<第193回国会 2017年6月9日 沖縄及び北方問題に関する特別委員会>


◇北方領土問題に関する参考人質疑/日ロ共同経済活動/領土問題の置き去り、棚上げに懸念/エリツィン政権時代に進展しなかったのは、両国の立場を損ねない形でという条件が伏せられたから

○沖縄及び北方問題に関しての対策樹立に関する調査(北方領土問題に関する件)

☆参考人
 北方領土隣接地域振興対策根室管内市町連絡協議会会長・根室市長 長谷川俊輔君
 公益社団法人千島歯舞諸島居住者連盟理事長 脇紀美夫君
 法政大学法学部教授 下斗米伸夫君
 新潟県立大学政策研究センター教授 袴田茂樹君

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 四人の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見ありがとうございます。
 それで、最初に、長谷川参考人と脇参考人、お二人に伺いたいと思います。
 日ロ首脳会談について、安倍首相は、領土問題について、互いにそれぞれの正義を何度主張し合っても問題は解決することはできないというふうに述べて、現実を直視したアプローチを取らなければ日ロ間の平和条約締結というゴールにたどり着くことは決してできないということで、共同経済活動を平和条約の締結に向けた重要な一歩を踏み出すものというふうに言われました。私、このお話を聞きながら、互いの正義というんですけど、いや、ロシア側に正義というふうに言えるのかなというふうに思ったり、あるいは、正義をお互いに主張し合ってもというんですけれども、過去にどれだけそういうことがちゃんと深く踏み込んでやり取りされたのかなという思いもあるんですけれども、それはさておいて、このやっぱり主張というのは、結局、領土問題について棚上げすることにならないのかなというふうに思うんです。
 そのことに対しての率直な思いを一つお聞かせいただきたいということと、それからもう一つは、ロシアとの共同経済活動の実現に向けて、根室管内は一市四町で要望を出されていると思うんですね。やっぱり隣接地域の地域振興につなげたいという本当に切なる思いがあると思うんですよ。そういう状況、ちょっと先ほども紹介されているんですけれども、そういう思いもあるかと思います。それで、隣接地域振興につなげるということですけれども、そういうことを本当に前に進めるということにとっても、領土問題というのはやっぱり正面から取り組まなきゃつながっていかないんじゃないのかなというふうな思いもあるんですけど、その辺りのところをお二人から聞かせていただければと思います。

○参考人(脇紀美夫君) 端的に、棚上げにならないかどうかということについて、私がなるとかならないということを簡単に申し上げることについては差し控えたいと思いますけれども、ただ、我々としては、新しいアプローチということで、今、国が首脳同士でもって進めようとしているというようなことの中で、先ほど申し上げましたけれども、それによって我々の元島民の財産権が侵害されてはならないと。と同時に、経済活動だけがどんどん進んでいって、領土問題が置き去りにされることの懸念、これが非常に私ども今現在感じているところであります。

○参考人(長谷川俊輔君) 先ほどもちょっとお話ししたんですが、平和条約締結のための新しいアプローチとしての共同経済活動、これは本当に我々も何回も聞いたんです。
 それで、今これ中心になってやっているのは官邸と経済産業省と外務省なんですね。それぞれちょっと微妙に話が合わないんですが、官邸なんかはかなり自信を持って、後から付いてこいという感じで話はしているんですが、どうも棚上げにならないかという不信も我々はありまして、もう少しやっぱり政府は、なかなかこれ交渉事項なんで皆さんに話はできないかもしれませんが、もう少し理解できるような情報を欲しいと本当に思っています。

○紙智子君 領土問題の根本ということでは、私どもは、領土不拡大という第二次世界大戦のときの戦後処理の大原則を踏みにじって、アメリカとイギリスとソ連がヤルタ協定で秘密協定を結んで、それが千島列島の引渡しということが決められて、それに拘束をされてサンフランシスコ平和条約で日本が当時千島列島の放棄を宣言してしまったというところにあると考えているわけです。
 私たちは、日ロの領土問題の解決のためには、この領土不拡大という戦後処理の大原則、これに背くやっぱり不公正そのものを是正するということ、ここをやっぱり本当に曖昧にしてはいけないというか、ちゃんとそこを中心に据えながら、やっぱり全千島ということで要求をしてきました。それは、戦争で取った取られたの前の段階の、要するに樺太と千島の交換条約によって、平和的な外交によって決まったときがあるわけですから、そこに立って堂々とやっぱり主張していくということが大事だというふうに思っているわけです。
 それで、昨年十月が日ロの共同宣言六十周年ということで、私どもの党としては、打開のためにやっぱり今の領土交渉の方針の抜本的な再検討が必要じゃないかということで提言を出させていただきました。ちょっと今日それをいろいろ説明する場ではないので。
 そこでなんですけれども、下斗米参考人と袴田参考人にお聞きするんですが、今回の日ロ首脳会談で確認をされた共同経済活動について、この共同経済活動というのはエリツィン政権時代にも議題に上ったことだった、検討されたことだと思うんですね。そして、共同経済活動委員会もつくられたと。ところが、立ち消えになってしまったわけですよね。当時、なぜ立ち消えになったのか、そのときのやり取りや要因などについてどのようにお考えなのかということをお二人からお聞きしたいと思います。

○参考人(下斗米伸夫君) 紙先生、どうもありがとうございました。
 九〇年代末の、特に小渕総理の訪ロによってこの共同経済活動を進めるということで、御指摘のような二つの委員会、国境画定ともう一つはその共同経済活動、こういう形で進めようとしたわけでございますが、これはアイデアとしてはやはりロシア側がその少し前から出してきたというふうに最近伺いましたけれども、立ち消えになった理由というのは何なのかというのは私どもも必ずしもつまびらかにしませんが、やはり森政権になりまして、イルクーツク声明ですとかああいったところで、対ロ外交をどういうふうに進めるかということについてむしろ我が方の中にいろんな意見の対立が生まれて、その結果、これを推し進めるという考え方が後退したと。私はあのとき進めるべきだったと思っておりますが、その後、外務省の方でも御案内のとおり混乱が生じたということもあって、むしろこれは国内問題だったんではないかなという感じがいたしております。
 もちろん、このことについてはまだ余りはっきり、いろんな証言だとかそういったことで出ているわけではございませんので、なかなか知りにくいんですが、逆に言いますと、私は、今政治主導で、今、長谷川市長もおっしゃっておりましたけど、官邸が責任を持っているというのは、これはいい意味でも悪い意味でも重要なことだと思いますね。冷戦期の対ソ外交は、実は日本外務省が動かしておりました。したがって、幾ら首相が何を考えようが動かなかったんですね。ソ連課長、欧州局長、審議官ですか、事務次官か、この三人が結束すればどのような総理大臣としても動けなかった。逆に言うと、ソ連崩壊後、次第に政治主導という形で政治家が表になってくるようになる。そういうことを考えますと、十七回も会ったというのは何事だということもありますが、得るものは少ないとは言いますが、それまでは二十五年間、小渕総理の前は二十五年間首相がモスクワに行かなかったという、そういう時代でもあった。その意味では、むしろ地道に交渉をやって政治主導でやるということは、私は、今の政権がやっている、なかなかの考え方だと理解しております。

○参考人(袴田茂樹君) 共同経済活動に対する御質問ですが、九八年のモスクワ宣言、これは小渕さんの、そこで二つの委員会がつくられた。共同経済活動委員会もつくられましたが、それが進展しなかった理由は極めて明快であります。それは、両国の立場を損ねない形でという条件が付せられていたからです。つまり、ロシアの法の下で行うということは日本はしませんよと。これは、元々、プリマコフ外相、後首相になりましたが、彼が強く主張していた意見で、我々、私は安保研の今責任者をしておりますが、日露専門家会議はずっと続けてきて、プリマコフさんたちとずっと意見交換をしておりましたので、そのことはよく知っております。
 だから、理由は、私は、今の下斗米先生のあれとはちょっと違って非常に明快で、だから今の状況と同じなんです。今も両国の立場を損ねない形でという、その条件が付いていますから。だから、私は、これは平和条約に向けての第一歩じゃなくて、新たなハードルを設けた形になるんじゃないですかと。というのは、これを乗り越えるのは大変ですから、恐らく何らかの形で、グレーゾーン的なもので、何かシンボル的にちょっといろいろ工夫はなされるでしょうけれども、本格的な共同経済活動は両国の立場を損ねない形でという、それがある限り、九八年と同じく全く本格的には進まないと見ております。

○紙智子君 今回の首脳会談で、私自身は、領土問題というのはやっぱり棚上げされているんじゃないかというふうに思うわけです。プレス向けの声明にも領土という言葉さえ入っていなかったということがあります。
 それで、領土交渉を脇に置いた経済協力というのはやっぱり前のめりじゃないかという意見もあります。安倍総理は、原理原則という殻に閉じこもって、四島を返さない限りは何もしないという強気な発言を続けていれば、世論の拍手喝采を受けるかもしれないけれども、現状は一ミリたりとも動かないんだというふうに言っているんですけれども、なぜこれまで長年ずっと一ミリも動かないという状況だったのかということでいえば、それがなぜなのかということと、あと、その解決のためには何が必要かということ、もう時間が僅かなんですけれども、最後、もう一度、袴田参考人にお聞きしたいと思います。

○参考人(袴田茂樹君) 先ほど、私、ちょっと批判的な、政府及び官邸について批判的な意見を述べましたが、私自身は、領土問題を解決して平和条約を締結するということに今の安倍首相ほど強い熱意を抱かれた首相はこれまでいなかったと思っておりまして、その件に関しましては私は高く評価している、それは言っておきたいと思います。
 それで、安倍首相が原理原則さえ掲げていればというふうに云々という、ちょっと先ほどおっしゃいましたけれども、日本の基本的な立場という形でこれまで首相、外相それから官房長官がずっと言われてきたことは、これは原理原則じゃなくて、ニュートラルな表現の東京宣言の文言です。四島の帰属問題を、帰属というのは返還じゃないですよ、だからニュートラルなんです、四島の帰属問題を解決して平和条約を締結すると。私は、これは決して原則論じゃないから、原則論を正面に出してしまったら、それは確かにもう交渉のテーブルに相手がのることさえできない、それを条件にした場合。そういう意味では、原理原則と交渉の基本方針はきちんと分ける。
 日本はこれまでは、私は、決して原理原則を出していたんじゃなくて、そういう意味では、ある意味で日本にとってリスキーな、東京宣言は結果について全く述べていないわけですから、だからどういう形で解決できるかについて書いていない、リスキーな、それゆえにニュートラルな、そういう意味で、私は決して日本が固い発言を続けていたから進まなかったんだというふうには見ておりません。

○紙智子君 時間になりましたので、終わります。