<第193回国会 2017年4月6日 農林水産委員会>


◇ビキニ国賠訴訟/大臣は元乗員らと面会を/全容解明と被災者救済を求める

○農林水産に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、以前にも質問したんですけれども、ビキニ被災問題についてお聞きします。この問題は、二〇一四年の十月に質問いたしました。
 アメリカが一九五四年の太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で水爆実験をしました。長らく被曝したのは第五福竜丸というふうに言われていたんですけれども、粘り強い市民運動の取組で、被災した船は実は一千隻ほどあったということや、高知船籍のマグロ船が多いということが分かってきました。
 なぜ分かってきたのかというと、それは、当初国会で質問しても、政府は、ないと、資料は見付からないというふうに言って調査をしなかったわけです。ところが、米国で情報公開がされたということで明らかになって、日本でもようやく二〇一四年に数千ページに及ぶ資料が出されたからです。その際、高知県にお住まいの方は、何の補償もなく病気に苦しむ元船員の姿、父や夫を亡くして生活に困窮する仲間の姿に接してきたというふうに言われました。
 私は、二〇一四年の十月に、厚生労働省が資料を公表したのを受けて、こういう経過を紹介をしながら、漁船の被害ですから農林水産委員会で質問したわけです。当時、西川公也大臣は、漁業者に迷惑を掛けたことは遺憾であると答弁されました。これは、大臣も同じ御認識でしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 昭和二十九年三月一日、米国がマーシャル諸島のビキニ環礁で核実験をしたことによりまして、高知県等の漁業者を含む多くの漁業関係者が影響を生じたことにつきまして、誠に遺憾であるというように存じております。

○紙智子君 それで、質問のときに私は、農林水産省としても改めて調査をして資料を公表するように求めました。そうしましたら、大臣も当時、水産庁長官も、再度倉庫などを調べてみますというふうに答えられて、資料も提出をしていただきました。それについては感謝を申し上げたいと思います。
 ビキニ被災問題の全容を解明することが必要だと思うんですけれども、そこで、その後、資料が出てきたわけですけれども、水産庁の取組、資料をどう分析をされたのかということをお聞きしたいと思います。

○政府参考人(水産庁長官 佐藤一雄君) 事務的なことなので、私の方からお答えいたします。
 先ほど先生の方からございましたように、平成二十六年十月十六日の国会答弁を踏まえまして、農水省におきましてビキニ環礁での核実験に関する資料を再度調査したところ、新たな資料を発見いたしまして、平成二十七年二月に先生に、紙委員に当該資料をお届けしたところでございます。
 その後でございますが、ビキニ環礁での核実験に関する損害賠償請求が提訴されまして、国も裁判の当事者となったことから本格的な分析は差し控えておりますが、発見された資料を時系列に整理する作業を進めているところでございます。

○紙智子君 時系列に調べている作業をしているというお答えでした。
 それで、事実確認をしたいんですけれども、核実験が予定された際に、通常、水産庁としては、その海域で操業停止とかあるいは回避の指示を出すのでしょうか。これ、まず一点です。それからもう一つは、ビキニ環礁でアメリカが核実験をした際に、海域を操業する漁船に停止あるいは回避の指示を出したんでしょうか。二点お答えください。

○政府参考人(水産庁長官 佐藤一雄君) ただいまの御質問、御通告いただきませんでしたので即座には回答できませんが、これについては、かなり時間掛かると思いますが、調べてみたいと思っております。

○紙智子君 この問題は非常に大事な問題なんですね。指示をしていれば出ずに済んだかもしれないわけですから、それがどうだったのかということについては、是非、今調べたいというふうにおっしゃいましたから、調査をして、また御報告をいただきたいというふうに思います。よろしいですか。確認します。

○政府参考人(水産庁長官 佐藤一雄君) 事実につきまして確認したいと思っております。

○紙智子君 それで、加えてお聞きしますけれども、日本政府は、一九五四年の十二月末に、魚の放射線の検査を中止したと言われています。また、水産庁長官は、アメリカから慰謝料二百万ドル、当時で七億二千万円を受け取ったと言われました。
 アメリカが見舞金を支払うことで事実上政治決着をしたと言われているんですけれども、これ、今度は大臣にお聞きするんですけれども、なぜ政治決着をしたのか、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) ビキニ環礁での核実験による人的被害等に関して、先生御指摘のように、昭和三十年一月四日に、米国から慰謝料を受諾することについて閣議決定をされております。さらに、同年四月二十八日に、被曝補償費の配付について更に決定をされております。これらに基づいて補償が行われたというように理解をしている次第でございます。
 また、この政治決着に関してでございますけれども、ビキニ環礁での核実験による人的被害に関する補償等につきまして、現在係争中であるわけでございますので、これには見解、係争中における事案についての見解を申し上げることは差し控えたいというように思います。

○紙智子君 係争中なので答えられないということなんですけれども、なぜ政治決着をしたのかと、これはアメリカの資料や研究者の分析から分かり始めています。つまり、ビキニ環礁での核実験の被害というのはアメリカでも大問題になったようです。
 広島、長崎への原爆の投下以来、アメリカが表向きに否定していた残留放射線による被害が広範囲に及ぶということが世界中に分かってしまった。調査がどんどん進むと、この核実験の被害がどんどん明らかになる。アメリカの上下両院の合同の原子力委員会の秘密会の中でアリソン駐日大使は、日本政府が太平洋海域で放射能の汚染状況を調査するために派遣した船、俊鶻丸というのが出ているんですけれども、が戻ってくる前に、調査から戻ってくる前に日本政府にお金を渡して解決した方がいいというふうに提言をしたようなんですけれども、このような事実については掌握していますか。

○政府参考人(水産庁長官 佐藤一雄君) 恐縮でございますが、そのような事実については掌握してございません。

○紙智子君 資料をいろいろ分析する中でそういうことが明らかになってきているわけで、把握をしていただきたいというふうに思うんです。
 ビキニ被災問題というのは、これ日本だけの問題じゃありません。核実験をしたアメリカを含めて世界中で今大きな問題になっているわけです。今年はちょうど、先月ですけれども、三月にニューヨークの国連本部で核兵器禁止条約の交渉会議が行われて、今度六月にも再開されるというふうになっています。是非、ビキニ被災問題を過去のこととはせずに、広島、長崎、そしてビキニ、核兵器で被害を受けた日本は積極的にビキニ被災問題の全容解明に努力すべきだというふうに思います。
 そこで、大臣にお願いしたいんですけれども、是非、高知に帰っていただいたときに、ビキニ環礁で操業していた漁業者の方々たくさんいらっしゃいます、被災問題を調査をしている市民団体の皆さんもいらっしゃいます、是非お会いしてお話を伺っていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) お会いすることにおいてやぶさかではありませんし、私の盟友である高知県知事は、被害のあった漁業者の皆さんの立場に立って全てを調査し、また対応したいというように知事もおっしゃっておられます。是非、この問題がスムーズに解決できるように私も努力をしたいと思います。

○紙智子君 是非よろしくお願いいたします。
 それで、今日は厚生労働省にも来ていただいていますから、お聞きします。
 私、厚生労働省にアメリカの核実験被害の全容解明と被災者救済を求めましたけれども、厚生労働省は厚生労働科学研究費を使って調査を研究者に委ねました。そして、ビキニ水爆関係資料の整備に関する研究等を発表をしました。放射能による健康被害が現れる被曝があったことを示す結果は確認できなかったというのが結論です。
 それで本当にいいのかと思うわけです。元船員の方は、黒い灰が雪のように甲板に降り積もり、こすると黒い染みのような模様が肌に残ったと証言をしているわけですね。つまり、労働安全衛生という角度から見ると、船員、関係者から聞き取りをしていないわけですよ。この調査だけでは本当に不十分だと思うわけです。
 それで、聞きたいのは、職務上の疾病を救済する制度として船員保険があるわけですけれども、全国健康保険協会は、放射線や医学等に対して専門的な知見がないとして有識者会議を立ち上げました。そこで、健康に影響がないと結論を出した科学研究費の研究メンバーと船員保険の有識者会議の構成員、これ氏名はどういうふうになっているか、御報告をいただきたいと思います。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 橋本泰宏君) ただいま委員から御指摘ございました厚生労働科学研究費補助金でございますけれども、こちらの方で平成二十七年度にビキニ水爆関係資料の線量評価に関する研究というものを行ってございます。この中で、厚生労働省が開示した資料の整理、あるいは六十年前の散逸した資料の収集を行いまして、線量評価の可能性について検討することを目的として行ったものでございます。
 このメンバーでございますが、こちらにつきましては、研究代表者が放射線医学総合研究所理事である明石真言氏、それから分担研究者につきましては、日本原子力研究開発機構主任研究員の辻村憲雄氏、それからもう一人、分担研究者でございますが、放射線影響研究所生物試料センター長の児玉喜明氏でございます。

○紙智子君 船員保険の方はどうですか。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 谷内繁君) お答えいたします。
 保険者たる全国健康保険協会では、今回、ビキニ水爆実験により被曝したことが疾病発症又は死亡の原因だとする船員保険の元被保険者及びその遺族からの船員保険の給付申請につきまして、この給付決定を行うに当たりまして、申請の原因とされた疾病等と被曝との因果関係等を適正に判断する必要があることから、放射線や医学等に関する専門的な意見を聴取するため、有識者会議を設置しているところでございます。
 その有識者会議のメンバーでございますけれども、座長には先ほどの明石座長、さらに、それ以外のメンバーは三名ございまして、栗原委員、あと辻村委員、中村委員の三名、計四名というふうになっているところでございます。

○紙智子君 結局、健康に影響がないと結論を出した方が船員保険の有識者にも複数なっているわけですよね。これ、おかしいんじゃないかと思うんですよ。
 私、昨年出した質問主意書では、ビキニ問題に詳しく、全容解明を求めている研究者がほかにもいるんだということを紹介をしているわけですよ。ところが、聞いたのかどうかと、全く聞いていないと。全く無視されているわけですね。
 科研費の調査と船員保険の有識者がほぼ同じメンバーになっているというのは、これ全く公平性も客観性も、まして中立性もないんじゃありませんか。いかがですか。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 谷内繁君) お答えいたします。
 全国健康保険協会では、この有識者会議の構成員を選定するに当たりまして、例えば今回の請求に関して公正な立場にある方、あと医学や放射線に関する専門的な知見を有している方、あとビキニ水爆実験に関して研究基盤を有していると、そういった三点を考慮して決められたというふうに承知しているところでございます。
 議員御指摘のとおり、この有識者の構成員の中には厚生労働科学研究班に属していた研究者も含まれているのは確かでございますけれども、そもそも放射線に関する専門家は少ない上、さらにビキニ環礁における放射線量を新たに測定できる専門家は更に少ないという中で、当然この有識者会議には研究班に属していない研究者の方も含まれておりますし、さらに請求者を支援している団体から提出された資料につきましても踏まえて検討するということでございますので、研究班と有識者会議の構成員が重複していても問題はないというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 ずっとそのことを研究して、現場の皆さんからも声も聞いていろいろな角度から調査研究している専門家の先生もいらっしゃるわけですよ。それ、ちゃんと提案をしているわけですよ。そういう人たちからも直接じかに聞き取ったのかということも含めて提起しているわけで、これ、同じ方が座長になって、それで健康には被害がない、余り影響がないということを言っている人を入れてやるということ自体おかしいんじゃないですか。
 全然、私、納得できないんですよ。なぜ、ちゃんと長年にわたって被災者の皆さんから聞き取りをして、丹念に、そういう人を含めてやらないのかと。いかがですか。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 谷内繁君) お答えいたします。
 繰り返しになりますけれども、有識者会議の構成員の選定につきましては、保険者たる全国健康保険協会におきまして、先ほども述べました三点を考慮して構成員を選定されたというふうに承知しているところでございます。当然、そういった自分たちの研究以外にも、それ以外の研究班に属していない研究者の方もいらっしゃいますし、また、請求者を支援している団体から提出される資料等も踏まえた上で検討されるというふうに聞いておりますので、繰り返しになりますけれども、今回の有識者会議の構成員につきましては問題はないというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 全然問題ないことないですよ。このまま行ったら、全然健康には影響がないというふうなことで、そうすると、その船員保険についてもこれは出す必要がないということにつながっちゃうんじゃないですか。実際には大変な障害が出ているわけですよ。たくさんの人たちががんになって亡くなっていたり、今は何人かの人は残っていますけれども、実態としてはそういうことがあるのに、いや、健康には関係ないんだということを結論付けて、そしてそれもそのまま船員保険のところにもやるということ自体、本当に私はもう全く納得できないです。
 実は、先ほど紹介した水産庁の調査船俊鶻丸というのは重要な調査をしているわけですよ。漁獲したプランクトンを始め、魚類や海水や雨水などから放射能の汚染が確認をされて、海水からは最高で五千八百カウント、当時のこれ単位です、マグロからは八千五百五十カウント、この放射能が検出されたということを聞いているわけです。こういう調査を有識者会議は分析されたんでしょうか。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 谷内繁君) お答えいたします。
 全国健康保険協会が設置いたしました有識者会議の中で具体的にどういった資料を勘案して今検討がなされているかということについては、申し訳ないんですけど、今承知しておりません。

○紙智子君 だから、どうして聞かないのかということですよ。現に、被害者の方と携わって、長い間歯の検査した人もいますよ。歯の検査によって実は当時どれだけ高い放射能を浴びているかということを確認できるというふうに言っている方もいるわけですよ。どうしてそういう方たちから聞かないのかと。いかがですか。

○政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 谷内繁君) お答えいたします。
 今委員おっしゃいました歯の関係でございますけれども、今回のメンバーの中には先ほども述べました中村先生という放射能と歯の関係につきまして詳しい専門家の方もいらっしゃるということでございますけれども、いずれにしましても、請求者を支援している団体から提出された資料等も踏まえた上で検討がなされているというふうに承知しているところでございます。

○紙智子君 全くやっぱり公平性を欠いているというふうに思います。非常に問題だというふうに思います。私は、科研費のように研究者に丸投げするのはやめるべきだと思いますよ。漁船や乗組員や、そして、長年ビキニの被災問題に取り組んでいる研究者からちゃんとじかに話を聞くべきだと。同じメンバーでは公平性や客観性や中立性が担保されないと思います。
 こういう問題も含めて、ビキニ被災問題は、実はもっといろいろと根が深いわけですけれども、なぜ丈夫な、頑丈なまだ二十代、三十代、本当に若い健康な漁師がその後次々に病に苦しんだのか、なぜ救済されなかったのか、この問題は引き続き取り上げていきたいということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。