残っているのに大筋合意だと言って予算を組んだわけです。
 いずれにしても、過去にない形で協定を作る、国民は全く置き去りにされたまま異常な形で進んでいるというふうに思うんですね。アメリカ抜きのTPP11とはいえ、アメリカと高い基準の経済圏をつくるための一つの手法であることには変わりないと思います。
 なぜ過去にないような異常な形でこういう交渉を進めたのか、とりわけ農業分野がどう扱われたのかということについては、是非今後も引き続き明らかにするように求めていきたいということを申し上げて、質問を終わります。