<第193回国会 2017年5月12日 本会議>


◇ 本会議反対討論/農業者、農村地域よりも経済界や規制改革推進会議の意向に沿う農政に未来はない/自主・自立の協同組合への過剰な介入、農業者の自由な営農事業に縛りをかける政府のやり方を厳しく批判

○農業競争力強化支援法案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業競争力強化支援法案に反対する討論を行います。
 初めに、TPP、環太平洋連携協定について一言述べます。
 安倍首相は、アメリカがTPPから離脱した下でも、アメリカ抜きのTPPはあり得ない、アメリカを説得して戻ってもらえるように努力すると繰り返してきました。しかし、最近になって、米国が抜けるわけだから新たにクリエーティブに考えていく必要があるとTPPに固執し、十一か国によるTPP発効を日本が主導すると言っています。
 多くの国民や野党は、日本の経済主権や食料主権を脅かすから反対をしていたのです。その声を受け止めず、全く反省のない行為に断固抗議するものです。
 さて、日本農業新聞のモニター調査において、安倍農政を評価するのは三〇%にとどまり、農家や生産現場の声より経済界の声を重視し評価できないが七五%に達しました。農林水産大臣に見解を求めたところ、やがて不人気も挽回できるのではないか、期待しているなどと現実と乖離した答弁でした。
 今の農政で本当に挽回できるのでしょうか。委員会質疑において与党議員から、農業競争力強化支援法ではなくて脅迫法じゃないかという指摘がありました。国民どころか与党内からも異論が出るのは、その政策決定に問題があるからです。農業者、農村地域よりも経済界や規制改革推進会議の意向に沿う農政に未来はありません。
 以下、農業競争力強化支援法案に反対する理由を述べます。
 反対する第一の理由は、自主的な農業団体の活動に介入するものだからです。
 本法案は、第四条で農業団体に努力義務を課し、第十六条で、政府は五年ごとに施策の在り方を検討、チェックし、追加的な措置を講ずるとしています。また、第十三条は、農業者に協同組合の共同販売よりも直接販売を促進し、誘導しようとしています。
 本法案は、規制改革推進会議が全農をターゲットにして、意に沿わなければ第二全農を求めた農協改革に関する意見に沿って提出されたものであり、自主自立の協同組合への過剰な介入は容認できません。
 第二の理由は、農業者の営農事業に介入するものだからです。
 本法案は、第五条で農業者に努力義務を課しています。農業者の自由な営農事業に、経営改善と称して上から目線で縛りを掛ける必要はありません。農業者からは見下されているようだと意見があり、与党議員からは削除を求める要求が出されています。参考人からは、農業者の努力で解決できない問題があると言いながら法案に農業者の努力義務を書くのはおかしいという指摘がありました。本法案で支援を受けるのは農業生産関連事業者です。支援を受けない農業者への介入は認められません。
 第三の理由は、政府が進める農業生産関連事業の再編が農村地域の経済と雇用を崩壊させかねない危険性があるからです。
 質疑を通じて、政府が策定する農業生産関連事業の再編指針は、規制の改正やEPAやFTAなど貿易ルールに合わせて変更することが明らかになりました。総理が進める岩盤規制の打破や農産物の更なる自由化に合わせたら、農業を基幹産業と位置付ける地方自治体の地域振興計画や地域経済、雇用に重大な影響を与えることは明らかです。
 農業生産関連事業者を再編するのは、生産コスト、流通コストを削減するためだと言います。しかし、業界再編、事業参入を促進すれば農業機械等の独占価格はどの程度下がるのかと聞いたところ、どの程度下がるか見込むことは困難だという答弁でした。農産物価格の買いたたきはなくなるのかと聞いたところ、不公正な取引は公正取引委員会等が監視するという答弁にとどまり、本法案が農産物価格の買いたたきを防止する効果がないことが明らかとなりました。
 競争力を持たない農業者は、大手企業に対抗し農業者の生活を守るために協同組合をつくり、共同購入や共同販売を進めてきたのです。この活動こそ支援すべきです。我が党は、資材価格の引下げを進め、農産物価格の買いたたきを防止するために一貫して是正を求めてきました。実効ある対策が求められています。
 南北に長い日本では、地域の気候や土壌条件を踏まえて、地域に根差した中小メーカーと農業者は協力しながら品質のいい農産物を作り、消費者の利益の増進、地域経済の発展に大きな役割を果たしてきました。参考人からは、地域で日常的に顔が見える、実際に顔を突き合わせて資材を買ったり機械を扱ってもらったり農産物を出すところを相談する、こうした人たちも含めて地域の大事な構成員だと言いました。
 それなのに、本法案の第三十二条は、業界再編によって中小メーカーで働く労働者を解雇、首切りすることもあるから国は就職をあっせんするなどと言います。農業者にとって大切な従業員をなぜ解雇する必要があるのですか。農業を基幹産業と位置付ける自治体にとっては、農業の振興と地域の営農を支えてきた農業関連企業の発展は一体のものです。業界再編と称してリストラを迫れば、地域経済と雇用に大きな影響が出るのは明らかです。
 第四の理由は、国民の共有財産であり戦略物資である種子、種苗の知見が国外に流出する可能性があり、日本の食料主権を脅かすもので、断固認めるわけにはいきません。
 質疑において、政府は、種子、種苗の知見が国外に流出した場合に損害賠償を求めると答えましたが、事後対策であり、流出防止策にはなりません。
 本法案に先立って、主要農作物種子法が廃止されました。その理由は、都道府県が開発した品種は民間企業が開発した品種より安く提供することが可能だから、競争条件が同等でないというものでした。種子法を廃止してから、政府はその後、資料を提出しましたけれども、その中で、小麦は公的機関が育成した品種の三十キロ当たりの価格が七千六百五十円で、これは民間企業の価格と同額だったんです。大豆は、民間企業の価格は出てきませんでした。まともな調査もせず、根拠のない答弁をして国会審議を軽視したことに強く抗議するものです。
 最後に、本法案は、食料自給率の向上や地域における農業振興の拡充とは相入れず、日本の農業の発展につながりません。農業政策の基本は、食料主権を確立し、国民への安定的な食料供給のために、三九%、この今の食料自給率を向上させることをしっかりと柱に据える必要があります。
 参考人からは、農家の戸別所得補償制度の復活や、欧米先進国や韓国では当たり前に行われている直接所得支払政策を求める意見が出されました。
 私たち日本共産党は、持続的な農業経営を実施するための価格保障や所得補償制度を確立をすること、そして、家族経営を維持し、規模の大小を問わず担い手を育成し、農地の保全を図ることなどを提案をしています。国民との協力、共同を発展させ、それを何としても実現をさせるために頑張ることを決意を申し上げ、討論といたします。(拍手)

○議長(伊達忠一君) これにて討論は終局いたしました。

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○議長(伊達忠一君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。

〔投票開始〕

○議長(伊達忠一君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。

〔投票終了〕

○議長(伊達忠一君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数         二百三十八
  賛成              百六十六
  反対               七十二
 よって、本案は可決されました。(拍手)