<第193回国会 2017年6月6日 農林水産委員会>


◇参考人質疑/畜安法の改正で、酪農家の所得は増えない/地域コミュニティーにとってもよくない/生産者が不利な立場に追いやられ、生産基盤が弱体化する廃案を

○畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

☆参考人
 前北海道農政部長  土屋俊亮君
 日本大学生物資源科学部教授 小林信一君
 農民運動北海道連合会副委員長 石沢 元勝君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は参考人の皆さんの本当に貴重な御意見、ありがとうございます。
 それで、私は最初に石沢参考人からお聞きしたいんですけれども、私、最初に当選したのが二〇〇一年なんですけど、その直後に起きたのが日本初のBSEということで、もう大騒ぎで、あのときに本当にいろいろ議論が起こったというふうに思います。やっぱり、改めて牛の飼い方なんかも含めて当時議論になったし、本当に経済効率最優先ということだけでやっていいのかということも含めて、そういう根本的なことが議論になったことでもあってすごく印象に残っているんですけれども。
 今日最初にお聞きしたいのは、先ほどの石沢参考人の話の中で、一九七一年からお父さんの後を受け継いで四十六年以上やってきたと。いろいろ厳しい自然条件があったり、いろんな例えば病気の発生だとかあったと思うんですけれども、そういう中で乗り越えてやってくることができたというのはどうしてなのかということと、それから、今ちょっと紹介もありましたけれども、やっぱり、どんな酪農目指して、やりがいといいますか、どういう描く酪農の姿なのかなということを最初にちょっとお聞きしたいと思います。

○参考人(石沢元勝君) 農業というのは自然の恵みをいただくということだと思うんですよ。牛にも土にも優しい酪農というのを目指していて、太陽や水や空気があれば草が育ってくれて、その草で牛が健康に育ってくれれば、今、土屋参考人からもありましたけれども、輸入穀物で牛を飼う、乳量を攻めると長もちしないということは間違いないことで、今二産、二・七産とか言われています。僕らは草中心で、輸入作物で攻めないので、四産、五産、六産、今一番、私のところにいるのは七産というのがいますけれども。そうすると、牛の、さっき償却費って、土屋さんでしたっけ、言われましたけれども、二十四か月掛けてようやっとお産できるような牛にまで育てる、その間ずっとお金が掛かるんだけど、せっかく二十四か月掛けてももう二回しかお産しないで駄目になっちゃうのよりは、五産、六産、牛に働いてもらった方が、子牛もそれだけ取れるわけだし、先ほど雌子牛の話もありましたけれども、牛乳もたくさん搾れるということで、無理を掛けないというのがいいことでないのかなと思います。
 あと、草は人間の食料になりません。これを牛に食べてもらって、牛の役に立つ、牛乳だとか牛肉にしてもらうという。今世界中で九億とか十億とか、いわゆる飢餓人口というのがあるそうですけれども、トウモロコシなんかはちゃんと人間の食料になるんですよ。これを牛に食べさせる。これ、僕らは肉牛やっている肉牛農家の人方に言ったら怒られるかもしれないんだけど、乳牛の場合は、やっぱり北海道、根釧や天北の場合は特に、せっかく草地があるのに、草中心の飼い方をすればいいと思うんですよ。
 今、草地更新なんか僕らしないんですよ。草地更新の国の補助事業というのも毎年あるんですが、一度つくった草地はずっともう、だから三十年も四十年も使っているんですが、別に問題はない。わざわざ、せっかく、その表面三センチの表土というのがすごい微生物の塊で、それをちゃんとしていれば毎年春になると草伸びてくれるんだけど、それを草地更新という事業でわざわざ三十五センチ、四十センチ、ブルでひっくり返して、一番下の痩せた土地が表面に出てきて、それを繰り返すとどんどんどんどん土が痩せていくのに、だから更新しない方がいいんではないかなと私は思っています。お金が掛からないということもありますし。指導機関っていうんですか、そういうふうに七、八年に一度は更新をして種をまき直ししなさいと、その方が栄養のある牧草が取れますよという指導がされているんです。ふん尿もちゃんと切り返しをして堆肥にして、そして、生ふんじゃなくて、ちゃんと土に受け入れやすい状態にして土に返してやる、そういうことによって土も肥えていくし、肥料代も掛からないという。
 結局、労働時間も短いし、体のゆとり、それから精神的にも、がつがつ追っかけられないのでゆとりがある、何よりも経済的ゆとりがある、そのゆとりですね。このことによって、夫婦も円満に、けんかしないで済むし、子供たちもちゃんと育つし、一家団らんの時間も取れるし、今、八時、九時までみんな牛舎にいるというのはちょっと異常なので、そして、生活優先の生活ができるなというふうに考えています。
 ちょっと長くなって済みませんでした。

○紙智子君 人にも牛にも優しいと、効率も循環もあるという感じかなと思って今聞いていたんですけど。
 それで、今日、実は午前中に畜安法の改正ということで審議がありました。政府は今回、加工原料乳の生産者補給金等の暫定措置法、これについては廃止をすると、母屋に移すんだというふうな言い方があるんですけれども、母屋に移すから余り変わらないかのような話なんだけれども、でも、実際上は暫定措置法がなくなるということでありまして、それで、石沢参考人の資料の中に書いてあることを見ると、生産者が出荷先を自由に選べるようにすると言うけれども、本当にそうなったら日本の酪農は打撃を受けるんじゃないのかと。自分で自由に売りなさいとなったら、安売り競争になってしまって、農家の所得は増えるどころか、小さな農家は立ち行かなくなってしまうんじゃないかという意見が書かれておりました、疑問というかですね。
 今まで五十年間、言わば指定団体制度が続いてきたわけで、その役割をどんなふうに受け止めているか。特に、指定団体は一元集荷多元販売ということでやってきたんですけれども、この制度は生産者にとってどういうメリットがあるかというところを、ちょっと改めてお話しいただければと思います。

○参考人(石沢元勝君) 仕事に、僕らは牛を飼うのはプロですけれども、牛を飼って牛乳を搾るという、このことだけで手いっぱいでありまして、それをどこに売るとか、そういう、何というか経済的なことというのは、そこまで頭も回らないですね。百姓ですから、百姓しかできないと。
 だから、そういうことは、今まで僕、営農に就いてから、ずっと農協やホクレンに、ホクレンがちゃんと考えてくれたし、やってくれたということなんですよ。だから、そういう意味で、毎年、乳価交渉もきちっとやってくれるし、価格もまあまあ、いろいろ僕らが不満なときもたくさんあったけれども、続いてきたと。
 そういうことで、やっぱり指定団体がなかったら、あとは自分で売りなさい、勝手に売りなさいと、有利なところに自分で考えて売りなさいということではないですから、売ることは任せなさい、だから、あんた方はちゃんと健康に牛を飼うために力を注ぎなさいと、いい草を作るために力を注ぎなさいというふうに思ってもらってやってもらっているというふうに考えています。
 だから、指定団体がなかったら、きっとこういうこと、こういう安定した北海道の酪農経営というのは成り立たなかったんでないかなと。離農とか、いろいろありますけれども、曲がりなりにもまだまだ北海道の酪農は健全でないかなと思っています。

○紙智子君 ありがとうございました。
 小林参考人に伺います。
 ちょっと今のこととも重なるんですけれども、ずっと長く大学の生物資源科ということで教えられてきたということなんですけれども、畜産経営経済研究会の会長もされているということで、五十年掛かって築き上げてきた今の家族経営を中心とした指定団体制度なんですけど、これを廃止するというのは、生産者の所得向上を掲げながら真逆の方向を今回の改正でやろうとしているんじゃないのかと、その廃止するということになるとね、ということを書かれていて、私も同感だなと思って読んでいたんですけれども。
 やっぱり所得向上を掲げながら真逆というその中身について、もうとりわけ、ここのところというのは本当に逆になるんじゃないかというところをお話しいただけたらなということと、もう一つは、生産者の所得を向上させるためにはどうするべきなのかというところを、二点お話しいただければと思います。

○参考人(小林信一君) 一つは、所得の向上になっていないという点ですけれども、これは私が触れましたけれども、生産者が自由に出荷先を選べるという、ある意味では非常にいい言葉なんですが、結果的には生産者がばらばらになるということで、生産者は一人一人では非常に小さい、弱い、メガ、ギガでさえもメーカーなんかに比べれば小さい存在ですから、それが個々に対応していたらやはり太刀打ちはできない、乳価交渉においても。
 これもメガの方々にも言っているんですけれども、そういう意味で、畜安法が改定されるということになると、不足払い制度が入る前の、あのときは、先ほど土屋参考人の方からも御説明ありましたけれども、乳価が乱高下する、集乳合戦があったりあるいは集乳拒否があったりというふうな、そういった状況があって、それで、酪農家が何十万人動員、一致して反対集会なんか開いたという、そういった時代がありましたよね。そういうことにまた、まあ何十万はいないですけれども、なってしまうのではないかと。乳価の乱高下というふうな形があって結果的には所得が安定しないと、それがやはり大きな問題であろうと。
 今回、競争力強化支援法関連八法の中に収入保険制度というのがあって、それが導入されるということですけれども、それが、畜産関係では酪農だけなんですよね。ですけれども、我々は収入をピン留めしてほしいというわけではなくて、先ほど石沢さんがおっしゃったように、所得なんですよね。
 一番やはり問題なのは、先ほど来問題にされているように、コストが非常に高くなっていると。私は生乳一キログラム当たりの所得をずっと追っかけているんですけれども、二〇〇〇年以降、平成十二年の改革以降、確実に一キログラム当たり所得は下がっています。最近は乳価が高くなっているんですが、コストが高くなっているので結果的に所得が下がるということで、最近は、先ほど来お話があったように、個体販売価格があるいはバブルということで良くなっているんですが、これは非常に危ない、おっかないというふうに私は思っています。あと二年ぐらいしたら、それがはじけたときに一体どういうふうになるのか。
 これは肉牛経営もそうですけれども、肉牛が、九十万、百万の子牛を買って、二年半後に百五十万で売れるのか、そういう問題が当然あるんですけれども、それに対する対策があるのだろうかと。新マルキンが法制化されるといって、TPP絡みでそれが流れてしまったというふうに聞くんですけれども、本当に是非考えていただきたいんですよね。今日は酪農の話ですけれども、酪農も、個体販売がここまで高くなって、いっときはいいんですが、それがバブルになる、はじけたときにどうなるのかということが大きな危惧としてあります。
 それからもう一つは、クラスター事業も私当初は非常にいいと思ったんですが、これは地域が全体を支えるということで、これは、ある意味ではソフト事業だったはずだったのが、今は融資事業になってしまって、金借りろ、大規模化しろ、これもある意味では罪つくりだと思います。借りて、結果的には固定化負債、これは、一九八〇年代に北海道の三分の一の農家が固定化負債でもう駄目だというふうになって、農協さんがもう引導を渡すというか、そういうふうなこともありました。そういうことがまた起こってしまうんではないかという、そういう危惧があります。
 それに対してのセーフティーネットがないということで、ちょっと外れてしまいましたけれども、所得の安定ということでいうと、しっかりとした指定団体があって、それが支えているということと、それから、コストを、今のような配合飼料価格基金ではなくて、自給飼料をもっと促進して、安く飼料が手に入るというふうなことをやるとか、そういった仕組みにしていただくということが一つの方法ではないかというふうに思っております。
 ちょっと長くなったので、これぐらいにします。

○紙智子君 ちょっと時間になって、土屋参考人、申し訳ありません、本当は、TPPのときに部長を務められていたので、その影響と、それから生産基盤を強めるということに今回の法改正はなるかということを聞きたかったんですけど、ちょっと時間がないですよね。済みません、また何かの機会のときによろしく。ごめんなさい。
 終わります。