<第193回国会 2017年4月21日 本会議>


◇ 自主・自立が基本の農協や全農への過剰な介入/農業競争力強化法案を批判

○農業競争力強化支援法案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、農業競争力強化支援法案について質問いたします。
 初めに、日米経済対話と日米自由貿易協定、FTAについてお聞きします。
 麻生副総理とアメリカのペンス副大統領との初会合が十八日に行われ、共同声明では、貿易・投資ルールなど三つの柱で具体的な議論を進展させていくことで一致しました。
 ペンス副大統領は、記者会見で、TPPは過去のものだ、アメリカの利益は二国間の貿易交渉を行うことだ、経済対話が日米FTAに行き着く可能性があると述べました。その最大の目標が更なる日本の農業開放であることは明らかです。
 安倍総理も麻生副総理も、今後は対話を通じ日米がウイン・ウインの経済関係を深めていくと発言をされていますが、日米農業交渉の歴史を振り返れば、牛肉、オレンジなどの輸入拡大を始め、日本がアメリカに一方的に譲歩を迫られてきたのが実態ではないでしょうか。この経過を踏まえれば、これから一体何を根拠にウイン・ウイン、すなわち対等の関係に進展すると言えるのか。官房長官、明確な答弁を求めます。
 以下、山本農水大臣に伺います。
 アメリカ食肉業界団体は、TPPが発効すれば日本の牛肉の関税が最終的には九%まで下がるはずだったが、TPP離脱で関税が三八・五%のまま高止まりし、オーストラリア牛肉との競争に勝てないと危機感を募らせ、日米FTAを結ぶことで日本に牛肉の関税引下げを迫るようトランプ政権に強く要求、今回の日米経済対話に際し、ペンス副大統領と一緒に食肉業界団体の会長も来日しました。
 共同声明では、高い水準の二国間枠組みで協議することを確認していますが、TPPの合意水準を前提にした二国間交渉では、アメリカの要求どおり牛肉の関税引下げは避けられなくなるのではありませんか。
 アメリカの要求は牛肉だけにとどまりません。次は米の輸入枠の拡大です。日本農業をこれ以上犠牲にしてはなりません。日米FTAは断固拒否すべきです。答弁を求めます。
 安倍内閣は、農業の成長産業化、輸出産業化、企業化を進めるため、農協改革を柱に据えています。施政方針演説で、総理は、八本の農政改革関連法案を提出し、改革を一気に加速しますと述べています。しかし、農業関係者からは、事業や経営にまで口を挟み、農業者の自主性や協同組合の自主自立の理念を根底から揺るがしかねないと激しい怒りの声が上がり、安倍内閣の農政への不信が広がっています。
 四月一日の日本農業新聞のモニター調査でも、特に厳しい目が向けられているのは、中央会制度の廃止や単位JAの信用事業の代理店化、全農の購買事業の見直しといった一連の農協改革であり、安倍政権の農政を評価するは三割にも届かない状態です。さらに、やり方においても、現場の声に聞く耳を傾けず、官邸や規制改革推進会議が主導する政策決定の在り方自体にも強い不信感が広がっており、農家や生産現場の声より経済界の声を重視し評価できないが七五%と圧倒的に多くを占めています。こうした怒りや批判をどう思われますか。
 政府の規制改革推進会議が昨年、第二全農の設立を含む農協に関する意見を出した際に、安倍総理は、全農改革は農業の構造改革の試金石であり、新しい組織に全農が生まれ変わるつもりで、その事業方式、組織体制を刷新していただきたい、私が責任を持って実行してまいりますと述べました。なぜ第二全農なのですか。何のための、誰のための改革なのですか。要するに、全農が安倍内閣の進める農業構造改革にとって阻害要因になっているから改革を強要するのではありませんか。
 政府は農業競争力強化プログラムを閣議決定し、全農の生産資材の買い方、全農の農産物の売り方を与党と政府が進行状況を定期的にフォローアップすることを決めました。山本大臣は、全農は現行スキームを点検、反省し、改めてもらうと言っています。農協法の改革以来、政府は、全農改革はもちろん、生乳の需給調整機能に風穴を空ける指定生乳生産者団体制度の見直し、信用事業を営む地域農協の代理店化など、協同組合そのものへの介入を強めています。国際協同組合同盟、ICA理事会が日本の農協改革の動きに懸念を示し、協同組合は公共、公益のための活動が求められているんだと表明していました。日本の政府は極めて異常です。自主自立が基本である農協や全農への過剰な介入はやめるべきです。明確な答弁を求めます。
 本法案の農業者や農業団体の努力義務についてお聞きします。
 農業者に、有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて農業経営の改善に取り組むように努めると定め、農業者の組織する団体であって農業生産関連事業を行うものは、農業者の農業所得の増大に最大限の配慮をするように努めると定めていますが、なぜ自主的な農業者の営農や農業団体の事業活動に努力義務を課すのですか。答弁を求めます。
 また、農業競争力強化プログラムでは、国は、国際競争力の強化を図るため、生産資材の価格を引き下げると言います。しかし、政府の言う競争力が単なるコストダウン、効率化であれば、更なる大規模化への誘導や法人化、企業参入などとなり、日本政府自身が原点としてきた多様な農業の共存という理念にも反し、日本農業の基本である家族経営を壊すことになるのではありませんか。答弁を求めます。
 民間企業の参入を阻害しているとして主要農作物種子法が廃止されました。まともな資料の提出も、十分な審議もないままに採決されたことに、国民の大きな怒りと批判が広がっています。種子、種苗は農業において欠かせない基礎的な生産資材です。政府は、農業競争力強化支援法で都道府県が有する知見を民間企業に開放するとしています。民間事業者には外資系企業が排除されていないため、国民の共有財産であり戦略物資である種子、種苗の知見が国外に流出する可能性があります。巨大多国籍企業による種子独占を許せば、日本の食料主権が脅かされかねません。見解を求めます。
 国民が求めているのは、食料自給率の向上、命、環境、地域、国土を守り安全な食料と農業を確保することです。TPPが発効しないにもかかわらず、TPP水準に固執し、更なる市場開放を行って農業を国際市場で競争させることを前提に、競争力を強める対策、成長戦略に固執する安倍政権の農政は、国民の願いとは全く相入れず、日本農業を危うくする道であり、我が党は、根本的転換を目指し、国民とともに闘う決意を表明して、質問を終わります。(拍手)

  〔国務大臣山本有二君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 紙議員の御質問にお答え申し上げます。
 日米経済対話と日米FTAについてのお尋ねがありました。
 先日の日米経済対話において日米FTAへの具体的な言及はなかったと聞いており、仮定の質問に対して予断を持ってお答えすることは差し控えさせていただきます。いずれにせよ、農林水産省としましては、我が国の農林水産業をしっかりと守っていくとの決意の下、今後の日米経済対話に関する議論にしっかり対応してまいります。
 次に、農協改革、農政改革についてのお尋ねがありました。
 農政の推進に当たりましては、各地の農業者や農協を始めとする農業関連業界等からの意見も伺いながら、農業者の所得向上のために取組を進めてきたところでございます。今後とも、関係者の御理解を得ながら、農政改革を着実に推進してまいりたいと考えております。
 農協改革は、農協が農業者の協同組織としての原点に立ち返って、農業者の所得向上に向けて、地域の農業者と力を合わせて農産物の有利販売などに取り組んでいただくものでございまして、農業者のメリットになるものでございます。そして、これは自己改革が基本であると考えております。
 また、農業競争力強化プログラムに盛り込まれました全農改革の内容は、農業生産資材の価格の引下げや農産物の有利販売に向けて全農とも合意の上で定められたものでございまして、全農がこれを実現できれば農業者のメリットになるものでございます。
 政府といたしましては、このような自己改革を促す立場でフォローアップを行うこととしておりまして、改革を強制するものではございません。
 次に、農業者や農業団体の努力規定についてのお尋ねがありました。
 本法案では、農業生産関連事業者に対して、良質で低廉な農業資材の供給や農産物流通等の合理化の実現に資する取組を持続的に行うよう努めることを求めておりますが、取引相手でございます農業者がこのような努力を行う事業者を利用しなければ、その実現につながりません。
 このため、農業者に対しても、このような努力を行う事業者との取引を通じて農業経営の改善に努めることを求める旨の規定を置くこととしたものでございます。また、農業者の組織する団体は、農業経営の改善に取り組む農業者に対して積極的に支援を行うべき立場であることから、農業所得の増大に最大限の配慮をするよう求める旨の規定を置くこととしたものでございます。このように、本規定は本法案の目的を実現するために必要なものでございます。
 次に、競争力と多様な農業の共存の理念についてのお尋ねがございました。
 農業競争力強化プログラム及び本法案における競争力とは、農業の生産性を高め、高い収益力を確保することにより、持続的な農業発展ができる力であると考えております。
 また、競争力については、価格競争力のみを指すものではなく、品質の高さや安全といった点も重要な要素であると考えております。その競争力を強化する農業者とは、大規模経営だけでなく、耕地面積が小さくても、農産物の高付加価値化や六次産業化に取り組む経営など多様な担い手が該当するものと考えております。したがって、多様な農業の共存といった理念や家族経営を壊していくことを指しているわけではありません。
 次に、都道府県が有する種子、種苗の知見の提供についてのお尋ねがございました。
 種子、種苗は重要な戦略物資であり、都道府県が育成した品種を民間事業者に提供する際には、その知見がみだりに国外に流出し、国内農業に悪影響を及ぼすことがないようにすることが重要と考えております。
 このため、都道府県が育成者権を有する品種などを民間事業者に提供する際には、都道府県と民間事業者との間で知的財産に係る契約を締結し、その中で知的財産権等が海外に流出することを防止するための措置を設ける等により、国内農業の発展に悪影響を及ぼすことがないよう都道府県に対して指導、助言をしてまいります。
 以上でございます。(拍手)

  〔国務大臣菅義偉君登壇、拍手〕

○国務大臣(内閣官房長官 菅義偉君) 日米経済対話の在り方についてお尋ねがありました。
 牛肉・オレンジ交渉についても、粘り強く長期間交渉した結果として必要な国境措置を確保しており、過去の日米農業交渉で日本が一方的に譲歩を重ねたとの指摘は当たりません。
 日米経済対話では、日本の国益をしっかり守った上で、日米がウイン・ウインの経済関係を一層深めていくという観点から、貿易及び投資のルールと課題に関する共通戦略を始め、建設的な議論を進めてまいります。(拍手)